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![]() 食品工場の黒色系カビによる食品変敗と防止技術
![]() 食品・微生物研究所
所長 内藤 茂三 1.食品工場の黒色系カビカビの中には人間の生活にプラスに働いてくれるものも多い。自然界の浄化、それに伴う物質の循環、食品加工等の面ではカビはヒトにとって有効である。しかし好ましからぬカビが食品工場で生存し、食品を変敗させ、時々ヒトに危害を及ぼしていることも事実である。最近の食品工場では、多くの殺菌剤や防腐剤を多量に使用しているため、これらに抵抗性のある黒色系カビの増殖が著しい。黒色系カビで代表的なものがCladosporium属カビで饅頭等菓子類の黒色斑点、玉子製品の黒色斑点、果実や惣菜の深緑黒色斑点は本菌が原因である。角膜真菌症としてヒトの皮膚に増殖し、アレルギーの原因となり、体力の弱った従業員には危険な黒色系カビである。最近、急激に増加してきたのがExophiala属カビである。黒色酵母とも称される一群の菌群で土壌、腐食植物に存在している場合が多い。食品工場では水を使用する洗い場、洗浄タンク、洗剤を多量に使用する工程で生育し、黒色のドロドロしたカビである。40℃でも生育し、pH9.0でも生育するアルカリ性と木材を好むカビである。食品に生育して黒色斑点生成による変敗の原因となり、体力の弱った従業員に感染し皮下腫瘍、皮膚、リンパ節、粘膜の肉芽種性病変を引き起こす。食品工場に生息する真菌の病原性については、食品の変敗原因となっていることが明確になってきてから多くの食品関連技術者が関心を持つようになってきた。特に菓子類、惣菜、麺類、飲料、水産加工食品工場で大きな問題となっている。米国疾病予防管理センターでは1969年に「危険度に基づいた病原菌の分類」という本を出版し、各国はこの分類表を参考にして独自の危険度分類表を作成して対応してきた。わが国でも国立感染症研究所、東京大学医科学研究所、国立医薬品食品衛生研究所、千葉大学真菌医学研究センターにおいて独自に危険度分類が公表されてきた。今までの多くの「微生物の危険度分類基準」はいずれも実験室内での基準であり、食品工場での基準ではない。 2.食品工場の黒色系カビの病原性これまで食品工場では多くの従業員がアレルギー疾患、日和見真菌感染、皮膚表面感染となってきたが、その原因の一部が真菌に由来することは明白ではなかった。食品工場の食品原材料や家屋・装置からかなりの胞子が皮膚等に付着し、又は吸引することがある。現在ではヒトの皮膚表皮感染が中心で、深在性真菌症ではヒトからヒト、動物からヒトへの直接感染は否定されており、輸入伝染病の対象から外されている。1993年に発表された日本医真菌学会の危険度分類表によるとクラス1、クラス2a、クラス2b、クラス3a、クラス3bの5つに分類している。クラス1は極まれに病巣から分離され、通常病原性がない。これに該当する食品工場から検出される真菌はAureobasidium pullulans、Aspergillus oryzae、Aspergillus terreus、Aspergillus brasiliensis、Aspergillus versicolor、Curvularia lunata、Geotrichum candidumである。これらの菌株のうち多くは普通に食品工場から検出されている。クラス2aは日和見真菌感染菌で表皮感染(爪、毛髪)が中心である。これに該当する食品工場から検出される真菌は最も多い。Aspergillus nidulans、Aspergillus fumigatus、Aspergillus flavus、Alternaria alternate、Trichophyton rubrum、Trichophyton mentagrophytes、Exophiala jeanselmei、Exophiala spinifera、Exophiala dermatitidis、Exophiala moniliae、Candida albicans、Cladosporium cladosporioides、Cladosporium herbarumがあり、これらの真菌の多くは斑点生成及び変色等で食品の変敗の原因となっている。クラス3aは免疫不全患者感染菌で深在性病巣から検出され、アレルギー性疾患の原因となっている。これに該当する食品工場から検出される真菌は極めて少ない。Cladophialophora bantiana(Cladosporium triochides)とCryptococcus neoformansだけである。 3.食品の変敗原因となる黒色系カビとその対策(1)和菓子の微生物変敗と制御多くの食品工場では糖類やでん粉を使用するため黒色系カビの汚染が多い。床、天井、側溝、ドアのノブ、タイルの目地、洗浄用タンク、洗い場等は必ず黒色に変化している。その多くはAlternaria、Aureobasidium、Cladosporium、Exophiala、Aspergillusに属する。これらのカビの特徴は好湿性であり、増殖して黒色の菌糸を形成することである。 従来ではこれらのカビが発生すると、これらをエサにしてダニが発生し、またダニをエサにして昆虫等の小動物が増殖し、さらにこれらをエサにしてクモが発生する。このためクモの巣が形成されている工場はカビが多いことが経験的に知られ、これらの連鎖により黒色系カビは工場に分散していた。現在ではダニ、小動物、クモは殺菌剤の多量投与によりほとんどいなくなり、従業員の手、頭髪、髭、皮膚等により工場に分散している。 Alternariaはススカビと呼ばれ、灰白色から黒褐色の綿毛状の集落をつくり、胞子は大型で多細胞であり棍棒状からトックリ型の形で連鎖状に形成される。水分の多い麺類(生めん水分38%前後)や菓子類(饅頭水分30~40%前後)に生育して変敗させる。リンゴ、柿などの腐敗の原因となるほか、各種の植物に病原性を示す。空中や穀類などからも分離されるが、土壌中から多く分離される。食品工場では壁や瓦等に黒くスス状に生育する。防カビ剤に対する抵抗性が極めて強いため、防カビ塗装等の防カビ処理をした場所に生育する。この菌に近縁なUlocladiumやCurvulariaにもこの特徴が認められる。このカビの汚染源は植物と土壌で、風に乗って工場の外部表面に付着して増殖し、従業員を汚染して工場内に侵入する。代表的な菌種はAlternaria alternataである。食品工場のクーリングタワー等の湿度の高いところに優占的に生育し、風と共に工場内に入る。本カビは食品変敗原因カビであるほか、リンゴの心腐病、ミカン、トマト、ニンジン、白菜などの黒腐病など植物病原菌であり、種々の食品、土壌、空気中などの生活環境に広く分布している。ニンジンの黒腐病(Alternaria radicina)では葉、葉柄、茎、苗、根に発生する。葉、葉柄では赤褐色または褐色で不正形の条斑を生じ、しおれる。病状が進行すると病斑点に黒色でビロード状のカビを生じる。根では黒変し、へこむ。購買したニンジンのヘタの一部が黒く変色しているのはすべて本カビである。本黒斑病は主に根部に発生するが、茎葉に発生し黒葉枯病と類似した症状を示すこともある。ニンジンの貯蔵時にカビに感染したニンジンが混入すると胞子で伝染して被害が拡大する。感染適温は28℃前後であるが、0℃の条件でも4~8週間、12~18℃では1週間で感染するので、低温貯蔵の場合も注意を要する1-4)。
表1 Alternariaによる食品工場汚染状況
表2 Alternariaのヒトへの感染による病原性
Aureobasidiumは食品工場の水を多く使用する工程で増殖し、工場全体を汚染する。発育初期には白色の集落を形成するが、成熟するにつれて次第に黒色の湿った集落となる。培養条件によっては酵母状となるので、黒色酵母とも呼ばれている。好湿性で、イチゴ、ブルーベリーなどの軟質果実や柑橘類のほか湿度の高い環境で増殖する。自然界に広く分布し、太陽光線にも乾燥にも強いカビである。湿地の土壌、汚水、滞流水のほか湿気の多い場所で生育して黒色のヌメリを発生する。食品工場では水分が多く、糖類の多い場所で急激に増殖する。糖類を多く使用する清涼飲料水工場、ゼリー工場、生菓子工場、饅頭工場、惣菜工場に多く生息して製品を汚染して返品の原因となっている。本菌は食品工場の外部表面に増殖することもあるが特定の工場での事例であり、外部表面よりも工場内部及びその周辺を汚染していることが多い。代表的な菌種はAureobasidium pullulansで、多くの食品工場の天井、プラスチック備品、壁、床、側溝を汚染し、黒色のシミの原因となっている。また発酵食品工場では工場の外壁やサッシ、ブロックに付着して黒色を呈している。特に食酢、清酒、味噌、醤油工場の外部を黒く汚染する。レンガ、瓦、ガラス、外灯、樹木、石、木材などエタノール蒸気が漂うところが黒くなる。本カビはエタノールを資化するので醸造工場が稼働している間は必ず生息する。日光が照射すると本カビは死滅し、黒い色素のみが残る。気温の高い夏は死滅しているので黒い壁より本カビの分離はできない。しかし雨季には水分を吸収して再度本カビが付着して増殖する。数種の黒色酵母の一つで、生育が遅く、黒色、糊状のコロニーが特色である。酵母様のコロニーで、白色から淡紅色で粘性、長期間の培養では暗色の菌糸が発達して黒色化する。胞子は菌糸に沿って大きな集塊状に生じ、菌糸の短い側枝上または小突起上に形成される。胞子が離脱した時、菌糸上に小さい粗面状の分離痕が残る。このカビは日和見病原性菌で人の皮膚に感染し、タイルの目地によく増殖する。本カビは食品工場の壁の塗料のアマニ油に生育し、この物質をシュウ酸、酢酸、オキサロ酢酸に変換し、塗料劣化の原因となっている1-4)。 Exophialaの種は同様であるが胞子は分離痕を残さない。食品工場では食品原材料の調合現場は多くの水を使用するので好湿性の本カビにとって絶好の生育環境である。本カビと細菌が共生して増殖し、食品を変敗させる。腐食性が強く、加害は食品や食品工場の建物のみならず、ブロック塀、タイル、シート、パッキングを汚染する。
表3 Aureobasidiumによる食品工場汚染状況
表4 Aureobasidiumのヒトへの感染による病原性
Cladosporiumは食品工場を汚染する3大カビの一つである。食品工場の壁や床を汚染し、典型的なダークグリーン色の汚れを発生させる。本属のカビは100種類以上あるといわれているが、そのなかで食品工場の空気中や環境から検出されるのはCladosporium herbarum、Cladosporium sphaerospermum、Cladosporium cladosporioidesの3種類である。菓子類をはじめ惣菜類、清涼飲料水、麺類、水産加工品等さまざまな食品に発生し、Cladosporium herbarum、Cladosporium sphaerospermum、Cladosporium cladosporioides等が暗緑褐色の集落を形成する。乾燥や低温にも強く、食品ばかりでなく工場の建物の壁面、柱、ビニール、クロス、タイルの目地、パッキング、アルミサッシに生育して黒色化させる。ここから従業員の手により工場全体に汚染する。汚染源は食品工場の周辺の土壌、滞流水、汚水、植物等であり、多くは工場の外部より従業員を介して工場内に侵入し、カビが内部で増殖する。表面は暗オリーブ色で裏面が黒色であり、水分と糖類があるところで増殖する。胞子は1又は2細胞で、菌糸の先端の一部が膨れることにより形成される。成熟すると気流により工場内に飛散して、工場全体を汚染する。本カビは食品工場の温度差の激しい時に急激に増殖する。このため本カビの増殖を防止するためには工場の温度差をできるだけ少なくする。本カビは乾燥や低温に強く、食品や食品工場の建物のみならず、ビニール、クロス、タイルの目地、ブロック塀を汚染して黒くする。本カビはポテトデキストロース寒天培地で培養すると表側は緑色をしているが培地の裏側から見ると暗い緑色から黒色に見える。顕微鏡(200~400倍)では菌糸や胞子は褐色に見え、胞子が楕円形(Cladosporium sphaerospermum)やレモン形(Cladosporium sphaerospermum)に観察される。最近急激に増えてきたのは食品工場の水洗場等の壁の乳剤塗料の塗布面に生育し、外観はススカビ状を示す状況である。これは塗料の乳化性を安定させるために混合しているカルボキシメチルセルロースを資化して増殖する1-4)。
表5 Cladosporiumによる食品工場汚染状況
表6にCladosporiumのヒトへの感染による病原性
Exophialaは多くの食品工場では床等の洗浄に洗剤を使用し、さらにタンクに貯蔵した温水を用いて器具の洗浄を行っている場所に生息する。このため従業員の皮膚表面の角質物質、汗、皮脂、洗剤等はタンク内の温水に滞留し、食品工場内の木質器具や加温器が黒色に変化する原因が本カビである。本カビはアルカリ性を好むので、洗剤等の器具洗浄が不十分であれば必ず発生し、食品を二次汚染する。従来はCladosporiumではないかと考えられてきたカビである。古くから食品工場の床及び器具等に検出され、工場排水口の蓋の裏、工場内の側溝、洗浄用タンクの側面、水気の多い場所の木材性器具及び装置の黒色のドロドロしたものが本カビである。Exophialaにはヒトに病原性があるものが4種類、魚類に病原性があるものが2種類、病原性のないものが2種類、病原性の有無がはっきりしないものが1種類、合計9種類含まれているとされている。Exophialaはフェルト状、ビロード状あるいは糊状の黒い集落を形成する。ヒトに病原性のある菌種では培養条件により黒色から黒褐色の糊状の集落を形成するので、病原性黒色酵母と呼ばれる。Exophialaには有性生殖は知られていない。無性生殖の分生子形成で増殖する。Exophialaは温度耐性があり42℃で生育できる菌株もあり、さらにアルカリ耐性でpH10.4でも生育できる菌株もある。洗剤を多量に使用する(洗剤のpH8~9)多くの食品工場で検出され、食品製造工程中で汚染し、流通段階で生育して多くの食品のクレームとなっている。食品工場の空中真菌は、Aspergillus、Penicillium、Aureobasidium、Cladosporium、Fusarium、Alternariaが多く、Exophialaはそれほど高頻度に検出されない。しかし自然界からは土壌、腐朽木材、汚水、鳥の糞、排水処理場からは普通に検出されており、これが工場内に二次汚染されて食品を汚染する。菌体が褐色を帯びている黒色菌で、いくつかの種(Exophiala dermatitidis、Exophiala jeanselmei、Exophiala moniliae 等)は黒色真菌症を引き起こすこともまれにある。ヒトに感染するおそれのある主な菌種はExophiala dermatitidis、Exophiala jeanselmei、Exophiala spiniferaである。しかし病原性や感染性のある菌株は生殖の仕方が不明であり、いずれも不完全菌類と分類されている1-4)。
表7 Exophialaによる食品工場汚染状況
表8にExophialaのヒトへの感染による病原性
Aspergillusは食品工場の3大カビの一つであり、多くの種類がある。黒色系の菌種の代表的なものはAspergillus brasiliensisである。最近食品工場からの食品汚染で問題となっているのはEurotiumでAspergillus glaucusの有性世代である。本カビはやや乾燥した状態を好む好乾菌で、乾燥食品や高含糖菓子類から検出されクレームとなっている。青紫から淡黒色の集落を形成する。菓子類、佃煮、乾燥食品等におけるカビ発生の原因としても最もポピュラーな菌の一つである。代表的な菌種はEurotium herbariorum、Eurotium amstelodami、Eurotium chevalieri である1-4)。 (2)食品工場を汚染する黒色系カビの防止技術黒色系カビの汚染源の第1の原因は、食品工場の水洗い場にある木製の器具、容器、棚、サナ板であり、これらに付着したカビが増殖して黒色に変色する。第2の原因は排水溝及びその周辺の床壁である。種々の洗剤等の汚水が温水で洗い流され排水溝に流れこみ、増殖する。その周辺の床壁は排水溝からの二次汚染である。第3の原因は工場内にある洗い用の温水貯槽タンクの内面である。多くの従業員が使用するため、汗、皮脂、角質物質が存在する。これを本カビが栄養源として増殖してタンクの内面に付着する。第4の原因はこの温水タンクの温水で洗浄した雑巾である。この雑巾の使用により食品工場内にカビが拡散する。第5の原因は従業員からの食品工場への二次汚染である。アトピー性皮膚炎の従業員、気管支喘息やじんましんの従業員より食品工場へカビが拡散する。黒色系カビは従来からヒトの皮膚病の原因カビとされてきた経緯を考慮して従業員の健康管理は重要である。今までに報告されていないが従業員に由来する真菌により多量の食品が変敗した例がある。第6の原因は食品工場の落下菌として検出されることがある。夏季において製造終了後、洗剤等で床を洗浄し、夜間の気温が上昇した場合水蒸気の蒸発とともに本カビの分生子が上昇する。上部で冷却されて落下し、製造機械を汚染し、食品に付着して変敗する。 工場の温度変化により結露が生成し、黒色系のカビが多量に発生する。各温度で空気が含むことができる最大水蒸気量(1m3当たり)は、0℃で4.8g、10℃で9.4g、20℃で17.3g、30℃で30.3gとなる。この温度差により結露が発生する。結露防止対策には以下の6つがあげられる。①工場内に観葉植物を置かない。観葉植物からは多くの水分が出ている。②結露防止シートを窓ガラスに貼る。③結露防止ヒーターを窓際に設置する。④結露取りワイパーをつける。⑤結露吸水テープを張る。⑥結露防止剤をスプレーする。このようにカビ防止対策は食品が取り扱われる環境での温度の変化による水分の移動を把握すること及び包装材料の吸湿性の把握が大切である。 これまで黒色系カビは木材を用いて作られた日本の食品工場からは普通に検出されてきたが、最近特に目立つようになってきたのは殺菌剤の多用である。多くのカビがエタノールや次亜塩素酸ナトリウムの投与により減少し、これらに耐性のある黒色系カビが増殖して食品を汚染するようになってきた。豆腐、コンニャク、惣菜、玉子焼き、寒天食品、ゼラチン食品からは時々検出されている。 ① Alternariaの防止技術 Alternariaはシュウマイ、餃子等の野菜を使用する工場に多く発生する。リンゴの心腐病、ミカン、トマト、ニンジン、白菜などの黒腐病など植物病原菌であるので、病気に感染した野菜が工場で貯蔵されると胞子が工場内に分散され、全体に分布する。工場に感染した本カビの防除にはオゾン殺菌が効果的である。多くは床や壁面に増殖しているのでオゾン水で洗浄・殺菌する。また原材料入荷時に根の損傷品を除去し、一度日光にさらしてから低温貯蔵庫に入れる。或いは作業していない夜間は天井の上部に配したパイプに穴をあけてオゾンガスを散布する。オゾンは分子量48で空気の1.7倍の重さであるので、徐々に落下して床等に汚染した本カビを死滅させる。 ② Aureobasidiumの防止技術 Aureobasidium による食品及び食品工場汚染を防止するには以下のことがあげられる。工場の床面、側溝にオゾン水を散布し、夜間は工場の上部よりオゾンガスを散布する。オゾン水の散布は酸化による洗浄効果によりカビを除去する。オゾンガスは殺カビに効果的である。本カビは好湿性カビであるため、工場をできるだけ乾燥させる。 ③ Cladosporiumの防止技術 本カビは10℃では速やかに生育し、5℃では生育は遅く微小な生育を示すので、5℃以下に保存すれば生育阻止できる。水分活性0.65(RH50%)以下では生育しにくいが、食品中では生育することがある。その理由は食品中の水分の偏りである。全体として水分活性は低いが、部分的に高いところがあるために本カビが生育する。水分が均一な食品であれば水分活性で生育を阻止できる。食品工場のオゾンは、本カビの細胞構成成分へのオゾン酸化作用が中心である。つまり細胞を構成している種々の生体成分が直接オゾンによって酸化分解され、変性や障害をうけて生存を不可能にする。実際には菌糸先端のすぐ後方の領域で菌糸の増殖が速く菌糸の容積が拡張する。このポイントは菌糸が柔らかいのでオゾン処理が有効である。栄養細胞は常に外に向かって生育するため、集落の中心から遠い周辺部になるほど細胞は若いので、紫外線等の処理もこのポイントを狙う。一方、中心部の老化した細胞は栄養と酸素不足で次第に死滅するので殺菌剤での処理をする必要はない。 ④ Exophialaの防止技術 Exophialaは40℃でも生育するが5~10℃でも生育し、分生子を産生する。第1は、汚染部分のほとんどが食品工場内にあるので、工場の黒色化した水洗い場を中心の殺菌・消毒を行う。殺菌剤として、200~500ppmの次亜塩素酸ナトリウムを用いて殺菌し、その2~3日後にオゾン水で洗浄殺菌する。本カビは分生子があり、容易に塩素殺菌では死滅しないので殺菌機構の異なるオゾン処理を併用すると効果的である。第2は、生育しやすい木製の器具や装置を使用しない。今まで検出された事例は、ほとんど木製の器具や装置、床、壁、天井からの二次汚染である。第3は、食品工場内の結露等水滴が内装の表面に付着しないようにする。結露は冬季によく食品工場で発生する。第4、は食品工場で使用する洗剤、界面活性剤が床や機械等に残存しないように水でよく洗浄する。特にExophiala はアルカリ性を好み、洗剤等の泡の中で増殖する。低濃度オゾン水を用いて洗浄することは効果的であり、多くの食品工場で効果を上げている。第5は従業員の健康管理を行う。従業員が原因である場合には多くは皮膚病であるので日ごろから管理する。よく咳をする従業員も気管支炎や喘息で本カビに汚染されている場合もあるので注意する。 文献
略歴内藤茂三 食品・微生物研究所所長 米飯行事食研究会代表 地域福祉食文化研究会代表 食品腐敗・変敗防止研究会代表 サナテックメールマガジンへのご意見・ご感想を〈e-magazine@mac.or.jp〉までお寄せください。 |
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