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我が国の獣医学と食を中核とした安全問題の現状とこれからの課題
-革新的対応を進める米国!そして激動するアジア/世界の社会・
  環境に起きつつある現状とこれからの諸課題-
CORNELL大学 終身評議員
元 首都大学東京大学院 客員教授
(人間健康科学研究科)
松延 洋平

1.始めに;食の安全問題の世界的大変革とその背景の概要

21世紀にはいる前後からの約30年間に、食の安全、感染症、環境問題、テロなど、獣医学を取りまく諸事情は世界で大きく変化した。そのため獣医学を中核として食の安全対策や感染症などの諸施策は強化され関連インフラなどハードの整備強化の様相は将に激変した。さらに米国を中心とする獣医の人的資源の質と量の確保の面での努力は凄まじいものがある。しかし、それらの施策の変化の状況は我が国に殆ど伝わることなく、結果として、米国など先進諸国との格差は、格段と拡大してしまっている。

1)筆者は、その30年を超える長期間にわたって食と農の安全を脅かす種々の事件やその後の制度整備、国際取り決め、世界保健機関(WHO)/国連食糧農業機関(FAO)、世界貿易機関(WTO)等、諸国際機関の動向など、日米EUとアジアなどでの激しく移り変わる状況をフォローしてきた。さらに、産官学の指導者との交流を密に重ねる機会や現場視察に恵まれてきた。まずは先進国で製造物責任(PL)法が整備され、我が国がPL法の整備の最後の決断を迫られてきたなかで、筆者は内閣PL小委員会で食品産業代表となり、調査団を編成して全世界を回る体験を得た。その後間もなく、O-157事件の発生に直面し、CORNELL大学の人的ネットワークを活用し、米国の産官学の権威者をたびたび招聘したり、日米合同の専門家のチームの構成などにより我が国へのHACCP制度の導入普及を図った。次ぐ衝撃的事件、アメリカ同時多発テロ事件(9.11事件)を契機として、米国をはじめとする国際社会は抜本的な社会インフラの防衛体制を構築し、米国では米国食品医薬品局(FDA)、米国農務省(USDA)、米国疾病管理予防センター(CDC)(そして後に国土安全省)などと民間産業・専門団体、企業、NPO間の連帯の強化が続いている。筆者は、この9.11事件を前後して、ワシントンDCに所在する中核大学GORGETOWN大法科大学院を拠点として、諸官庁、産業団体、NPO等の連携ネットワークの形成過程を詳細に観察する機会を得るため、人的なネットワークづくりの努力を重ねてきた。その間の個人的な経済負担は実に大きいものがあったが、長年の産官学に渉る多くの人の運にも恵まれ、成果を上げることができた。

2)その際、最大のきっかけとなったのは、獣医師会会長職の指導者、USDA検査機構のトップを務め全米食品産業団体の専務、GEORGETOWN大学同僚教官となった長年の友人L.CRAWFORD氏がFDA長官に抜擢・就任したことであった。FDAの歴代長官が専門性に優れた最優秀の医師・法学者であったなかで、初めて獣医師からのFDA長官への抜擢就任である。9.11事件以後の食品企業の抜本的な食品安全体制構築のためには、幅広く学際・業際の成果を取り入れるほか、バイオ食品テロ対策を構築するため軍事研究の成果を取り入れることも不可欠となってきた。かつてない厳しい情勢が生まれる中で激しい国際交渉と業際連帯を作り上げた実務経験を持つ背景も高く評価されたからであるとも報じられた。

3)さて、特に確実なる食の安全のためには公衆衛生と家畜衛生との関連を進め農場から事業所(加工・流通・調理・配送)までのフードチェンの要所(生産資材から生産農場、屠畜場、原料・原乳集荷、タンク貯蔵、輸送、加工、充填、包装、製品輸送、店頭陳列、お惣菜(RTE)・弁当、調理サービスなど)ごとに地域監視のチェック・ポイントとして監視検査を運営することが必要になる。特に、動物検疫所、食肉衛生検査所、保健所などでは、獣医師は無くてはならない存在であり、その役割の重要性への認識は近年格段に高まってきている。

食の安全を脅かす事柄として、食中毒微生物、病原体、薬物等の化学物質、放射線物質等の厳格な観察/監視、管理の重要性が高まってくる一方、病原体等の農場、自然環境の中での生態分析や意図的な散布・防御まで、より広域的な視点が求められ、そのための政策の論議が始まっている。産官学の中央段階のみならず、多様な自治体、さらに流通・消費までのNPOや自治団体の国際レベルでの議論となるとそれまでの知識の内容や成熟度などに差があり、さらに本来、指導的立場に立つべきトップの姿勢や消費者などの意識の格差があり極めて興味深いものであった。特に、米国では70年間も口蹄疫は発生させていない実績!?が背景にある。また畜産大国として戦略的/地域経済的な優位性を護るための方途への検討が進むと産官学間でさらに議論が深まり、連帯が進行し、将にヒトと産業と国土(大都市と農村)を護る熱度が高まってきた。

4)実は2000年以降、欧米の諸官庁や団体、大学などから日本に対し、新興・再興感染症やバイオ食品テロの脅威に関して度重なる大小の情報交流、あるいは、大学間提携の働きかけなどが活発化しているが、いずれにも日本からの十分な反応を得られず不本意な事態が継続している。このような遅れを克服する意図での努力はそれなりに始まっているものの、これまでの歴史的なハンデや、産官学の縦割り構造、安全保障への意識の弱さ等々があり、多発する人畜共通感染症の脅威は増大するなかでも事態は改善される方向に動き出すに至っていない。日本と米国などとでは、獣医学を中心とした対策の体系的構築、国際的視点などに大きな格差が開いて、むしろ断層が広がる懸念さえも生じている。獣医学の教育のソフトやハード施設の新設・拡充についても我が国では依然プロセスが不透明かつ将来展望は流動的である。

以下幅広い背景を持つ幾つかの事象の中から焦点を絞って論じて見たい。

2.国際視点から見る現状と役割、そして日本への期待の増大
-獣医職の学の教育と研究の基盤と課題解決、そして社会貢献とは-

1)生命、健康、生活を守る;『医学職と獣医職』
-米国での医学職と獣医職の地位・ポストに看る-その接近・拡大と深化などの課題

*獣医職の諸課題、特に食の安全との関連を論じるためには、近似・類似性が強い医学との対比はまず避けて通れない。しかし、これはまず、紙面の制約もあり、また主観や個人体験や断片的論議が入ることも避けがたいことをご了承いただきたい。

L.CRAWFORD氏は、農務省検査機関の長から、全国食品産業団体の専務となり、GEORGETOWN大学の教授ポストを得ると直ちに、米国内外の産官学の多数の専門家を集めて食品安全・生命科学を主題とした学際・国際・業際性に富む学科を新設した。9.11事件の緊急事態のなかでFDAの長官に獣医師で初めて就任した。筆者にとってもここで得られた情報・人脈はその後も貴重な財産として残っている。

CORNELL大学には、筆者は1960年代半ばにFULBRIGHT大学院留学生(経営学・行政学)として留学して以来、長年にわたっての産官学に渉る交流を重ね、現場の視点を加えてきた。終身評議員として優れた米国国内・国外のOBも巻き込んだ幅の広くかつ濃密なコンタクトの場を与えられてきた。特に、CORNELL大学は米国の獣医学の発祥の地とも言われることから、最近の獣医学に関連した重要な推移の姿を知ることができる。以下、事例を絞って紹介したい。

基礎医学や生命科学等さらに医学のなかでも免疫の研究分野における獣医学が担う領域は大きく、その占める地位は、人事ポストも医学に接近している。医学部教授であったSKORTON前総長はCORNELL大学の内外に学際・国際ネット構築に多大な業績を上げ、最近ワシントンの科学の殿堂であるスミソニアン協会の理事長に就任した。その後の総長代行に就任したKOTLIKOFF獣医学部長は名門伝統学部間の融合や新獣医学実験研究教育棟や新食品科学部棟の大改築などを断行している。昨年、HONGKONGで開催されたCORNELLアジアリーダシップ会議にて、KOTLIKOFF総長代行は、CORNELL大学の代表としてかつてない多数の獣医学教授などを引率して出席された。そのおり、東アジア等で次々と発生している各種の人畜共通感染症等に関する情報はますます重要かつ緊急になっているが、その状況把握がいかに困難な状況になり、ブラックボックスに近くなっているか、筆者はその壁の打破に燃やしておられる意欲を改めて痛感した。

さらに、この2019年2月半ばに、このKOTLIKOFF総長代行は、医学と獣医学とのシナジー効果を格段に加速するべく『CORNELL免疫センター』の創設を発表した。今までのこの大学の獣医学部を中心に突出した免疫学の基礎と応用諸分野の蓄積を生かし、さらに、ニューヨーク市内で最高の名声を誇るCORNELL大学医学部の豊かな研究資金・マンハッタン中心に位置する立地条件・伝統の学際組織力等を融合させ、画期的な成果を上げる目標・プロセスを明らかにしたものである。革新的な癌・リュウマチ治療、さらにワクチン、食品等のバイオ化学工学等の研究の中核に免疫の役割が各界から急速に注目が集中し、期待が格段に高まる昨今の『新時代到来』の情勢に積極的に対応したものである。

一方、日本の場合、獣医職の大きな変化が始まったのは、BSE事件の発生を契機とする。内閣に食品安全委員会が設置されて委員長などその有力委員に獣医学の教授が顔を並べる姿に驚きの衝撃が走った。獣医学など食品安全になぜ関係があるのか?!産業界にも官界にも、いや食品の研究や教育の専門家の間にも誠に奇異な現象と受け取られた。それ以降、少しずつ理解は進んでいるものの、様相の変化は微々たるものである。この中央省庁の中上位ポストは、最近まで極めて限られてきていたが、2018年秋には、中央官庁初の獣医職の局長のポスト新設が農水省にて実現した。

2)獣医師教育の量と質・水準の課題

肉食の歴史が長い欧米では家畜に由来する病気の感染に悩まされ獣医師の主たる任務は、家畜感染症の予防と人畜共通感染症の予防、治療そして食品安全であった。これは食品の貿易、すなわち輸出・輸入の拡大に大きく関連づけられており、輸出国のレベルが低ければ、危険な農産物・食品や病原生物により急激に輸出市場が縮小していくし、一方、輸入国の獣医学のレベルが低ければ、危険な農産物・食品が短期間に輸入され広域に被害が発生する。

北米、EUなどの国では、獣医学レベルを保つための取り組みを以前より拡大しているが、新興・再興感染症が増大している一方で、バイオ食品テロの脅威が潜航している。畜産物輸出がますます盛んな中南米諸国も教育改革を始めており、制度改善の成果は着実に上がってきている。

肝心の経済発展や都市開発が著しいアジア諸国では、このような動きは依然、極めて鈍いまま推移してきたが、論議は最近、俄かに沸騰してきた感を呈している。米国のみならず、EU諸国や国際機関なども最近日本がアジアの状況へどう関与するのか関心を高めてきているため、今後どのような結果が展開するのか見守る必要がある。

『北米やEUの獣医学教育のレベルと量を比較すると日本のレベルは非常に低い。』(「牛肉安全宣言」、唐木 英明、PHP研究所2010年)と、国内の獣医専門家自体の中には少なからずこのような見解を持つ人々が少なくない。医学と匹敵するほど教育内容は幅を広げざるを得ないところに、獣医学の教育の入学定員は国立、公立、私立併せた入学者総定員に対する比率は小さく、あまりにも小規模でありすぎることも一因となっている。教員の量、さらに質もよく批判されるところである。獣医職場の偏在という医師の地域偏在、あるいは専門別偏在という大きな問題がある。卒業生の多くが収入の良くて仕事の楽なペット獣医になり、最も大事な公衆衛生と大動物臨床・産業医などになるものは少ない状況をどのように増やせるかは次の大きな課題である。

一方、米国では、獣医教育のコストが非常に高騰している(しかし、まだ医師とは格差があるし、より集団的な人的資源であり地域定着性はより優れる)。そのなかで、国土の安全保障・保健・食の安全などの米国の連邦・地方の政策として地域/職域偏在傾向をそのまま放置せず、獣医卒業生を確実に地域に配分・定着することを徹底して実行(その上に確認し続ける)することを基本方針としている。その基本方針のもとに多重な施策が必要となり、まず、獣医師の大量養成の方針に踏み切り、最近では私立の獣医大学を年間2校ずつ、新設の認可を行っているという。同時に、卒業時点では膨大な借金を背負うことになる教育コストの低減、さらに連邦政府奨学金、卒業時点までに発生する膨大な借金の救済対策(連邦・州政府の計画的配置と資金配分)をも講じている。別途、欧州、東欧からの獣医師免許保持者の誘致も図り、米国内での免許を与える政策を行っている。

BSEなどの食品関連事件が多く発生しはじめた後、食品の安全問題の重要性をさらに強く認識した国際獣疫事務局(OIE)は、2009年の『食品安全を護るための獣医学教育の改善』を主題とし世界各国に呼びかけてきた。獣医学教育のレベルの向上と水準の統一、そして教育の評価制度の確立が進行中である。基準に達しないと欠点を指摘された大学は是正をしなければならない方向でOIEによるACCREDITIONの検討が進んでいる。

英国は自分の国では禁止した肉骨粉をヨーロッパや日本など多くの国に輸出を止めることはせず、一方多くの輸入国も制度の有無を問わず、結果として、水際で輸入を止められなかった。そのためのコストはあまりにも膨大であった。グローバル化に伴う食品・農産物の貿易やヒト、情報、技術の移動の速度は速く、まず輸出国・輸入国の獣医師のレベル向上にWHO/FAOなどの国際機関が協力しつつあるのは当然であろう。

3)食の安全に関わる農芸化学、薬理学、家政学、規制工学、バイオサイエンス、ナノテク
  ノロジー、医学、公衆衛生学、ITなどの諸領域間の交流、批判、補完等 -そして人文
  諸科学は?!-

縦割りの体質の強い日本では常時、学際業際の意識的な努力が必要になる。米国における医療、医学界と接触する経験を持った人々は、米国の医者と比較して、日本の医者の権威の高さと他の職種に対する優越的思考と態度を語ることが少なくない。筆者は、農芸化学界の権威、お茶の水大学、故藤巻学長などから、日本の医学教育にはおおむね食の分野の研究教育が極めて不足していると同時に、他の専門職への理解と敬意が不足しているのではないかとのご指摘を聞いた経験を持つ。

食と農の安全問題が各国で曲がり角に立つ今、特に、我が国の関係する産官学各分野の人材の確保はどうあるべきか!!。そして教育・研究・普及は?!は、最近よく聞かされる課題となってきた。

CORNELL大学は、設立の理念から、また経営体が公・私立融合であることから、また大都市から地理的にも隔離されていることから、強い学際・業際・国際の伝統を誇る。

食品科学部の教育研究の中核人物であるM.WIEDMANN教授は、ドイツで獣医学の研究出身の履歴を持つが、FOOD SAFETYの領域が激しく拡大する現在では、ポストHACCPの論議さえ出てきているので、まず、絶えず、業界へどのような人的資源を供給するべきであるかなどを点検し、中核カリキュラムの見直しを図る必要があるという。即ち、先端デルファイ法を用いて多彩な食の安全管理の専門人材育成カリキュラムを現在、作成中であるが、そのことが絶大な信頼と力を持ち続ける『普及の組織力』にも大きなプラス効果を発揮するという。

かつて、全米の女子学生間で最高の人気を持っていたここの家政学部は『人間環境学部』と抜本的に改組し、連邦政府の食生活のガイドラインFOOD PYRAMIDの定期的見直しの役割を担うなど健康・医療・生活の質と食と医との連携の先導役を果たしている。我が国では、女子大の志願者は、近年、減少傾向が続いているが、女子大の経営者層にはまだ危機感は弱いままである。

食の安全の領域では、依然、人文分野への違和感が残る我が国と異なり、米国では特に法曹は重要な役割を果たしていることは知られていない。

筆者が奉職していたGEORGETOWN大法科大学院は、JOHNS HOPKINS大学GRADUATE SCHOOL OF PUBLIC HEALTHの医学部とCDCと3極連携を形成し、さらにWHO/FAOとも深い関係にあった。このアトランタにあるCDCが主催する諸学会の中で、最有力な学会に『AMERICAN SOCIETY OF LAW, MEDICINE & ETHICS』があり、会員となっていた筆者はたびたび訪問していた。日本では、需要が伸びないと言われて久しいLAW SCHOOLであるが、自治体の多様性を確保するために州、郡など自治体では州の間での調整・連帯が極めて重要となるし、衛生福祉には人権問題が本質的に伴う。広域や中央官庁レベルでは公益代表や政策・私的ロビイストとして影響力も兼ねて持っている集団である。通商の分野では、非関税障壁の分野が大きくなり国際経済法の役割が増加して国際機関での活動は目立っている。なお、ETHICSは人文系と理工学系の両領域の橋渡し役を演じている重要な領域である。我が国でこれら文系の存在をNPOや自治体などで活用できる体制を作れるか、いま岐路に立っている。

米国では公衆衛生や食品衛生や食の安全などに関連する学会として最大の力と科学力をもつ職能集団として、我が国では見られない大きな比重を占めるのが、まず、専門職大学院GRADUATE SCHOOL OF PUBLIC HEALTHである。JOHS HOPKINS大学、HARVARD大学、YALE大学などが著名であり、公衆衛生、食の安全などの分野において、卒業生が自治体、企業・団体などで極めて強い存在感を示している。

4)食品安全についての国際基準

我が国の観光の最大の目玉が食の魅力の位置づけである。グローバル化と共に、年々、関連する国際基準の意義が高くなり、我が国にとっては2020年のオリンピックの開催時に大きな山場を迎える。

2012年のロンドンオリンピック、2016年のリオオリンピックの選手村や会場近傍のフードコート等では認証が目立ち、メニューにはラベルがあふれた。そこで認証を経験した消費者はその後も流通や消費の場面でこだわり続けることが必至という。欧米企業は、ビジネスに関係する国際標準に自ら関わり、国際標準の規格に合った製品を作り、認証を受けて品質をアピールすることで市場での優位性を確保する。試験方法の標準化も重要である。

日本食は文化性に富み、味が良く、おもてなしも快適である。この定着した海外客の評価のために、食の安全の国際基準との整合性に問題を残していないか?!。日本人は、ルールは決められているものでそれに従わなければならないという感覚であり、国際的な市場獲得のためにルールを作ろうという意識が薄いし、ルールづくりの分野で先頭に立つという体制もない。有機食品問題と並んで、ANIMAL WELFARE(ケイジ フリー卵製品など)の問題も、欧州から米国にも普及しつつあり、大変、懸念が伴う基準である。

一般の食の安全に従事する人々はもとより、大学の幹部、農業関係の研究者ですら、獣医が本来、食の安全のための重要な役割をもつことに知識を欠き、その認識は低いままである。獣医学者が食と農の課題や食の安全を支える欧米とでは大きな差が残る。

 

① FOOD SAFETY

まず、FOOD SAFETYは、主として自然的要因による食品汚染、食中毒防止を主眼としたもので、HACCP制度が世界で中核的な役割を担う。1990年代の後半に、製造物責任(PL)法の制定やO-157事件の発生などを追い風として、このHACCP制度が導入された。導入段階で、筆者は海外からの専門家にも来て頂き、地方や業界の集会などでの講習/講演の多くの機会を作り普及に努めたが、その後、相当の年数が経過した今日でも、残念ながら現状はまだ世界の先頭に立つ状況ではない。このたびの食品衛生法の改正により、任意制度から強制制度へと制度転換を行ったものの、食品の事業規模、トップの経営ガバナンス、業界団体の指導力などの問題をどう克服するかが課題であろう。

 

② FOOD SECUIRTY

次のFOOD SECUIRTYは、我が国にとってますます重要性を増す食料自給力の課題である。本年(2019)年には、TPPや日欧EPA、米国との物品貿易協定の成り行きは予断を許さないが、海外食品等の厳しい輸入圧力のほか、豚肉や飼料などの国際需給は激変の可能性もある。長期・短期の視点が我が国では強く求められるなかで、畜産そして水産などの地域産業の振興(特に海外輸出)と安定を根底から支える役割を担う産業動物の獣医師が、人員不足、老齢化などの地域問題にも直面している。

国内では、2018年に26年ぶりに発生した豚コレラは、感染力と致死率は極めて高い(人体に影響がないとされる。)。2018年9月初めに県の判定が出されたものの、その後も被害が拡大し、行政機関の対応の遅れや不備も指摘されている。感染ルートとしては、海外旅行者、又は訪日観光客の荷物や国際小包などで汚染された食品が持ち込まれ、野生猪が食べて感染が広がった可能性があり、その他、異動の車、重機、出入りの作業員の衣服などの衛生管理のルートが疑われているが正確には解明されていない。
(以上、農林水産省 豚コレラ防疫対策本部発表、朝日新聞、日本経済新聞、2018年12月28日などによる。)

しかし、飼養頭数が九州、東北、関東に多いため豚肉の市場全体に与える影響は限定的かという初期の判断は、2019年2月に入るや、事態は急変しつつある。愛知県豊田市の養豚場で感染症の疑いをかけられているのにも関わらず、出荷を抑制する措置が取られなかったために、岐阜、長野、滋賀、大阪の4府県に一気に広がった。(2019年2月6日、朝日新聞、その他紙)長野県では阿部知事、山本農政部長、その他幹部そろって愛知県の対応について強い不満を表現している。

生産者団体やメディアなどの批判は、『愛知県の初動に問題はなかったのか!?』という段階から、『ワクチン投入で終息の措置を!』という一般社団法人日本養豚協会などから焦りの声が挙がってきている。しかし、いったんワクチンを使用すればそのマイナス効果は大きく、かつ長期化することになる。ワクチンを使用しないで豚コレラが発生しない状態が何か月間か保てれば、速やかに清浄国に戻ることができるが、いったんワクチンを使用すれば清浄国と世界から認められるには、途方もない時間がかかる。また、将来の豚肉などの海外輸出の拡大に対するマイナスの影響などを農水省は視野に入れざるを得ないこともあり、安易な妥協は出来ない。しかし、22日に、ワクチン使用に極めて慎重である農水省も、費用対効果も疑問視する声が上がるなかで、野生イノシシにワクチンの使用を決めた。(全国農業新聞、毎日新聞、2019年2月23日)

隣の中国では『アフリカ豚コレラ』(ASF)という全く別のウィルス性疾患が猛威をふるっている。世界の豚の半分が飼われ消費されている中国では、既に数十万頭が殺処分されたと報じられているが収束のメドは立っていない。まだ我が国には、侵入(自家製ギョウザ所持で見つかった)寸前のケースがあり、その脅威は忍びよりつつある。治療法は確立しておらず、冷凍豚肉でも110日を超える生命力を持つなど粘り強い感染力も特徴である。一度、日本に入れば、製品加工・貿易業界、飼料関係業界、物流業者などはもとより、その他多くの産業や経済社会への影響は極めて大きくなる。

そして、BSE、鳥インフルエンザ、エボラ出血熱のような人獣共通の感染症の拡大としての口蹄疫などの新興・再興感染症は、これからの獣医学教育や人材育成・確保の試金石ともなりうる課題であり、むしろこの時点で、一挙に関係者の枠を広げて徹底的に議論を煮詰める必要がある。特に、愛知県には、名古屋大学を始め有力な名古屋市立大学も、愛知大学、愛知学院大学などの私学も日本をリードする中国アジア研究・教育の長い伝統を誇る。愛知県には全国トップレベルの国・県の農、食の分野の研究・検査機関も多くあり、岐阜県との連帯も進み始めていることから今後の画期的な展開を期待したい。

 

③ FOOD BIO DEFENCE

9.11事件の発生と共にFAOなど国際機関においては世界的に拡大しつつある農産物や加工食品貿易への意図的汚染の可能性を指摘し対策を講じることが必要であるとしてガイドラインを出してきている。以来、欧米では、食の安全の重要な要件として浸透しているが、ブッシュ政権、さらにオバマ政権の下で食品安全強化法(FSMA)において義務条項に位置付けられるなど、具体的、かつ緊急性の高い脅威として認識され対策が進められている。

わずかな異変を前兆の段階からも感知し予防的な対策を講ずることが地域防衛に決定的な意義を持つ。農村部はもとより特に、大都市でも生物的予兆や観察で極早期に探知できるシステムの研究が進んでいる。米国では大都市同様に農村の安定と農業生産の維持が重視され、悪意の攻撃への防御と先行的・予防的な事象の監視サーベイランスの重要性が強調された。その重要な役割を地域に配備された獣医師が確実に担うことが期待され、その配置、行動規範は具体的かつ細目に渉っている。被害犠牲の最小化を図るためのシミュレーション訓練が重視されている。

将に危機管理・食の安全保障の考えと重複・近似するため、欧米と危機管理や安全保障の意識の弱い我が国とでは、認識・方法論、技術開発と実施・確認体制、そして教育までに、あまりにも大きな隔たりがある。安全対策に大きなギャップを放置すること自体が次の危害行為を招いていく。特に先進国、途上国を問わず、世界的に拡大する経済格差問題やヒト、情報、物の流動は、勿論、IT、ゲノム・バイオ技術移転の速度がさらに大きな温床や泥沼現象を生んでいかないかと危惧されている。気になるのは、我が国の場合、SNSや動画投稿などの『バイトテロ』の大半は、『食』の現場に起きていることである。被害を受けた企業のイメージや売り上げの低下、その他のダメージは図り知れないものとなる。

5)米国における伴侶動物(ペット)問題の拡大の動向と背景

米国ではペットを動物としてよりも仲間の人間のように受け止め考える『HUMANIZATON』現象がますます隆盛となり社会の分断化が進むにつれ今後の社会経済への影響が注目を集める。

かつて、米国農務省(USDA)の巨大な『動植物検査局(APHIS)』の長官を務めたCORNELL大学獣医学大学院A.トーレス副学長からこの現象は米国の経済・産業・社会に既に多大な影響を齎しつつあり、連邦政府はもろもろの対応施策を講じつつあると説明を受けた。米国では、家族はペットを飼う事が一般的でありすでに半数を超える世帯がペットオーナーである。最近特に独身者が伴侶ペットを飼うケースが増加しその率がこの10年間に20%強増加となり家族で飼われるケースを大きく上回りつつあり、心身の健康維持と感情安定に不可欠となっているが、獣医療、アニマルウェルフェア(動物福祉)に関連する産業も拡大の一途である。

フロリダを襲ったハリケーン・カトリーナに逃げ遅れて亡くなった住民の大半は、実は収容所避難所にはペットの持ち込みを拒否されて、ペットだけを残していくに忍びなくそのまま被災したというようなケースが多かった。その反省に立って、以後、連邦政府では住民の避難収容施設には伴侶ペットの収容施設の併置建設が義務付けられたとトーレス副学長は言った。

なお、我が国でも同様の社会現象に向かっている。新潟地震以後、そのような施設の設置の義務化への関心が高まりつつあるが、さらにまだ限定的なペット可の老人介護施設への要望も強まり、ペットの取り扱いにケアマネジャーらが苦慮する事態が広がっている。高齢者と動物の福祉は切り離せなくなっているなどこれからの仕組みづくり(例、ペット信託制度など)の課題は拡大する。

6)生命科学と工学を活用した医薬品等有用物質の生産と使用

生命工学技術を使い新しいワクチンや診断薬、治療薬などの有用物質の開発・生産の役割は大きいだけに国際競争力強化も重要である。有用家畜の大量生産、水産養殖の研究・産業化の課題も同様である。GLOCALなゲノム編集などの画期的な生命工学技術の応用開発が、一方、日本でも日本の病院等での薬剤耐性菌の問題が深刻化となりつつあると頻繁に報道されてきた。輸入飼料等への添加薬品や畜産生産や水産養殖での動物医薬品・抗生物質の過剰使用問題は、海外から我が国の医師、獣医師、事業者、行政など関係者に対する管理・監視の厳正化を求める声となり大きくなってきている。またこれから日本からの先進諸国へ食品輸出が増加するにつれて海外からの問題の指摘が多くなる可能性がある。

飼料穀物への添加剤も輸入の比重が大きいところからこれからのテーマである。

7)国際協力と地域間協力

食肉等の多くを輸入に依存している我が国にとって途上国の経済発展と衛生管理の向上、環境保全は、食の向上や食の安全に直接結び付く事柄である。

途上国の教育・研究や研修は、当該国の産業社会の発展に貢献することだけでなく、人畜共通感染症などを早期に予防し対策を講じ世界への拡大を抑止することにつながる。特にBSEを発端として食料関係の国際機関は、どうしたら食品の安全を護れるかと深刻な危機意識を強めた。

米国は、南九州での口蹄疫発生以来、我が国の大学と米国やアジア諸国の大学間協力の進展に関心を強めて調査チームを派遣してきたおり、筆者は情報交流の窓口となることを求められた。彼らは、まず東大をはじめとして、国立大学の獣医学の学部の規模があまりにも小規模であり関心領域が限定的であることに失望を隠さなかった。CORNELL大学も我が国の大学のみならず他のアジアの有力大学との提携を模索してきている。中国の有力大学(HONGKONG大学)との提携がいったん進んだものの、獣医学の政治的な特殊性の考慮からか、政府から許可が出されていないという。

そこで、国内の問題として終戦直後から続く獣医学の研究・教育の機関の地域偏在の課題が浮彫りとならざるを得ないが、自治体の壁を超えるには容易に解決できない根強く残っている課題も多く、従って、地域間協力を強力に進める必要がある。また、獣医学部に関わる近接の学部の間との協力も重要であるが、畜産、水産の場合、それぞれに障害・抵抗感は残っている。

8)これからの獣医の教育・研究と経営を支えるハード・施設の設計と運営

獣医学関連施設の新設・改設にわたって全米規模で見直し、NATIONAL BIO AGRO DEFENCE FACILITIES:NBAFを進める中で革新的な機能向上と配置、経営(私学と官学に共通する)の課題の検討が行われた。CORNELL大学は52のLABと28の大学とのネットワークの中核的位置にあるため、新しい大規模施設の設計と運営のモデル作成の役割を担った。CORNELL大学の建築学部は全米トップ(4年制)の位置にあるが、特に生物系(微生物、ウィルス、動植物の管理)や居住・ホテルなど快適空間建築などに特化した建設学科を有する。その経験と蓄積の利点を活用し、感染症診断、検査、搬入・仕分け・隔離保存、気体・熱の効果的管理、治療、死体処理などの先端的なモデルセンターを建設し、国際的にも注目を集めている。

最大の課題は、エボラウィルスなど危険性の高い病原菌を扱える『バイオセーフティー レベル4、BSL4』の建設と運営である。

2020年の稼働を目指して、長崎大学は2018年度から日本をリードする施設の設計に着手している。日本の研究者は長く欧米などの施設を使って研究してきたが、9.11事件以降、テロへの警戒が強まり、国外の研究者の使用が制限されるようになっている。日本には研究などに対して研究のミスや災害やテロの発生時に使える施設がなければ、新種のウィルスが流行した時、診断や検査、治療などに必要な最新情報は海外に依存せざるを得なくなる。

筆者が、日本が海外頼みの綱とする最有力施設CDCの責任者と情報交換した折には、日本が危機時には海外諸国は一斉に混乱状況になるため、アトランタのCDCはあまりにも遠距離であるからとその実効性を日本も真剣に検討するべきではとの反応であった。東京大学医科学研究所の河岡 義裕教授は、北海道大学の獣医学部を卒業し、獣医師免許、獣医学博士を取得以後、ウィルスの改変・合成の研究など基礎医学の革新的成果を上げて世界を驚嘆させた(しかし、同時にそれが悪用されることを危惧する声が米国の産官学で一斉に挙がった。)。その『河岡教授は、BSL4施設は国防の観点からも必要と指摘する』(日本経済新聞、2017年1月13日)との河岡教授の示唆は、安全保障や危機管理の意識が薄い日本にとって賛同者を見つけることは容易ではなかろう。

実際に感染症の症状が大規模に発生した場合、それは自然発生によるものか、それとも研究室・事業所由来の事故・テロによるものかで、事後の対応は大きく異なる。人畜に危険な病原体を扱う研究者や実地作業員の知識・情報や能力以外にも研究管理体制や間違いを懸念し、客観的にチェックする必要が高まってきている。

それ以上に、ゲノム編集は基礎研究から既に臨床応用段階までの驚異的な進歩の研究成果を生みつつある。人為的に遺伝子が書き換えられて角をとる作業がもともと不要!となれば、家畜牛にとっては苦痛がなく、農家の手間・コストも不要となり畜産経営にとっては大歓迎となろう。既にサルにおいて、昨年2018年11月、中国でHIVに耐性を持つ双子のメスを誕生させ、生物学の歴史は書き換えられつつある。種苗産業、食品産業や医療産業などの領域でも従来の遺伝子組み換え技術に比べ精度が高く扱い易く時間と経費の大幅な向上を約束する技術である。

ただし、安全規制や倫理・社会的な課題は多くの国でこれから議論が進み始めている。

3.おわりに

1)加計獣医学部新設を巡る背景と諸情勢問題

新しい役割を担う期待を受けている公共獣医師資源WORKFORCEの必要性は我が国でも2000年に入り急速に高まり、動物由来感染症を入れる法改正が行われた。

BSE以後、続いて口蹄疫等の感染症が海外から侵入してきて衝撃の波が日本全国を覆い、そして米国にも及んでいった。ほぼ同時に、多発する食中毒(O-157、ノロウィルス、キャンピロバクター、リステリア等)や食品表示偽装事件、さらに農薬混入事件(中国ギョウザ、アクリフーズ等)などが多発し、内閣府に食品安全委員会(リスク評価委員の半数は獣医師)が発足している。

各国で経済格差が拡大するなかで、意図的汚染やテロ防止などのための食品防衛FOOD DEFENCEへの関心が高まってきている。米国では生産農家・農場段階から原料生産・集乳のオープンな市乳工場へと防衛チェックシステムの厳格化が急速に進んでいった。類似した状況下に立たされている欧米などから日本の対応の姿に関心が強まるなかで、筆者にも説明窓口としての役割が求められ、HARVARD大学の公共政策大学院やエドウィン・O・ライシャワー日本研究所での講演依頼などの機会が増大してきていた。

保健所での獣医職種職員、産業獣医採用に苦慮していた愛媛県庁や団体の幹部に筆者が以上のような内外の状況を説明したところ、特段に加戸愛媛県知事からは大変感謝された。後に、2018年秋に加戸前知事からは、衆参両院予算員会にて、筆者からの海外の獣医の計画的養成計画などの情報提供を評価し大きな示唆を受けた旨のご発言をいただいた。

『獣医は不足?過剰? 加計問題で注目。-教育レベル向上も課題(新設で質下がる)の声も』(日本経済新聞、2017年7月21日)に前後して、類似したメディア報道・記事が多数続いてきている。

権限・利害関係などが3つに分かれる中央官庁そして内閣官房の指示?!も関連し、獣医師会の働きかけ、国政での論議やメディアの報道も激しく絡まり十分な説得力を持ちえず、何とかならなかったものかと各方面で不満が充満した。

米国の例に習って新設された専門職業大学院(法科大学院、薬学大学院など)が制度誕生直後から需給問題で苦しんでいることもこの獣医学部新設問題の背景とされている。それぞれの見解はそれなりに理解できるとしても、プロセスは複雑化し過ぎて混乱状況になってきたなかで、『ボタンの掛け違いのような現象は何とかならなかったものか!』、『適正な事態の分析と早期の解決を』と望む地元での声は、大風水災害からの復興のなかでも高まっていた。

間もなく、開校1周年を迎える学園での学生の学習意欲は順調に向上をたどり、海外からの問い合わせも交流希望も増加しているという。地元地域自治体との交流も円滑に発展し、第2期生となる志願数は順調に伸びているなどをこの大学の代表から伺った。

そもそもこの50年あまり新しい獣医大学の新設は見送られ、一方、事実として国立大学の学生・教員の定員と能力、さらに卒業後の活動領域も限られていることを早急に是正する必要がある。

このような中央の議論とは別個に自治体の事情は深刻であったが、生活防衛と地方創生に取り組む地域住民の目は真剣に未来を志向せざるを得ない。

今、将に、新しい発想と対策の展開を示唆しているのは豚コレラの事件である。『近年は、口蹄疫など家畜の新興・再興感染症が繰り返し、獣医師などのスタッフへの負担が相当重くなっている。このような問題が起きるたびに規制が厳しくなる傾向があるがそれが単に現場にしわ寄せがいくようではかえって実効性が低下する。ルールの改善と同時に必要な人員や予算を確実に手当てすることもやはり非常に重要であろう。』(神里達博、月刊安心新聞、朝日新聞、2019年1月18日)

 

2)ONE WORLD,ONE HEALTH,ONE MEDICINE

しかし、米国・欧州そしてアジア・アフリカ諸国から日本への人とモノと情報などの交流が格段と活発になる。新しい生命科学と産業が次々と生まれ人畜共通感染症が絶えず襲うこの位置にある地政学的な立地からも発生する義務と期待に応えざるを得なくなっていると言われるが、その義務と期待とは一体、何なのか?!

より重要なことは、米国等先進諸国や途上国から日本へ向けられる関心と期待は我々が意識する速度・重量・幅を超えて膨らみつつあることである。

その一つの回答は、『ONE WORLD,ONE HEALTH,ONE MEDICINE』;(詳細は紙面割愛)との国際的に急速に広がる概念であり、連帯のうねりさえ感じさせるスローガンであろう。環境変化に関する観察・監視から始まり、さらには生き物と共存し共生する環境の保護と創生、心身その他の被害から復元する力、連帯をつくる地域社会の力と技など極めて幅が広く奥深いものが求められている。

『ONE WORLD,ONE HEALTH,ONE MEDICINE』を担う高等教育の拡大の途の安らかなることを祈りたい。

 

3)最後に

これまでもミュンヘンオリンピックやボストンマラソンなどの過去の経験から、オリンピックの開催国の日本、東京は、マス集団対策はどうあるべきか重要な検討課題は多い。グローバル化が進む中の世界的な最大イベントであり、政治ショーであるオリンピックには、大きな夢を掛けたい。それだけに、感染症対策を始め格段に被害規模が大きくなるバイオ食品テロ対策に『安全・安心』は最重要なキーワードとなるのは当然であろう。

 

略歴

松延 洋平
コーネル大学終身評議委員
元首都大学東京大学院客員教授(人間健康科学研究科)(2018年3月まで)

・ 東京大学法学部卒業後、コーネル大学経営学大学院留学;農林水産省にて種苗課長、消費経済課長などを歴任し、その間植物新品種育成者の権利制度の法制化の中核役を果たす。そのほか内閣広報審議官、国土庁審議官を経て退官。さらに食品業界団体等に勤務。

・ 長年、欧・米・アジアでの産官学の人脈・情報ネットを構築し、食と農と生活の安全と関連する知的財産権制度さらに、農産物・食品の生産・加工・流通・貿易等に関しての豊富な知見の知名度は内外に高い。

・ 最近は先進的システムとその厳格な実践の観察をもとにして、海外・国内の経済/産業情勢と技術動向を分析した成果を基盤とし特に具体的な食品危機管理の対応において新しい食と農の枠組み/制度化を巡る学術的に裏付けられた実践を訴える。

・ コーネル大学の終身評議員、ジョージ・タウン大学法科大学院客員教授のネットワークを活用したグローバルシステム構築と現場での運用の課題について講演・論文多数。「食品・農業バイオテロへの警告」(日本食糧新聞刊、2008年)を出版。

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