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2,4,6-トリクロロアニソール前駆体としての2,4,6-トリクロロフェノール
一般財団法人 食品分析開発センター SUNATEC
第二理化学検査室

はじめに

食品の、いわゆる“異臭”といわれるにおいのひとつとして、かび様のにおい(かび臭)が挙げられる。かび臭の原因物質には様々なものがあるが、中でも、2,4,6-トリクロロアニソール(2,4,6-TCA)は、においの閾値(人がにおいを感じることのできる最小量)が非常に小さいため、異臭の原因物質になることが多い。過去に2,4,6-TCAを含む、ペンタクロロアニソールや2,3,4,6-テトラクロロアニソールなどのクロロアニソール類が、鶏小屋のおがくずに認められ、また鶏肉や卵の異臭を引き起こしていることが明らかにされた*1*2。2,4,6-トリクロロフェノール(2,4,6-TCP)は2,4,6-TCAの前駆体としてよく知られており、2,4,6-TCP存在下で、ある種の微生物が2,4,6-TCPをメチル化し、2,4,6-TCAが生成するといわれている*3。2,4,6-TCA は食品のかび臭汚染の原因物質となることから、汚染対策のための様々な取り組みがなされている。2,4,6-TCAの生成が2,4,6-TCPに起因することを考えると、2,4,6-TCPについて知ることは重要である。今回は2,4,6-TCAの前駆体としての2,4,6-TCPについて解説する。

物性

2,4,6-TCPは、白色の針状結晶で、強いカルキ臭を有する物質である。オクタノール/水分配比率(log Kow)は3.69であり、水にほとんど溶けない*4。酸解離定数(pKa)は6.23であり、環境中では一部アニオンとして存在すると考えられる*4。生物分解性(好気的分解)の試験では、分解率はBOD(酸素消費量から算出した分解率)が82.5%、TOC(全有機炭素から算出した分解率)が84.8%、GC(ガスクロマトグラフ分析法により算出した分解率)が89.3%となっており、分解性が良好な物質と判断されている*5。水中では8〜14日で100%が生物分解されるという報告がある*4

利用

古くには、様々な農薬や木材の防かび剤として使用された。それ以来、接着剤に添加する防かび剤、殺虫剤、殺菌剤、枯葉剤、除草剤、および繊維・織物の防かび剤として広く使用されてきた。しかしながら、有毒な不純物であるポリ塩化ジベンゾ-p-ジオキシン(“ダイオキシン”の呼称でよく知られている)を取り除くことにコストがかかりすぎるため、1975年には米国における製造は中止されている*4。現在米国において、2,4,6-TCPはほとんど使用されていない。

発生源

木材の防かび処理の歴史は古く、19世紀後半には炭酸ナトリウムや重炭酸塩が、1920年代後半にクロロフェノール類の有用性が示され、積極的に使用された。2,4,6-TCPそのもの、あるいは混合物を含む防かび剤は広く使用されており、ある報告によると、その防かび剤は、80%の2,3,4,6-テトラクロロフェノール、10~20%の2,4,6-TCP、5%のペンタクロロフェノールを含んでいたという*12。前述のようにダイオキシン問題などから、使用に対する規制が各国で求められている*7が、過去に使用された木材やコルクが2,4,6-TCPに汚染されていることが考えられる。2,4,6-TCP処理された木材を使用した木製のパレットやダンボール、あるいはコルク栓などから2,4,6-TCAが生成し、保管、輸送時に食品に移行し問題になることはよく知られている。木材に関しては、2,4,6-TCPを含む防かび剤を処理していなくても、塩素消毒、例えば次亜塩素酸処理することによって、木材のリグニンが分解しフェノールが生成し、さらにフェノールが塩素化することによって2,4,6-TCPが生成するという報告がある*8。同様の理由で、パルプ・製紙工場で2,4,6-TCPが発生しうると考えられている*4

水道では、以前は送水管等に内面塗料として使用されたタールエポキシ樹脂塗料からフェノール類が溶出することがあった*9。フェノール存在下で原水に塩素処理を行うと、フェノールが塩素化され、2-クロロフェノール、4-クロロフェノールのモノクロロフェノールから、2,4-ジクロロフェノール、2,6-ジクロロフェノールを経て2,4,6-TCPとなり、さらに不安定なクロロキノンに変化するという報告がある*9*10。また、クロロフェノール類は農薬等の分解生成物、あるいは塩素との反応生成物として水道水に存在する。例えば、プロクロラズ(図1)というイミダゾール系の殺菌剤は、野菜や果樹に用いられるが、代謝物として2,4,6-TCPを生成することが知られている*11。また、水道水中のフェノール類は2-クロロフェノール、2,4-ジクロロフェノール、2,4,6-TCPであることが多い*9

図2に2,4,6-TCPが関与した、考え得る2,4,6-TCA発生の経路を示す。

図1 プロクロラズと2,4,6-TCPの構造式

図2 2,4,6-TCPおよび2,4,6-TCA発生の主な経路

最後に

本稿では、代表的なかび臭汚染物質である2,4,6-TCA前駆体である、2,4,6-TCPの物性、利用、発生源について、いくつかの文献をもとにまとめた。2,4,6-TCAおよび2,4,6-TCPは食品におけるかび臭の異臭原因として常に疑われており、また適切な管理が必要な物質であると考えられる。弊財団では、これらの物質について、抽出に精油定量装置を用いた定量分析のほか、ヘッドスペーススターバー抽出法を用いた、異臭物質全般をターゲットにした定性分析をご用意しております。

参考文献
  • *1.Science, 154, p.270-271(1966)
  • *2.Journal of the Science of Food and Agriculture, 26, p.1585-1591(1975)
  • *3.Applied and Environmental Microbiology, 68-12, p.5860-5869(2002)
  • *4.Hazardous Substances Data Bank(2018.12.20現在)
  • *5.物質に関する基本的事項, 環境省(2018.12.20現在)
  • *6.ヒトに対する発がんリスク評価に関するIARCモノグラフ(1979)
  • *7.木材保存, 19-6 , p.298-303(1993)
  • *8.日本醸造協会誌, 102-2, p.90-97(2007)
  • *9.「上水試験法・解説」日本水道協会(2001)
  • *10.衛生化学, 23(8), p.331-338(1977)
  • *11.「最新 農薬の残留分析法」中央法規出版(2006)
  • *12.International Archives of Occupational and Environmental Health, 59, p.463-467(1987)
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