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パントテン酸について
一般財団法人 食品分析開発センターSUNATEC
微生物検査室

1. はじめに

ビタミンは、それ自体が体の構成成分になったり、エネルギー源になるものではないが、正常な生理機能を保つためには必要不可欠な成分である。一般的に脂溶性ビタミン4種類と水溶性ビタミン9種類の合計13種類のビタミンが存在する。

今回は水溶性ビタミンの一種であるパントテン酸について、その化学的特性、生理作用、分析方法を中心に紹介する。

2. パントテン酸とは

パントテン酸はすべての生物にとって必要で、自然界に広範に分布しているので、”広汎に”という意味のpantothenから名付けられた名称であり、1933年、Williamsらにより酵母の成長因子として発見された。化学名はD-(+)-N-(2,4-ジヒドロキシ-3,3-ジメチルブチル-1)-β-アラニンと呼ばれる(図1)。

パントテン酸はコエンザイムA(CoA)やホスホパンテテインなど、補酵素の構成成分として、生体内で重要な働きをしており、TCAサイクルや脂質の代謝に深く関与しているため、不足するとエネルギー代謝の異常や障害を起こす。

 

図1 パントテン酸

3. パントテン酸の化学的特性

黄色の粘性液状物質であり、中性では安定であるが、酸性やアルカリ性では不安定な物質である。

4. パントテン酸の吸収や生理作用

食品に含まれるパントテン酸の大半はCoAやホスホパンテテイン誘導体として、たんぱく質と結合した状態で存在している。これらのCoAやホスホパンテテイン誘導体は調理・加工の過程や胃酸環境下で遊離型となり、腸内の酵素によって消化されてパントテン酸になった後、能動輸送により各組織へ運搬され、促進的拡散により、脳、脂肪組織、腎臓へ運ばれる。 

生理作用として、冒頭でも述べたが、TCAサイクルや脂質の代謝の代謝と深く関わっている。そのため、パントテン酸の欠乏は細胞内のCoA濃度の低下を介して、エネルギー代謝の異常・障害を引き起こす。

 現代においてはパントテン酸の欠乏症はほとんどないと思われているが、ラットを用いた実験ではパントテン酸欠乏症では、成長停止、体重減少、突然死、皮膚・毛髪・羽毛の障害、副腎障害、末梢神経障害、抗体産生の障害、生殖機能障害などが見られる。

5. パントテン酸の栄養成分表示

パントテン酸は食品表示基準において、栄養成分表示の任意表示項目の1つに設定されており、一定の値で表記する場合、その表示の許容差の範囲は -20%~+80%と設定されている。

また、栄養機能食品の対象成分として機能の表示を行うことができる。栄養機能食品として販売するためには、1日当たりの摂取目安量に含まれる成分量が1.44~30 mgの範囲内にある必要があるほか、下記に示す栄養成分の機能、注意喚起表示等を表示する必要がある。

 

(1) 栄養成分の機能

パントテン酸は、皮膚や粘膜の健康維持を助ける栄養素です。

 

(2) 摂取をする上での注意事項

本品は、多量摂取により疾病が治癒したり、より健康が増進するものではありません。
一日の摂取目安量を守ってください。 

 

その他、摂取の方法やバランスのとれた食生活の普及啓発を図る文言など定められた内容を明記する必要があるが、詳細は消費者庁のHPなどを参考されたい。

成分量については、栄養機能食品の場合、一般的な食品のように、合理的な推定による値は認められず、食品表示基準に定められた方法によって得られた値で表示する必要がある。

6. パントテン酸の分析

食品表示基準におけるパントテン酸の分析方法は、微生物学的定量法が採用されている。微生物学的定量法は、ビタミンを必須栄養素として要求する微生物を測定対象となるビタミンを除いた培地で培養した際の微生物の増殖具合(濁度)よりビタミンを定量する方法である。食品表示基準における分析方法において、試験溶液の調製方法が複数記されているが、今回はパントテン酸含量が比較的少ない場合の簡易調製法について紹介する。

試料を水に溶解し、pH調整後、加圧抽出し、酵素分解を行う。続いて、酵素失活を行い、メタリン酸を添加して、定容する。定容液の一部を分取し、pH調整後、定容・ろ過を行い、試験溶液とする。

パントテン酸定量用培地にパントテン酸カルシウム標準溶液または試験溶液及び試験菌株(Lactobacillus plantarum ATCC 8014)を接種して、18時間程度培養後、培養液の濁度(600 nm)を測定し、試料中のパントテン酸カルシウム含量を算出する(図2)。得られた値に係数0.92を掛けてパントテン酸量とする。

微生物学的定量法は分析結果が菌株の発育状況に大きく左右される他、試験法の原理や成分自体の特性を理解・把握しておくことは勿論のこと、理化学的処理や微生物を取り扱う技術力、経験が必要とされる難易度の高い試験法であると言える。

 

図2 パントテン酸分析のフローチャート

 

7. さいごに

パントテン酸は、とり肝臓、しいたけ、鶏卵、魚類、たらこ、挽きわり納豆などに多く含まれており、糖や脂質の代謝に関与する水溶性ビタミンである。栄養機能食品の対象成分でもあるが、多量摂取により、健康が増進するものではない。通常の食生活では欠乏することはなく、日頃からバランスのよい食事を心がけたい。

参考文献
  • 1) 早わかり栄養成分表示Q&A 中央法規出版株式会社 (2017)
  • 2) 食品栄養学 文永堂出版株式会社 (2000)
  • 3) 国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所 パントテン酸解説
  • 4) 消費者庁 食品表示課 <事業者向け>食費表示法に基づく栄養成分表示のためのガイドライン 第3版(令和2年7月)
  • 5) 公益社団法人 日本ビタミン学会 いろいろなビタミンについての解説
  • 6) 消費者庁 食品表示基準について(平成27年3月30日消食表第139号) 別添 栄養成分等の分析方法等
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