野菜・果物の食品機能性と健康
東海学園大学 健康栄養学部
教授 西堀 すき江 (東海学園大学副学長) 1.栄養学的機能性児童対象など幅広く食育指導に用いられる三色食品群は、65年ほど前の昭和27(1952)年、広島県庁の岡田正美技師が提唱し、社団法人栄養改善普及会の近藤とし子氏が普及に努めた。日常的に用いられる食品を栄養素の働きの特徴から赤、黄、緑の3群に分け、栄養的な説明を加えたもので、バランスの良い食事を摂るための栄養指導ツールとして用い、これを目安に健全な食生活をすることができるように考案された。具体的には、黄色は炭水化物や脂質を中心とした食品群で、エネルギー源として『主にエネルギーのもとになる食品』、赤色はたんぱく質やカルシウムを含む食品群で、『主に体をつくるもとになる食品』、緑色はビタミン・ミネラルを多く含む食品群で、『主に体の調子を整えるもとになる食品』で構成されている。これらの栄養に係わる機能も、食品の持つ重要な機能である。 2.食物繊維の機能性1970年代に入ると食品中の繊維やその他の不消化成分が、炭水化物・たんぱく質・脂質・ビタミン・ミネラルの必須栄養素とは質的に異なる作用を介して人間の健康と深く係わり、恒常性維持作用と治癒的役割を持つ物質として認知されるようになってきた。“dietary fiber(食物繊維)”という用語を最初に導入したのは、フィジー島の英国植民地医師Hipsleyである。当時は、食物繊維の成分はエネルギー源にもならず、便秘に有効である程度の理解であり、むしろ不消化成分は消化器官に負担をかけ、栄養素の利用効率を低下させるものとされた。そのため、先進国ほど精製食品の日常的摂取量が増加し、欧米先進国では文明病といわれる高脂血症、虚血性心疾患、糖尿病、大腸がん、胆石症などの生活習慣病(当時;成人病)の発症率が増加した。Trowellらにより、これらの非栄養性食品成分の各種生理作用が明らかになってきた。 3.生体調整機能1980年代に入ると、日本の食品化学分野や天然物化学分野の先駆的研究者らは、従来の食品摂取の主流であったエネルギーや各種栄養素を補給し、生命の維持、成長・発育の促進、健康の維持・増進に寄与するという栄養に係わる食品の機能を一次機能『栄養的機能』と整理した。さらに、美味しさ、食品の匂い、外観、口触りなど人の感覚に関する『嗜好的機能』を二次機能とし、新しい三次機能として『生体調整機能』という概念を明らかにした。血圧コントロール、免疫力向上、生体防御、ストレス解消、内分泌調整、外分泌調整などに係わる機能は、『生体調整機能』である。また、中国の「薬食同源」「薬膳」も注目されるようになった。 4.活性酸素消去活性(O2-消去活性)筆者らは1980年代には、海藻中の抗酸化活性物質を単離精製し、構造決定するなど、食品中の抗酸化活性物質の検索を目的とした研究を行っていたが、1990年代半ば頃から、人は食品成分でなく食品の形態で摂取するとの立場からの研究を始めた。 5.O2-消去活性ランキング(抗酸化力ランキング)当初の実験対象試料は、野菜46種類の他、芋3種類、キノコ2種類、果実15種類、計66種類であった。これらの食品中、野菜では黄ピーマン(パプリカ黄)と赤ピーマン(パプリカ赤)が最も活性が高く、10000倍希釈という低濃度の試料液でもO2-消去活性を示すことが分かった。果物ではグレープフルーツ、レモン、オレンジ、ミカンの活性が高かった。その後、共同研究者である並木和子氏の発案で、O2-消去活性の強さを抗酸化点ランキングとして示した。さらに、株式会社ロック・フィールド(平成17~19年)の協力も得て、野菜類134種類、果物類54種類、総計188種類の食品について測定した。(表1、表2)
6.血小板凝集抑制効果血栓性疾患においては、動脈硬化による血管の柔軟性の欠如を基礎疾患として、これに血小板凝集能の亢進、赤血球変形能の低下、白血球接着現象の増加などによる血液流動性の低下が考えられる。血流の改善には、いわしなどの青魚脂質中のエイコサペンタエン酸(EPA)が効果を示すことが広く知られている。一方、植物性食品についても、にんにくなどは血液が止まりにくくなるとの報告もあることから、日常よく使われる野菜や果物について血流改善効果を検討した。 7.血小板凝集抑制効果ランキング(抗血栓点ランキング:血液サラサラ度表)野菜・果物などの87食品について測定した結果、ほうれん草、青ねぎ、にんにく、青じそなどが強い血小板凝集抑制効果を示した。並木和子らはいわしを使った先行研究で、血小板凝集抑制効果が日本食品脂溶性成分表(科学技術庁資源調査会)に記載されているEPAとDHAの合計量とほぼ比例関係を示すことを明らかにした。食材100gに含まれるEPAとDHAの合計値が1000㎎のときを500点とし、魚介類の抗血栓点として点数化し、抗血栓点ランキング表を作った。
8.野菜・果物の抗血栓点、魚介類の抗血栓点の摂食による血小板凝集抑制効果食品摂取による血小板凝集抑制効果を検討するために1週間の連続摂食実験を行った。 9.抗酸化点1000点の摂食によるDNA酸化損傷改善酸化ストレス試験は、野菜・果物の抗酸化点1000点以上を目安とし1週間の連続摂取した効果を検討するために、DNA酸化損傷改善による酸化ストレス試験を行った。 10.野菜350g摂取の効果厚生労働省は『健康日本21』の中で、身体的な健康という面から1日の野菜摂取目標値を350g以上とし、緑黄色野菜はカルシウムに富む食品でもあることから120g以上の摂取を推奨している。この350gの野菜摂取が血小板凝集抑制効果やDNA損傷抑制効果に及ぼす影響を検討した。
11.最後に三色食品群の中で『体の調子を整えるもとになる』として栄養的な観点から分類されていた野菜・果物は、現在の食品機能性に関する研究などでその機能を実証されることになった。また、野菜摂取量に関しても、一連の野菜・果物についての研究から、今までの推奨されてきた野菜摂取量350g(緑黄色野菜120g+その他の野菜230g)は、食品機能性の面からも、体調を整え、健康を維持し、健全な食生活につながることが明らかになった。 参考文献1) Hipsley, E.H.:Dietary “fiber” and pregnancy toxemia、1953;420–422 2) Trowell, H.:Dietary fiber, ischemic heart disease and diabetes mellitus、Proc. Nutr. Soc.、1973;151-157 3) Osawa, T. et al:Novel type of antioxidant isolated from leaf wax of Eucalyptus leaves、 Agri. Biol. Chem.、1981;735-739 4) 西堀すき江ら:海藻脂質の抗酸化性及び食品抗酸化剤としての利用について、家政学雑誌、1985:845-850 5) 西堀すき江ら:青のり脂質の緑色区分における抗酸化性物質について、家政学雑誌、1988:1173-1178 6) 山崎邦子:中医営養学、第一出版、1991;39-52 7) Nishibori, S.:Free Radical-Scavenging Abilities of Various Bell Peppers.The 2 Asian Conference on Dietetics Abstracts, Seoul, Korea、1998 8) 西堀すき江ら:野菜の活性酸素消去能とその加熱処理による変化、日本食品工業学会誌、1998;52-56 9) 西堀すき江ら:野菜類・芋類・茸類・果実類ジュースのスーパーオキシドアニオン消去能について、栄養学雑誌、1998;81-87 10)日本食品脂溶性成分-脂肪酸、コレステロール、ビタミンE-(四訂フォローアップ脂溶性成分表)、科学技術庁資源調査会、1989 11)西堀すき江ら:ココア・チョコレートの血液流動性改善効果、日本ヘモレオロジー学会誌、2002;75-78 12)西堀すき江ら:食事中の活性酸素消去活性食品摂取とDNA酸化障害について,日本調理科学会平成15年度大会要旨、2003; 13)Nishibori, S., et al:Effect of the intake of an unbalanced diet on the fluidity of whole blood through capillaries、18th International Congress of Nutrition、Honolulu, Hawaii、2005 14)Nishibori, S. et al:Methods and Development of balanced meals in Japan with an emphasis on primary prevention of lifestyle diseases.Active Aging in Asia Pacific: Showcasing Best Practices、Durban, South Africa、2005 15)西堀すき江:血液レオロジー因子に及ぼす欠病食・過剰食・偏食の影響の解明、農林水産省農林水産技術会議事務局、食品の安全性及び機能性に関する総合研究 -機能性-、2008;185-192 16)Nishibori, S.:Superoxide anion radical scavenging activities of vegetables, potatoes, mushrooms and fruit juices、The 16th International Congress of Dietetics、Sydney, Australia、2012 略歴西堀 すき江(にしぼり すきえ) 1971年3月 椙山女学園大学家政学部食物学科卒業 サナテックメールマガジンへのご意見・ご感想を〈e-magazine@mac.or.jp〉までお寄せください。 |
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