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レモン類に含まれる健康機能性成分について
愛知淑徳大学 健康医療科学部 健康栄養学科
教授 三宅 義明

1.はじめに

カンキツ類のみかん、オレンジ、グレープルーツなどは広く認知された果物である。通常は果実を剥皮して得た果肉や搾汁して得た果汁を飲食しており、程よい甘味と酸味、爽やかな香気から好まれている。これらにはビタミンC(アスコルビン酸)、カロテノイド類、ミネラルなどの栄養成分が含まれることから健康に寄与する食品としても知られている。カンキツ類の中でもレモン、ユズ、カボス、スダチなどは、果汁にクエン酸を多く含むため酸度が高く、果皮に存在する精油(香気成分を多く含むオイル)とともに使用される場合が多いため、香酸カンキツといわれている。著者はこれまでにレモンを中心に香酸カンキツに含まれる機能性成分について研究してきた。ここでは、レモンに加えてマイヤーレモンといったレモン類に含まれる健康機能性成分について紹介したい。

2.レモン(Citrus limon)の機能性成分

カンキツ果実の果汁において、甘味、酸味、香気の主成分はそれぞれ果糖、クエン酸、リモネンである。これら成分の含有量や他成分の相違が各カンキツの呈味や風味に影響を与えている。香酸カンキツ果汁は、甘味に影響を与える糖類の含有量が低く、クエン酸などの有機酸を多く含むため酸味が強い。世界における香酸カンキツの食品への利用は、レモン、ライムが主であり、わが国ではこれらに加えてユズ、カボス、スダチ、ダイダイなども利用されている。私たちが普段飲食しているレモンは学名Citrus limonとして植物分類される属種のカンキツであり、果汁は酸味が強いため、一般的にはそのままでは飲料としては適さず、薄めたり、甘味を付けたりして飲用し、または、清涼飲料水、酒類、調味料、菓子類などの香味付け酸味調味料として利用されている。わが国では、アメリカ合衆国・カリフォルニア産の輸入レモンが市場に出回っているが、収穫端境期には南半球のチリ産、ニュージーランド産なども流通している。一方、輸入レモンよりは少量であるが広島産、愛媛産などの国産レモンも栽培、流通しており、消費者は地産地消の推進や、輸入レモンの果実表面に塗布されているポストハーベスト農薬(食品添加物)の危惧などの理由から国産レモンの人気もある。これらレモン(Citrus limon)はユーレカ種、リスボン種、ビアフランカ種などであり、これら品種間の果実外観は類似しており、栄養成分や機能性成分の含有量にも大きな相違はない。レモン果汁に含まれる特徴的な栄養成分は、クエン酸、ビタミンC(アスコルビン酸)などである。日本食品標準成分表では、レモンの炭水化物は果汁100g 当たり8.6 gであるが、その内の約70%はクエン酸である。また、ビタミンCは果汁100g 当たり50 mgで、ミネラルのカリウムは果汁100 g 当たり100 mgで比較的多く含まれている1)

1)フラボノイド

フラボノイドは、2つのベンゼン環が炭素原子3個からなるプロピレンの両端に結合した構造(C6-C3-C6)を持つ化合物の総称で、中央のC3が酸素を含むヘテロ環の酸化還元状態の違いによってフラボン、イソフラボン、フラボノール、フラバノン、アントシアン、カテキン(フラバノール)などに分類される。これまでに植物から数千種類のフラボノイドが単離同定されており、植物は多種多様なフラボノイドを作り出している。これらは二次代謝物で、紫外線吸収作用や抗酸化作用などがあるため、日光の紫外線照射に対する防御やそれによって発生する活性酸素の消去といった植物の自己防御のために働いていると思われる。また、ヒトにおいて炎症や各種疾病の発症は、体内で発生する過剰な活性酸素などの酸化ストレスが要因となることが分かってきており、日頃の食事から摂取する抗酸化物質が体内の酸化ストレスを低減し、疾病予防に有効と考えられている。そのため食事から摂取する抗酸化性を有するフラボノイドにおいてもその有効性が期待されている。

カンキツ果実に存在するフラボノイドは主にフラバノンとフラボンであり(図1)、これらは果汁に比べて果皮に多く含まれている。レモンにはフラバノン配糖体のHesperidin、Eriocitrinが多く含まれており、Hesperidinは果汁100 mL当たり8.9 mg、果皮100g当たり173 mgで、Eriocitrinは果汁100 mL当たり12.1 mg、果皮100g当たり280 mgと果皮に多い2)。Eriocitrinはライム、スダチなどにも含まれるが、特にレモンに多く含まれている。Eriocitrinは高い抗酸化性を有しているが、それはフラバノンB環のC3’、C4’に隣接する水酸基の存在が活性に関与していると思われる。

Hesperidin、EriocitrinをⅠ型糖尿病発症ラットに摂取させたところ、糖尿病発症によって肝臓などに生じる酸化障害が抑制され、体内の酸化ストレスの低減効果が示された3)。糖尿病の発症により体内で増大する酸化ストレスが合併症を誘発するため、体内酸化ストレスの低減効果は糖尿病合併症の抑制効果が期待される。また、運動負荷によって体内の酸化ストレスを過剰にさせたラットにEriocitrinを摂取させることで、肝臓や骨格筋における酸化損傷を抑制する効果が認められている4)。Eriocitrinに運動酸化ストレスに対する低減効果が示され、急性運動による体組織の酸化障害に対して有効であると思われる。さらに、高脂肪・高コレステロール食餌のラットにHesperidin、Eriocitrinを摂取させたところ、血清コレステロール濃度の低下効果が認められている5)。また、Eriocitrinのアグリコン(非糖部分)であるEriodictyolにはヒト骨髄性白血病細胞HL-60に対してアポトーシス(細胞の自然死)の誘導作用が認められている6)。以上のようにレモンに含まれるフラバノンに健康機能作用が認められている。

また、レモンにはフラボンのDiosmin(1.3 mg/100mL果汁,26.2 mg/100g果皮)や6,8-Diglucosyldiosmetin(4.9 mg/100mL果汁,33.9 mg/100g果皮)が含まれていることも特徴である7)。さらに、グレープフルーツや夏ミカンなどの苦味が強いカンキツは、糖鎖がラムノグルコース(ラムノースC1のOH基とグルコースのC2のOH基が脱水結合した二糖類)のフラボノイド配糖体を多く含む。これら成分は苦味が強いが、レモンにはこの糖鎖を有するフラボノイド配糖体がほとんど含まれず、ルチノース(ラムノースC1のOH基とグルコースのC6のOH基が脱水結合した二糖類)が結合したフラボノイド配糖体が含まれている(図1)。カンキツの中ではレモン果皮は比較的苦味が弱いが、その要因にラムノグルコースのフラボノイド配糖体が少ないことがあげられる。

図1.レモンに含まれるフラボノイド、クマリン類、フェニルプロパノイドの化学構造

2)クマリン類

クマリン類は植物界に広く分布しているが、カンキツもクマリン類を多く含有している。フラン環とクマリンが縮環した構造のフラノクマリン類(プソラレン類)も含まれている。これらは果汁にはほとんど存在せず、果皮に存在し、特にフラベド(外果皮)に多く含まれている。レモンは8-Geranyloxypsolaren (3.35 mg/100g果皮)、5-Geranyloxypsolaren (3.47 mg/100g果皮)、5-Geranyloxy-7-methoxycoumarin (2.15 mg/100g果皮)が含まれており(図1)、他のカンキツと比べて特徴的に多い8)。市販のレモン精油やレモン精油を原料として調製されるコールドプレス・レモンオイル中には約100 ppmのこれらクマリン類が検出されている。また、Epstein-Barrウイルス(EBV)活性化抑制実験からこれらクマリン類に発がん予防に関わる発ガンプロモーションの抑制作用が認められている9)

図1.レモンに含まれるフラボノイド、クマリン類、フェニルプロパノイドの化学構造

3)フェニルプロパノイド

フェニルプロパンが縮合した化合物 (C6-C3) のフェニルプロパノイドは植物界に広く分布しており、カンキツにも含まれている。レモン果汁からフェニルプロパノイドであるフェルラ酸配糖体(1-Feruloyl-b-D-glucopyranoside)とシナピン酸配糖体(1-Sinapoyl- b -D-glucopyranoside)が単離され(図1)、各成分は果汁100g当たり1.71 mg、1.03 mg含まれ、抗酸化性が認められている10)

図1.レモンに含まれるフラボノイド、クマリン類、フェニルプロパノイドの化学構造

4)香気成分

Limoneneはカンキツ共通の香気成分であり、精油中に60~90%含まれており、シトラスフレーバーに寄与している。レモン精油の主成分はLimoneneである。レモン精油を添加して香り成分を高めたレモン果汁をヒトに摂取させたところ、摂取後の脳波(α波)の増大作用が認められている。α波の増大は精神のリラックス作用と関連があるといわれ、レモン果汁の香気成分を摂取することによりリラックス効果が示された。また、香気成分のLimoneneをラットへ投与したところ、脳内モノアミン遊離の増加が認められている。さらに、レモン果汁のヒト摂取実験では、摂取後に交感神経活動の亢進が認められており、レモン果汁の自律神経活動への影響も示されている11)

5)クエン酸

持久運動後のレモン飲料摂取がヒトの血液成分濃度に及ぼす影響を検討したところ、運動後にレモン果汁もしくはクエン酸の摂取により、血中乳酸の除去を促進する効果が認められている。この効果はレモン果汁に約6%含まれるクエン酸に起因すると考えられた。運動後に摂取する飲食品に、レモンの酸味と糖質の甘味を利用した食品(はちみつレモンなど)があるが、これらに運動後の血中乳酸の除去を促進する生理作用が示唆された。骨格筋細胞の乳酸の蓄積は運動パフォーマンスの低下につながる場合があり、その抑制作用があると思われる。また、レモン果汁に高含有のクエン酸は、ミネラルと結合するキレート作用がある。鉄欠乏食餌で貧血状態としたラットに、レモン果汁と鉄分を投与したところ、鉄吸収の向上が認められている。レモン果汁のクエン酸と鉄とのキレート作用により鉄吸収が向上したと推察された。厚生労働省の国民健康・栄養調査では、日本人のカルシウムと鉄の摂取不足が報告されおり、レモン果汁には摂取不足のミネラルに対しての吸収向上効果が示された12)

3.マイヤーレモン(Citrus meyeri)の特徴

わが国で流通販売されているレモンのほとんどがCitrus limonという属種の輸入レモンである。国産レモンは輸入レモンに比べて少ないが、瀬戸内などで同品種が栽培され、市販されている。また、かいよう病に耐性の品種である璃の香(リスボンレモン×ヒュウガナツ)やイエローベル(道谷系ビアフランカレモン×サマーフレッシュ)といったレモン(Citrus limon)と異なるレモン類が作出され、商業的栽培に向けての試みが進められている。一方、三重・紀南地区のマイヤーレモンや小笠原諸島の小笠原・島レモン(別名、菊池レモン、マイヤーレモンと推察される)といったレモン類が地域特産果物として栽培、市販されている。マイヤーレモン(学名Citrus meyeri)は、レモンとオレンジ類との交配品種で、レモンと外観は似ているが、酸味が少し弱く、香りに若干の違いがある。マイヤーレモンの機能性成分の特徴は、フラボノイドにおいてはレモンとオレンジ類と同様にHesperidinが含まれており、レモンの特徴成分の6,8-Diglucosyldiosmetinが同様に含まれている。しかし、レモンと比べEriocitrinが少量であり、オレンジ類と同様である。各種果実のフラボノイドの主成分分析の分散図では、マイヤーレモンはレモンとオレンジ類の中間的位置であり、レモンとオレンジ類のそれぞれ一部の特徴を有していた13)。一方、マイヤーレモンに含まれるクマリン類は、レモンに特徴的に含まれる上述のクマリン類は含まれておらず、5,7-Dimethoxycoumarinと7-Methoxy-5-prenyloxycoumarin(図1)が比較的高含有であった。さらに、マイヤーレモンから新規抗酸化物質であるフェニルプロパノイドのMeyerin(p-クマル酸誘導体)(図1)が単離されている。また、マイヤーレモンの香気成分の組成は、オレンジ類よりレモンに類似しているが、レモンと比べるとThymolが多く含まれているのが特徴である。このように、レモンとオレンジ類の交配種のマイヤーレモンは、レモンと外観が比較的類似しているが、機能性成分の含有量や組成に相違がある。マイヤーレモンに含まれるクマリン類の7-Methoxy-5-prenyloxycoumarinは特徴的な物質で、抗発がんプロモーション活性の評価試験において、in vitroのEBV-EA試験とin vivoのマウス皮膚二段階発がん試験において有意な活性が認められ、発がん抑制(抗発がんプロモーション活性)を有する機能性成分であることが示されている14)

図1.レモンに含まれるフラボノイド、クマリン類、フェニルプロパノイドの化学構造

4.おわりに

レモンは酸味の強い果汁で、栄養成分のビタミンC(アスコルビン酸)が含まれることはよく知られている。レモンのビタミンCについて、栄養学の歴史上、ビタミンCの欠乏症である壊血病の予防や治療にレモン果汁の摂取が推奨されていたことから広く認知された。一般消費者の中にはレモンの酸味の主成分はビタミンCと思われている方もおり、それは梅と同じでクエン酸であることを聞いて驚く方もいる。しかしながら、レモンには機能性成分のフラボノイド、クマリン類、フェニルプロパノイドなどの特徴的な成分も含まれていることが分かってきた。これら成分の健康機能作用については解明されつつある。レモンはオレンジ、グレープフルーツと同様によく知られたカンキツで、国内外で食べられている。わが国は輸入レモンが多く流通しているが、国産レモンも栽培され流通している。また、マイヤーレモンのような特徴的なレモン類が地域特産果物として栽培され、市販されてきている。今後、レモンに含まれる健康機能成分の情報や知識が消費者に受け入れられ、レモンの摂食が国民の健康増進につながっていくことを期待している。

参考文献
  • 1)日本食品標準成分表2015年版(七訂),文部科学省(2015).

  • 2)Miyake Y., et al., I Food Sci. Technol. Int. Tokyo 3: 84-89(1997).

  • 3)Miyake Y., et al., Lipids 33: 689-695(1998).

  • 4)Minato K., et al., Life Sci. 72: 1609-1616(2003).

  • 5)Miyake Y., et al., J. Food Sci. 71: S633-S637(2006).

  • 6)Ogata S., et al., Biosci. Biotechnol. Biochem. 64: 1075-1078(2000).

  • 7)Miyake Y., et al., J. Agric. Food Chem. 45: 4619-4623(1997).

  • 8)Miyake Y., et al., J. Food Sci. Technol. 48: 635-639(2011).

  • 9)Miyake Y., et al., J. Agric. Food Chem. 47: 3151-3157(1999).

  • 10)Miyake Y., et al., Biosci. Biotechnol. Biochem. 71: 1911-1919(2007).
  • 11)三宅義明, Aromatopia, No. 125, 5-7(2014).

  • 12)三宅義明, 食品と容器, 54(8), p466-471(2013).

  • 13)三宅義明, et al., 日本食品科学工学会誌 58: 178-181(2011).

  • 14)三宅義明, 果汁協会報(日本果汁協会), No.713, p5-17(2018).
著者略歴

三宅義明(みやけ よしあき)
 平成元年三重大学大学院農学研究科修了、同年(株)ポッカコーポレーション入社 、平成11年名古屋大学大学院生命農学研究科農学博士(論文)、平成15年東海学園大学専任講師、平成19年東海学園大学准教授、平成22年東海学園大学教授、平成29年愛知淑徳大学健康医療科学部健康栄養学科教授(現在に至る)、平成30年愛知淑徳大学学生部長(学生担当)兼任。

 香酸カンキツの機能性研究に関して、平成10年社団法人日本果汁協会技術賞受賞、平成18年日本食品科学工学会奨励賞受賞、平成30年社団法人日本果汁協会技術奨励受賞。
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