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![]() 米国に於ける飲食店・食品販売店の衛生評価システム
![]() 大阪市立大学大学院工学研究科 客員教授
NPO食品安全ネットワーク 最高顧問 日本防菌防黴学会 名誉会長 米虫 節夫 要旨米国においては各州がRetail Food Codeを作成し、それに沿って飲食店の現場に立入査察を行い、その結果が評点化されて、店頭表示されている。しかし、その表示方法は一律ではなく自治体により異なっている。厚生労働省が提出した「HACCP に沿った衛生管理の制度化に関するQ&A」によると、日本ではHACCP認証のようなことはしないとのことであるが、米国の例を見たとき飲食店の現場をより良くするには、米国のような評価も有効ではないかと思う。そのような見地から、幾つかのQ&Aにコメントを付した。 はじめに昨年(2018)12月の本メールマガジンに、「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理(基準B)を考える」という一文を書かせてもらった。その最後に、「衛生状態の評価」という一節を設け、米国を始めとする幾つかの国に於ける飲食店の衛生評価の現状について紹介した。
今回は、昨年紹介したものと重複する所もあるが、筆者の視点で、再度、米国に於ける飲食店の衛生管理の現状を紹介したい。 米国に於ける飲食店の衛生評価の現状ここ数年、毎年、カルフォルニア州とハワイ州に旅行している。食事時に飲食店を訪れると、いつもその店の衛生評価の表示を探し、写真に収めるようにしてきた。
昨年の本稿で紹介したサンフランシスコ市内のステーキ店に,今年の8月に訪問したが、店に貼られている衛生評価の評点が、92点から88点に下がっていた。衛生計画に沿った活動を行っていくと、全体として衛生状態は徐々に良くなり、評点は良くなると考えられるのだが、現実としては、評点が下がることもあるのだ。まさにびっくりだ。しかし、サンフランシスコ公衆衛生局(SFDPH)の評価は、>90:Good(良好)、86-90:Adequate(適合)、71-85 :Needs Improvement(要改善)、≦70:Poor(劣悪)という判定なので、88点は、まだ適合の範囲内ではある。(図1)
図1 サンフランシスコ市内の某ステーキ店の評点は、
図2 某ステーキ店のトイレ(左)と壁の落書き(右)
ロスアンゼルスのリトル東京にある某飲食店の衛生評価票を図3に示す。この店の衛生状態の評価は“A”となっており、説明から推察すると、“Food Inspection Report”のチェックリストで90~100%の高評価を得ていることがわかる。
図3 Little Tokyo in LA (2017.08.28)
図4 Long Beach in CA( 2017.08.30 )
図5 問題箇所の指摘
“PASS”マーク方式の衛生評価を行っている街は多い。数年前に、ハワイ州ホノルル市の飲食店で初めてこの表示を見たときは感激した(図6)。店舗のレジスター横や、外からよく見える所に目立つように貼られている。写真に撮り、記載事項を見ると「この施設は、ハワイ州行政規則、食品安全コードに従ってハワイ州保健/食品安全プログラム部によって検査された:日付by担当者」となっている。表示票の左下を見ると、この評価は、PASS、 CONDITIONAL PASS、CLOSEDの三段階評価であることがわかる。サンフランシスコ市の評点と比較すると、86点以上が“PASS”、71-85点が“CONDITIONAL PASS”、70点以下が“CLOSED”なのであろう。オアフ島の中の多くの飲食店を見たが、すべて“PASS”で、他の2つの評価がなされた店は見たことがない。2019年11月に、ホノルルを訪れたときには、多くのキッチンカーにも“PASS”マークが貼られていたのには感激した。
図6 ホノルル市の“PASSマーク”
「月刊HACCP」が紹介したサウサリート市の“PASS”マークを図7に示す。芸術家が集まる街としても知られており、さすがに事務的ではないしゃれたデザインの衛生評価票である。表示を見ると、今回の査察日と共に、直前の査察日も記載されている。図7では、今回が2019年6月12日、直前は2018年8月18日であり、どちらも“PASS”評価であることがわかる。しかし、査察間隔は約10ヶ月で、1年を経過していない。かなりの高頻度で査察をすることにより、飲食店の現場に於ける衛生管理の改善・向上を促しているのであろうか? この街では、街角のビア-ハウスにも“PASS”マークが貼付されていた。おつまみや軽食が提供される店だからであろう。
図7 サウサリート市の“PASSマーク” スマートな表示であり、今回の査察日と共に直前の査察日が記載されている。
サンフランシスコ市からベイブリッジを渡り、オークランドから東へ車を1時間ほど走らせた所、ロッキー山脈の麓にCounty of Contra Costa(コントラコスタ郡)Concord(コンコード市)がある。この街の“PASS”マークを図8に示す。この衛生評価票にも今回(2019.09.22)と直前(2018.12.10)の査察日が記載され、前回の評価も“PASS”であることが表示されているが、査察の間隔はここも約10ヶ月である。 図8 Concord, County of Contra CostaのPASSマーク
図9に、オークランド(サンフランシスコ市の東側)とサンメテオ市(サンフランシスコ市の南側)の“PASS”マークを示しておく。同じ“PASS”マークであるが、市によって異なったデザインで、異なった事項が記載されているのは、興味深い。もっと多くの“PASS”マークを集めてみたくなるのは筆者だけであろうか。しかし、もし日本でこのような衛生状態の評価票が導入されることになると、多分、日本全国同じデザインの事務的な物になることだろう。
図9 左:オークランド中華街のスイーツ店 右:サンメテオ市の日本料理店 多言語表示先に示したコンコード市のベトナム料理店のトイレに入った。その手洗いの表示に目が行き,写真に撮ってきた。単なる「手洗いをするように!」というポスターではあるが、英語表示の他に7カ国語で(多分)同じ事が書かれている! スペイン語、中国語、朝鮮語、アラビア語、ベトナム語(?)、タイ語、ロシア語である。残念ながら、日本語はなかった。日本でも、今後、外国人労働者が増えてくるであろう。そのときには、このような多言語表示ポスターが必要になることだろう。(図10)
図10 Concord, County of Contra Costaの某飲食店における洗面器の前の手洗い奨励表示 8カ国語で「病気を防ぐために手洗いするように」との掲示があった。驚いたことに、英語以外に7カ国語で書かれている! (スペイン語、中国語、朝鮮語、アラビア語、ベトナム語(?)、タイ語、ロシア語)残念ながら、日本語はなかった。 厚生労働省によるHACCP制度化のQ&A厚生労働省医薬・生活衛生局食品監視安全課は、2018年8月31日「HACCPに沿った衛生管理の制度化に関するQ&A」(最終改正、2019.02.25)を発表した。その中には、注目すべき幾つかのQ&Aがある。その幾つかについて,先に紹介した飲食店の衛生評価との関連で、筆者のコメントを記しておく。
問1 HACCPに沿った衛生管理の制度化により、現在の衛生管理はどのように変わるのか。何か新しい設備を設けなければならないのか。 < 回答 > 1 HACCPに沿った衛生管理の内容については、これまで求められてきた衛生管理を、個々の事業者が使用する原材料、製造・調理の工程等に応じた衛生管理となるよう計画策定、記録保存を行い、「最適化」、「見える化」するものです。
問8 HACCPに沿った衛生管理を実施していることを、事業者はどのようにして認証を受けるのか。また、営業許可の要件になるのか。
問10 保健所からの監視指導はどのようにして行われるのか。例えば、衛生管理計画に不備があった場合、直ちに行政処分の対象となるのか。
問17 消費者は、訪れた飲食店が「HACCPに沿った衛生管理」を実施していることや、購入する食品が「HACCPに沿った衛生管理」の下で製造、加工されたことをどのようにして判断すればよいのか。
問18 「HACCPに基づく衛生管理」と「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」とでは、達成される衛生水準に差はあるのか。
問21「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」は、どの程度できていればよいのか。 略歴元近畿大学農学部教授;「熱殺菌の動力学」で工学博士の学位(1970)を得て,各種環境の微生物制御を中心に研究。最近は食品分野の衛生管理・安全管理に注力し、食品衛生7Sの普及に努めている。日本的品質管理の賞であるデミング賞委員を長く務め、TQC/TQM的発想で現場重視の活動をしている。著書(100冊以上)、原著論文(200報以上)、総説など(多数)。 サナテックメールマガジンへのご意見・ご感想を〈e-magazine@mac.or.jp〉までお寄せください。 |
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