一般財団法人 食品分析開発センター SUNATEC
HOME > 食品用器具・容器包装の規格基準とポジティブリスト制度
食品用器具・容器包装の規格基準とポジティブリスト制度
国立医薬品食品衛生研究所 前食品添加物部長
河村 葉子

1.はじめに

食品関連事業者の方たちが食品の安全のために注意を払うべきことは、原料となる食品素材の鮮度、微生物汚染、残留農薬、残留動物薬、食品添加物、食品の調理加工工程、製造や保管の環境など多数ある。そして、器具・容器包装にも是非注意を払っていただきたい。食品衛生法第4条6項に、「この法律で食品衛生とは、食品、添加物、器具及び容器包装を対象とする飲食に関する衛生をいう」と定義されている。すなわち、器具・容器包装は食品衛生の三本柱の一つである。しかし、食品や添加物に比べ、一般に関心は薄いように思われる。器具・容器包装の規制について理解していただくために、器具・容器包装に関する食品衛生法や規格基準の概要を述べるとともに、現在検討が進められているポジティブリスト制度についても紹介する。

2.食品衛生法における器具・容器包装

2.1.器具・容器包装の定義

器具・容器包装とは何か。食品衛生法第4条の4及び5項にそれらの定義が示されている。器具については、「この法律で器具とは、飲食器、割ぽう具、その他食品又は添加物の採取、製造、加工、調理、貯蔵、運搬、陳列、授受又は摂取の用に供され、かつ、食品又は添加物に直接接触する機械、器具、その他の物をいう。ただし、農業及び水産業における食品の採取の用に供される機械、器具その他の物はこれを含まない。」としている。すなわち、農業や水産業で採取してからあと、食品や添加物と直接接触するすべてのもの(ただし「容器包装」を除く)が「器具」である。保存用の箱・コンテナ・タンク、食品の製造・加工装置、コンベア、パイプ、調理用器具、食器、はし、スプーンなどがある。
 一方、容器包装は、「この法律で容器包装とは、食品又は添加物を入れ、又は包んでいる物で、食品又は添加物を授受する場合そのまま引き渡すものをいう」としている。「容器包装」とは主に食品や添加物を販売するときの食品包装を指す。販売というのは消費者に販売する場合だけでなく、食品生産者が加工業者に、一次加工業者が二次加工業者になど食品チェーンの全ての段階が含まれる。箱、袋、瓶、缶、パック、カップ、トレイ、チューブ、蓋、パッキング、包装紙などの食品パッケージを指す。ただし、直接食品と接触しない外箱などは含まれない。
 器具と容器包装を合わせると、食品と接触するすべての物質が含まれ、EUでいうFood Contact Articleに相当する。

2.2.器具・容器包装の基本的な要件

食品衛生法では、前述の定義のほかに、器具・容器包装について守らなければならない基本的な要件を定めている。
 第15条では、「営業上使用する器具及び容器包装は、清潔で衛生的でなければならない。」という取扱原則を定めている。これが器具・容器包装の安全性の根幹である。
 第16条では、「有毒な、若しくは有害な物質が含まれ、若しくは付着して人の健康を損なうおそれがある器具若しくは容器包装又は食品若しくは添加物に接触してこれらに有害な影響を与えることにより人の健康を損なうおそれがある器具若しくは容器包装は、これを販売し、販売の用に供するために製造し、若しくは輸入し、又は営業上使用してはならない。」としている。第15条で定める「清潔で衛生的」に合致しない内容を具体的に示すとともに、そのような人の健康に悪影響を与える可能性のある器具・容器包装の販売等の禁止を定めている。
 第17条は平成14年に追加されたもので、特定の国、地域又は特定の者により製造される特定の器具・容器包装の販売等の禁止を定める。第8条の特定の食品・添加物の販売等の禁止に対応するものである。
 第18条では、「厚生労働大臣は、公衆衛生の見地から、薬事・食品衛生審議会の意見を聴いて、販売の用に供し、若しくは営業上使用する器具若しくは容器包装若しくはこれらの原材料につき規格を定め、又はこれらの製造方法につき基準を定めることができる。② 前項の規定により規格又は基準が定められたときは、その規格に合わない器具若しくは容器包装を販売し、販売の用に供するために製造し、若しくは輸入し、若しくは営業上使用し、その規格に合わない原材料を使用し、又はその基準に合わない方法により器具若しくは容器包装を製造してはならない。」としている。国は器具・容器包装に関する規格基準を設定し、これらに合致しない器具・容器包装は販売等が禁止される。
 第19条では、内閣総理大臣は、食品、添加物、器具・容器包装について表示の基準を定めることができるとしており、これに合う表示がなければ販売等が禁止される。
その他、第20条で虚偽表示等の禁止、第26条で検査命令、第27条で輸入の届け出などが定められている。
 一般に「食品衛生法適合」とは、第18条により設定された規格基準に合格した製品を指す場合が多い。しかし、真に食品衛生法に適合するためには、規格基準に合致するだけでなく、規格基準に記載されていない有毒又は有害な物質も含んでいない、清潔で衛生的な製品でなければならない。

3.器具・容器包装の規格基準

3.1.2つの規格基準

食品衛生法第18条の規定に基づいて、器具・容器包装では2つの規格基準が制定されている。1つは食品や添加物の規格基準が収載されている「食品、添加物等の規格基準(告示370号)」の第3にある「器具及び容器包装」であり、もう1つは「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令(乳等省令)」の別表四にある「乳等の器具若しくは容器包装又はこれらの原材料の規格及び製造方法の基準」である。前者はすべての器具・容器包装が対象である。一方、後者は乳及び乳製品(牛乳、加工乳、クリーム、発酵乳、乳酸菌飲料、乳飲料、調製粉乳等)に使用される器具・容器包装が対象であり、前者の上乗せ規制と位置づけられている。すなわち、乳及び乳製品の器具・容器包装は両方の規格基準に適合する必要がある。本稿では、以降は器具・容器包装の規格基準として前者を取り上げる。後者に関心がある方は乳等省令をご確認いただきたい。そのほかに、蛍光物質、割りばし中の防かび剤・漂白剤など通知による規定もある。

3.2.食品、添加物等の規格基準 第3

「食品、添加物等の規格基準 第3 器具及び容器包装」には、食品と接触して使用されるすべての器具・容器包装を対象とした規格基準が収載されている。内容はA~Fの項目で構成されている。
 「A 器具若しくは容器包装又はこれらの原材料一般の規格」では、主に器具・容器包装全般に関わる規格を定めている。器具における銅、鉛、それらの合金の規制、鉛含有量がメッキ用スズ、製造・修理用金属で0.1%以下、ハンダでは0.2%以下、アンチモンは製造・修理用金属で5%未満、合成着色料の規制、フタル酸ビス(2-エチルヘキシル)の規制などが定められている。さらに2012年からは、紙製器具・容器包装で紙中の水分又は油分が著しく増加する用途又は長時間加熱を伴う用途に使用するものに、古紙原料の使用を禁じる規定が追加された。
 「B 器具又は容器包装一般の試験法」、「C 試薬・試液等」には、DやEの規格で汎用される試験法や試薬・試液・標準溶液等がまとめられている。試験法としては、溶出試験の試験溶液調製法、蒸発残留物試験法、過マンガン酸カリウム消費量試験法、強度等試験法、添加剤試験法、モノマー試験法、原子吸光光度法、誘導結合プラズマ発光強度測定法などが収載されている。
 「D 器具若しくは容器包装又はこれらの原材料の材質別規格」では、ガラス製、陶磁器製又はホウロウ引き、合成樹脂、ゴム、金属缶について規格を定めており、その詳細は次項に述べる。なお、 木・紙・布製器具・容器包装、接着剤、印刷インク等については、材質別規格は設定されていない。
 「E 器具又は容器包装の用途別規格」では、容器包装詰加圧加熱殺菌食品及び清涼飲料水の容器包装の強度試験や材質、氷菓の製造等の器具、食品が部品に直接接触する自動販売機について規定している。
 「F 器具及び容器包装の製造基準」では、銅・銅合金製器具の食品接触面のメッキ処理、食品衛生法施行規則別表第1以外の合成着色料の使用禁止、氷菓の紙、経木等の殺菌、特定牛の脊柱の原材料への使用禁止、使用温度が40℃を超えるポリ乳酸製器具・容器包装のD-乳酸含有率は6%以下など器具・容器包装製造時の規定が記載されている。

3.3.器具若しくは容器包装又はこれらの原材料の材質別規格

前項で述べた「D器具若しくは容器包装またはこれらの原材料の材質別規格」は、器具・容器包装の規格基準の中心となるものであり、4種類の材質からなる器具・容器包装について規格を定めている。

1)ガラス製、陶磁器製又はホウロウ引きの器具・容器包装
 ガラス、陶磁器及びホウロウは、いずれもケイ酸塩を含む無機化合物を原料としており、また500℃以上の高温で製造されることから、有機化合物は残存しない。釉薬やクリスタルガラスなどで各種金属類、特にカドミウムや鉛を含有する可能性がある。そのため、ISO規格(4531、6486、7086)に準拠したカドミウム及び鉛の溶出試験が規定されている。平成20年に大幅に改正され、加熱調理用の区分が設定されるとともにカドミウム及び鉛限度値が大幅に引き下げられた。溶出試験は4%酢酸を用いて常温で暗所に24時間放置し、原子吸光光度法または誘導結合プラズマ発光強度測定法で定量する。カドミウム及び鉛の溶出量は表1に示す限度値以下でなければならない。

表1 ガラス製、陶磁器製又はホウロウ引きの器具・容器包装の規格
材質 製品区分 カドミウム
限度値

限度値
深さ 容量・用途
陶磁器 2.5 cm未満 0.7 µg/cm2 8 µg/cm2
2.5 cm以上 1.1 L未満 0.5 µg/ml 2 µg/ml
3 L未満 0.25 µg/ml 1 µg/ml
3 L以上 0.25 µg/ml 0.5 µg/ml
加熱調理用 0.05 µg/ml 0.5 µg/ml
ガラス 2.5 cm未満 0.7 µg/cm2 8 µg/cm2
2.5 cm以上 600 ml未満 0.5 µg/ml 1.5 µg/ml
3 L未満 0.25 µg/ml 0.75 µg/ml
3 L以上 0.25 µg/ml 0.5 µg/ml
加熱調理用 0.05 µg/ml 0.5 µg/ml
ホウロウ引き 2.5 cm未満 非加熱調理用  0.7 µg/cm2 8 µg/cm2
加熱調理用  0.5 µg/cm2 1 µg/cm2
2.5 cm以上 非加熱調理用 0.07 µg/ml 0.8 µg/ml
加熱調理用 0.07 µg/ml 0.4 µg/ml
3 L以上 0.5 µg/cm2 1 µg/cm2

2)合成樹脂製の器具・容器包装
 合成樹脂製器具・容器包装の規格は一般規格と個別規格に分かれ、いずれも限度値以下でなければならない。一般規格のカドミウム、鉛、重金属、過マンガン酸カリウム消費量はすべての合成樹脂が対象である。一方、個別規格は、汎用樹脂について安全性評価を行い、それぞれに応じた規格が設定されている。ただし、フェノール樹脂・メラミン樹脂・ユリア樹脂を除くホルムアルデヒドを原材料とする樹脂は安全性評価を受けておらず、個別規格樹脂とは言えない。清涼飲料水の用途別規格では、内容物に直接接触する合成樹脂は個別規格のある樹脂に限定している(フタ材を除く)。それ以外の用途についても、安全性評価を受けた個別規格樹脂が望ましい。

表2 合成樹脂製器具・容器包装の規格
種類 材質試験 溶出試験
試験項目 限度値 試験項目 限度値
全合成樹脂
(一般規格)
カドミウム 100 µg/g 重金属 1 µg/ml
100 µg/g KMnO4消費量 10 µg/ml
フェノール樹脂・メラミン樹脂・ユリア樹脂     フェノール 5 µg/ml
ホルムアルデヒド 陰性
蒸発残留物 30 µg/ml
ホルムアルデヒド
原料樹脂*1
    ホルムアルデヒド 陰性
蒸発残留物 30 µg/ml
ポリ塩化ビニル ジブチルスズ化合物 50 µg/g 蒸発残留物 30 µg/ml
クレゾールリン酸エステル 1 mg/g 蒸発残留物(ヘプタン) 150 µg/ml
塩化ビニル 1 µg/g    
ポリエチレン・ポリプロピレン     蒸発残留物 30 µg/ml
蒸発残留物(ヘプタン) 150 µg/ml*2
ポリスチレン 揮発性物質(スチレン、エチルベンゼン、トルエン等) 5 mg/g*3 蒸発残留物 30 µg/ml
蒸発残留物(ヘプタン) 240 µg/ml
ポリ塩化ビニリデン バリウム 100 µg/g 蒸発残留物 30 µg/ml
塩化ビニリデン 6 µg/g    
ポリエチレンテレフタレート     アンチモン 0.05 µg/ml
ゲルマニウム 0.1 µg/ml
蒸発残留物 30 µg/ml
ポリメタクリル酸メチル     メタクリル酸メチル 15 µg/ml
蒸発残留物 30 µg/ml
ナイロン     カプロラクタム 15 µg/ml
蒸発残留物 30 µg/ml
ポリメチルペンテン     蒸発残留物 30 µg/ml
蒸発残留物(ヘプタン) 120 µg/ml
ポリカーボネート ビスフェノールA*4 500 µg/g ビスフェノールA*4 2.5 µg/ml
ジフェニルカーボネート 500 µg/g 蒸発残留物 30 µg/ml
アミン類*5 1 µg/g    
ポリビニルアルコール     蒸発残留物 30 µg/ml
   
ポリ乳酸     総乳酸 30 µg/ml
蒸発残留物 30 µg/ml
ポリエチレンナフタレート     ゲルマニウム 0.1 µg/ml
蒸発残留物 30 µg/ml

*1:ホルムアルデヒドを原材料とする樹脂(フェノール樹脂・メラミン樹脂・ユリア樹脂を除く)
*2:使用温度が100℃以下の場合。100℃超の場合は30 µg/ml
*3:熱湯使用の発泡ポリスチレンでは揮発性物質2 mg/gでスチレン、エチルベンゼンが各1 mg/g
*4:フェノール及びp-t-ブチルフェノールを含む
*5:トリエチルアミン及びトリブチルアミン

3)ゴム製の器具・容器包装
 ゴム製器具・容器包装は一般用とほ乳器具用の2種類の限度値が設定されている。蒸発残留物の溶出試験条件が合成樹脂とは異なるので注意が必要である。

表3 ゴム製器具・容器包装の規格
試験区分 試験項目 一般用 ほ乳器具
材質試験 カドミウム 100 µg/g 10 µg/g
100 µg/g 10 µg/g
メルカプトイミダゾリン*1 陰性
溶出試験 フェノール 5 µg/ml 5 µg/ml
ホルムアルデヒド 陰性 陰性
亜鉛 15 µg/ml 1 µg/ml
重金属 1 µg/ml 1 µg/ml
蒸発残留物 60 µg/ml 40 µg/ml

*1:試験対象は塩素を含むゴムに限る

4)金属缶(油脂及び脂肪性食品以外の乾燥食品を内容物とするものを除く)
 食品を入れて使用される金属缶のうち、油脂及び脂肪性食品以外の乾燥食品、たとえば茶、海苔、せんべいなどは対象とならない。金属缶の規格はすべて溶出試験であり、すべての金属缶を対象とする規格と、合成樹脂で塗装された缶のみが対象となる規格がある。

表4 金属缶の規格
試験対象 試験項目 限度値
すべての金属缶 ヒ素 0.2 µg/ml
カドミウム 0.1 µg/ml
0.4 µg/ml
塗装缶のみ フェノール 5 µg/ml
ホルムアルデヒド 陰性
蒸発残留物 30 µg/ml
エピクロルヒドリン 0.5 µg/ml
塩化ビニル 0.05 µg/ml

4.ポジティブリスト制度

4.1.ポジティブリスト制度とネガティブリスト制度

我が国では食品と接触して使用される器具・容器包装に対して、規格基準や通知などにより安全性に懸念のある物質の使用を禁止したり、限度値を設定することにより、安全性の確保を図っている。このように使用が制限される物質が収載されているリストをネガティブリスト、それに基づいて規制を行う仕組みをネガティブリスト制度と呼ぶ。ネガティブリスト制度では、リストに収載されていない物質は自由に使用できることから、新しく開発された優れた物質を迅速に実用化することができる、規制がコンパクトであるなど利点もあるが、リストに収載されていない有害物質が使用される可能性があり、規制が後手にまわるおそれもある。
 一方、使用しても良い物質のリスト(ポジティブリスト)を作成し、それ以外の物質の使用を原則として禁止する規制の仕組みをポジティブリスト制度という。我が国では、食品添加物において1947年に世界に先駆けて合成添加物の指定制度が始まり、指定添加物以外は使用を禁止するポジティブリスト制度が導入された。さらに、1995年には既存添加物リストが作成され、天然添加物も含めて食品添加物の規制は完全なポジティブリスト制度となった。また、2006年からは残留農薬、飼料添加物、動物用医薬品について、国が定める基準がない物質を原則として使用してはならないポジティブリスト制度に移行した。

4.2.海外の器具・容器包装のポジティブリスト制度

海外では、器具・容器包装の分野にもポジティブリスト制度が採用されている。米国では、1958年に直接添加物(食品添加物)と間接添加物(主に容器包装関連物質)は、原則としてFDAに認可され連邦規則集(CFR)に収載された物質しか使用できないことが定められ、ポジティブリスト制度となった。2000年からは新たに食品接触物質の上市前届出制度(FCN)が始まり、新たな物質については製品(製造者、製造方法が同一のもの)毎に届け出が行われ、認められた製品はリスト化されている。この制度は、製品が限定されるが届け出てから認められるまで120日間以内と極めて迅速に処理される。
 欧州では、欧州連合の発足に伴い新たな統一規則を作成していく中で、器具・容器包装のポジティブリスト化が提案され、まず合成樹脂について準備が始められた。当時、各国で使用されていたモノマーや添加剤をもとに既存物質リストを作成し、リスト化された物質の安全性評価を開始した。そして、1990年に最初のモノマーリスト、1995年に最初の添加剤リストが提示された。安全性評価の進行とともに物質が追加され、収載は約1000品目に達し、2010年から2つのリストにない物質は使用できないポジティブリスト制度に移行した。
 中国では2008年に「GB 9685 食品接触材料及び製品用添加剤使用標準」が公布され、その中で959種類の添加剤のリストが示され、それ以外の添加剤の使用を禁止するポジティブリスト制度に移行した。その後、たびたび改正が行われ、現在は約1300種類となっている。合成樹脂だけでなくほぼすべての食品接触材料を対象としている。また、米国の材質への配合量による規制方式と欧州の溶出濃度による規制方式を併用している。
 これらの流れを受けて、ASEAN、韓国、台湾などでもポジティブリスト化に向けた動きがある。

4.3.我が国の器具・容器包装のポジティブリスト

我が国の食品衛生法における器具・容器包装の規制は、前述のようにネガティブリスト制度である。しかし、政府は合成樹脂の規制を検討する中で、合成樹脂業界にポジティブリストを含めた自主管理を行うように求めた。そして、1967年に塩ビ食品衛生協議会、1973年にポリオレフィン等衛生協議会、1977年には塩化ビニリデン衛生協議会が、食品衛生を目的として設立された。これらの団体では自主基準を定め、その中で使用してもよいモノマーや添加剤を収載したポジティブリストを作成し、各製品に対する確認証明制度を実施している。1973年に塩化ビニル樹脂(ポリ塩化ビニル)製器具及び容器包装の規格が設定された時の運用通知(環食化第541号)では、塩化ビニル樹脂の製造に使用できる添加剤として塩ビ食品衛生協議会のポジティブリストを示している。
 このような政府のネガティブリストによる規制と業界のポジティブリストによる自主管理により、我が国の合成樹脂製器具・容器包装の安全性は長年にわたり担保されてきた。しかし、当時は国内の器具・容器包装の大部分は国内業者によって製造されていたが、最近では輸入品が増大している。たとえば、輸入食品の飛躍的な増加にともない、その容器包装も海外で生産されたものが使用されている。また、国内の食品製造業者が安価な海外の容器包装を使用したり、容器包装製造業者が輸入材料を使用することも少なくない。一方、業界団体の自主基準は会員企業に対しては有効であるが、非会員である企業は対象外であり、また強制力はない。そのため、業界団体のポジティブリストの枠外にある非会員や輸入品等に対応できる強制力のある仕組みが必要となってきた。

4.4.食品用器具及び容器包装の規制に関する検討会の取りまとめ

そこで、2008年から器具・容器包装の規制のあり方について様々な話し合いや検討会、各種調査などが行われた。そして、本年6月「食品用器具及び容器包装の規制に関する検討会」の取りまとめが公表された。その概要を下記にまとめる。
 規制のあり方と目指すべき方向性として、「近年の製品の多様化や輸入品の増加等を踏まえ、業界団体の非会員も含めて器具及び容器包装全体の安全性確保を図るためには、国が共通のルールを定めることが必要であるとともに、欧米等でポジティブリスト制度による管理が進められており、制度の国際的な整合性を図ることが必要である。そこで、我が国の器具・容器包装の制度について、リスクを評価して使用を認めた物質以外は原則使用を禁止するという考え方(ポジティブリスト制度)を基本とするべきである」と結論した。実施にあたっては、材質の特性や諸外国の状況を踏まえて段階的に導入し、国際的な整合性を図る必要があるとした。
 具体的には、まずは合成樹脂を対象にポジティブリスト制度を導入する。その場合、モノマー、基ポリマー、添加剤等のどの範囲までを対象とするか、またリスク管理方法についても検討が必要である。従来から使用されている既存物質については、これまで大きな健康被害が確認されていないことを踏まえ、一定の要件を満たす場合には引き続き使用できるように配慮するべきである。そのほか、事業者間の情報伝達の仕組み、適正な製造管理を担保するための仕組み、事業者の把握や地方自治体の監視指導のあり方、輸入品への対応などの留意点、検討事項が述べられている。

4.5.食品用器具及び容器包装の製造等における安全性確保に関する指針

「食品用器具及び容器包装の規制に関する検討会」の取りまとめを受けて、本年7月に「食品用器具及び容器包装の製造等における安全性確保に関する指針(ガイドライン)」が策定された。このガイドラインは、今後の食品用器具及び容器包装のポジティブリスト制度を見据えつつ、その円滑な導入及び運用の前提となるものであり、事業者自らが行う製造管理、輸入、販売又は使用した製品の情報伝達等に関する基本的な事項を明確化し、自主的な管理の推進を目的としている。対象は、合成樹脂製器具及び容器包装と食品接触面が合成樹脂加工されている器具及び容器包装の製造、輸入、販売事業者又は使用する事業者である。ただし、それ以外の器具・容器包装関連事業者にもガイドラインの準用を期待している。
 自主的な管理による器具及び容器包装の安全性の確保のために、①人員、施設や設備の管理、②安全な製品の設計と品質確認、③サプライチェーンを通じたシームレスな情報伝達、④健康被害発生時等の対応策の整備の4つの観点からなる管理システムが、適切に構築され効果的かつ効率的な運用が行われる必要があるとして具体的な内容や事例、留意事項を示している。これらの内容は、これから新たに設定される予定の「製造者の適正な製造管理(GMP)制度」の根幹になると思われる。
 さらに注目するべきは、製造管理に資する情報としてポリオレフィン等衛生協議会、塩ビ食品衛生協議会及び塩化ビニリデン衛生協議会の自主基準の対象となっている化学物質のリストが参考として添付されていることである。ガイドラインではリストについてそれ以上の説明はなされていないが、各団体が使用を認めている基ポリマーと各種添加剤が合成樹脂の種類別に収載されたリストでる。これらの化学物質リストが今後の国が定めるポジティブリストの土台になるものと推測される。そこで、特に上記団体の会員ではない製造業者や輸入業者に、自分たちが扱っている製品の原料がこれらのリストに含まれているかを確認し、もしそれ以外の物質があれば自主的に変更を検討してほしいというのがリストを公表した意図であろう。

5.終わりに

食品用器具・容器包装は、長年にわたり食品衛生法で定める規格基準によりその安全性を担保してきた。しかし、有害な物質が見つかってから規制するネガティブリスト制度よりも、安全性が確認された物質しか使用できないポジティブリスト制度の方が、安全性はより高くなる。長年の懸案事項であった器具・容器包装における国のポジティブリスト制度がその一歩を踏み出した。ポジティブリスト制度の完成までにどの程度の歳月がかかるか予測できないが、一歩ずつ前進していくことを期待したい。

略歴

河村 葉子(かわむら ようこ)

1973年 3月 京都大学薬学部薬学科卒業
  4月 国立衛生試験所(現:国立医薬品食品衛生研究所)食品部研究員
1992年 4月 食品添加物部第三室長
2008年 4月 食品添加物部長
2010年 4月 名誉所員・再任用研究員
2016年 4月 客員研究員、東京農業大学非常勤講師(現在に至る)
バックナンバーを見る
ホームページを見る

サナテックメールマガジンへのご意見・ご感想を〈e-magazine@mac.or.jp〉までお寄せください。

Copyright (C) Food Analysis Technology Center SUNATEC. All Rights Reserved.