(一財)食品分析開発センター SUNATEC
HOME > 米国に於ける飲食店・食品販売店の衛生評価システム
米国に於ける飲食店・食品販売店の衛生評価システム
大阪市立大学大学院工学研究科 客員教授
NPO食品安全ネットワーク 最高顧問
日本防菌防黴学会 名誉会長
米虫 節夫

要旨

米国においては各州がRetail Food Codeを作成し、それに沿って飲食店の現場に立入査察を行い、その結果が評点化されて、店頭表示されている。しかし、その表示方法は一律ではなく自治体により異なっている。厚生労働省が提出した「HACCP に沿った衛生管理の制度化に関するQ&A」によると、日本ではHACCP認証のようなことはしないとのことであるが、米国の例を見たとき飲食店の現場をより良くするには、米国のような評価も有効ではないかと思う。そのような見地から、幾つかのQ&Aにコメントを付した。

はじめに

昨年(2018)12月の本メールマガジンに、「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理(基準B)を考える」という一文を書かせてもらった。その最後に、「衛生状態の評価」という一節を設け、米国を始めとする幾つかの国に於ける飲食店の衛生評価の現状について紹介した。
 「月刊HACCP」(2019.09号)に、米国カリフォルニア州に於ける飲食店の衛生管理に関する記事が2本掲載された。その中には、サウサリート市とサンフランシスコ市における飲食店の衛生評価の実態と、California Retail Food Codeに基づく査察がどのように行われているかなどが記載されている。筆者は、一旅行者として飲食店の衛生評価票を見て、現地における飲食店の衛生評価とその基礎となる査察について類推してきたので、この記事を見て米国,特にカリフォルニアに於ける衛生評価の基本的な幾つかの視点が理解出来た。

 1)  

GRAVURE リゾート地の高級シーフードレストランで厨房拝見 査察官とのコミュニケーション密にし、衛生管理にも万全期す 米国サウサリート市 The Spinnaker、「月刊HACCP」(2019.09号) p.4-5

 2)  

現地ルポ 米国サンフランシスコ現地視察報告 California Retail Food Codeに基づき食品衛生各種プログラムを適用 ~従事者の資格取得義務や食品施設の厳密な査察・評価などを平準化~、 本紙記者 岩本嘉之、「月刊HACCP」(2019.09号) p.64-76

今回は、昨年紹介したものと重複する所もあるが、筆者の視点で、再度、米国に於ける飲食店の衛生管理の現状を紹介したい。

米国に於ける飲食店の衛生評価の現状

ここ数年、毎年、カルフォルニア州とハワイ州に旅行している。食事時に飲食店を訪れると、いつもその店の衛生評価の表示を探し、写真に収めるようにしてきた。
 上記の「月刊HACCP」が紹介する衛生評価の表示は、サウサリート市の“PASS”方式とサンフランシスコ市の「衛生状態の評価点」方式の2方式が紹介されているが、それ以外に昨年の本稿で紹介したようにA,B,C方式、主要な問題点「不検出」or「検出」方式など多彩である。さらに、同じ“PASS”方式をとっても、その表示方法は一様でなく、同じカルフォルニア州においても各自治体の保健所により異なっているのも興味深い。日本では、考えられないことだ。その実態の一端を以下に紹介する。

 

昨年の本稿で紹介したサンフランシスコ市内のステーキ店に,今年の8月に訪問したが、店に貼られている衛生評価の評点が、92点から88点に下がっていた。衛生計画に沿った活動を行っていくと、全体として衛生状態は徐々に良くなり、評点は良くなると考えられるのだが、現実としては、評点が下がることもあるのだ。まさにびっくりだ。しかし、サンフランシスコ公衆衛生局(SFDPH)の評価は、>90:Good(良好)、86-90:Adequate(適合)、71-85 :Needs Improvement(要改善)、≦70:Poor(劣悪)という判定なので、88点は、まだ適合の範囲内ではある。(図1)
 前記「月刊HACCP」によると、SFDPHが「“Food Inspection Report”と称するチェックリストにより査察を行い、遵守率(違反率)をチェックし、点数評価を行い、点数に応じた“Food Safety Scorecard”を発行」(p.66)しているとのこと。
 店内を見回しても、調理場を見ても目に見えるような変化は発見出来ない。しかし、トイレに入りその一端が理解出来た。トイレのちり紙がゴミ箱の外に落ちており、ドアや壁には多くの落書きが書かれている。初めの落書きが見つけられたときに、きちんと消しておけばこのようなことにはならなかったであろう。トイレの掃除をする従業員の問題か、それらを管理する経営者などトップの意識が原因なのか、その理由は分からないが、いずれにせよ、衛生管理のレベルが低下している一つの証左であろう。査察官が何処を問題として減点したのかは分からないが、飲食店におけるトイレの管理は,衛生管理に於ける重要課題の一つであることに違いない。(図2)

 

図1 サンフランシスコ市内の某ステーキ店の評点は、今回見ると92点(2017.08撮影)から、88点(2019.08撮影)に下がっていた。

図1 サンフランシスコ市内の某ステーキ店の評点は、
今回見ると92点(2017.08撮影)から、88点(2019.08撮影)に下がっていた。

 

 

図2 某ステーキ店のトイレ(左)と壁の落書き(右)

図2 某ステーキ店のトイレ(左)と壁の落書き(右)

 

ロスアンゼルスのリトル東京にある某飲食店の衛生評価票を図3に示す。この店の衛生状態の評価は“A”となっており、説明から推察すると、“Food Inspection Report”のチェックリストで90~100%の高評価を得ていることがわかる。
 カリフォルニア州ロングビーチの某飲食店の衛生評価票を図4に示す。この街の評価方法は、「重要な違反の有無」方式で、どのような違反があるかを図5のように示しており、食品衛生特に一般衛生管理が問題とされているのかがよくわかる。

 

図3 Little Tokyo in LA (2017.08.28) 

図3 Little Tokyo in LA (2017.08.28)

 

 

図4 Long Beach in CA( 2017.08.30 )

図4 Long Beach in CA( 2017.08.30 )

 

図5 問題箇所の指摘

図5 問題箇所の指摘

 

“PASS”マーク方式の衛生評価を行っている街は多い。数年前に、ハワイ州ホノルル市の飲食店で初めてこの表示を見たときは感激した(図6)。店舗のレジスター横や、外からよく見える所に目立つように貼られている。写真に撮り、記載事項を見ると「この施設は、ハワイ州行政規則、食品安全コードに従ってハワイ州保健/食品安全プログラム部によって検査された:日付by担当者」となっている。表示票の左下を見ると、この評価は、PASS、 CONDITIONAL PASS、CLOSEDの三段階評価であることがわかる。サンフランシスコ市の評点と比較すると、86点以上が“PASS”、71-85点が“CONDITIONAL PASS”、70点以下が“CLOSED”なのであろう。オアフ島の中の多くの飲食店を見たが、すべて“PASS”で、他の2つの評価がなされた店は見たことがない。2019年11月に、ホノルルを訪れたときには、多くのキッチンカーにも“PASS”マークが貼られていたのには感激した。

 

図6 ホノルル市の“PASSマーク”

図6 ホノルル市の“PASSマーク”

 

「月刊HACCP」が紹介したサウサリート市の“PASS”マークを図7に示す。芸術家が集まる街としても知られており、さすがに事務的ではないしゃれたデザインの衛生評価票である。表示を見ると、今回の査察日と共に、直前の査察日も記載されている。図7では、今回が2019年6月12日、直前は2018年8月18日であり、どちらも“PASS”評価であることがわかる。しかし、査察間隔は約10ヶ月で、1年を経過していない。かなりの高頻度で査察をすることにより、飲食店の現場に於ける衛生管理の改善・向上を促しているのであろうか? この街では、街角のビア-ハウスにも“PASS”マークが貼付されていた。おつまみや軽食が提供される店だからであろう。

 

図7 サウサリート市の“PASSマーク”スマートな表示であり、今回の査察日と共に直前の査察日が記載されている。

図7 サウサリート市の“PASSマーク”

スマートな表示であり、今回の査察日と共に直前の査察日が記載されている。

 

サンフランシスコ市からベイブリッジを渡り、オークランドから東へ車を1時間ほど走らせた所、ロッキー山脈の麓にCounty of Contra Costa(コントラコスタ郡)Concord(コンコード市)がある。この街の“PASS”マークを図8に示す。この衛生評価票にも今回(2019.09.22)と直前(2018.12.10)の査察日が記載され、前回の評価も“PASS”であることが表示されているが、査察の間隔はここも約10ヶ月である。


図8 Concord, County of Contra CostaのPASSマーク

図8 Concord, County of Contra CostaのPASSマーク

 

 

図9に、オークランド(サンフランシスコ市の東側)とサンメテオ市(サンフランシスコ市の南側)の“PASS”マークを示しておく。同じ“PASS”マークであるが、市によって異なったデザインで、異なった事項が記載されているのは、興味深い。もっと多くの“PASS”マークを集めてみたくなるのは筆者だけであろうか。しかし、もし日本でこのような衛生状態の評価票が導入されることになると、多分、日本全国同じデザインの事務的な物になることだろう。

 

図9 左:オークランド中華街のスイーツ店  右:サンメテオ市の日本料理店

図9 左:オークランド中華街のスイーツ店  右:サンメテオ市の日本料理店

多言語表示

先に示したコンコード市のベトナム料理店のトイレに入った。その手洗いの表示に目が行き,写真に撮ってきた。単なる「手洗いをするように!」というポスターではあるが、英語表示の他に7カ国語で(多分)同じ事が書かれている! スペイン語、中国語、朝鮮語、アラビア語、ベトナム語(?)、タイ語、ロシア語である。残念ながら、日本語はなかった。日本でも、今後、外国人労働者が増えてくるであろう。そのときには、このような多言語表示ポスターが必要になることだろう。(図10)

 

図10 Concord, County of Contra Costaの某飲食店における洗面器の前の手洗い奨励表示

図10 Concord, County of Contra Costaの某飲食店における洗面器の前の手洗い奨励表示

 

8カ国語で「病気を防ぐために手洗いするように」との掲示があった。驚いたことに、英語以外に7カ国語で書かれている! (スペイン語、中国語、朝鮮語、アラビア語、ベトナム語(?)、タイ語、ロシア語)残念ながら、日本語はなかった。

厚生労働省によるHACCP制度化のQ&A

厚生労働省医薬・生活衛生局食品監視安全課は、2018年8月31日「HACCPに沿った衛生管理の制度化に関するQ&A」(最終改正、2019.02.25)を発表した。その中には、注目すべき幾つかのQ&Aがある。その幾つかについて,先に紹介した飲食店の衛生評価との関連で、筆者のコメントを記しておく。

 

問1 HACCPに沿った衛生管理の制度化により、現在の衛生管理はどのように変わるのか。何か新しい設備を設けなければならないのか。

< 回答 >

1 HACCPに沿った衛生管理の内容については、これまで求められてきた衛生管理を、個々の事業者が使用する原材料、製造・調理の工程等に応じた衛生管理となるよう計画策定、記録保存を行い、「最適化」、「見える化」するものです。
2 特に、小規模事業者の皆様に取り組んでいただくことになる「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」については、事業者団体が作成し、厚生労働省が確認する手引書を利用して、温度管理や手洗い等の手順を定め、簡便な記録を行うことを想定しており、比較的容易に取り組めるものです。
3 衛生管理の計画と記録を作成することで、衛生管理の重要なポイントが明確化され、効率的な衛生管理が可能となり、さらには保健所からの監視指導の際の応答や顧客など外部への説明も容易になるなどといった利点も生じます。
4 なお、HACCPは工程管理、すなわち、ソフトの基準であり、必ずしも施設設備等ハードの整備を求めるものではありません。今回の制度化に当たっても現行の施設設備を前提とした対応が可能です。
<< コメント >>
1に述べられているように、HACCPに沿った衛生管理の制度化は、「衛生管理の(中略)計画策定、記録保存を行い、「最適化」、「見える化」するもの」であるが、どのような計画を組むかにより、「最適化」の程度は変わってくる。また、「HACCPは工程管理、すなわち、ソフトの基準であり、必ずしも施設設備等ハードの整備を求めるものではありません」という4も強調すべき事項と考える。ISO22000やFSSC22000の審査でもハードの整備を要求する審査員が多いので、HACCPは、ソフト管理が基本であることを、HACCPの制度化において、もっと強調しておいて欲しい事項である。

 

問8 HACCPに沿った衛生管理を実施していることを、事業者はどのようにして認証を受けるのか。また、営業許可の要件になるのか。
< 回答 >
1 HACCPに沿った衛生管理は、認証や承認の制度ではありません。事業者の実施状況については、保健所等が、営業許可の更新時や通常の定期立入検査等の際に、HACCP7原則の考え方に基づいて、衛生管理計画の作成や実践がなされているか監視指導が行われる仕組みとなります。
2 営業許可の更新時や届出の際に衛生管理計画を確認することは考えられますが、衛生管理計画は許可の可否の判断基準には含まれません。
<< コメント >>
HACCPは制度として導入されるものであるから、全ての食品等事業者が対応せねばならないモノで、「認証や承認の制度」でないことは自明である。しかし、食品等事業者が作成したHACCPに沿った衛生計画の内容は、同じ基準Aや基準Bにおいても、基準点をかろうじて満たしているものもあれば、十分な衛生管理が出来るレベルのものもある。カリフォルニアの例に示すごとく、その出来具合を評点化し店頭表示することは、「さらに良い衛生計画」を作り実践するためには必要なのではないだろうか。

 

 問10 保健所からの監視指導はどのようにして行われるのか。例えば、衛生管理計画に不備があった場合、直ちに行政処分の対象となるのか。
< 回答 >
1 事業者が衛生管理計画の策定やその遵守を行っているかについて、保健所等が、営業許可の更新時や通常の定期立入検査等の際に確認することとなります。
2 事業者が衛生管理計画の策定及びその遵守を行わない場合、まずは行政指導が行われます。事業者が行政指導に従わず、人の健康を損なうおそれがある、飲食に適すると認められない食品等を製造等した場合には、改善が認められるまでの間、営業の禁停止などの行政処分が行われることがあります。
<< コメント >>
1に記されたように、「保健所等が、営業許可の更新時や通常の定期立入検査等の際に確認する」ことになるので、それまでに衛生管理計画を策定し、その遵守をしておくべきだろう。しかし、カリフォルニア州の例では、かなりの高頻度で立入査察が行われているようであるが、人手不足の日本では、どれくらいの頻度の立入査察になるのであろうか。

 

問17 消費者は、訪れた飲食店が「HACCPに沿った衛生管理」を実施していることや、購入する食品が「HACCPに沿った衛生管理」の下で製造、加工されたことをどのようにして判断すればよいのか。
< 回答 >
1 例えば、店舗のよく見える場所に衛生管理計画の写しを掲示することで、各事業者の衛生管理の取組を示すといったことが考えられます。
2 また、事業者団体が自主的な取組を表示している例もあることから、そうした例も参考にしながら、どのような対応が可能か、検討することとしています。
<< コメント >>
「店舗のよく見える場所に衛生管理計画の写しを掲示する」ことが、例示されているが、衛生管理計画は、A4紙1枚にまとめられるようなモノではない。食品等事業者としては、HACCPに沿った衛生管理を行っていることをPRしたいので、JFSMのHACCP認証や、ISO22000・FSSC2200の認証などをもってPRすることになるが、規制官庁からの何らかの証明が欲しい。米国に於ける幾つかの衛生評価票はその要望を満たすものであり、消費者にとっても一目でその意味することが理解出来るわかりやすい制度である。日本においても、いつかは米国のような衛生評価票の制度が取り入れられる可能性は高いと考えている。

 

問18 「HACCPに基づく衛生管理」と「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」とでは、達成される衛生水準に差はあるのか。
< 回答 >
1 「HACCPに基づく衛生管理」及び「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」は、規模や食品の特性等に応じて事業者が遵守すべき最低基準であり、いずれも、必要な衛生管理のレベルを確保しているものです。
2 また、「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」の対象事業者であっても、「HACCPに基づく衛生管理」を実施することができます。
<< コメント >>
NPO食品安全ネットワークの提唱する「食品衛生7S」を実践しているという事業所においても、微生物レベルの清潔度の確保には、大きな差がある。まして現場の衛生管理レベルという点で云えば、明らかに基準Aと基準Bとでは、レベルに差があると考える。消費者に満足してもらえるに十分な衛生管理のレベルとしては、最低限ではなく必要十分なレベルが求められ、そのレベルは日進月歩であろう。

 

 問21「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」は、どの程度できていればよいのか。
< 回答 >
○保健所の食品衛生監視員による「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」の対象となる事業者への監視指導は、業界団体が策定し、厚生労働省が確認した手引書を基に行うこととしています。
<< コメント >>
「厚生労働省が確認した手引書」の幾つかには、改訂版が発行されている。先にも書いたが、現場の衛生管理は日進月歩であり、それに応じて、手引書も改訂されることだろう。故に、手引書を最低ラインと考え、さらにレベルの高い衛生管理が出来るように日々の改善活動が必要になってくる。サンフランシスコのような衛生評価の点数制は、現場のレベルが数値で明確に「見える化」されることになり、点数アップへの努力を促すことになる。逆にそれを怠ると施設・設備の老化とともに評価点数が減少することになる。故に、衛生評価の点数制は、今後の必須課題ではなかろうか。

略歴

元近畿大学農学部教授;「熱殺菌の動力学」で工学博士の学位(1970)を得て,各種環境の微生物制御を中心に研究。最近は食品分野の衛生管理・安全管理に注力し、食品衛生7Sの普及に努めている。日本的品質管理の賞であるデミング賞委員を長く務め、TQC/TQM的発想で現場重視の活動をしている。著書(100冊以上)、原著論文(200報以上)、総説など(多数)。

バックナンバーを見る

サナテックメールマガジンへのご意見・ご感想を〈e-magazine@mac.or.jp〉までお寄せください。

Copyright (C) Food Analysis Technology Center SUNATEC. All Rights Reserved.