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食品添加物公定書における鉛試験法について 
一般財団法人 食品分析開発センターSUNATEC
第一理化学検査室

1. はじめに

鉛は、重金属の中では比較的多く地殻に含まれる元素である。金属として、あるいは種々の化合物として工業的な用途は広いが、飲食物、食品添加物、医薬品中にも常に微量の鉛が含まれている。食品添加物公定書では、重金属の混在を規定する規格として重金属と鉛の規格基準を設定しているが、2017年11月の食品、添加物等の規格基準の改正によりほとんどの添加物において鉛の規格基準が採用される事となった。鉛試験法自体も大幅な変更が行われたため、今回は食品添加物公定書における鉛試験法について紹介する。

2. 試験方法

鉛試験法は、特性の異なる添加物中の鉛を分析するため第1法~第5法の5つの検液調製方法と2つの測定方法が設定されている。

a) 検液の調製

第1法は水溶性の有機化合物、第2法は疎水性又は脂溶性の有機化合物、第3法は有機物と無機物の塩、第4法は化合物全般、第5法は無機物の塩を主な対象としている。検液調製は試料を無機成分のみにするための工程であり、試料中の有機物の分解には乾式灰化法や湿式灰化法を用いる。乾式灰化法は試料を強熱することで有機物を空気酸化して分解する方法であり、第1法から第3法で採用されている。強熱温度は450℃から600℃と規定されており、鉛の揮散を防ぐため灰化操作は予め硫酸を添加し、徐々に加熱することで試料中の鉛を比較的安定な硫酸塩とした後に行う。湿式灰化法は第4法で採用されており、硝酸と硫酸を用いて試料中の有機物の分解を行う。

各方法で試料を分解した後、第1法、第2法では酸に溶解して検液を調製し、測定工程に用いる。第3法から第5法では酸に溶解したものを試料液とし、さらにキレート抽出を行って検液とする。表に第1法から第5法における分解方法、検液調製方法を示す。

 

表 第1法から第5法における分解方法と検液調製方法

分解方法 検液調製
第1法 乾式灰化法 酸に溶解
第2法 乾式灰化法 酸に溶解
第3法 乾式灰化法 キレート抽出
第4法 湿式灰化法 キレート抽出
第5法 成分規格各条に規定 キレート抽出

 

キレート抽出法は試料液にキレート剤を添加する事で目的元素とのキレート錯体を形成させ、その後添加する有機溶媒中に目的元素を分離濃縮する方法である。キレート抽出の操作方法は次の通りである。試料液にアルカリ土類金属の沈殿を防ぐ目的でクエン酸水素二アンモニウム溶液を添加した後アンモニア水で中和する。通例、チモールブルーを指示薬として液の色が黄色から淡黄緑色となるようにするが、見にくい場合などはpH計を使用してpH8から8.5に調整してもよい。その後キレート剤としてピロリジンジチオカルバミン酸アンモニウム溶液を添加し、酢酸ブチルを添加して5分間撹拌した後、得られた酢酸ブチル層を検液とする。なお比較液は第1法、第2法では規定量の鉛標準液を検液と同液量に希釈したものを使用し、第3法から第5法では試料液と同様に操作して調製する。

b) 測定

測定は原子吸光光度計を用いて行う。原子吸光光度法は試料を原子化して測定原子固有の波長の光を当てることで光の吸収度合いから目的元素を定量する方法である。鉛試験法ではフレーム方式と電気加熱方式の測定方法が規定されており、フレーム方式は検液を化学炎のなかに噴霧して原子化し、電気加熱方式は検液を電気加熱炉に注入して炉内で燃焼させることで原子化して吸光度を測定する。どちらも光源ランプに鉛中空陰極ランプを使用して波長283.3 nmで測定を行う。フレーム方式はアセチレンと空気の混合気体を炎の燃料として測定を行い、検液の吸光度が比較液の吸光度を上回らないかで適否を判定する。電気加熱方式は標準添加法によって検液中の鉛濃度を求め、規格値を超えないかで適否を判定する。なお、現在成分規格各条に採用されているのはフレーム方式のみである。

3.まとめ

重金属規格から鉛規格への切り替えは重金属試験法が総量試験で検出感度が良くない事やJFCFA規格でも鉛規格に切り替えられた事、既存添加物において共存元素による鉛の過大評価が起こる事などの理由から行われた。試験方法は検体の特性に応じて適宜変更する事が認められているが、特にキレート抽出時のクエン酸水素二アンモニウム溶液の量や中和後のpHなどは最適な条件であるかの十分な検討が必要である。

参考文献
  • 1) “第9版食品添加物公定書解説書” 廣川書店(2019)
  • 2) 公益社団法人 日本薬学会編集“衛生試験法・注解2015” 金原出版(2015)
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