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HACCPに沿った衛生管理の制度化に向けての対応
山口大学 共同獣医学部
教授 豊福 肇

2018年6月の食品衛生法等の一部改正により、すべての食品事業者にHACCPに沿った衛生管理が制度化される。

2019年5月21日から開始された政令案に対するパブリックコメントでは、法第50 条の2第1項第2号の小規模な営業者その他の政令で定める営業者については、以下のとおりとされている。(施行令第34 条の2関係)

  • ・食品又は添加物を製造し、又は加工する者のうち、主として食品又は添加物を製造し、又は加工する施設に併設し、又は隣接した店舗において、その施設で製造又は加工した食品又は添加物の小売販売をする者
  • ・飲食店営業(一般食堂、料理店、すし屋、そば屋、旅館、仕出し屋、弁当屋、レストランその他食品を調理し、又は設備を設けて客に飲食させる営業をいい、第35 条第2号に該当する営業を除く。同条第1号において同じ。)及び喫茶店営業(喫茶店、サロンその他設備を設けて酒類以外の飲物又は茶菓を客に飲食させる営業をいう。第35 条第2号において同じ。)その他の食品を調理する者として厚生労働省令で定める者
  • ・容器包装に入れられ、又は容器包装で包まれた食品又は添加物のみを貯蔵し、運搬し又は販売する者
  • ・食品又は添加物を分割して容器包装に入れ、又は容器包装で包み、小売販売する者その他の法第50 条の2第1項第1号に規定する一般的な衛生管理により公衆衛生上必要な措置を講ずることが可能なものとして厚生労働省令で定める営業をする者
  • ・上記に掲げる者のほか、一の事業所において食品又は添加物の取扱いに従事する者の数が50 人未満である者

一部、厚生労働省令を見ないと明らかにならないが、概ね、従前から厚生労働省が説明していた範囲が所謂「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理=もとの基準B」となるようである。

それでは、「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」の対象事業者は、どういう形で身の丈に合せて対処すればよいかについて、述べてみる。

  • 1.まず、自分が「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」の該当事業者かどうかを確認する。
  • 2.該当するのであれば、厚生労働省のHACCPのwebサイト※を開き、すでに厚生労働省の食品衛生管理に関する技術検討会で審査済の衛生管理計画手引書で、自分が属する食品等事業者団体が作成したものを探す。もし、ない場合や事業者団体に属していない場合には、製造している製品と工程や原材料が一番近そうなものを探す。
  • 3.自分が所属する事業者団体が作成した手引書がある場合には、中を読んでみて、例示されている製品が自分の製造加工している食品及び工程が一致しているか確認する。もし、自分が製造している食品がある場合には、一般衛生管理と重要なチェックポイントについて、手引書を参考にして衛生管理手引書を作成し、そのとおり実施し、その実施状況を手引書にある記録用紙を参考にして記録をつけてみる。
  • 4.製品は同じだが、工程が手引書と異なる場合、それによって生じるハザードの違いについて、検討し、追加の重要なハザードがあるか考える。ある場合にはCCP管理が必要か合わせて考える。
  • 5.作成した衛生管理計画を1カ月ぐらい実施し、1カ月間の記録及びクレーム記録を見直し、類似の問題が頻発していないかチェックする。また、製造担当者からヒアリングして、衛生管理計画に問題がないかを見直す。特に手引書で考えられていないハザードの発生がないかチェックする。記録用紙は徐々に、もっとこう改善した方がいいというアイデアが出てくれば、HACCPチームで検討し、承認した後に改訂する。記録用紙のバージョン管理を行い、現在承認されているバージョンはどれか明確にする。
  • 6.また、手引書がない商品についても、重要チェックポイントを組織内で検討し、決めて、衛生管理計画の範囲を広げてみる。
  • 7.2.で探せない場合、また3.で確認したところ、自分で製造加工している食品と製造工程や製品説明書が異なる場合は、残念ながら、コーデックスのHACCP7原則12手順に戻り、ハザード分析を行うことになる。一般衛生管理ではコントロールできない重要なハザードが特定された場合には、CCPを設定し、CCPが適切に管理されていると判断するCLを設定する。CLを設定した後、そのCLを誰が、何を、どのように、モニタリングするか、また、CLから逸脱した場合の工程をもとの管理状態に戻し、また逸脱している間に製造加工された製品に対する措置を考える。検証の手順と記録用紙を考える。この段階で、大事なことはハザードを特定し、それを許容出来るレベルに管理することであり、モニタリング頻度や記録の回数は他の手引書の頻度等を参考に、弾力化が可能となる。

手引書の内容

ほとんどの「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」の手引書は一般衛生管理と重要なチェックポイント(CCPに相当)に分けて構成されており、手引書によっては、製品説明書、フローダイヤグラム、ハザード分析及びそれに基づく重要なハザードとそのコントロール(すなわち推奨されるCCPとその管理のための管理基準、モニタリング方法、改善措置、校正)、記録用紙の例が含まれている。

手引書アプローチは日本だけではない。2006年にHACCPを義務化した欧州では加盟国単位の業界団体が作成したガイドラインはその国の食品安全主管部局が、EU全域をカバーする業界団体が作成したガイドラインはEU DG SANCOが確認し、webサイトで公開されている。
https://ec.europa.eu/food/safety/biosafety/food_hygiene/guidance_en

その2006年頃、ベルギー政府の担当者と話した時、「事業者が何もしないよりは、ガイドラインそのままでも衛生管理をやった方が食品安全上、はるかに良い」と言われたのが今でも記憶に残っている。

成功のためのアドバイス

【一般衛生管理で頑張りすぎない】

一般衛生管理は特に今回の改正で新たなことを求めているわけではない。従来の管理運営基準のなかで、特に重要な項目について、実施の手順と確認の頻度を定め、問題があった場合の対応を事前に決定し、実施後に記録を求めている。記録といっても、一日1行程度の手引書が多い。一般衛生管理に集中しすぎると、本丸であるCCP管理まで行きつけない。また、一般衛生管理は業種が異なっても、共通部分は多いので、他業者の手引書も参考にできる。

なお、記録をどこまで細分化するかは事業者に任せられているので、手引書の記録例を参考に、細分化されている記録用紙を好む場合には、それを用いても構わない。(実施状況を確認するのに、チェックすべき箇所の見落とし等が減るので)

【重要なハザードはそんなに多くはない】

一般衛生管理を確実に実施しても、さらに管理が必要な重要なハザードはそんなに多くはない。従って重要なチェックポイント(CCP)も少ない。食品の特性によっては、一般衛生管理の確実な実施で対応できるのでCCPを設定する必要がないとしている手引書もある。自分が製造加工している食品で何が重要なハザードで、どのようにその発生を制御するか、正しく把握し、実施することがHACCPの本質であるので、重要なハザードの正確な把握は必須であり、その支援をすることが手引書の重要な役割である。

【他業種の手引書でも参考になる部分はある】

金属異物が重要なハザードとして確認された場合、金属探知機をCCPとして管理する場合の具体的な管理方法は、種々の手引書で紹介されている。また、加熱をCCPとし、温度をモニタリングする場合の温度計の校正手法もいくつかの手引書で具体的に紹介されている。これらはどの食品でも共通なので、他業種の手引書の内容であっても参考にすることはできる。

【講習会】

一部の事業者団体は、すでに手引書を参考にした講習会を実施している。2019年度は農林水産省の補助事業で、各種事業者団体による「考え方を取り入れた衛生管理」の講習会が行われるので、まずは受講してみることをお勧めする。

※2019年6月19日現在、厚生労働省の技術検討会で確認された「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理のための手引書」は以下のwebサイトで確認できる。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000179028_00005.html

略歴
豊福 肇(トヨフク ハジメ)
昭和60年4月
厚生省入省、厚生省横浜検疫所衛生課
昭和62年4月
神奈川県衛生部食品衛生課
平成1年4月
厚生省生活衛生局乳肉衛生課主査
平成3年7月
厚生省生活衛生局乳肉衛生課獣医衛生係長
平成5年4月
厚生省成田空港検疫所食品衛生課食品衛生専門官
平成6年9月
国立公衆衛生院衛生獣医学部主任研究官
平成8年10月
厚生省生活衛生局乳肉衛生課輸出水産食品査察官
平成10年7月
人事院在外短期留学(籍は国立感染症研究所)
平成11年7月
厚生省生活衛生局乳肉衛生課課長補佐
平成11年10月
WHO食品安全部(厚労省から出向)
平成16年10月
国立医薬品食品衛生研究所 安全情報部主任研究官
平成20年4月
国立保健医療科学院研修企画部第二室長
平成23年4月
国立保健医療科学院国際協力研究部上席主任研究官
平成25年4月
山口大学共同獣医学部教授 現在に至る
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