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HACCP制度化に向けた従事者教育
一般財団法人 食品分析開発センターSUNATEC
コンサルティング室

はじめに

食品業界では、食品衛生法等におけるHACCP※ による衛生管理の制度化が進んでいる。制度化を含む食品衛生法等の一部を改正する法律案が提出され、2018年3月13日に閣議決定され、4月13日に参議院審議にて可決されており、衆議院審議を待つ状況である。
 提出された法律案では、「すべての食品等事業者に、一般衛生管理に加え、HACCPに沿った衛生管理の実施を求める。ただし、規模や業種等を考慮した一定の営業者については、取り扱う食品の特性等に応じた衛生管理とする。」とされている。また、施行期日は公布の日から起算して2年を超えない範囲内において政令で定める日とされている1)

※ HACCP (Hazard Analysis and Critical Control Point):

 食品等事業者自らが食中毒菌汚染や異物混入等の危害要因(ハザード)を把握した上で、原材料の入荷から製品の出荷に至る全工程の中で、それらの危害要因を除去又は低減させるために特に重要な工程を管理し、製品の安全性を確保しようとする手法2)

このような情勢の中、国内の食品事業者においては、HACCPの認証取得やさらに進んだ食品安全マネジメントシステムであるISO22000、FSSC22000等の規格への取組(以下、HACCPへの取組という。)を進める事業者が近年増加している。
 しかし、そのような中、HACCPへの取組を進める中規模・小規模食品事業者においては、取組に難しさを感じているとの意見を聞くことも多い。
 このことから、本稿では、HACCPへの取組に難しさを感じている事業者への一助となればと考え、難しさを感じる理由やその解消策の一例について紹介する。

HACCPに難しさを感じる理由

事業者がHACCPへの取組に難しさを感じる理由のひとつとして、事業者内の一部の担当者によってHACCPへの取組が進められており、多くの従事者(雇用形態によらず、事業者内で関係する全ての者を指す。以下、従事者という。)が取組に関わっていない結果、HACCPが十分に理解されず、適切に運用できていない状態となっていることが挙げられる。
 HACCPへの取組には、危害要因分析※ を行った上で、CCP※ 等の管理点を決定し、更にそれらの管理手段を設定することが必要となる。その管理手段を徹底するためには、取組を進める担当者だけでなく、その他の従事者も自身が関係する管理手段を認識していなければならない。

※ 危害要因分析(Hazard Analysis):

 危害とその発生条件についての情報を収集し、評価することにより、原料の生産から製造加工および流通を経て消費に至るまでの過程における食品中に含まれる潜在的な危害要因を、その危害要因の起こり易さや起こった場合の重篤性を含めて明らかにし、さらに各々の危害要因に対する管理手段を明らかにすること3)

※ CCP(重要管理点:Critical Control Point):

 特に厳重に管理する必要があり、かつ、危害の発生を防止するために、食品中の危害要因を予防もしくは除去、またはそれを許容できるレベルに低減するために必須な段階。必須管理点ともいう4)

しかし、多くの従事者にとって、「危害要因分析」や「CCP」など、HACCPの取組で使用する用語は馴染みがなく、理解しづらいものである。このため、HACCPへの取組を進めるには、従事者がHACCPの仕組みやこれらの用語を理解するための教育が必要となる。
 HACCPへの取組に難しさを感じる事業者では、このような教育が十分に実施されていない結果、多くの従事者がHACCPへの取組は非常に難しいもので、あまり関わりたくないと考える状況となっていることが多い。

難しさを感じる状況への解決策

このような状況の解消を目的として、当財団が実施するHACCP導入のための研修プログラムの内容の一例を紹介する。

〈研修プログラム例〉
① 手洗い研修(体験方式)
② 事業者の製造工程に存在する危害要因の抽出(クイズ方式)
③ 危害要因に対する管理策の検討(ロールプレイング方式)
④ 事業者のHACCPへの取組の説明(質疑応答を含む)

① 手洗い研修(体験方式)
目的:
研修プログラムの導入として、多くの従事者が普段実施している衛生管理に対して、改めて意識を向け、HACCPへの取組が普段の衛生管理に繋がるイメージを持つ。
内容:
衛生管理の基礎であり、従事者にとって馴染みのある作業である「手洗い」を題材にして、手洗いチェッカーなどを用いて自身の手洗い状況を確認する体験方式の研修を実施する。
② 事業者の製造工程に存在する危害要因の抽出(クイズ方式)
目的:
自らが関わる製造工程を題材にして、出来るだけわかり易い表現を用いて、危害要因分析の考え方を学ぶ。
内容:
上記①で体験した手洗い不足の場合をはじめとして、事業者の製造工程における微生物汚染や危害異物混入、薬剤の混入などの危害要因を、問題やヒントを出しながら抽出するクイズ方式の研修を実施する。
③ 危害要因に対する管理策の検討(ロールプレイング方式)
目的:
自らの視点で管理手段の考え方を学ぶ。
内容:
上記②で抽出した危害要因とその原因に対する管理策について、複数人に分けたグループ毎で検討し、発表するロールプレイング方式の研修を実施。そのグループ内でCCPの決定と管理基準の設定を試みる。
④ 事業者のHACCPへの取組の説明(質疑応答を含む)
目的:
HACCPにて使用する言葉の意味や目的について理解し、HACCPへの取組が難しいものでなく、自身も関わるものであることを認識する。更に、HACCP担当者とのコミュニケーションにより、意見交換ができる関係性を構築する。
内容:
上記②、③に関連させて、取組で使用する用語の説明や、事業者が進めるHACCPへの取組に関する説明を実施する。さらに設定したCCP、管理基準が十分であるか意見交換を行う。その他、研修参加者からの質疑応答も行い、全員参加を意識付ける。

おわりに

HACCPへの取組は、一部のHACCP担当者だけで進められ、他の従事者があまり関わりたくないと思っている状況では適切な運用ができず、有意義なものにならない。
 HACCPへの取組に難しさを感じている事業者におかれては、前述のような研修をはじめ、様々な教育や意見交換を繰り返し実施することによって、従事者の参加意識を高め、全ての従事者が関わるHACCPを構築し、事業者およびその従事者全員にとって、より有意義なものにしていくことが期待される。

参考文献

1)厚生労働省ホームページ 第196回国会(常会)提出法律案
  食品衛生法等の一部を改正する法律案(平成30年3月13日提出) 概要
  http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/soumu/houritu/dl/196-26.pdf

2)厚生労働省ホームページ 食品衛生管理の国際標準化に関する検討会最終とりまとめについて
  http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000146747.html

3,4)厚生労働省ホームページ 食品製造におけるHACCP導入のための手引書[乳・乳製品編]
    http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11130500-Shokuhinanzenbu/0000098990.pdf

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