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食品表示基準における熱量の算出方法
一般財団法人 食品分析開発センターSUNATEC
第一理化学検査室

はじめに

熱量の算出方法は、食品表示基準について(平成27年3月30日 消食表第139号)(以下、食品表示基準)における算出方法と日本食品標準成分表2015年版(七訂)(以下、食品成分表)における算出方法では異なる。それは、熱量の算出の際に使用する換算係数が異なること、また、含有される食品成分によっては、どの成分をどこから差し引くかが異なることなどがあげられる。
 食品表示基準において分析結果に基づいて熱量を算出する方法では、定量したたんぱく質、脂質及び差し引きによって得られた炭水化物の量にそれぞれ指定のエネルギー換算係数を乗じたものの総和とするとされている。また、糖質と食物繊維の含量を表示する場合においては、糖質と食物繊維の量にそれぞれ指定のエネルギー換算係数を乗じたものの総和を用いて計算すると定められている。
 一方、食品成分表における熱量の算出方法では、可食部100g当たりのたんぱく質、脂質及び炭水化物の量(g)に成分ごとに定められたエネルギー換算係数を乗じて算出するとされている。また、食品成分表では、食品表示基準のように炭水化物を糖質と食物繊維に分けて、それぞれ指定のエネルギー換算係数を乗じて算出する方法については触れられていないため、原則、たんぱく質、脂質及び炭水化物からの計算となる。
 ここでいうエネルギー換算係数とは、米国のW.O.Atwaterが提案したものが一般的であり、物理的燃焼熱を消化吸収率と排泄熱量で補正して求められた係数である。こうして求められたエネルギー換算係数が、たんぱく質:4 kcal/g、脂質:9 kcal/g及び炭水化物:4 kcal/gであり、「Atwaterの換算係数」と呼ばれている。これらのエネルギー換算係数は、多くの食品についての平均値であり、食品表示基準においては全ての食品に採用されている。一方、食品成分表では、日本人が摂取する主要な食品については、実測によって求めたエネルギー換算係数を採用し、FAO/WHOによるエネルギー換算係数がある場合はその係数を採用している。これらのエネルギー換算係数が設定されていない食品についてのみ、Atwaterのエネルギー換算係数を採用している。
 食品表示基準と食品成分表の熱量の算出方法は、換算係数が異なるだけでなく、原材料に使用されている食品成分によっては、別に定量して差し引くなど、算出方法も異なる。そのため、熱量の算出方法の概念によっては、算出される熱量に大きく影響する。
 そこで本稿では、食品表示基準に基づく栄養成分表示に関わる熱量の算出方法と実際に数値を用いて算出した際、熱量がどの程度変動するかについて紹介する。

熱量の算出方法

熱量は、修正アトウォーター法により算出する。すなわち、熱量は科学的知見に基づき定められたエネルギー換算係数である、たんぱく質:4 kcal/g、脂質:9 kcal/g、炭水化物:4 kcal/gをそれぞれの成分量(g/100g)(以下、成分量の単位は、g/100gとする。)に乗じたものの総和により算出される(下式参照)。

熱量(kcal/100g) = たんぱく質×4 + 脂質×9 + 炭水化物×4

炭水化物は、当該食品の質量から、水分、たんぱく質、脂質及び灰分量を差し引くことにより算出される(下式参照)。

炭水化物(g/100g) = 100 - (水分 + たんぱく質 + 脂質 + 灰分)

また、食品表示基準において、炭水化物は必ず表示が必要ですが、その内訳として、糖質と食物繊維に分けて表示することができる。糖質は、当該食品の質量から、水分、たんぱく質、脂質、食物繊維及び灰分量を差し引くことにより算出される(下式参照)。

糖質(g/100g) = 100 - (水分 + たんぱく質 + 脂質 + 食物繊維 + 灰分)

炭水化物の内訳として、糖質と食物繊維を表示する場合は、それぞれ指定のエネルギー換算係数である、糖質:4 kcal/g、食物繊維:2 kcal/gをそれぞれの成分量に乗じたものの総和により算出される(下式参照)。

熱量(kcal/100g) = たんぱく質×4 + 脂質×9 + 糖質×4+ 食物繊維×2

これまでにあげた成分以外にも、エネルギー換算係数が定められている成分があり、それらの成分を含む場合、別に定量して熱量の算出に考慮するか否かは任意とされている。また、一部の食品では修正アトウォーター法で算出した熱量に0.5を乗じるものもある。以下に、食品表示基準において示された一例を紹介する。

1)アルコール分を含む場合

アルコール分のエネルギー換算係数は、7 kcal/gと定められており、別に定量したアルコール分の量に7 kcal/gを乗じて熱量を算出する。アルコール分は、水分の分析において加熱乾燥法を用いた場合、加熱によって揮発して水分として測り込まれるため、事前に乾燥減量の値から差し引く必要がある。熱量の算出は、アルコール分を炭水化物または糖質の量から差し引き、別途、アルコール分の量にエネルギー換算係数を乗じて算出される(下式参照)。

ⅰ)たんぱく質、脂質、炭水化物、アルコール分から算出

熱量(kcal/100g) = たんぱく質×4 + 脂質×9 + (炭水化物 - アルコール分)×4
+ アルコール分×7
ただし、水分 = 乾燥減量 - アルコール分

ⅱ)たんぱく質、脂質、糖質、食物繊維、アルコール分から算出

熱量(kcal/100g) = たんぱく質×4 + 脂質×9 + (糖質 - アルコール分)×4
+ 食物繊維×2 + アルコール分×7
ただし、水分 = 乾燥減量 - アルコール分
2)有機酸を含む場合

有機酸のエネルギー換算係数は、3 kcal/gと定められており、別に定量した有機酸の総量に3 kcal/gを乗じて熱量を算出する。有機酸の中でも揮発性の有機酸である酢酸は、水分の分析に加熱乾燥法を用いた場合、加熱によって揮発して水分として測り込まれるため、アルコール分を含む場合と同様に乾燥減量からその量を差し引く必要がある。熱量の算出は、有機酸を炭水化物または糖質の量から差し引き、別途、有機酸の量にエネルギー換算係数を乗じて算出される(下式参照)。

有機酸が「酢酸」の場合
 ⅰ)たんぱく質、脂質、炭水化物、酢酸から算出

熱量(kcal/100g) = たんぱく質×4 + 脂質×9 + (炭水化物 - 酢酸)×4 + 酢酸×3
ただし、水分 = 乾燥減量 - 酢酸

ⅱ)たんぱく質、脂質、糖質、食物繊維、酢酸から算出

熱量(kcal/100g) = たんぱく質×4 + 脂質×9 + (糖質 - 酢酸)×4 + 食物繊維×2+ 酢酸×3
ただし、水分 = 乾燥減量 - 酢酸
3)難消化性糖質を含む場合

近年、低カロリー等を目的として難消化性糖質を使用した食品が増加しており、このような食品の場合、その難消化性糖質を別に定量して、熱量を算出することも可能である。熱量の算出は、難消化性糖質を炭水化物または糖質の量から差し引き、別途、難消化性糖質の量にエネルギー換算係数を乗じて算出される(下式参照)。エネルギー換算係数が定められた難消化性糖質は、表-1のとおりである。

難消化性糖質が「エリスリトール」の場合
 ⅰ)たんぱく質、脂質、炭水化物、エリスリトールから算出

熱量(kcal/100g) = たんぱく質×4 + 脂質×9 + (炭水化物 - エリスリトール)×4
+ エリスリトール×0

ⅱ)たんぱく質、脂質、糖質、食物繊維、エリスリトールから算出

熱量(kcal/100g) = たんぱく質×4 + 脂質×9 + (糖質 - エリスリトール)×4
+ 食物繊維×2 + エリスリトール×0

表-1 難消化性糖質のエネルギー換算係数

難  消  化  性  糖  質
エネルギー
換算係数(kcal/g)
エリスリトール
0
スクラロース
ソルボース
2
マンニトール
ガラクトピラノシル(β1-3)グルコピラノース
ガラクトピラノシル(β1-6)グルコピラノース
ラクチュロース
イソマルチトール
パラチニット
マルチトール
ラクチトール
ガラクトピラノシル(β1-6)ガラクトピラノシル(β1-4)グルコピラノース
ガラクトピラノシル(β1-3)ガラクトピラノシル(β1-4)グルコピラノース
ガラクトシルスクロース(別名 ラクトスクロース)
ガラクトシルラクトース
キシロトリオース
ケストース
ラフィノース
マルトトリイトール
キシロビオース
ゲンチオトリオース
ゲンチオビオース
スタキオース
ニストース
ゲンチオテトラオース
フラクトフラノシルニストース
α-サイクロデキストリン
β-サイクロデキストリン
マルトシル β-サイクロデキストリン
ソルビトール
3
テアンデオリゴ
マルトテトライトール
キシリトール
4)きくいも、こんにゃく、藻類及びきのこ類の場合

修正アトウォーター法により求めた熱量に0.5を乗じて算出する(下式参照)。

熱量(kcal/100g) = (たんぱく質×4 + 脂質×9 + 炭水化物×4) × 0.5

熱量算出時に留意すべき点

食品によっては含まれる成分により、熱量の算出に必要なたんぱく質、脂質及び炭水化物の量に影響するものがある。ここで、食品表示基準に示された成分の一例を紹介する。
 たんぱく質の量において、たんぱく質以外の窒素成分を豊富に含む食品にあっては、窒素定量換算法を適用して得られたたんぱく質の量は、実際量よりも過大に評価されてしまう。代表的な食品として、白子のように核酸を豊富に含む食品、カフェインを豊富に含む食品、大豆レシチン含有食品のように含窒素脂質であるレシチンを豊富に含む食品などがある。このような場合、成分によっては、別に定量してたんぱく質の量から補正することもある。
 脂質及び灰分の量において、大豆レシチンを含む食品などは、リン脂質であるレシチンを豊富に含むため、リンが脂質と灰分の両方に重複して測り込まれる。
 炭水化物及び糖質の量において、エネルギーとして利用されないタンニンやカフェイン、ポリフェノール及び水溶性ビタミン等を含有する食品では、それらの成分が炭水化物として算出されるため、その寄与が無視できない場合には、別に定量して、差し引いたものを炭水化物とすることもある。

熱量の算出方法の違いによる影響

例えば、100g当たり、たんぱく質30 g、脂質10 g、炭水化物40 g、食物繊維5 g、エリスリトール10 gを含む食品に対して、たんぱく質:4 kcal/g、脂質:9 kcal/g、炭水化物:4 kcal/g、糖質:4 kcal/g、食物繊維:2 kcal/g、エリスリトール:0 kcal/gのエネルギー換算係数を用いて、この食品の熱量を算出する場合、少なくとも下記の4種類の算出方法が考えられる。

ⅰ)たんぱく質、脂質、炭水化物から算出
熱量(kcal/100g) = 30×4 + 10×9 + 40×4 = 370

ⅱ)たんぱく質、脂質、糖質、食物繊維から算出
熱量(kcal/100g) = 30×4 + 10×9 + (40 - 5)×4 + 5×2 = 360

ⅲ)たんぱく質、脂質、炭水化物、エリスリトールから算出
熱量(kcal/100g) = 30×4 + 10×9 + (40 - 10)×4 + 10×0 = 330

ⅳ)たんぱく質、脂質、糖質、食物繊維、エリスリトールから算出
熱量(kcal/100g) = 30×4 + 10×9 + (40 - 5 - 10)×4 + 5×2 + 10×0 = 320

このように、同一食品であっても、どの成分の量を使用して熱量を算出するかによって、熱量に差異を生じる場合があり、その差異の量は、それぞれの成分の量に依存して変動する。そのため、熱量を算出する目的を鑑み、算出方法を選択する必要がある。

まとめ

食品表示基準では、一般表示事項として、熱量、たんぱく質、脂質、炭水化物、ナトリウム(食塩相当量に換算したもの)のそれぞれの量並びに表示しようとする栄養成分(表示栄養成分)がある場合は、その含有量の表示が義務付けられているため、表示を行う事業者等において、今回、例示した以下の算出方法を含め、表示の目的に適した熱量の算出方法を採用することになる。

ⅰ)たんぱく質、脂質、炭水化物から算出
熱量(kcal/100g) = たんぱく質×4 + 脂質×9 + 炭水化物×4

ⅱ)たんぱく質、脂質、糖質、食物繊維から算出
熱量(kcal/100g) = たんぱく質×4 + 脂質×9 + 糖質×4 + 食物繊維×2

ⅲ)たんぱく質、脂質、炭水化物、アルコール分から算出
熱量(kcal/100g) = たんぱく質×4 + 脂質×9 + (炭水化物 - アルコール分)×4
+ アルコール分×7
ただし、水分 = 乾燥減量 - アルコール分

ⅳ)たんぱく質、脂質、糖質、食物繊維、アルコール分から算出
熱量(kcal/100g) = たんぱく質×4 + 脂質×9 + (糖質 - アルコール分)×4
+ 食物繊維×2 + アルコール分×7
ただし、水分 = 乾燥減量 - アルコール分

ⅴ)たんぱく質、脂質、炭水化物、有機酸(酢酸)から算出
熱量(kcal/100g) = たんぱく質×4 + 脂質×9 + (炭水化物 - 酢酸)×4 + 酢酸×3
ただし、水分 = 乾燥減量 - 酢酸

ⅵ)たんぱく質、脂質、糖質、食物繊維、有機酸(酢酸)から算出
熱量(kcal/100g) = たんぱく質×4 + 脂質×9 + (糖質 - 酢酸)×4 + 食物繊維×2 + 酢酸×3
ただし、水分 = 乾燥減量 - 酢酸

ⅶ)たんぱく質、脂質、炭水化物、難消化性糖質から算出
熱量(kcal/100g) = たんぱく質×4 + 脂質×9 + (炭水化物 - 難消化性糖質)×4
+ 難消化性糖質×指定のエネルギー換算係数

ⅷ)たんぱく質、脂質、糖質、食物繊維、難消化性糖質から算出
熱量(kcal/100g) = たんぱく質×4 + 脂質×9 + (糖質 - 難消化性糖質)×4
+ 食物繊維×2 + 難消化性糖質×指定のエネルギー換算係数
出典
食品表示基準について(平成27年3月30日 消食表第139号) 消費者庁
日本食品標準成分表 2015年版(七訂) 文部科学省
日本食品標準成分表 2015年版(七訂)分析マニュアル 文部科学省
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