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![]() 製品回収の防止に向けた事業者の新たな取組み
![]() 一般財団法人 食品分析開発センターSUNATEC
コンサルティング室 国内の食品を取り巻く環境は大きく変化し続けている。2016年12月には、食品衛生法等におけるHACCP※ による衛生管理の制度化に向けた「食品衛生管理の国際標準化に関する検討会」の最終とりまとめが厚生労働省から発表された。 ※ HACCP (Hazard Analysis and Critical Control Point): しかし、HACCPや一般衛生管理への取組み(以下、HACCP等の取組みと称す。)には不可欠な要素があり、それが強化されなければ、事業者におけるHACCP等の取組みは不十分なものになる危険があると考えられる。 【不可欠な要素:知識+意識=認識】 HACCP等の取組みに不可欠な要素とは、事業者内のそれぞれの役割を担当する人が「必要な知識を有し、意識を持ってその知識を活用すること」と考える。また、これを「認識」と表現する。 表1.HACCPや一般衛生管理への取組みに必要となる主な認識の例
これらの認識について、近年多く発生している設備に由来する異物混入の問題を例に挙げて説明する。 a. 危害要因を適切に把握するための認識設備に由来する異物混入の問題を防ぐには、使用している設備に存在する危害要因について詳細な検討を行う必要がある。
例えば、様々な食品の製造工程にて使用されている設備の一つにロータリーポンプがある。ロータリーポンプは、ポンプ内部で高速に回転するローターとその外側に位置するケーシングの隙間(クリアランス)が極めて狭い構造を有している。このため、分解洗浄後などのポンプの組立ての際に、ローターが回転軸に正しく設置されなければ、ケーシングとローターの接触により削れが発生し、異物となる危険がある。 危害要因の把握を行う担当者が、必要な認識として、このような異物の発生する危険などに関する知識や、その危険が自らの製造工程に危害要因として該当するかなどに対する意識を持たなければ、危害要因を適切に把握できない。 b. 管理策を適切に設定するための認識危害要因としてロータリーポンプの削れを把握した場合、削れの発生を防止するための管理策(発生防止策)と、万が一、削れが発生した場合でも、削れの混入した製品を事業者外に流出させないための管理策(流出防止策)の設定が必要となる。
ポンプの削れに対する発生防止策として、組立ての際にローターを正しく設置できるように注意事項を記載した作業手順書などにより注意喚起を行う管理策や、ローター設置後にチェックする管理策などが挙げられる。 また、流出防止策として、ポンプの稼働時の異音の確認や稼働後の分解洗浄時のケーシングの触診による確認、あるいは、ポンプを使用する後工程へのマグネットトラップの設置およびその点検などによって、削れの発生を察知することが挙げられる。 管理策を設定する担当者が、必要な認識として、このような管理策に関する知識や、管理策に漏れがないかなどに対する意識を持たなければ、管理策を適切に設定できない。 c. 設定した管理策を徹底するための認識管理策を設定しても、管理策を実施する担当者が、担当する製造工程における危害要因とその管理策に関する知識や、管理策を実施しなかった場合に生じる問題などに対する意識を持たなければ、管理策が徹底されない危険がある。
実際に、担当者が削れの問題を意識しなかったことで、ポンプの組立ての際に、ローターの設置時のチェックと洗浄時の触診による確認が実施されず、その結果、削れが混入した製品が事業者外に流出した事例がこれまでに発生している。 d. 監査による管理状況の確認のための認識上述のa~cの通り、事業者には、それぞれの担当者の認識不足によって、把握すべき危害要因や設定すべき管理策が不適切となる危険や、管理策が徹底されない危険がある。また、使用する設備や製造方法の変更などに伴い、これらの危険が増加する場合もある。
このため、これらの危険を把握するために、製造工程の管理状況を定期的に監査する必要がある。また、その担当者には、製造工程の管理状況を適切に確認するための認識が求められる。 なお、このような監査は、事業者自身に対してだけでなく、事業者の取引先(原材料購買先や製造委託先など)に対しても必要である。 以上のように、今後更にHACCPや一般衛生管理に取組むためには、事業者内のそれぞれ人の役割に応じた認識の強化が求められる。 最後に、当財団が事業者と共に進めている認識の強化への取組み事例について紹介する。 【認識の強化への取組み事例】当財団では、取組みの対象となる人に必要とされる認識を強化できるように、事業者ごとの要望に応じて個別に対応を行っている。当財団が事業者と共に進めている認識の強化への取組み事例を表2に示す。 表2 認識の強化への取組み事例 適切な危害要因の把握、管理策の設定のための認識の強化(a,b)
管理策の徹底のための認識の強化(c)
監査による管理状況の確認のための認識の強化(d)
例えば、購買担当者を対象にした監査研修では、事前に事業者の品質保証担当などとの打合せに基づき、原材料購買先の製造工程を想定した題材を選定し、対象の製造工程における危害要因や管理策に関する知識、監査に関する知識などを研修資料に含める。参加者はそれらの知識をもとに、原材料購買先の管理状況を確認するためのチェック項目の作成や被監査側へのヒアリングなどのロールプレイング型の模擬監査演習を行う。 このような認識の強化への取組みは、当財団のような第三者機関を利用する方法だけでなく、事業者内で取組む方法も数多く存在する。 参考文献[1] 厚生労働省ホームページ「食品衛生管理の国際標準化に関する検討会最終とりまとめについて」 [2] 厚生労働省ホームページ 注釈 http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000146747.html サナテックメールマガジンへのご意見・ご感想を〈e-magazine@mac.or.jp〉までお寄せください。 |
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