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ウェルシュ菌による食中毒について
一般財団法人 食品分析開発センターSUNATEC
微生物検査室

1. はじめに

細菌性食中毒の原因となる細菌は、黄色ブドウ球菌やカンピロバクターなど様々な種類がある。厚生労働省が発表している平成30年食中毒発生状況より、食中毒の発生件数は、カンピロバクター319件、病原大腸菌40件に次いでウェルシュ菌32件となっている。その患者数は、カンピロバクター1995人、病原大腸菌860人、ウェルシュ菌2319人となり、ウェルシュ菌による食中毒は1件当たりの患者数が多いことがわかる。今回はそんな大規模食中毒を引き起こすウェルシュ菌について紹介したい。

2. ウェルシュ菌(Clostridium perfringens)とは

 

ウェルシュ菌は、クロストリジウム属の一菌種で、芽胞を形成する偏性嫌気性のグラム陽性桿菌である。嫌気性菌のなかでもボツリヌス菌のように絶対嫌気性ではなく、酸素に対し比較的抵抗性を持っている。至適発育温度は、43~46℃と高い温度で発育し、分裂時間は45℃で約10分と非常に短く、増殖速度が速い。

ヒトや動物の大腸内常在菌で、環境中に広く分布しており、食品では食肉や、野菜の汚染率が高いとされている。本菌は産生する毒素の種類と量比によりAからEまでの5毒素型に分類されており、その中で食中毒を起こすのはA型である。

3. ウェルシュ菌による食中毒について

食中毒を起こすA型ウェルシュ菌は芽胞を形成する際にエンテロトキシンと呼ばれる毒素を産生する。エンテロトキシンを産生する他の細菌として黄色ブドウ球菌が知られているが、黄色ブドウ球菌の場合は、産生されるエンテロトキシンが胃や小腸の粘膜に作用して食中毒を引き起こす経口毒素型である。しかし、ウェルシュ菌が産生するエンテロトキシンは酸に弱く胃で分解されるため、経口毒素とはなりえない。ウェルシュ菌が増殖した食品を摂取すると、腸管内でウェルシュ菌が増殖し芽胞を形成する際にエンテロトキシンが産生され、これが腸管粘膜に作用して食中毒が起こる。そのため生体内毒素型とよばれる。

ウェルシュ菌食中毒は、潜伏期6~18時間で爆発的な食中毒の発生を起こすことが多く、主な症状は腹痛と下痢である。発熱や嘔吐はまれで、症状は軽いとされている。原因食品としてカレー、シチュー、ロールキャベツなど、食肉と野菜類が加熱調理された食品で多く発生している。ウェルシュ菌はタンパク質を分解しないため、食品の変質を起こさず、見た目や臭いでわかりにくい。

食中毒予防の三原則は「つけない」、「ふやさない」、「やっつける」であるが、ウェルシュ菌に対する予防のポイントは、「つけない」、「ふやさない」こととなる。ウェルシュ菌は、芽胞が形成されると加熱では死滅しないため、「やっつける」が難しい。そのため、原材料の洗浄で「つけない」こと、加熱調理後に放冷せず速やかに冷蔵して「ふやさない」ことが重要となる。

4. ウェルシュ菌の検査方法

公定法や標準検査法は定められていないため、国内で汎用されている食品衛生検査指針の方法を紹介する。

●定性試験

下記①の直接培養法と②の増菌培養法がある。

① 直接培養法:乳剤をカナマイシン添加卵黄CWかサイクロセリン添加卵黄CW、卵黄加TSC培地に直接塗抹し、37±1℃ 18~24時間嫌気培養する。

② 増菌培養法:乳剤をTGC培地の深部に1ml接種し37±1℃ 20±2時間もしくは、42±1℃10時間±2時間好気培養してから、直接培養を行う。

 

卵黄培地上に発育したウェルシュ菌のコロニーは、卵黄中のレシチンを分解して周囲に白色、不透明の沈降帯を生じるNagler反応を起こす。また、TSC寒天培地上では亜硫酸塩と鉄塩の反応により黒色集落を形成する。

疑わしいコロニーについては、グラム染色、好気・嫌気発育試験、乳糖分解試験、ゼラチン液化試験他の確認試験を行い、判別が困難な菌の場合には同定キットや16SrDNAによるPCR法を組み合わせて確認する。

近年カナマイシン低耐性のウェルシュ菌が食中毒事例から検出されており、カナマイシンにかわりサイクロセリンを使用した培地の検討も必要である。

 

●定量試験法

国内では、嫌気培養装置を必要としないパウチ培養法が汎用されている。ウェルシュ菌を含むクロストリジウム属の食品衛生法に基づく加熱食品の成分規格で定めるクロストリジウム測定用培地での検査をウェルシュ菌分離用のハンドフォード改良培地に変更して検査を行う。

5. まとめ

ウェルシュ菌による食中毒は、大量調理の際に起こりやすく、ひとたび発生してしまうと患者数が多い大規模食中毒となる。リスクを減らすには、ウェルシュ菌の特徴を理解し、正しい衛生管理を徹底することが必要である。

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