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食品中の保存料の分析について
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第二理化学検査室

1.はじめに

我が国は食糧自給率がカロリーベースで約40%であり、食糧の大部分を海外からの輸入食品に依存している。食糧を安定的に確保するためには農産物や畜水産物の収量向上、及び食品の保存性向上が重要な課題である。前者の課題に対しては農薬や動物用医薬品が、後者に対しては食品添加物の保存料が使用されている。保存料は食品の腐敗原因となる微生物の増殖を抑制する効果を有するため、食品の保存性を向上させることができる。食品の保存性が向上することにより食品の流通範囲の拡大が可能となるため、保存料は現代の食糧事情の改善に大きな役割を果たしているといえる。保存料は科学的に安全性が確認された物質であるが、過剰摂取は人体に悪影響を及ぼす可能性があるため、その使用量は適切に管理されなければならない。そのため、我が国においては食品の品目ごとに使用基準が設定されている[表1]。使用基準への適合性を判断するためには、精度の高い定量分析が必要であり、厚生労働省より食品中の保存料の分析法が通知されている。今回の豆知識ではその分析法の概要について解説する。

表1 主な保存料の使用基準

物質名 使用基準
使用できる食品等 使用量の最大限度
安息香酸

安息香酸ナトリウム
清涼飲料水、キャビア、シロップなど 0.60~2.5 g/kg

(安息香酸として)
ソルビン酸

ソルビン酸カリウム

ソルビン酸カルシウム
チーズ、食肉製品、つくだ煮など 0.050~3.0 g/kg

(ソルビン酸として)
デヒドロ酢酸ナトリウム チーズ、バター、マーガリン 0.50 g/kg

(デヒドロ酢酸として)
パラオキシ安息香酸イソブチル

パラオキシ安息香酸イソプロピル

パラオキシ安息香酸エチル

パラオキシ安息香酸ブチル

パラオキシ安息香酸プロピル
清涼飲料水、酢、しょう油など 0.012~0.25 g/kg又はg/L

(パラオキシ安息香酸として)
プロピオン酸

プロピオン酸カルシウム

プロピオン酸ナトリウム
チーズ、パン、洋菓子 2.5~3.0 g/kg

(プロピオン酸として)

2.試験法

通知に示されている各保存料の試験法と定量下限を表2に示す。全ての物質において水蒸気蒸留法による抽出、精製の後、高速液体クロマトグラフ(HPLC)による測定法が示されている。

表2 保存料の試験法

分析対象物質 抽出方法 測定機器 定量下限
安息香酸及び安息香酸ナトリウム 水蒸気蒸留法 HPLC 0.01 g/kg
ソルビン酸及びその塩類 水蒸気蒸留法 HPLC 0.01 g/kg
デヒドロ酢酸ナトリウム 水蒸気蒸留法 HPLC 0.01 g/kg
パラオキシ安息香酸エステル類 溶媒抽出法
水蒸気蒸留法
HPLC  0.005 g/kg
 0.005 g/L
プロピオン酸及びその塩類 水蒸気蒸留法 HPLC 0.1 g/kg

2-1.水蒸気蒸留法

水蒸気蒸留法は沸点の高い目的物質を水蒸気とともに、その沸点よりも低い温度で留出させ、水と共に冷却捕集する方法である。水蒸気蒸留法は夾雑成分の抽出量が少ないため、その後の精製、測定においての利点が大きい方法である。通知に示されている水蒸気蒸留法の分析手順を図1に示す。
 安息香酸、ソルビン酸、デヒドロ酢酸及びパラオキシ安息香酸エステル類は抽出方法が水蒸気蒸留法であり、その手順が同一であること、及び測定機器が同一であることから、これらの保存料は同時分析が可能である。プロピオン酸はリン酸酸性下で水蒸気蒸留を行い、アルカリ溶液中に留液を捕集した後、強塩基性陰イオン交換ミニカラムを用いて精製し、測定用の試料液とする。

予備試験の結果(例)
図1. 水蒸気蒸留法の分析手順
2-2.溶媒抽出法

通知に示されている溶媒抽出法の分析手順を図2に示す。パラオキシ安息香酸エステル類は高タンパク食品及び高脂肪食品を試料とした場合、水蒸気蒸留法では回収率が低いため、溶媒抽出法が示されている。抽出工程では含水メタノールにより1~2分間のホモジナイズを2回実施するが、ホモジナイズを10分間の振とうに変更することも可能である。抽出後、逆相及びイオン交換カラムを用いた固相抽出により精製し、測定用の試料液とする。

生菌数測定結果

図2. 溶媒抽出法の分析手順
2-3.確認試験法

前処理の精製法により、試料液中に含まれる食品成分(食品マトリクス)を完全に除去することは困難である。試料液中に含まれる食品マトリクスは分析上の妨害物質となり、HPLCによる測定においては目的物質との誤認や測定不能の原因となる。上述したHPLC法において目的物質の定性判断が困難な場合の対処法として、ガスクロマトグラフ質量分析計(GC/MS)又は液体クロマトグラフ質量分析計(LC/MS(/MS))を用いた安息香酸確認試験法、及びGC/MSを用いたプロピオン酸確認試験法が示されている。安息香酸確認試験法はソルビン酸、デヒドロ酢酸及びパラオキシ安息香酸エステル類に適用することが可能である。但し、これらの確認試験法の目的は定性分析であり、定量分析を目的としていないことに注意しなければならない。
 LC/MS(/MS)による分析では、測定機器に試料液を注入して検出されたピークと、標準液を注入して得られたピークの保持時間が一致することを確認する。但し、食品中の夾雑成分によるマトリクス効果により確認を見誤る恐れがあるため、別途、対象試料の試料液に検量線用標準液を添加し、ピークが検出されることを確認する。
 GC/MSによる分析では、測定機器に試料液を注入して検出されたピークと、標準溶液を注入して得られたピークの保持時間が一致すること、及びマススペクトル上の主要なピークの強度比が一致することを確認する。マススペクトルによる確認が困難な場合にはSIMモードによる測定を行い、試料液の検出ピークと標準液のピークが一致することを確認する。

3.おわりに

食品添加物には保存料の他にも、甘味料、香料、着色料など様々な物質が存在する。いずれも食品価値を向上させる目的で使用されており、消費者の食嗜好が多様化する現代の食生活に欠かすことのできないものである。しかしながら、食品添加物は化学物質である以上、過剰摂取は健康に悪影響を及ぼすため、精度の高い分析により食品中の含量を常に監視することが重要である。

参考資料

農林水産省ホームページ:「平成27年度食糧自給率について」 
 http://www.maff.go.jp/j/zyukyu/zikyu_ritu/attach/pdf/012-1.pdf
昭和34年12月28日厚生省告示第370号「食品、添加物等の規格基準」
食安基発0528第3号通知:「食品中の食品添加物分析法」の改正について 別添2
 厚生労働省医薬食品局食品安全部基準審査課長通知 平成22年5月28日

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