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輸入食品における総アフラトキシン違反事例の動向について
東京農業大学 応用生物科学部 栄養科学科
教授 小西 良子

1.はじめに

アフラトキシンは、天然化合物の中で最も発がん性の強いカビ毒(マイコトキシン)であることは知られている。最も発がん性の強いアフラトキシンとは、食品を汚染するアフラトキシン類の中で、アフラトキシンB1(AFB1)という化合物を指している。なぜなら、食品を汚染するアフラトキシンはAFB1、 AFB2、 AFG1、 AFG2の4種類と牛乳を汚染するアフラトキシンM1、M2が存在するからである。中でもAFB1、 AFB2、 AFG1、AFG2の4種類は総アフラトキシン(TAF)とも呼ばれているが、これらはアフラトキシンの語源にもなったAspergillus flavus (この菌種の名前からA・fla ・toxinとなった)をはじめとするAspergillus属のカビが産生する二次代謝物であり、農作物を汚染する。食品を汚染するアフラトキシンに関して国際機関であるコーデックス委員会や諸外国の多くは、TAFとして最大基準値を設定している1,2)。毒性学的にはAFB1が最も発がん性が強いため、我が国では長い間AFB1を対象として、食品衛生法第6条第2号により規制値を設定していた3)。しかし、国際的ハーモナイゼーションの動向およびコーデックス規格との整合性が重視される近年、食品安全委員会のリスク評価を経たのち、平成23年3月31日付け食安発0331第5号にて総アフラトキシン(TAF)を対象として食品衛生法により規制値を設定することとなった4)。この新しい規制値は平成23年10月1日から施行され、厚生労働省 「輸入時における輸入食品違反事例」において、AFB1、AFB2、AFG1、AFG2それぞれの汚染濃度が発表されることになり、総アフラトキシン汚染状況について新しい知見が得られるようになった5)

2.総アフラトキシンの産生菌について

Aspergillus属の種の違いにより、産生されるアフラトキシンに違いがある。これはAFB1、AFB2(Bグループ)とAFG1、AFG2(Gグループ)の生合成に関わる酵素が異なっており6)、菌種によりその酵素遺伝子の有無があるからである。Bグループしか産生しない種にはA. flavus、A. pseudotamarii、A. ochraceoroseusなどがある7)。BグループとGグループの両方産生する菌種には、A. parasiticus、A. nomius、A. bombycisおよびA. australisなどがある8)。そのうち、食品を対象にみてみるとA. flavusは、Bグループ産生菌の代表菌種として食品に汚染している。一方食品汚染のBGグループ産生代表菌種としてはA. parasiticusおよびA. nomiusが挙げられる。Bグループ産生菌ではAFB1とAFB2の比率が10:1程度であると言われている2)。BGグループ産生菌では、AFB1のほうがAFG1よりも多く産生する菌種が多いが、AFG1のほうを多く産生する菌種もある9)

これらアフラトキシン産生菌は主に熱帯地域の土壌に分布しているが、平均年間気温16℃以上が生息域と考えられている。日本においてもA. flavusA. parasiticusの生息が確認されているが、アフラトキシン産生能を有する菌種はタイ、フィリピン、インドネシアなどに比べると非常に少ない10)

3.総アフラトキシン汚染が多い食品について

食品衛生法によりTAFには全食品を対象に規制値が設定されているが、その中でも比較的汚染例の多い食品に関しては、厚生労働省が命令検査対象としている。過去5年度間の命令検査対象食品の違反事例をみると、表1のように、小粒、大粒および加工品を含めた落花生、アーモンド、ピスタチオなどのナッツ類、香辛料、乾燥イチジク、とうもろこしの順にランク付けができる。近年はチョコレート原料で違反事例が多くなってきている。本稿では小粒、大粒および加工品を含めた落花生および近年違反件数が増加しているアーモンドを含むナッツ類を対象とし、TAFの規制が始まった年度から昨年度までの年次的TAF平均汚染濃度と違反件数の推移、違反品全体でのBグループ、BGグループそれぞれの汚染件数をまとめてみた。この結果、食品や輸入国によるBグループとBGグループの分布が非常に明確になり、アフラトキシン産生菌の世界的分布傾向も知ることができる。

 

 

表1. 総アフラトキシン違反事例食品ランキング(過去5年度間)

 

4.落花生の汚染傾向

1)小粒落花生

小粒落花生においては、図1(A)に示したように、TAF平均汚染濃度は30μg/kg程度であり、違反件数は30件以内で推移している。図1(B)にはBグループとBGグループの汚染件数の推移を示している。ここで、平成27年度のBグループとBGグループの汚染総数が図1(A)と若干合わないのは 落花生のサンプリングプランに起因する。すなわち落花生では、3検体/1ロットの検査結果であるため、1ロットから複数検体が陽性となった場合、その数も合計されてしまっているからである11)。平成24年度以降常にBグループがBGグループに比べて優勢であった。原産国からみると、アメリカ、中国、インドからの輸入品に違反事例が報告されているが、中国からの輸入小粒落花生の一部には平成25年度、26年度にGグループの汚染量が高い違反事例が出ており、BGグループの汚染件数が高くなった。しかしその後はまたBグループが優勢な菌種の汚染が多くなっている。

 

 

図1.小粒落花生の総アフラトキシン違反事例

 

2)大粒落花生

大粒落花生では、違反件数のアップダウンがはげしいが 最大で20件ほどが年度違反件数として報告されている。TAF平均汚染濃度が40μg/kgを超えている年度も過去8年度間に数年度認められた(図2(A))。BGグループとBグループそれぞれの件数を見てみると、平成24年度、25年度、28年度、29年度ではBGグループのほうがBグループよりやや多い汚染件数が検出されたが、近年はBグループのほうが優勢となっている(図2(B))。原産国では、圧倒的に中国からの輸入品が占めており、大粒落花生の生産地のアフラトキシン産生菌種の変化、または中国での産地の変化が起こっている可能性が考えられる。

 

 

図2.大粒落花生の総アフラトキシン違反事例

 

3)落花生加工品

落花生加工品は、平成24年度においては 落花生の中で最も高いTAF平均汚染濃度を記録したがその後は徐々に減少し、令和元年度には20μg/kg以下となっている(図3(A))。一方違反件数は平成28年度、29年度において25件以上であった。BグループおよびBGグループの汚染件数を比較してみると、平成29年度以降Bグループのほうが汚染件数が多くなっているが、その前まではBGグループの産生菌のほうがやや多い傾向にあった(図3(B))。この傾向は大粒落花生のBグループおよびBGグループの汚染件数の比較とよく似ていることから、落花生加工品は中国の大粒落花生が原料になっていることが示唆された。

 

 

図3.落花生加工品の総アフラトキシン違反事例

 

5.ナッツ類の汚染傾向

1)アーモンド

命令検査となるナッツ類にはアーモンド、クルミ、ピスタチオ、ヘーゼルナッツ、ブラジルナッツがあるが、その中で特に違反事例が多いのがアーモンドとピスタチオである。図4(A)から、平成27年度のアーモンドのTAF平均汚染濃度は非常に高い値であったが、30μg/kgを超える年度も多いことがわかる。違反件数が最も多かったのは平成30年度であったが、令和元年度には減少してきた(図4(A))。違反事例中のBグループ、BGグループの汚染件数をみると、Bグループの汚染件数が圧倒的に多く、アーモンドの汚染はおもにBグループ産生菌によるものであることが推察できる(図4(B))。日本に輸入されるアーモンドの原産国はアメリカがほとんどであるため、Bグループ産生菌が主である傾向はアメリカのアーモンドの汚染傾向と考えられる。

 

 

図4.アーモンドの総アフラトキシン違反事例

 

2)ピスタチオ

ピスタチオはアーモンドに比べると TAF平均汚染濃度が高く、1粒の汚染量が高いことが考えられる。日本に輸入されるピスタチオの原産国は、イランとアメリカであるが、イラン産ピスタチオの総アフラトキシンの違反率が非常に高かったため、他の国とは異なるサンプリングプランが用いられている12)。すなわち、1ロットから16検体を検査して、1つでも基準値(10μg/kg)を超えれば違反となる。平成27年度のピスタチオ違反件数はこのサンプリングプランに基づき、件数の解釈が図5(A)と図5(B)で異なっているが、イラン産のピスタチオはすべてBグループのアフラトキシン産生菌に汚染されているため、図5(B)のBグループの汚染件数が非常に高くなっている。このことからBGグループ産生菌による違反事例はアメリカ産であることがわかる。

 

 

図5.ピスタチオの総アフラトキシン違反事例

 

6.BGグループ産生菌におけるGグループとBグループの割合(G/B比率)

BGグループ産生菌では、AFB1のほうがAFG1よりも多く産生する菌種が多いことは前述したが、今まで示したデーターからG/B比率を出すことで、BGグループにおけるAFB1とAFG1の産生比率を調べてみた。中国産の大粒落花生のTAFは、AFG1の占める割合がAFB1より数倍高い状況がみられていたが、平成25年度や29年度にはAFG1汚染量がAFB1汚染量の9倍以上になる違反事例も見られた。

落花生に着生するBGグループ産生菌はA. parasiticus と報告されており13)A. parasiticusのGグループ産生能は温度により影響を受け、30℃以上だとBグループのほうが多く、30℃未満だとGグループ産生能が高くなると報告されている13)。中国産の小粒落花生ではBグループの汚染件数のほうがBGグループの汚染件数より多かったことから、中国産では大粒落花生のほうがよりA. parasiticusの汚染が多いと考えられた。大粒と小粒落花生で汚染菌種が異なる理由として、中国での生産地の気候影響を受けていることが考えられる。

ナッツ類ではアーモンドもピスタチオもAFG1の産生量がAFB1より多い株は比較的少なかった。G/B比においてはAFG1がAFB1の5倍程度産生する菌株も見受けられたが、AFB1のほうが産生量は多い傾向がみられた。特にイラン産のピスタチオでは、AFG1が検出された違反事例はなかったが、面白いことにイラン産の乾燥イチジクではAFG1が検出されており、A. parasiticusは生息しているということである。乾燥イチジクとピスタチオで着生する菌種が異なる現象は、菌の資化性によるものである。

7.終わりに

TAFの規制が策定される際に、食品安全委員会においてリスク評価が行われたが、その時評価されたデーターの一つに、落花生におけるAFB1、AFB2、 AFG1、 AFG2 汚染分布の年次変化があった。それによると平成12年を境にBグループの存在比が減少し、Gグループの比率が増加していた。この変化の原因は明確にはわからないが、このような傾向が今後も続くとするならば、我が国がその当時行っていたAFB1のみの規制を適応していれば見逃される事例が多数出る恐れがあった。そのため、食品安全委員会はTAFとしての規制を厚生労働省に答申したのであるが、TAF規制になってからのデーターをまとめてみると、Gグループの汚染リスクは続いており、この改正により食の安全が担保できていることが検証できた。また、Bグループ産生菌またはBGグループ産生菌の分布が、農作物や、地域の違いにより大きく異なることが改めて認識され、今後温暖化の進行に伴って変動する可能性があり、輸入大国日本としてもこれらのデーターから得られる知見を有効に利用すべきであると考える。

参考文献
略歴
昭和53年4月 東京大学大学院農学系研究科修士課程入学
昭和58年3月 東京大学大学院農学系研究科博士課程修了
昭和61年4月 国立予防衛生研究所 研究員
平成9年6月~14年3月 国立感染症研究所 食品衛生微生物部 食品毒素室室長
平成14年4月~19年3月 国立医薬品食品衛生研究所 衛生微生物部 第4室室長
平成19年4月~25年3月 同研究所 衛生微生物部部長
平成25年4月~令和2年3月 麻布大学 生命・環境科学部 食品生命科学科 教授
令和2年4月~現在 東京農業大学 応用生物科学部 教授
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