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植物による中毒
岐阜薬科大学
薬草園研究室 教授
薬草園 園長
酒井 英二

私たちのまわりには多くの植物があり、それらを昔からずっと利用してきた。あるものは衣服を整えるために、時には住居の材料として、あるものは食べ物として。その中には、薬草とは知らずに利用している植物も数多くある。
  人は、食べることでエネルギーを得ている。おいしく食べられるという事は、健康であるということ。食欲増進のため、古くからいろいろな工夫がされてきた。暑い日が続く夏には、食欲が落ちる。そこで、薬味が登場する。その代表格がショウガ(Zingiber officinale:生姜)であり、冷奴やそうめんには欠かせない。ショウガに含まれる精油成分が胃腸を刺激して、その働きを活発にする。また、体を温める作用もある。どこの家庭の台所にもあるショウガは、優秀な薬草の一つなのである。ここで余談だが、ショウガは、もともと南方の植物であり、低温に出会うと腐ってしまう。くれぐれも、使い残したショウガは冷蔵庫で保管しないこと。すりおろして薄く板状に凍らせておけば、薬味としてすぐに活用できる。

さて、台所にある植物はそのほとんどが食材として利用される。ショウガ以外には例えば、トウガラシ(Capsicum annuum:蕃椒)、サンショウ(Zanthoxylum piperitum:山椒)、ハッカ(Mentha arvensis var. piperascens:薄荷)、ウイキョウ(Foeniculum vulgare:茴香)、ケイヒ(Cinnamomum cassia:桂皮) サフラン(Crocus sativus:番紅花)、チョウジ(Syzygium aromaticum:丁香)、シソ(Perilla frutescens var. crispa:蘇葉)などは、レッドペッパー、ファゲイラ、ミント、フェンネル、シナモン、サフラン、クローブ、ペリラといった香辛料(スパイス)としての別名を持つ。さらに、これらはすべて日本薬局方に収載される生薬でもある。しかし、普段の食生活の中では、薬としては意識していない。
  では、薬とは何だろうか。人にとって良い働きをするものと思いがちであるが、使う量を間違えると毒に早変わりする。江戸時代の外科医『華岡青洲』が曼陀羅華をもとに作った全身麻酔薬『通仙散』は有名だが、この曼陀羅華はチョウセンアサガオ(Datura metel)という植物の花。チョウセンアサガオには、アトロピン、ヒヨスチアミンといったアルカロイドが含まれている。アルカロイドとは、植物体中から発見される含窒素有機化合物で、塩基性を有するものの総称であり、強い生理作用を持つため医薬品に利用されている。しかし、その作用の強さから一般的には毒として認識されている。タバコには、ニコチンというアルカロイドが含まれていて、喫煙の場合には多くが燃えてしまうため体内に入る量はわずかだが、誤って食べた場合、摂取量が多ければ死に至る。乳幼児が誤食し騒ぎになることは、昔も今もかわらない。
  一般に、ナス科、キンポウゲ科、キョウチクトウ科、トウダイグサ科にはアルカロイドを含む植物が多く、有毒とされている。早春に現れるハシリドコロ(Scopolia japonica)は、山菜との誤食で話題になるナス科の植物。先程のチョウセンアサガオと同様の成分を含み、瞳孔が開くことで様々な幻覚症状が現れると言われている。またミステリー小説に頻繁に登場するキンポウゲ科のヤマトリカブト(Aconitum japonicum)にはアコニチンが含まれ、摂取すれば痙攣や呼吸麻痺を引き起こし死に至る。

厚生労働省が発表している自然毒中毒の統計資料を見ると、ジャガイモ(Solanum tuberosum)中毒が毎年のように起きている。古くから品種改良されてきた身近な食材でありながら、中毒が後を絶たない。ナス科にはアルカロイドが含まれていると前記したが、食品として流通しているナス科植物のジャガイモ、トウガラシ、トマト(Solanum lycopersicum)にも、それぞれソラニン、カプサイシン、トマチンといったアルカロイドが含まれている。身近な食材であることで、毒成分のことをつい忘れがちであり、注意を怠ったために中毒が発生している。また食中毒という一面から、加熱すれば大丈夫であるといった誤った認識のために事故を根絶できないのかもしれない。ジャガイモ中毒の多くは、小学校などで子どもたちが栽培したジャガイモを子どもたちが調理した場合に起こっている。ジャガイモが十分に土の中で生育できず、日光によって多量のアルカロイドを生成しているにもかかわらず、芽や皮が正しく取り除かれないまま、調理されたことが原因と推察できる。グリコアルカロイドと総称されるジャガイモのソラニンやチャコニンは、煮炊きする程度の加熱では分解しない。日光に当たるなど貯蔵方法が悪ければ、スーパーで買ってきたジャガイモでもアルカロイドの含量が増加する。普段食べ慣れている食材であっても、正しく取り扱うことが重要である。身近で事故が発生していないためか、山菜を代表するワラビ(Pteridium aquilinum)に家畜を殺す力があることはあまり知られていない。人での事例はまだないようであるが、過去にはワラビによる家畜の中毒死が報告されている。発癌物質のプタキロサイドを含むことから、正しくあく抜き処理をしないと、人もワラビ中毒を引き起こしたり、癌を発症する可能性が高くなったりする。しかしながら、この10年間にワラビによる人の中毒が報告されていないことを考えると、ジャガイモの場合とは違い、食材として正しく処理されているようである。今後も、山菜の正しい下ごしらえの方法が子どもたちに受け継がれていくことを願うばかりである。
  このように、山菜や野菜として日頃から食用にされている植物であっても、中毒を引き起こすことがあり油断はできない。以前、沖縄県でヘチマ(Luffa aegyptica)が原因と思われる食中毒が発生し、原因物質としてククルビタシンという成分が疑われた。ククルビタシンに関しては、ユウガオ(Lagenaria siceraria var. hispida)を食べて中毒を起こしたとか、ズッキーニ(Cucurbita pepo L. 'Melopepo')やヒョウタン(Lagenaria siceraria)を食べて中毒を起こした事例が報告されている。沖縄県衛生環境研究所では、ゴーヤ(Momordica charantia)より苦いヘチマやユウガオに注意を呼び掛けている。ククルビタシンは、ウリ科植物に特有のステロイドの一種で、量の多少はあるがヘチマやズッキーニ以外にもカボチャ(Cucurbita maxima)、キュウリ(Cucumis sativus)、メロン(Cucumis melo)、スイカ(Citrullus lanatus)などに含まれている。
  ところで、ユウガオに関しては、自然毒のリスクプロファイル(厚生労働省: http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuchu/poison/index.html)に記載があるので少し紹介しておく。ユウガオは、一年生のつる植物で茎は分岐して20mに達する。夕方に白い花が咲いて翌朝にしぼんでしまうことからユウガオの名がついたようだが、ヒルガオ科のアサガオ(Pharbitis nil)、ヒルガオ(Calystegia pubescens)、ヨルガオ(Ipomoea alba)とはまったく別の植物。同属植物には観賞用に栽培されるヒョウタンがある。どちらも苦味(ククルビタシン類)成分を含むが、苦味が少ない品種が食用として選別されてユウガオになったといわれている。大きな果実を実らせることが特徴で、果実は容器としても用いられる他、長く剥いて加工したものがかんぴょう(干瓢)として食用に利用される。果実の形がよく似た植物にトウガン(Benincasa hispida)がある。こちらは、白ではなくて黄色い花が7月頃に咲く、夏野菜。ただし、果皮が固くカボチャのように丸ごと冷暗所に保存すれば冬まで保存できることから冬瓜の名がついたらしい。夏野菜ということで体を冷やす作用があり、種子は局方生薬のトウガシになる。
  話を戻して、ゴーヤは別名のニガウリの名前が示すように苦い野菜である。ククルビタシンも含まれているが、苦味の本体はモモルデシンといわれている。どこかのHPには、モモルデシンを食べても中毒にならないとの記載があるが、ククルビタシンと同系統の化合物であることから摂取量によっては問題が出るのではないかと危惧している。国立健康・栄養研究所のHP(http://hfnet.nibiohn.go.jp/ 、“ゴーヤ”で検索)では、妊婦や授乳中には、ゴーヤの摂取を避けた方がよいとの報告もある。
  食経験のある食材であっても、知らないうちに野生種との交雑が起こったり、栽培条件によっては過大なストレスがかかり有毒物質を作り出していることも考えられる。ウリ科の場合は、果実の蔓の付いている部分に、特にククルビタシンが多いといわれているため、調理の前にその部分を少しなめて、ゴーヤのように苦いようであれば食べない方が賢明。自分の身は自分で守る。なお、厄介者と思われているククルビタシンには、癌細胞の増殖抑制作用が知られており、将来の医薬品への期待もあり、まさに、表裏一体の化合物である。

最近気になったものに『Goji Berry』がある。この聞きなれない単語を学生にきいてみると、スーパーフードで、カロリーが低くて栄養があって、・・・・と話が続き、若者の間ではよく知られているようだ。調べてみるとクコの実だった。薬膳料理で出てくるおかゆの上にのっている赤い干しブドウのような生薬。日本薬局方によれば、クコシの生薬ラテン名はLYCII FRUCTUS、英名はLycium Fruit、基原植物はナス科のクコ Lycium chinenseLycium barbarum の2種。日本でもクコは、海岸や河原などでよく見かける。海岸を散歩していて赤い実がやたらと目についた記憶があり、虫食いだらけの葉も印象に残っている。実際、薬草園のクコも葉は常に食害を受けている。食害を受けても毎年春には元気に萌芽してくる様子は、なにかしら生命力を期待させられる。昭和40年頃にもクコのブームがあり、その時は葉(枸杞葉)を乾燥してお茶にしていた。更にさかのぼって、平安や江戸の時代にもブームがあったらしく、もっと古くは神農本草経の上品に収載されている。特に塩ゆでした若葉をご飯に混ぜたクコ飯は古くから食べられている。中国では果実の大きいナガバクコ(Lycium barbarum)が、おもに寧夏で栽培され、寧夏枸杞として商品化されている。鮮やかな赤色が特徴で、薬膳などの食材として日本でも流通している。(なお、酸味が強かったり、数年たっても鮮やかな赤色をしているものは硫黄燻蒸されているかも?? しれないので注意が必要)。この人気のGoji Berryだが、アルカロイドのベタインを含有しているため妊婦には禁忌。若い女性に人気とのことだが、多量に摂取する現状に不安を感じる。

科学の進歩にともない新たな情報がもたらされると、植物に対する認識が変化する。コンフリーの名で知られるヒレハリソウ(Symphytum officinale)は、明治時代に家畜飼料として導入され、昭和40年代には健康食品ブームに乗ってその消費が飛躍的に拡大した。形状が似ているジギタリス(Digitalis purpurea)を間違って誤食する事件が起きるまでに食品としての認識が広まった。しかし、平成16年に事態は一変。含有するピロリジジンアルカロイドが原因で肝障害が発生する事例が海外で報告され、食用としての利用は禁止された。家畜飼料としては引き続き使用されていたが、現在ではその姿は消えてしまった。ピロリジジンアルカロイドは、コンフリーが属するムラサキ科をはじめマメ科やキク科などに確認されている。春を告げる山菜の代表、フキノトウ(Petasites japonicus)にも含まれているため、充分にあく抜きした上で食べ過ぎには注意が必要ということになる。

山菜に関しては、誤食による中毒が毎年報道されている。中毒原因として多いのはバイケイソウ類で、10年間で34件を数える。コバイケイソウ(Veratrum stamineum)は、バイケイソウ(Veratrum album subsp. oxypetalum)に比べて標高が高いところや、主に日本海側に多く分布している。新芽の時の形態が山菜として食されるオオバギボウシ(Hosta montana)やギョウジャニンニク(Allium victorialis subsp. platyphyllum)と類似するため、誤食による中毒被害があとを絶たない。バイケイソウ類にはプロトベラトリンやベラトラミンなどのアルカロイドが含まれ、摂取した場合30分~1時間で嘔吐やしびれが現れる。生長した植物では容易に区別がつくが、ほんの少しの新芽が伸びた早春の山菜の時期では区別が難しい。実際、分布域が重複していることもあり、早春では殆ど見分けがつかないことがある。また、従来の植物図鑑は文章が中心で、補足の図もほとんどが線画だったため、経験を積まないと実際の植物と比べてもよくわからなかった。そのため、採取に際しては躊躇する場面もあったと想像できる。しかし、近年出版されている植物写真集や山菜ガイドブックには多くの写真が掲載され、より身近に植物を感じることができるようになった。そのため、安易に山菜を採取するケースが増加していると考えられる。掲載された写真は、植物の特徴を強調したものではなく、類似の植物を区別するには不向きな場合もある。区別点がハッキリしない写真では、誤認する可能性が高い。よって従来通り、文章をよく読んで形態的な特徴をよく理解した上で採取することが不可欠である。

植物による被害には、山菜の誤食により発症する食中毒と、接触によるかぶれなどが挙げられる。植物は食べ物としてばかりでなく観賞用としても身の回りにたくさん存在しており、毒草ではないが花粉症などのかたちで人に被害をもたらす場合もある。また、観葉植物による被害は人ばかりでなくペットにまで広がり、最近の話題となっている。
  野生のフクジュソウ(Adonis ramosa)は近年少なくなっているが、早春に咲く花として人気が高く、江戸時代より観賞用として栽培されてきた。シマリン、アドニトキシンなどの強心配糖体が含まれるため薬用とされたこともあるが、素人が利用できるものではない。摂取すれば、嘔吐を引き起こし、呼吸困難、心臓麻痺へと続き死亡する場合もある。フクジュソウが属するキンポウゲ科には、人への生理活性が強い物質を含むものが多い。例えばアネモネ(Anemone coronaria)、オキナグサ(Pulsatilla cernua)、シュウメイギク(Anemone hupehensis var. japonica)、センニンソウ(Clematis terniflora)、テッセン(Clematis florida)、ラナンキュラス(Ranunculus asiaticus)など花屋で簡単に手に入るこれらの植物には、プロトアネモニンが含まれている。この化合物を含む乳液に接触するとかぶれを引き起こす。また、クリスマスローズ(Helleborus niger)やハナトリカブト(Aconitum carmichaeli)には、それぞれ強心配糖体のヘレブリンやアコニチンが含まれている。クリスマスローズは、12月頃に白いバラのような花を咲かせることからついた名前で、花弁のように見えるものは植物学的にはガク片であり、長期間落ちることはない。最近では1~3月に花をつける同属の植物がクリスマスローズとして普及している。特に後者は受験シーズン中にガクを落とさないことから、『学(ガク)を落とさない』→『合格の花』として受験生への人気の贈り物であるが、強心配糖体を含む有毒植物であることを忘れてはいけない。
  この他にユリ科のオモト(Rohdea japonica)やスズラン(Convallaria keiskei)、ゴマノハグサ科のジギタリスにも順番にロデキシン、コンバラトキシン、ジギトキシンという強心配糖体が含まれている。
  また、冒頭でもふれたがキョウチクトウ科の植物も毒を含んでいる。例えば、ニチニチソウ(Catharanthus roseus)は観賞用に販売されているため簡単に入手できるが、作用の強いビンカアルカロイドを含んでいる。このアルカロイドは、医薬品(硫酸ビンクリスチン)の原料となっているが、副作用が強く扱いには注意が必要とされている。ニチニチソウを薬用植物として扱っている書籍もあるが、観賞用にとどめておいて欲しい植物の一つである。キョウチクトウ(Nerium oleander var. indicum)は葉の気孔が特殊な形をしているため、排気ガスが多い場所でも他の植物に比べ枯れることが少ない。そこで高速道路の植え込みに利用されたり、花も綺麗なため公園や庭などにも植えられたりしているが、強心配糖体(オレアンドリン)を含んでいる。毒草の本にはアレキサンダー大王の軍隊やナポレオンの軍隊が、野営の際にキョウチクトウの枝を利用したために多くの兵士が中毒死したという話にいきあたる。アウトドア関連商品があふれている現代に、キョウチクトウの枝を箸やバーベキューの串に使うことはないと思うが、高速道路で大事故が起きてキョウチクトウの植え込みが燃えたとしたら、煙によって広範囲に中毒が及ぶのではないかと想像を巡らせてしまう。
  ヒガンバナ科のスイセン(Narcissus tazetta)、タマスダレ(Zephyranthes candida)、ヒガンバナ(Lycoris radiata)には誤食によって嘔吐や下痢症状を引き起こすアルカロイド(リコリン)が含まれている。食のグローバル化にともない食材も多様化し、小型のたまねぎ(Allium cepa)であるペコロスが利用されるようになり,それとスイセンの球根を間違って調理した事例が報告されている。球根を間違えるだけではなくニラ(Allium tuberosum)と間違ってその葉を味噌汁の具や炒め物とした事例が報告されている。ニラには特有なにおいがあり誤認することはないと考えられるが、実際には中毒事件が数多く発生している。舞台は徳島県の小学校の調理実習室。職員が餃子の具としてニラとスイセンを間違えて用意したらしい。ガーデニングブームで、ニラなどの野菜が庭のスイセンのすぐ横で栽培される場合が増え、誤認が増えたのかもしれない。
  リコリンを含むヒガンバナは、モグラなど小動物から水田のあぜを守る古人の知恵として農耕生活と深く結びついてきた(リコリンには、小動物に対する忌避作用はないが、ミミズなどがいなくなるため近寄らなくなるらしい)。また、球根をすりつぶして水で何度も晒して得たデンプンは、飢饉から人々を救ったともいわれている。白や黄色の花に品種改良された植物が、その属名からリコリスと名づけられて販売されているが、有毒であることには変わりない。この場合はlycoris(or licoris)であり、スペインカンゾウ(Glycyrrhiza glabra)の英名liquorice(or licorice)とカタカナ標記が同じになり、混同しないよう注意が必要。スペインカンゾウは、漢方薬に配合される生薬の基原植物であり、甘味料などとしても広く食用に利用されている。
  クリスマスシーズンが近づくと、鮮やかな赤色の苞葉をつけた鉢植えがあちらこちらで売られるようになる。クリスマスの華やかなイメージとは裏腹にポインセチア(Euphorbia pulcherrima)の茎や葉を傷つけたときに出る白い汁には、水ぶくれや炎症を起こす成分(フォルボール)が含まれている。トウダイグサ科には同様の成分を含む植物が多く、注意が必要。特にトウゴマ(Ricinus communis)、蓖麻の方がなじみ深いかも知れないが、もっとおそろい物を隠し持っている。種子を圧搾して得られるヒマシ油は、日本薬局方にも収載される医薬品であり、下剤として利用される。しかし、その搾りかすには猛毒が含まれていることはあまり知られていない。搾りかすに含まれるということは、種子に含まれているということ。その正体はリシンというタンパク質。必須アミノ酸にもリシンというものがあるが、こちらはlysineで、トウゴマに含まれるタンパク毒はricin。カタカナ標記では同じになり、リコリス同様に注意が必要。毒性が強く生物兵器として利用される可能性があり、リシンは化学兵器禁止法の中で特定物質として指定されている。また、名前が似ているからといって、ゴマ(Sesamum indicum)とは無縁の物であり決して口にしてはいけない。
  園芸植物には食品に利用される植物と名前のよく似たものがあり、誤食に繋がることがある。例えばカロライナジャスミン(Gelsemium sempervirens)は、アルカロイド(ゲルセミン)を含むマチン科の植物。常緑の蔓性で耐寒性が強いために観葉植物として全国的に広がっている。春にはとても毒があるとは思えない、香りのある黄色い花をつける。名前が似ていて、花によい香りもあるが、ジャスミン茶に利用されるモクセイ科のジャスミン(Jasminum sambac)とは全くの別物。名前の類似性からハーブティーだと思い込んで飲用した結果、中毒を起こした事例が報告されている。またキダチタバコ(Nicotiana glauca)、別名カラシダネと呼ばれる植物の中毒が発生している。名前からカラシナ(Brassica juncea)と勘違いしたことは簡単に想像がつき、キダチタバコと呼ばれていれば決して口にはしなかったと思われる。
  この他にも、青酸配糖体を含む植物など、書き尽くせないほど有毒物質を含む植物が身近にある。観賞を目的としているため誤食されることは少ないが、管理の際に植物の汁がついたり、触れたり、花粉によって事件が起きることがある。だからといって、毒草を遠ざけるのではなく、どう取り扱うかを薬の専門家である薬剤師が正しく指導することが重要と考える。

医師であり錬金術師であったパラケルススは「全てのものは毒であり、毒でないものなど存在しない。その服用量こそが毒であるか、そうでないかを決めるのだ」と言っている。自然の植物にはもちろん、観賞用の園芸植物にも、食べ物にも毒が含まれることがある。しかし、毒は取り扱う方法を間違えなければ私たちに牙を剥くことはなく、上手に利用することで医薬品になったりもする。危険だからと、避けるのではなく、相手を理解してどのように向き合うかを考えることが重要なことである。毒とのつきあい方は、人とのつきあい方に似ているのかも知れない。
  身近な毒についての正しい知識の普及は重要なことであり、前述したように厚生労働省では自然毒のリスクプロファイルをHPで公開している。

略歴

酒井英二(サカイエイジ)
岐阜薬科大学 薬草園研究室 教授

学歴

昭和61年3月
岐阜薬科大学 薬学部 製造薬学科 卒業
昭和61年4月
岐阜薬科大学大学院博士前期課程 入学
昭和63年3月
同 修了
昭和63年4月
岐阜薬科大学大学院博士後期課程 入学
平成2年6月
同 学位取得後退学(薬学博士)

職歴

平成2年10月
厚生省 国立衛生試験所 筑波薬用植物栽培試験場 研究員
平成10年7月
同 和歌山薬用植物栽培試験場に配属換
平成11年4月
同 主任研究官
平成13年4月
岐阜薬科大学 薬草園研究室 助手
平成17年4月
同 講師
平成18年10月
同 助教授
平成19年4月
同 准教授
平成26年4月
同 教授,同 薬草園園長

専門
薬用植物の栽培と加工調製、生薬及び粉末生薬の鑑定

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