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コラム「食品分析は面白い?」
   ~第二回 俯瞰するとはどういうことか~
生活協同組合連合会東海コープ事業連合
商品検査センター技術顧問
(株)アイスティーサイエンス 技術アドバイザー
斎藤 勲

今から20年以上前の検査データを参考にしながら紹介しよう。

実りの秋にはお米(玄米)の検査が入ってくる。20検体位いろいろな産地の銘柄を検査するが、大体決まった農薬が検出される場合が多い。その頃はウンカなどの駆除に散布されるカーバメート剤フェノブカルブ(BPMC、商品名バッサ)が良く検出された。検出範囲は0.01~0.3ppmくらい、多くは0.1ppm以下、残留基準は1ppmなので問題はない。

その検査結果を受けて、数字を記載して適合という判定で成績書を作成して終了。次の検査に取り掛かるというのが多いだろう。しかし、暇人?は、昨年や1昨年の検査結果を見て、その経時変化はどうなのか?地域特徴や濃度の特徴などあるのかなど眺める。特に地域特異性があり、その中で1、2件高い残留濃度値があったりするとどうして?という疑問を持つだろう。暇人は知人に頼んで実際に農薬を使ってもらって栽培し、そのお米や他の部位の残留濃度からいろいろ詮索するデータを得ることもある。稀に、頼んだ方が親切過ぎて、夫婦両名が散布して残留濃度が高くなった(基準内)こともあった。

しかし、行政検査で適合の検査結果の内情を知ろうとすると、実はなかなか難しい。生産者も分かっているので使用状況を尋ねてもらえばいいのだが食品検査は衛生部、生産者は農水部、この間には深い溝がある。違反でもあれば調査することは可能だが、適合のデータでこれ以上何をしたいのだ!斎藤は暇人か!ということになり頓挫する。(検査結果のトレーサビリティが効くプロセス管理をしている事業体はうらやましい。)

当時の残留農薬の分析装置はGCが主流で、塩素系農薬はECD検出器、有機リン系農薬はFPD検出器、カーバメート系農薬はNPD検出器など選択的検出器を組み合わせて農薬検査を行っていた。その際、玄米アキタコマチの検体からGC-ECDのクロマトグラム上でアルドリンとヘプタクロルエポキシドの間にピークが検出され、最初はアキタコマチの常在成分?と軽く考えたが、塩素系の常在成分?ということになり、少し調べ始めた。検体によりその濃度が変わることや他の品種では検出されなかったので、農薬かもという可能性は否定できなかった。そこで当時の横河アナリティカルシステムズ(現アジレント)の協力を得て、GC-MSで測定したがライブラリーに合致するものがなく、GC-AED(原子発光型検出器)で4塩素を含む組成式が推定でき、殺菌剤のフサライドの標準品を購入、比較して玄米中未知物質はフサライドと同定した。

しかし、当時私がもう少し農業を知っていて、東北の稲作でどういった時期にどんな農薬が使われるかを勉強していれば、そちらからの情報でイモチ病に使われるフサライドが浮かび上がってきただろう。苦労して山に登ったら、反対側にきれいな登り道があったという感じで少々がっくり来た。

教訓:分析をする者は、分析技術はもちろんだが、分析対象物質の背景情報を知識としてきちんと勉強しておくこと。望むらくは家庭菜園を。

次回は、コンピューターなど何もなかった頃の分析の話をしましょう。

略歴

斎藤 勲

生活協同組合連合会東海コープ事業連合商品検査センター技術顧問

(株)アイスティーサイエンス 技術アドバイザー

 

薬学部修士課程卒業後、医薬品会社研究所3年、愛知県衛生研究所30年勤務、その後生活協同組合連合会東海コープ事業連合商品検査センター長として7年間勤務後、現在技術顧問としてサポート。衛生研究所では主に食品中残留農薬等食品中微量物質の分析に従事。平成23年からフーコムネットでコラム「新・斎藤くんの残留農薬分析」を執筆。

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