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COVID-19感染対策による女子大生の食習慣への影響と課題
大妻女子大学 家政学部
教授 川口 美喜子

2020年、昨年の春から今も継続する予期せぬ新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックによって大学はオンライン授業を余儀なくされた。学生は、大学に登校することを制限され講義や実験実習も自宅から受講する状況となり、学生の生活習慣は短期間に一変した。クラスメートや他大学との交流、社会活動やアルバイトの回数も減少し、引きこもり状態における、身体的な活動レベル低下、活動量の減少や摂取食品の変化、特に加工食品の消費量が問題とされる。この変化は非感染性疾患(Non-Communicable Diseases;NCDs)の将来的な増加につながる潜在的リスクを表すとの報告もある1)

・オンライン授業受講期間における加工食品の利用について

食生活の変化は、朝食を抜くことが多くなった者が13.2%、昼食をインスタント食品やレトルト食品のみで済ませている者が42.5%、また空腹感を感じないため乳製品や菓子など手軽な食品で食事をするため、一日の摂取エネルギー量が減少傾向にある学生も多い。逆にレトルト食品やインスタント食品の利用が減少した学生が10.0%認められた。通学時間を食事の準備や家族と共にゆっくり食事をする時間に振り当てることができ、食事時間と栄養バランスが良好になり、コロナ感染対策以前よりもより良い食環境になったと回答している。

オンライン授業が継続した1年間に体重増加を認めた学生は26.9%であった。身体活動が減少し、高エネルギーの加工食品や間食から得られるエネルギー摂取の増加したことが体重増加や体脂肪率の増加につながったと考えられる。学生の体重増加については予測できていたが、オンライン授業期間に体重の減少した学生が10.0%であり、減少率5%以上の者もいたことも問題である。

身体的活動量の減少によるエネルギー消費の減少と過体重、肥満との関係はよく知られ、さらにコロナ禍で指摘されている不健康な食べ物の消費の増加、テレビの時間の長さ、および不規則な睡眠パターンや肥満は、ストレスやうつ病を引き起こす危険因子である可能性も報告されている。ストレスのために間食の摂取回数や利用頻度、夜間の間食摂取が増加し、体重増加になっている食習慣を解消する対策が必要である。

・オンライン授業あるいは在宅リモートワークにおける食習慣と健康管理について

オンライン授業あるいは在宅リモートワークにおける体重の増減は気にかかるが、現体重と体重の増減率を評価することが大切である。体脂肪が過剰に蓄積し体重が増加した、あるいは体重が減少したことが健康状態に影響を及ぼす状態であるのか、現在の体重と身長から肥満度を計算して評価できる。肥満度の判定には、国際的な標準指標であるBMI(Body Mass Index)=[体重(kg)]÷[身長(m)]2を用いる。男女とも標準とされるBMIは22.0だが、これは統計上、肥満との関連が強い糖尿病、高血圧、脂質異常症(高脂血症)に最もかかりにくい数値とされている。コロナ禍における食習慣の変化や身体活動量の低下などにより、摂取エネルギーが消費エネルギーを上回り、過剰分が体脂肪として蓄積された成人肥満と判定されるのはBMI≧25.0 kg/m2である。一方、今回体重の減少した女子学生が10.0%認められた。このことは、現代の20代女性の健康問題とも関わる。女性全体でみたBMIが18.5 kg/m2未満の「やせ(低体重)」の者の割合がここ10年は大きな増減はないものの、20歳代女性では「やせ(低体重)」の者の割合は20%を上回って痩せが多い。近年の傾向(コロナ禍の影響は考慮していない)は、若い女性ではBMI<18.5 kg/m2のやせが著しく、20歳代女性で20年前の14.2%から20.7%に増加している2)ことから、BMI<18. 5 kg/m2のやせを15%以下にすることが目標とされている。コロナ禍における活動量の低下と食生活の変化が健康状態に及ぼす影響を肥満度によって判定し、現時点の体格が肥満であるか、基準内であるか、痩せであるかを自己評価することが重要である。また、体重の増減率が±5%以上である場合は、生活習慣、食習慣の改善が必要であると判断する。

・在宅期間が長期化した現状における食生活の提案

栄養的な視点では、食事回数の減少や加工食品の利用増加によって、摂取している食品や食材の種類と数が減少している。特に野菜、海藻、きのこを食材として調理する副菜の準備ができていないため、食物繊維の摂取量が不足していると考えられる。加工食品の利用や摂取頻度が増すことにより、塩分摂取量も増加する。コロナ禍の在宅期間では、長時間座りっぱなしで運動不足に加え、食物繊維の不足、塩分摂取過剰の生活習慣や食習慣に陥りやすい。この変化は、腸内環境の悪化を来たし、腸の働きが低下し、下痢や便秘などの消化器症状や肌荒れ、口臭や体臭なども生じやすくなる。また、自宅で黙っている時間が長くなるため、唾液流量が減少しているケースや、炭酸飲料を飲み続けて、う蝕が進行し”コロナ虫歯”の患者が増加している。口の中の自浄作用を持つ唾液の分泌が低下し、口の中が不衛生になりやすく、むし歯の発症リスクは上昇している。食物繊維は、よく噛むことで唾液が分泌され口腔内の清潔を保ち、また歯垢が歯につきにくく歯の表面の汚れを清掃する。

コロナ感染対策において免疫力を高めることが求められる。腸内には、免疫に関わる約7割の細胞が集中的に存在し、免疫系(免疫細胞)に作用する。免疫力が活性化し病原菌などを攻撃し、有害物質がそのまま取り込まれないようにするためには、1つの栄養成分の効果よりも、栄養成分同士の効果を強める相乗効果をもたらす組み合わせ方を知り、栄養素が吸収されやすくするための食べ方が勧められる。

体重コントロールと免疫力を高めることは、バランスのとれた食事と規則正しい生活が基本となる。免疫力を高める方法は、単一の食品に偏らないで多種類の食品を食べ、水溶性食物繊維、不溶性食物繊維、レジスタントスターチの3つの食物繊維を摂ることで腸内細菌(腸内細菌叢)を整えることである。食物繊維摂取の効果は腸内細菌叢の改善、不溶性食物繊維は腸の蠕動運動を促進し排便を促し腸管の有害物質を減少させる、インスリン感受性に影響し糖質の吸収をおさえ食後血糖値の急な上昇を抑制して、体重増加や血中コレステロールを低下させる作用がある。特に最新の研究では、大麦や小麦、たまねぎ、ごぼうなどの発酵性食物繊維を継続的に摂取することで腸内環境改善に繋がることが明らかとなっている。サプリでの食物繊維摂取は手軽で、便利な手段だが、一般的には1種類の食物繊維になる。腸内細菌の多種多様な善玉菌を活性化するには、様々な発酵性食物繊維を日常食品の中から摂るように心がける。日常の食生活で摂取できる発酵性食物繊維は、大麦や小麦、大豆、たまねぎ、ごぼう、舞茸、エリンギ、ブロッコリー、人参などに含まれるため、レトルト食品やインスタント食品の単品で摂取している食事に料理や食材を追加する必要がある3)

オンライン授業、あるいはテレワークによって家庭内での食事の機会が増加した生活習慣では、美味しく食事ができる状態をつくることが身体の健康を維持することに繋がる。その状態を確保するためには、活動量の低下による食欲低下に対応した食事と、外食やコンビニの利用、及び弁当を準備していた昼食に代わる時短料理を提案する。美味しさについては、SUNATEC e-Magazine2021年2月号「おいしさの心理学」で和田有史氏が述べられているように美味しい味は摂食経験によって個人差があるが、味覚や嗅覚だけでなく、全ての感覚とそれら同士の相互作用、心身の状態や文化的、社会的な要因をも含む。家庭内での時間が多く、改善すべき生活環境、食生活に寄り添った調理を提案する。

 

1.通勤、通学の必要がないことやそのための活動量が減り、朝食を抜くことが多くなった方の単品料理

簡単に調理できて、のど越しが良いスムージーやスープが摂りやすい

2.リモートワーク、オンラインによって昼食の食事準備時間がない方のための時短料理

今回は、パッククッキング

3.体調維持のために食物繊維を多く摂取できる調理

食物繊維は、単一の食品に偏らないで、色々な食品から多種類の食品を食べること

 

 

オンライン授業あるいは在宅リモートワークにおいて健康的なライフスタイル(食事と運動)を送るには、現在の健康状態を客観的に自己評価したうえで、栄養や食事に対しての正しい知識と少しの努力を続けることが大切と考える。

文献
  • 1.Changes of Physical Activity and Ultra-Processed Food Consumption in Adolescents from Different Countries during Covid-19 Pandemic: An Observational Study、Nutrients. Jul 30;12(8) 2020
  • 2.令和元年国民健康・栄養調査報告、厚生労働省
  • 3. 青江誠一郎 最強!毒出しごはん 3つの食物繊維が毒を排出免疫力を高める! レシピ、河出書房新社、2020年
略歴

 

大妻女子大学家政学部卒業(管理栄養士取得)後、3年間東京都済生会中央病院に勤務。故郷の島根県に帰り、1984年から島根大学病院第一内科研究生(医学博士学位取得)終了後、第一内科文部教官。2004年同病院栄養治療室長に就任。2013年大妻女子大学家政学部教授、島根大学医学部臨床教授。お茶の水女子、東京歯科大学講師(非常勤)。地域コミュニティー新宿区「暮らしの保健室」、豊洲「マギーズ東京」において高齢者とがん患者の食・栄養支援活動を行っている。

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