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卵の栄養機能とアンチエイジング効果
第1回 卵の栄養機能について
京都女子大学 家政学部 食物栄養学科
教授 八田 一

1.はじめに

鶏卵は古くから宗教や文化に関係なく世界中で食品および食品素材として利用されています。人類は数多くの卵料理や卵加工食品を開発し、栄養豊かな食生活に役立ててきました。特に日本人の卵好きと卵料理の多さは世界的にも有名です。各家庭の冷蔵庫には必ずあるように、卵は美味しくて栄養豊富で、家庭料理にかかせない食品です。また、古くからその加熱ゲル化性、起泡性や乳化性が多くの加工食品にも利用されています。
 現在、日本の卵の消費量は国民一人あたり年間329個、メキシコの352個、マレーシアの343個に次いで世界第3位です1)。一方、卵料理の多さは圧倒的に世界一で、平成29年4月現在、世界最大のレシピ検索サイト「クックパッド」では、全265万レシピのなんと22%を占める約59万種類の卵料理が紹介されています。そのレシピの多さは、日本人の卵好きをよく表していると思います。これらのデータは、卵が優れた栄養機能を有し、調理や食品の加工に適する加熱ゲル化性、起泡性や乳化性といった物性機能を有することと関係があるようです。
 また、卵と牛乳は完全栄養食品としてよく比較されますが、両者の生物学的な役割は決定的に異なります。牛乳は21日間も温めると腐りますが、卵からは、条件さえそろえば(受精卵であれば)ヒヨコが生まれます。すなわち、卵は、生命のカプセルなのです。その中には、次世代生命の発生と成育に必要な、あらゆる成分が必要かつ十分に蓄えられています。卵はコレステロールの多い食品の代表ですが、そのコレステロールさえも、生命誕生に必須な構成成分として、過不足なく蓄えられているのです。
 近年、卵は単に栄養豊富な食品としてのみならず、その生理活性を解明する研究がなされ、多くの保健機能成分を含む有用資源として注目されています。このように身近な食品である卵の優れた機能性に着目し、これから3回にわたり、卵の栄養機能について、コレステロールの問題、アンチエイジング効果についてご紹介します。

2.卵の食品学的価値

鶏の卵は平均一個約65g、掌にのる小さな卵ですが、その食品学的および栄養学的価値はあまりにも大きく計り知れません。食としての歴史は古く、まず鶏の家畜化(養鶏)は今から約9000年前に東南アジアで野生種の赤色野鶏を飼育することから始まりました。家禽化された鶏は約8000年前に中国に入り、大型化されました。そして約5000年前にシルクロードで西アジアに入り、鶏卵の利用は約3500~4000年前に西アジアやインド、中国、エジプト各地で始まったとされています。紀元前27年から約300年間続いた古代ローマ帝国では、食用卵を生産する養鶏業者があらわれ、オムレツなどの卵料理も開発され、その時代のフルコースは卵に始まりリンゴで終わったと伝えられています2)
 一方、日本へは約2000年前に中国から朝鮮半島を経由して入りました。最初は、愛玩用、闘鶏用、時告げ鳥として利用され、仏教では鶏卵も食することが禁じられていた様です。その後、安土桃山時代(16世紀末)には南蛮料理のカステラや卵素麺や天ぷら料理に鶏卵が利用され始め、鶏卵の食用化が進みました。江戸時代後期から卵の利用が庶民に広まり、宝暦13年(1763年)から明治2年(1869年)までの京都東本願寺門跡とその家族の毎日の食事を記録した『東本願寺御膳所日記』には、卵料理が2~3日に1度、献立に登場しています。その卵料理を列挙すると、貝焼、茶碗焼、茶碗蒸、鉢蒸、皿蒸、玉子とじ、ふわふわ玉子、煮貫玉子、苞玉子、そぼろ玉子、ふの焼玉子、玉子せん、巻玉子、玉子入りかまぼこ、玉子みそとバラエティ豊かで、天ぷらにも卵が用いられています3)。 そして、明治時代には商業的採卵養鶏が始まりました。「巨人・大鵬・卵焼き」は高度経済成長期を代表する言葉でありますが、日本の経済成長と共に卵の消費量も伸び、1965年ごろから急増し、今も年間一人当たり約330個と日本人の卵好きは世界トップクラスです。
 さらに、卵の生産は飼料効率が最も優れ、現在、鶏卵1kg(約16個)は飼料2kgから得られます。動物性タンパク質素材として、豚肉より約2.5倍、牛肉より約5倍も飼料効率が優れ、経済的優位性を合わせ持っています。その価格も物価の優等生と言われるほどで、昭和31年、私の生まれた年ですが、今から約60年前の卵価(東京全農Mサイズ加重平均)は1kgが221円でした。平成26年の平均卵価は205円でした。いくら相場で決まる価格とはいえ、卵の中身は変わらないのに、60年前より安くなった食品があることに驚かされます。

3.卵の栄養学的価値

卵からヒヨコが生まれます。その中には体の細胞を作る良質なタンパク質や脂質が豊富に含まれています。各種食品タンパク質のアミノ酸組成と栄養価を表1に示します。卵のタンパク質を構成するアミノ酸は、私たちの体に必要な必須アミノ酸を全て満たし、そのアミノ酸スコアは母乳や牛乳と同じく最高点の100です。また、卵タンパク質の栄養価は、ネズミに食べさせてその増体重で評価するタンパク質効率比(体重増加量/摂取タンパク質量)が3.9、生物価((保留窒素量/吸収窒素量)×100)が94、正味タンパク質利用率((保留窒素量/摂取窒素量)×100)が94であります。これらの栄養学的評価値はいずれも牛乳や大豆より高値で、ヒトの母乳に匹敵するため、従来から卵は食品タンパク質の栄養価測定時の標準飼料として用いられています。

表1 各種食品タンパク質のアミノ酸組成と栄養価の比較

次に、卵の栄養素と卵1個から得られる栄養素摂取比率を表2に示します。栄養素は日本食品標準成分表(五訂)から抜粋し、市場に流通する標準的な卵1個の全卵液量を60g(卵黄18g、卵白42g)とした場合の各部分の成分量を計算しました。また、日本人の食事摂取基準(2010年版)から、身体活動レベルが「ふつう」に分類される18-69歳が1日に必要とする推定エネルギー必要量、各種栄養素の推奨量、目安量、および目標量などを男女別に平均化しました。その平均値と卵1個の成分値から、ヒトが1日に必要な各種栄養素量に対し、卵1個から得られる比率(栄養素摂取比率)を計算し、レーダーチャートとしてまとめました(図1)。

表2 鶏卵の成分(五訂日本食品標準成分表)と卵1個あたりの栄養素摂取比率
 
図1 卵1個あたりの栄養摂取比率のレーダーチャート

4.卵は究極のサプリメント

卵に足らない栄養素はビタミンCと食物繊維だけで、私たちは多くの栄養素を、バランス良くしかも濃縮された状態で、卵から得ることができます。平均的な卵のエネルギーは約90kcalで、これは私たちが1日に必要とする推定エネルギー必要量に対して、男性で3.5%、女性で4.5%に相当します。同様な観点から各栄養素の摂取比率を計算した結果、コレステロールの摂取比率が最も高く、男性で34%、女性で42%でありました。その他の栄養素の摂取比率で20%を超えるのは、ビタミンD、B2、B12であります。また、10%を超える栄養素は、タンパク質と脂質、ミネラルではリン、鉄、亜鉛、ビタミンではA、K、葉酸、パントテン酸でありました。
 このように、卵は私たちの体を作る大切な栄養素を量的にも質的にも効率よく濃縮した状態で含む食品であります。私たちは、卵1個から得るエネルギー(男性で3.5%、女性で4.5%)以上に、その摂取により、タンパク質やビタミンやミネラルなどの栄養素を効率良く摂取できることを再認識すべきであると思います。卵は、健康の維持および増進に必要な種々の栄養素を濃縮して蓄積したカプセルであり、いわば、私たちの食生活における「究極のサプリメント食品」であるとも言えます。さて、次回は卵といえばコレステロールが多くて心配と思われている皆さんに最新の卵コレステロールの摂取と心筋梗塞や脳梗塞との関係についてご説明いたします。

参考文献

1)  IEC: International Egg Commission, Annual review 2014.

2)  田名部尚子:日本食生活学会誌, 14(2), 84-89(2003).

3)  松下幸子:調理科学,20(4), 319−324(1987).

略歴

1979年3月 大阪市立大学 理学部 生物学科 卒業
1979年4月 太陽化学(株)入社 総合研究所 研究員
1983年4月〜1984年8月 京都大学食糧科学研究所 研究生
1984年9月〜1985年12月 ブリッティシュ・コロンビア大学 研究生
1998年4月 京都女子大学 家政学部 食物栄養学科 助教授
2005年4月 京都女子大学 家政学部 食物栄養学科 教授
現在に至る

学位

1993年9月
大阪市立大学より学位(理学博士)取得 「抗ヒトロタウイルス鶏卵抗体に関する研究」

受賞

1994年4月
日本農芸化学会技術賞を受賞 「鶏卵抗体の大量生産および産業利用技術の開発」

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