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食品のテクスチャー −特にレオロジー的な性質について−
香川大学 農学部
教授 合谷 祥一

食品テクスチャー

テクスチャーは、本来、食品に対する用語では無く、生地、織り方、組織、肌理(きめ)などを表す用語であるが、1930年代頃からチーズ、ジャガイモ粉末、食肉などの固形状食品のもろさ、硬さなどの食感、即ち力学的特性及び粒状などと関連づけられてきた1)。そのような中で、Szczesniakは食品におけるテクスチャーを特性によってクラス分けした(表1)2)。これは、現在も食品のテクスチャープロファイルとして、食品の分析によく用いられている。

 

表1 Szczesniakの食品テクスチャーの分類1, 2)

  Primary parameters (一次特性) Secondary parameters (二次特性)
Mechanical characteristics
(力学的特性)
Hardness (かたさ)  
Cohesiveness (凝集性) Brittleness (もろさ)
Chewiness (咀嚼性)
Gumminess (ガム性)
Viscosity (粘性)  
Elasticity (弾性、回復性)  
Adhesiveness (付着性)  
Geometrical characteristics
(幾何学的特性)
Particle size and shape (粒子径と形)  
Particle shape and orientation (粒子の形と方向性)  
Other characteristics
(その他の特性)
Moisture content (水分含量)  
Oil content (油脂含量) Oiliness (油状)
Greasiness (グリース状)

 

テクスチャーというと一般に力学的特性だけを考えがちであるが、表1には力学的特性以外に幾何学的特性とその他の特性が力学的特性と別に挙げられている。どちらも触覚により口腔感覚に影響するからであるが、幾何学的特性は視覚にも影響する。

国際標準化機構(ISO)においてもテクスチャーは「All the rheological and structure(geometrical and surface)attributes of a food product perceptible by means of mechanical, tactile, and where appropriate, visual and auditory receptors.(力学的、触覚的、及び適切であれば視覚的及び聴覚的な方法で感知できる、食べ物のレオロジー的及び構造的(幾何学的なまたは表面の)特性の全て)」と定義されている3)

実際我々が食品を食するとき、まず見た目でその食品の物性(テクスチャー)を想像し、次に食べるために手や箸でつまんだりナイフで切断したりフォークを刺したりする。前者は視覚で後者は食感以外の触覚で食品テクスチャーを感じ取り、これまでの経験からおいしさを判断している。また、聴覚的には、咀嚼時の音が食品のおいしさに影響する。その場合の音は空気中を伝わる音波だけでなく食品を破壊したときの振動が歯や骨を通じて感じられる場合があり、感じ方が異なるようである。これについては西津の総説が詳しい4)。興味ある方は参考にしていただければ幸いである。

 

表2 松本らが調査に用いた16種類の料理5)

練りようかん、ポタージュ、粉ふきいも、にんじんのグラッセ、卵豆腐、なすぬかみそ漬け、オレンジジュース、ほうれんそう浸し、栗きんとん、清酒、白飯、ビフテキ、煮豆(黒豆)、クッキー、だんご、水ようかん

注:各料理の表記は松本らの論文に従った

 

食品のおいしさとテクスチャーの関連における注目すべき研究として、松本らの研究5)が挙げられる。松本らは調理師32名と調理学担当の教師50名に対し、16種類の料理(表2)のおいしさに貢献する食品の特性(甘味、酸味、旨味、渋味などの味、香り、色や形などの外観、硬軟、粘り、滑らかさなどの力学的特性、及び温度)についてアンケート形式の調査を実施した。アンケートは、前述の特性を、各料理のおいしさに貢献する順に順位付け(1位、2位、3位・・・)させるものである。そして、1位に5点、2位に4点と以下1点ずつ減点し、5位の特性まで採点している。各要素に於いて、各順位を与えた人数の合計にそれぞれの点数を乗じ、その総計を各要素の得点とし、各要素の得点を合計した総得点を100として、各要素の得点の割合を求めた。

その結果、味と香りを化学的味、視覚特性である外観と力学的特性を物理的味とした場合、「卵豆腐」、「だんご」、「煮豆」、「ほうれんそう浸し」、「練りようかん」、「栗きんとん」、「ニンジンのグラッセ」及び「白飯」などの固体状食品のおいしさに対する物理的味の貢献度は、それぞれ72.7、70.4、67.4、65.4、63.2、62.7、62.1及び62.0%であった。一方、「オレンジジュース」及び「清酒」、すなわち液体状食品のおいしさに対する物理的味の貢献度は、それぞれ18.3%及び10.7%であった。つまり、固体状食品のおいしさには物理的味、いわゆる広義のテクスチャー(視覚特性と力学的特性を含める)が大きな影響を及ぼし、液体状食品では物理的味の貢献度が低かった。一方、固体状食品であるが、「なすぬかみそ漬け」及び「ビフテキ」のおいしさに対する物理的味の貢献度はそれぞれ41.7%及び38.2%であり、化学的味の貢献度より低かった。これについては論文中で特に述べられてはいないが、私は食中香の影響で、化学的味の貢献度が高くなったのではないかと考えている。

このように、多くの固体状食品のおいしさにはテクスチャーの影響が大きい。広義のテクスチャーは力学的特性と視覚特性を含めるが、先に述べたように一般に食品のテクスチャーというと力学的特性を表すことが多く、また、力学的特性、即ちレオロジー的性質には食品の構造が大きく影響する。次に、エマルションゲルのレオロジー的性質と構造に関する研究を紹介する。

エマルションゲルの構造とレオロジー的性質

寒天エマルションゲルの場合

エマルションゲルとはエマルションすなわち乳化物をゲル化したもので、食品では牛乳羹、プリン、ヨーグルト、卵豆腐などが該当すると考えられる。

最初に、寒天エマルションゲルの研究6、 7)について紹介する。本研究ではコーン油を食品用乳化剤であるポリグリセリン脂肪酸エステルを用いて、膜乳化法で乳化し、エマルションを得た。これに寒天粉末を1%分散し、90℃で加熱溶解後25℃まで冷却して寒天中に油滴が分散したエマルションゲルを得た。得られたエマルションゲル中で、油滴の状態は加熱前と変化が無く、均一に分散していることを確認した。このゲルの破断応力、破断歪み、破断エネルギーはいずれも油滴の添加により低下し、さらに油滴の体積分率の増加によって破断応力と破断エネルギーは低下した。また、添加した油滴の粒径の影響を調べたところ、油滴の粒径が大きくなるほど破断応力、破断歪み、破断エネルギーのいずれもが低下した。これは、エマルションゲルに対して油滴がinactive filler*として機能していることを表している。粒径の異なる油滴を含有するエマルションゲルに対する官能評価を実施したところ、小さな油滴を含むエマルションゲルは大きな油滴を含むエマルションゲルよりも硬く感じられ、有意差を示した。破断強度と官能評価の間に統計的な相関性は見られなかったが、傾向は一致した6)

*:active fillerとinactive filler8)

active fillerとはゲル基材と充填物質(エマルションゲルの場合は油滴)の間に強い相互作用が存在するため、充填物質の含有率(充填物質が液体の場合は体積分率)の増大により、ゲルの力学的強度を増大させる様に作用する充填物質のことである。

inactive fillerとは、これとは逆にゲル基材と充填物質の間に相互作用がないため、充填物質の含有率増大により、ゲルの力学的強度を低下させる充填物質のことである。

 

寒天エマルションゲル中の油滴が、inactive fillerとして機能していたため、このエマルションゲルの微細構造を、Cryo-SEM法を用いて観察した7)。図1に示したように油滴の周囲に寒天の網目構造が観察された。基本的に油滴と寒天は相互作用せず、油滴と寒天の網目構造の間に空間が存在していた。以上から、寒天エマルションゲルに於いて、油滴はinactive fillerとして機能していることが確認された。すなわち、寒天ゲル食品に乳化物を混合した場合、ゲル強度が低下し、テクスチャーとしては柔らかくなる可能性が高いことが分かる。

 

 

図1 異なる粒径の油滴を含む寒天エマルションゲルのCryo-SEM画像7)

この図は、John Wiley and Sons 社の許可を得て掲載した。

 

なお、Cryo-SEM法は試料を液体窒素などで瞬間凍結し、凍結した状態を維持して構造を観察するが、液体窒素で瞬間凍結しても試料中の水の微細結晶化の影響を受ける。それを防ぐため、瞬間凍結前に試料を50%エタノール中に2分間浸漬して脱水処理を施した。図2に寒天濃度を1.0%から1.8%まで増加させたときのCryo-SEM画像を示すが、微細な網目構造が寒天濃度の増加により、密になっていることが確認できる。

 

 

図2 濃度の異なる寒天ゲルのCryo-SEM画像7)

この図は、John Wiley and Sons 社の許可を得て掲載した。

カゼインナトリウムエマルションゲルの場合

次にカゼインナトリウムエマルションゲルの研究9)について紹介する。本研究ではカゼインナトリウム2%水溶液に油としてテトラデカンを、カゼインナトリウム水溶液に対して30%加え、高圧ホモジナイザーで乳化し、平均粒径0.5mm以下のエマルションを調製した。これにグルコノ-δ-ラクトン顆粒を0.25%になるように添加し、グルコノ-δ-ラクトンの溶解による酸性化でゲル化した。本実験ではグルコノ-δ-ラクトン添加直後からpHが低下し始め、添加後3時間でほぼpH5になり、ゲル化が開始する。本研究ではゲルのレオロジー的性質は動的粘弾性測定装置で評価した。グルコノ-δ-ラクトン添加3時間後から貯蔵弾性率及び損失弾性率のどちらも増大し始め、貯蔵弾性率の方が損失弾性率よりも常に高い値を示し、ゲル化していることが確認された。グルコノ-δ-ラクトン添加16〜17時間後の貯蔵弾性率はほぼ1100Paであった。一方、カゼインナトリウム2%水溶液に油を加えずにグルコノ-δ-ラクトンによってゲル化した場合、ゲル化の時間などは同じであったが、グルコノ-δ-ラクトン添加16〜17時間後の貯蔵弾性率は90Paであった。即ち、油滴によってゲルの強度は10倍以上になった。この様な現象は他の系でもよく知られており、例えば、11Sグロブリンの場合、体積分率0.15の大豆油添加により、エマルションゲルの貯蔵弾性率は純粋な11Sグロブリンゲルの7倍の値を示す10)。また、トリオレインと乳清タンパク質の系では、調製されたエマルションゲルの貯蔵弾性率は乳清タンパク質のみのゲルに対して30倍の値を示した11)

以上の例は実際の食品では、通常のヨーグルトと脂肪分0%のヨーグルトに当てはめることができる。実際、数年前までの脂肪分0%のヨーグルトは非常に柔らかく、製品によってはゲルとしての形状を維持しないものもあった。しかし、最近の脂肪分0%のヨーグルトの破断強度は、レオメーターで測定しても通常のヨーグルトとほとんど変わらない。成分表を調べると、以前は寒天などが添加されていたが、最近はそれも記載されていない。メーカーの努力には大変感心する次第である。

うどんの構造とレオロジー的性質

さぬきうどんのコシは有名であるが、茹で直後はコシを有しているうどんも、茹でてからの時間が経過するとコシが無くなる、即ち茹で延びすることは一般によく知られている。茹で延びの間に、構造が変化するのであろうか。またさらに、うどんのコシとはうどんのどんな構造によって発現するのであろうか。

三木12)によると、茹で直後のうどんは茹で延びしたうどんよりも歪率60%付近までは応力が小さくそれ以上は高くなる。即ち、コシのあるうどんは噛み始めは柔らかく、かみ切るには強い力を必要とする。一方茹で延びしてコシの無いうどんは、表面付近は茹で直後よりむしろ硬くなり中心付近は柔らかい。即ち、うどんのコシというのは、単に硬いというわけではなく、噛み始めは柔らかく噛み切り状態まで尻上がりに硬くなる食感変化であるといえる。茹で延びして、その変化が単調な増加になると、コシを感じなくなる。

木村13)や三木12)によると、茹でうどんの表面付近はデンプンが完全に糊化しているが中心部分ではデンプンが残存している。この構造が、表面が柔らかく中心付近が硬い食感、いわゆるコシの原因と考えられる。一方茹で延びでは、表面が硬くなり中心部分の硬さが低下するが、これには表面付近の糊化したデンプンの老化や表面から中心部への水分移動が考えられる。しかし、表面付近のデンプンの老化はX線散乱で観察されなかった14)。このことから、茹で延びは表面から中心部への水分移動によるものと考えられる。従って、うどんの茹で延びによるレオロジー的変化は、電子顕微鏡などで観察できる比較的大きな構造の変化によるのではなく、より微細な状態変化による。

 

以上のように、食品テクスチャーに大きな影響を及ぼす、食品のレオロジー的性質は食品の構造及び水分勾配などの状態の影響を大きく受ける。従って、食品のテクスチャー研究には、これらの構造や状態の研究は欠かせないものである。

参考文献
  • 1)合谷祥一,おいしさの科学とビジネス展開の最前線(都甲 潔,柏柳 誠 編著),pp.53-65,シーエムシー出版(2017).
  • 2)Szczesniak S. A., J. Food Sci., 28, 385-389(1963).
  • 3)Dar Y. L. and Light M. J., Food Texture Design and Optimization, ed. by Dar Y. L. and Light M. J., pp.5, John Wiley & Sons, Ltd(2014).
  • 4)西津貴久, 日本調理科学会誌50,127-132(2017).
  • 5)松本仲子,松元文子,調理科学10,97-101(1977).
  • 6)Kim K-H, et al., J. Texture Studies, 27, 655-670(1996).
  • 7)Kim K-H, et al., J. Texture Studies, 30, 319-335(1999).
  • 8)合谷祥一,29,105-113(2004).
  • 9)Gohtani, S.et al., Food Colloids, Biopolymers and Materials, ed. By  Dickinson, E. and van Vliet, T., pp.100-108, The Royal Society of Chemistry(2003).
  • 10)Matsumura, Y., et al., Food Hydrocolloids, 7, 227-240(1993).
  • 11)Chen, J. and Dickinson, E.: Colloids & surfaces B: Biointerfaces, 12, 373-381(1999).
  • 12)三木英三,進化する食品テクスチャー研究(山野善正 監修)、pp.277-288, NTS(2011).
  • 13)木村利昭ら,農化70, 1343-1350(1996).
  • 14)廣澤秀和ら,農化中四国支部第36回講演会講演要旨集,33(2013).
略歴

1980年 3月 大阪府立大学大学院農学研究科修士課程修了

1981年12月 大阪府立大学大学院農学研究科博士後期課程退学

1982年 1月 香川大学農学部 助手

1986年10月 香川大学農学部 助教授

1990年 1月 京都大学農学博士

2000年 3月 日本食品科学工学会奨励賞受賞(サポニンの界面科学的性質に関する研究)

2000年3月〜12月 在外研究員(イギリスリーズ大学)

2001年6月 香川大学農学部 教授 現在に至る

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