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消化が悪い食品の機能性
福岡女子大学 国際文理学部
准教授 高橋 徹

消化・吸収から食品について考えると、現代日本人に対しては、所謂「消化が悪い食品」のメリットが見うけられることが多いです。「消化が悪い」というのは、具体的には3つの状況に分けることができます。すなわち、「消化される量(消化率)が少ないこと」、「消化される速度(消化速度)が遅いこと」、「消化管内に留まる時間(滞留時間)が長いこと」です。これらの3つの視点から、消化が悪い食品は、どこでどのような影響があるのか解説します。

腸内細菌による消化

食事由来の成分の多くは、小腸までに消化・吸収されます。小腸までに消化・吸収されなかった食事由来の一部の成分は、大腸に流れ、腸内細菌の餌になります。それらの餌から腸内細菌は、お酢の仲間である短鎖脂肪酸を作ります。短鎖脂肪酸は、大腸で吸収され、ヒトのエネルギーになります。消化が悪い食品を考える際には、この短鎖脂肪酸の機能性が重要になります。
 ちなみに、腸内細菌で分解できなかった食事由来の成分は、一部の腸内細菌と共に糞便として排出されます。

短鎖脂肪酸の機能性

お酢の仲間である短鎖脂肪酸は、大腸の一部の細胞のエネルギー源になります。また、大腸の粘膜と小腸の粘膜を厚くする機能を有しております。また、蠕動運動を刺激する働きや、アレルギーを抑える機能も短鎖脂肪酸にはあります。さらに、短鎖脂肪酸が産生される際には必ず水素イオンも発生します。生体内の水素イオンは強い抗酸化作用を示します。このように、腸内細菌に餌を多く与えることは、現代日本人にとってはメリットが大きいです。

小腸までの消化率が悪いことの意義

腸内細菌に餌を多く与えるためには、どのようにしたらいいでしょうか?それには、大腸に流れる食事成分の量を増やすことが効果があります。つまり、小腸までの消化率が低い食品は腸内細菌の餌を増やすことができます。具体的な食品を考える際には、日本人にとって、腸内細菌の餌の中で最も多いものは何かということが大事になってきます。食物繊維は、腸内細菌の餌になります。しかし、腸内細菌の餌の中で最も量が多いのは、米由来でなおかつ小腸までに分解されなかったデンプンです。飯の中のデンプンは、パンや麺類の中のデンプンと比較すると、小腸までに消化される量が少なく、より多くのデンプンが大腸に流れます。つまり、パンや麺類の代わりに米を食べることによって、腸内細菌の餌を増やして、短鎖脂肪酸を増やすことができます。

腸内細菌の餌をもっと増やしたいときには

腸内細菌の餌を増やす方法としては、米や食物繊維をいつもよりも多く摂ることが考えられます。しかし、別の方法も存在します。小腸までに消化されるデンプンの量をさらに減らす方法です。つまり、デンプンの小腸までの消化率を悪化させるのです。冷えた飯は、消化に対して抵抗性を示すデンプンが多くなり、小腸までに消化される量が減ります。逆に、デンプンの小腸までの消化率は加熱すると、上昇します。コンビニエンスストアで、おにぎりを買ったときには、電子レンジで温めない方が、米のデンプンの小腸までの消化率を悪くすることができます。冷えた飯は、大腸で作られる短鎖脂肪酸を増やして、短鎖脂肪酸の機能を高めることができるのです。

消化・吸収される速度が遅いことの意義

デンプンの消化・吸収速度は、食後血糖上昇率に影響を与えます。食べる量も食後血糖上昇率に影響を与えますが、食べる量が同じであれば、食後血糖上昇率はデンプン等の糖の消化・吸収速度に依存します。デンプン等の糖の消化・吸収速度を遅くするためには、食物繊維と一緒にデンプンを食べる方法があります。これによって、小腸内での糖の移動速度を制御することができます。一部の研究では、小腸表面の粘液が糖の吸収速度を制御しているとされていますが、小腸内の流れと小腸内容物の物性を生理的な条件で考察すると、粘液が糖の消化・吸収に影響を与える可能性はないことが明らかになっています。実際には、小腸の横断面の中央部に糖が高濃度になることで、糖の吸収速度が遅くなることが分かっています。

消化管内に留まる時間(滞留時間)が長いことの意義

胃の滞留時間は、食後血糖に大きく影響を与えます。デンプン等の糖は小腸で吸収されます。そのため、胃から小腸に内容物が流れなければ、デンプン等の糖は小腸で吸収されません。胃の滞留時間を長くすると、小腸で吸収される糖が少しずつしか流れないので、食後血糖が緩和します。小腸での糖の消化・吸収の影響と併せて、食後血糖を緩和する方法になります。胃の滞留時間を長くするのも、食物繊維によってもたらされます。

消化管全体の消化率低下の意義

消化率は、消化管の場所によって異なります。先ほどは、小腸までの消化率について述べましたが、消化管全体の消化率が低いこともメリットがあります。消化管全体の消化率は、便に排泄される量が多ければ、低下します。その場合、吸収された栄養素の量も少なくなります。すなわち、消化管全体の消化率が低い場合、便の量が多く、吸収したエネルギーが少ないことを示します。消化管全体の消化率が低い食品は、ダイエットに効果があり、便秘に対する効果も期待できます。このように、消化管全体の消化率も悪い場合、現代日本人にはメリットがあることが多いです。

水の吸収速度について

水についても吸収速度が遅い方が現代日本人には利点があります。頻繁に水を補給するとスポーツ競技におけるパフォーマンスが向上することが明らかになっています。しかし、水を補給する時間が限定される競技種目は多いです。マラソン選手もサッカー選手も自分の都合だけでは水の補給ができません。また、高齢者は水を飲む頻度が少なくなります。このような水補給回数が限られた状況では、ゆっくりと水を吸収することが意味を持つようになります。早く水を吸収すると、尿への排出が急激に増えます。そのため、ゆっくりと水を吸収すると、尿としての水の排出が抑えられて、体内への水の保留が上がるのです。

水の吸収速度を遅くするためには

飲料水中の水の吸収速度は、飲料水中の水が拡散される速度で一部を説明することができます。動物実験では、水が拡散される速度が低い飲料の方が、吸収速度が遅くなることが示されました。
 一方で、水分を効率的に摂ることを目的とした飲料の一つに経口補水液があります。高齢者やスポーツをする者を対象に、水が拡散される速度が低い経口補水液を以前開発いたしました。水の拡散を遅くしている主な成分はグアーガム酵素分解物です。実際に、この商品の腸管での水の吸収速度が遅いことも確認しました。
 なお、このグアーガム酵素分解物は食後血糖緩和効果が非常に高い特徴も併せ持っています。

水の吸収のなぞ

水の吸収については、高等学校の生物学の教科書に記述があります。教科書には「水は大腸で吸収される」と記載されております。しかし、実際には口から入った水分のほとんどの量が小腸で吸収されます。大腸には結合水さえも吸収できる水吸収能力があるため、教科書上では「水は大腸で吸収される」という記述になったのかもしれません。しかし、量で考えるならば、水吸収の主役は圧倒的に小腸です。
 腸管での水の吸収は、水ポテンシャルという物理指標でも一端を説明できますが、水の吸収については分かっていないことがとても多いです。水吸収の調節の方法は、今後ますます明らかになってくると思います。

消化が悪いことの印象

今回、消化・吸収の側面から、消化が悪い食品や飲料の機能性について書かせていただきました。消化が悪い食品の一番の懸念がpHが低下して下痢を誘発するかどうかです。お腹を壊すかどうかは、とても個人差が大きいです。しかし、お腹を壊さなければ、現代の日本人にとって消化が悪い食品のメリットは大きいです。「消化が悪い」という言葉が、食品の機能性を示す好印象の言葉になってもらいたいと思っております。

略歴

岡山大学大学院自然科学研究科生産開発学専攻で博士取得後、岐阜大学医学部医学科解剖学第一助手(1999- 2003)、三重大学生物資源学部物質循環学科日本学術振興会特別研究員(2003- 2006)、美作大学生活科学部食物学科准教授(2006- 2010)を経て、福岡女子大学国際文理学部食・健康学科に准教授として勤務している。現在、International College of Nutritionの生涯研究員、The Tsim Tsoum Instituteの国際アドバイザリー委員、咀嚼と脳の研究所のスタッフを併任しており、米国国際誌The Open Nutraceutical Journalの副編集長、米国国際誌Nutritional Segmentの技術編集委員を務めている。

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