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困難や脅威に立ち向かう強さ「レジリエンス」
一般財団法人 食品分析開発センターSUNATEC
理事長 西中 隆道

1.はじめに

あけまして、おめでとうございます。

平素よりSUNATEC e-Magazine(サナテック イーマガジン)をご愛読いただいている皆さまには、心からお礼を申し上げます。

昨年は新型コロナウイルスの爆発的な流行により国内のみならず、世界中が大混乱に陥りました。先の安倍内閣では新型コロナウイルス感染拡大を行政文書の管理に関するガイドラインに規定する「歴史的緊急事態」に指定し、対策の決定プロセスを後世に記録として残すことにしたなど、これまでわたしたちが経験したことのない一年となりました。そして、今もってその感染の勢いが止まらない状況にあります。新しい年を迎えたからといっても、その状況に変わりはなく、好転する兆しさえ見えてきません。この先、本格的な冬を迎え、さらに状況が深刻化するのではないかと危惧しています。

その理由の一つに、新型コロナウイルスの特徴があります。このウイルスは、SARSコロナウイルスと同属に分類され、SARSコロナウイルスの遺伝子と相同性があります。にもかかわらず、SARSコロナウイルスと比べ死亡率が低いと言われているところです。このことは人類にとって、歓迎すべきことであるかのようですが、感染しても無症状、あるいは軽症のまま他人へ感染を拡げてしまうという問題を引き起こしています。新型コロナウイルスが中国武漢で最初に確認された当時、今日のように世界中でウイルス感染が蔓延している状況に陥ってしまうとは、いったいどれだけの人が予測できたでしょうか。もっと早い段階で収束できるのではないかと思われたのではないでしょうか。

そして、もう一つの調査・研究から、新型コロナウイルスについて厄介な問題がわかってきました。それは、SARSコロナウイルスは症状が悪化するほどウイルスの排出量が増えるのに対して、このウイルスの場合は症状が出る2~3日前から症状が出た直後にかけ、大量のウイルスを排出するというところです。言い換えれば、現時点ではこのウイルスを制御することは非常に難しいということです。症状がないからと言って安心していると、もし感染していれば知らぬ間に大量のウイルスを拡散させ、家族や友人、同僚に感染させてしまうことから、感染対策を怠れば誰でも感染する可能性があるということになります。

先日のことですが、テレビであるゲストタレントが新型コロナウイルスについて、熱く語っていました。「コロナに感染したとしても、風邪のようなものだから怖がる必要はまったくない。むしろインフルエンザに罹って死亡することのほうが恐ろしい」と主張されたのです。また、「すぐにワクチンができるから、心配はいらないよ」という別のタレントさんもいました。でも、それは本当に正しいことなのでしょうか?

最近の研究では新型コロナウイルスに感染するとウイルスが血管内壁で増殖し、血栓を起こすことが解明されました。このウイルスの恐ろしいところは、症状が急激に悪化することがある、また回復後の後遺症に苦しんでいる人が多くいることですが、これらの事実が国民に正しく伝えられているのでしょうか。たしかに早期にワクチン開発がおこなわれれば、非常に嬉しいことではありますが、どこまで安全性が確認できているのか、なにも知らされていないところも不安です。むしろ、異例のスピードでワクチン開発がおこなわれていることに、わたしは疑念を抱いてしまいます。わたしたちは、このウイルスのことについて、「知らないこと」、「知らされていないこと」、そして「不確かなこと」がまだまだたくさんあると感じなければならないと思います。

これまで基礎疾患のある方や高齢者は重症化する傾向にあると言われてきましたが、そのとおりに死者数は増加してきています。高齢化社会のど真ん中にいるわが国にとっては、この冬は最大レベルの危機意識を持って国や各自治体が中心となり、それを国民全体で支え合い一丸となって立ち向かうしかないと思っています。今こそ困難や脅威に立ち向かう強さを発揮させるチャンスだとも思いたいです。そんなときに、テレビや新聞では「Go To」の問題や、感染者数の増減の話題に多くの時間が割かれている気がしてなりません。本来、感染対策と経済対策は国民の協力がなければ両立は困難ですから、感染対策を優先させるか、経済対策を優先させるべきなのか、相容れない話を続けるよりも、国民にこのウイルスの情報を正しく伝え、本当の恐ろしさを知ってもらうほうが大切なことではないでしょうか。もし、医療崩壊が起きれば、治療を受けられずに亡くなられてしまう人は数知れません。

昨年12月には市中感染が増加し始め、すでに第3波の流行が起こっている状態でした。この冬の感染拡大をどのようにして抑えていけばよいのか。感染拡大により経済が停滞し、社会全体が逆境に立たされている中で、観光・航空・鉄道・外食業が大打撃を受け、比較的体力の弱い飲食業を中心に企業倒産が相次ぎ、雇用の場が失われています。国民もまた長引く自粛により我慢も限界に近づいてきたのか、この先のことを考えると多くの人が不安な気持ちになっているはずです。また、最近ではコロナ鬱という言葉も生まれたように国民の精神状態も不安定のままです。昨年7月以降の自殺者数は、これまでにない勢いで増加しています。国や各自治体は、これまで「感染対策」や「経済対策」を優先させてきましたが、国民の「メンタルヘルス対策」にも全力で取り組んでいただきたいと願っています。

世界は今、小さなウイルスによって苦しめられていますが、それでも悲観的になる事だけはやめたいものです。これまで見えていなかったものが見えてきたのも事実です。新型コロナウイルスが人類に突き付けているものがなんであるのか、しっかりと考える機会ではないでしょうか。そして、一人一人の力を繋ぎ合わせ、支援の輪を拡げていくことで「逆境の中で困難や脅威に立ち向かう強さ」、つまりは「レジリエンス」が醸成されるものと信じます。

新しき年を迎えた今年こそは、皆さまが穏やかで笑顔に満ち溢れた素晴らしい年となりますよう祈念し、弊財団職員一同を代表しまして、日頃のお礼とご挨拶に代えさせていただきます。

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