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![]() 改変が進む残留農薬分析における食品の検体部位
![]() 一般財団法人 食品分析開発センターSUNATEC
第二理化学検査室 1. はじめに食品中の残留農薬等(農薬、動物用医薬品及び飼料添加物)はポジティブリスト制度によって規制されており、基準値を超過した農薬等が残留した食品の流通、販売等が禁止されている。検体部位が規定されている食品1)については、適切な検体部位を分析して得られた結果を分析値として基準値と比較しなければならない。基準値適否の判断には適切な検体部位での分析が必要であるため、検体部位の理解は重要である。 令和元年(2019年)9月20日の基準値改正通知2)において基準値が改正された農薬は、一部の食品において従来と異なる検体部位が示された。本稿では通知で示された検体部位の変更点について説明する。 2.検体部位の変更点2019年9月20日の基準値改正通知において示された検体部位の主な変更点は、一部の果実類を対象に、特定の農薬等に対して「果実全体」が検体部位として設定されたことである。検体部位が変更となった食品の検体部位を表1に示す。 「みかん」の場合は外果皮を除去したものが検体部位として規定されていたが、本通知により特定の農薬に対しては外果皮を含む「果実全体」が検体部位となった。「もも」の場合は果皮及び種子を除去したものが検体部位として規定されており、ピリメタニルのように果皮を含むが検体部位として規定されていた農薬等も存在したため、新たに果皮及び種子を含む「果実全体」を検体部位とする農薬等が示されたことにより、3種類の検体部位が混在することになった。表1に示した食品を対象として残留農薬分析を実施する場合は検体部位に留意しなければならない。 また、試料の粉砕調製において「びわ」や「もも」のように非常に硬い種子を有する食品は、種子の均一化が困難であるため種子に農薬等の残留はないものとみなし、種子以外の部分を分析して果実全体の残留量を算出する方法が通知に示されている3)。詳細手順は通知内容を参照されたい。 厚生労働省の薬事・食品衛生審議会の資料4)によると、検体部位が変更となった背景は日本国内で規定されている検体部位をコーデックス基準と一致させることであるとされている。国際的な整合性を図るべく、今後も基準値改正時に果実全体を検体部位とする農薬等が増加すると考えられる。
表1. 食品の検体部位(2019年9月20日現在*)
*2019年9月20日時点では「果実全体」の検体部位が適用されていない農薬等も含めて記載した。基準値の適用期日は農薬等により異なるため、最新情報は厚生労働省ホームページ等で確認していただきたい。
3.おわりに上記で示した検体部位の変更により、分析を行う際には、要するコストと労力が増大するため、大変悩ましい状況となった。基準値適合性を判断するために、個別分析であれば個々の農薬に規定された検体部位にて分析が可能である。しかし一斉分析の場合は個々の農薬の検体部位に合わせた分析が困難である。例えば「みかん」を対象とした一斉分析においては、外果皮を除いたもの又は果実全体いずれかの検体部位を分析に供することになるため、分析対象農薬に検体部位が異なる農薬が含まれる場合は、1回の一斉分析では基準値適合性を判断できず、該当農薬を対象とした分析を追加する必要がある。同じ食品でも複数の検体部位が存在する食品は本稿で示した一部の果実類に限ったことではなく、鶏卵やカカオ豆、茶も農薬等により検体部位が異なっているため注意が必要である。分析機関から得られた一斉分析の結果では、どの検体部位について行った結果であるかを確認することが、残留基準値との比較において重要である。 参考情報
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