(一財)食品分析開発センター SUNATEC
HOME > サイクラミン酸試験法について
サイクラミン酸試験法について
一般財団法人 食品分析開発センターSUNATEC
第二理化学検査室

1.サイクラミン酸とは

サイクラミン酸(シクロヘキシルスルファミン酸)は合成甘味料として、日本では1956 年から用いられてきた。水に溶け熱に強く、砂糖の数十倍の甘味度を有し、砂糖に似た快い甘味、果実などのフレーバーとの相性がよいとされるこの甘味料は“チクロ”とよばれ、加工食品業界で特に重宝された。しかし、ラットに膀胱がんを発生する疑いがあるとのアメリカの報告[1]を受け、1969 年にはアメリカに次いで日本でも使用が禁止された。このとき行政はサイクラミン酸が使用されているすべての製品の回収を指示したため、食品業界は混乱をきたし、また、国民の添加物への関心を高めるきっかけになったともいわれる。一方で、中国、台湾、EU諸国では当時から現在に至るまで甘昧料としての使用が認められており、サイクラミン酸を使用した食品が日本に輸入される可能性がある。そのためサイクラミン酸は指定外添加物として行政検査の対象であり[2]、2017年度においては、中国、台湾およびベトナムの対象製造者で製造された食品についての検査命令が指示されているほか、その他の国々からの輸入食品についても、モニタリング検査や自主検査が積極的に行われている。平成28年度の違反事例を以下に示す(表1)。続いてサイクラミン酸の試験法について解説する。

表1:サイクラミン酸の違反事例(2016年度)[3]

2.サイクラミン酸試験法

現在、厚生労働省から通知されているサイクラミン酸の試験法[4]は、水で抽出した後、固相抽出カートリッジおよび陰イオン交換カートリッジによる精製を行い、強酸性溶液中で次亜塩素酸ナトリウムと反応させ、N,N-ジクロロシクロヘキシルアミンへの誘導体化を行い、高速液体クロマトグラフ(HPLC)により定量する方法である。図1に試験法のフローチャートを示す。


図1:サイクラミン酸の試験法のフローチャート

サイクラミン酸は、その化学的性状から、分析機器としてガスクロマトグラフ(GC)よりHPLCによる測定が適している。しかし、サイクラミン酸は吸収波長および蛍光波長をもたないため、HPLCの一般的な検出器である紫外部吸収検出器(UV)および蛍光検出器(FL)では検出することができない。そのため、サイクラミン酸を図2に示す反応で塩素化し、UVの吸収波長をもつN,N-ジクロロシクロヘキシルアミンへと変換している。


図2:反応機構

また、この誘導体を含む試験液は、ガスクロマトグラフ-質量分析計(GC-MS)および液体クロマトグラフ-質量分析計(LC-MS)によっても測定することが可能である。必要な場合には、これらの方法を用いて得られたマススペクトルの比較によってサイクラミン酸の定性、確認を行うことができる。電気伝導度検出器(CD)やMS、タンデム質量分析計(MS/MS)を用いた誘導体化を必要としない、迅速な方法も検討されている[5], [6], [7]
 図1中のカラム精製は、これを行わない場合、妨害成分により偽陽性となることがあったため、2003年の通知法から追加された。また通知法では、スクリーニング試験として、カラム精製を省略して検査を実施し、検出しない場合はこれを分析結果とできるとされている。固相抽出カートリッジには、C18充填剤量が900 mg以上のもの、陰イオン交換カートリッジには交換容量が0.1 mEq相当のものが使用できる。陰イオン交換カートリッジは酸性条件下ではサイクラミン酸を保持できないため、しめサバなどの食酢や醸造酢を使用した食品では、加熱後の抽出液のpHを調整してから使用する必要がある。またカラム精製は、その他の共存する有機物などの妨害成分を除去することで、誘導体化の際に妨害成分と反応する遊離塩素の消費を抑えることができると考えられる。衛生試験法・注解[8]では、妨害成分の除去に、透析および固相抽出カートリッジの併用による精製が示されている。なお、固相抽出カートリッジはロット間によって保持力が異なることが報告されており[9]、使用前にチェックすることが望ましい。

3.参考資料

[1] Price, J. M., Biava, C. G., Oser, B. L., Vogin, E. E., Steinfeld, J., and Ley,
H. L.:“ladder tumors in rats fed cyclohexylamine or high doses of a mixture of cyclamate and saccharin.” Science 167, 1131–1132.(1970)

[2] 厚生労働省HP:“検査命令通知(平成29年度)” http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/
yunyu_kanshi/kanshi/index.html

[3] 厚生労働省HP:“平成28年度輸入食品監視指導計画に基づく監視指導結果” http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/
yunyu_kanshi/kanshi/index.html

[4] 厚生労働省医薬食品局食品安全部監視安全課:“平成15年8月29日 食安監発第0829009号”(2003)

[5] 松本ひろ子, 萩野賀世, 板牧成恵, 粕谷陽子, 永山敏弘:“電気伝導度検出器付きHPLCによる食品中のサイクラミン酸の直接分析と7種甘味料の系統分析” 京都健康安全研究センター年報 56, 153-156.(2005)

[6] 山口瑞香, 尾花裕孝:“LC-MSによるサイクラミン酸分析法の検討” 大阪府立公衆衛生研究所研究報告 49, 7-10.(2011)

[7] 松本ひろ子, 平田恵子, 板牧成恵, 萩野賀世, 牛山博文:“サイクラミン酸、ズルチンのHPLCによる定量及びLC/MS/MSによる確認と8種甘味料の系統的分析” 京都健康安全研究センター年報 59, 129-135.(2008)

[8] 日本薬学会編:“衛生試験法・注解2015” 金原出版(2015)

[9] 山田利治, 土屋久世:“食品中のサイクラミン酸分析法の比較と改良” 神奈川県衛生研究所研究報告 33, 94-96.(2003)

他の記事を見る
ホームページを見る

サナテックメールマガジンへのご意見・ご感想を〈e-magazine@mac.or.jp〉までお寄せください。

Copyright (C) Food Analysis Technology Center SUNATEC. All Rights Reserved.