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食物繊維について
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第一理化学検査室

はじめに

食品表示法が施行されて1年以上が経過した今、食品表示法において推奨表示項目にされている食物繊維への関心が高くなっている。
 食物繊維は当初、栄養価が無く、「不要なもの」や「食物のカス」などとよばれていたが、1900年代に便秘改善や大腸疾患に影響を及ぼす食物繊維の研究が進められ、世界的に注目されるようになった。その後、1900年代後半頃になると、食物繊維は、炭水化物、たんぱく質、脂質、ビタミン及びミネラルの五大栄養素に加えて、第六の栄養素として重要視されてきた。
 また、近年では難消化性デキストリン、ポリデキストロースなどの様々な食物繊維素材を使用した商品が多く上市されている。
 食物繊維を添加する目的は、「便秘改善や腸内環境の改善」のほか、「糖質の吸収を抑えて血糖値の上昇を緩やかにする」、「食品のカロリーを抑える」などであり、これらの効果を期待して使用されている。そこで今回は、注目を集めるようになった食物繊維について紹介する。

定義

栄養成分表示を行うための分析方法を示した「食品表示基準について(平成27 年3 月30 日消食表第139 号)」の「別添 栄養成分等の分析方法等」(以下、食品表示基準の分析方法)では、「基本的にはプロスキー法(酵素-重量法)によって定量されるもの、すなわち熱安定α-アミラーゼ、プロテアーゼ及びアミログルコシダーゼによる一連の処理によって分解されない多糖類及びリグニンを食物繊維とする」とされている。また、その他に、水溶性食物繊維の中には、一連の酵素処理後、約80 v/v%のエタノールによって沈殿を生成しないため、プロスキー法では定量できない成分については示差屈折率検出器付き高速液体クロマトグラフ法で行うとされている。
 日本食品標準成分表2015年版(七訂)では、「ヒトの消化酵素で消化されない食品中の難消化性成分の総体」とされている。
 国際食品規格委員会(コーデックス委員会)の栄養・特殊用途食品部会(CCNFSDU)では、「小腸において消化、吸収されない重合度10以上の多糖類であり、食品中にもともと存在する可食性のもの、物理的、酵素的、化学的処理により得られたもの及び合成されたものとし、重合度3から9の多糖類の取り扱いについては各国の判断に委ねる」とされている。
 このように食物繊維の定義については、規格・基準によって様々な記載がなされている。

食物繊維の種類

食物繊維は、水溶性と不溶性の食物繊維に分類され、水溶性食物繊維については、高分子と低分子の食物繊維に分類される。代表的な食物繊維を表1に示す。
 また、2015年4月1日より施行された機能性表示食品として届出されている食品の中で、「表示しようとする機能性」において食物繊維を表記した機能性関与成分を表 2に示す。

表1 食物繊維の種類
表2 機能性関与成分(食物繊維)

https://www.fld.caa.go.jp/caaks/cssc01/

定量法

食物繊維の定量法は、プロスキー法(酵素-重量法)、高速液体クロマトグラフ法(酵素-HPLC法)、プロスキー変法、Southgate法及びEnglyst法などがある。
 食品表示基準の分析方法では、プロスキー法と高速液体クロマトグラフ法が採用され、高分子の食物繊維だけでなく、低分子の食物繊維まで定量することができる。
 Association of Official Analytical Chemists(AOAC)では、プロスキー法、高速液体クロマトグラフ法に加えて、プロスキー変法も採用されており、高分子及び低分子の食物繊維に加えて、水溶性と不溶性の食物繊維を分別して定量することができる。
 日本食品標準成分表2015年版(七訂)分析マニュアルでは、プロスキー法とプロスキー変法が採用されており、低分子水溶性食物繊維は評価の対象としていない。
 食品表示基準の分析方法に収載されているプロスキー法及び高速液体クロマトグラフ法について詳しく解説するとともに、図1にその検査フローを示す。

プロスキー法(酵素-重量法)

食物繊維の定量法として簡便で信頼性の高い方法であり、AOAC法において採用されて広く用いられるようになった。日本国内は、食品表示基準の分析方法や日本食品標準成分表2015年版(七訂)分析マニュアルに採用されている。
 本法は、試料を採取後、熱安定α-アミラーゼによって、でんぷんをブドウ糖が少量つながった状態にまでランダムに分解する。次に、プロテアーゼによって、たんぱく質のペプチド結合を分解する。最後に、アミログルコシダーゼによって、熱安定α-アミラーゼによって分解された糖鎖をブドウ糖1分子にまで分解する。その後、エタノールを加えて沈殿を生成させた後、吸引ろ過で沈殿を回収する。得られた沈殿をエタノール及びアセトンで洗浄する。エタノール及びアセトンで洗浄することで、酵素分解されなかった沈殿物中の脂質を洗い流す。この洗浄操作による脱脂が不十分であると、ろ過残渣重量として上乗せされ、食物繊維量は過大に評価されてしまう。沈殿は、一晩乾燥して乾燥重量を測定する。ろ過残渣中には、分解されずに残った試料由来のたんぱく質や酵素由来のたんぱく質、無機物が含まれる。このため、別途、たんぱく質と灰分を定量して、乾燥重量から差し引くことで食物繊維量が算出される。
 本法の注意すべき点は、動物性食品やきのこ類に含まれるキチンやキトサンは食物繊維と考えられるが、窒素を含むため、たんぱく質として定量されてしまい、食物繊維量が正確に定量されないこと、また、カルシウムを豊富に含む食品の場合、リン酸緩衝液を用いるとリン酸カルシウムの沈殿が形成され、これが結晶水を含むと残渣の灰分を正しく補正できないため食物繊維量を過大に評価してしまうことがある。
  したがって、「カルシウム含有食品」のようにカルシウムを豊富に含む食品の場合には、リン酸緩衝液に代えて、MES-TRIS緩衝液(MES:2-(N-Morpholino)ethanesulfonic acid、TRIS:Tris(hydroxymethyl)aminomethane)の使用が望ましく、詳細についてはAOAC(991.43)を参照されたい。

高速液体クロマトグラフ法(酵素-HPLC法)

プロスキー法では分析が困難とされる、低分子水溶性食物繊維を含む食品に適用される。食品表示基準の分析方法とAOAC法で採用されている。
 本法は、プロスキー法で得られたろ液をロータリーエバポレーターで濃縮した後、イオン交換樹脂により、たんぱく質、有機酸類、無機塩類を除去し、高速液体クロマトグラフィーに供する。得られたクロマトグラフ上で食物繊維画分(三糖類以上)と単糖類、二糖類画分とを分け、食物繊維画分とブドウ糖のピーク面積の比率を求める。同時に、内標準物質としてでんぷんの分解等により生成するブドウ糖の質量を別途酵素法により求め、ピーク面積比率にブドウ糖質量を掛けることにより低分子水溶性食物繊維量を算出する。原則として、三糖類のひとつであるマルトトリオースのピーク溶出位置を指標とし、これと同じかこれより前に溶出するものを食物繊維画分としている。
 総食物繊維量は、プロスキー法と高速液体クロマトグラフ法で得られた値を合算して算出する。
 本法の注意すべき点は、難消化性のオリゴ糖を併用した食品の場合、単一カラムでは測定できなくなるため、難消化性オリゴ糖のカラムを用いて別途、定量して、低分子画分からその量を差し引くなどの対応が必要である。ただし、食品表示基準において、難消化性オリゴ糖のエネルギー換算係数の設定されているものを含み、その含量表示がなされている試料の場合のみの対応となる。

図1 食物繊維の検査フロー

食物繊維素材の課題

食物繊維素材として使用される難消化性でんぷんについて、プロスキー法では、一部の種類の難消化性でんぷんは正しく定量できないことが知られている。これは、高温で酵素処理することで熱に弱い一部の種類の難消化性でんぷんが分解されてしまうと考えられている。 一方、AOAC法ではこのことを鑑み、改良された食物繊維定量法(AOAC 2009.01)が収載されている。この方法では、酵素処理を緩やかな条件で行うことで熱に弱い一部の種類の難消化性でんぷんの分解を抑え、食物繊維として定量できるように改良されている。 ここで、日本国内での分析方法とAOAC法を含め、各方法での食物繊維の定量可否について表 3に示す。

表3 食物繊維の種類と定量法

※一般社団法人 日本食物繊維学会
  「栄養表示の表示値策定による食物繊維定量法の選定に関する提言」より一部抜粋
注)粘質性の多糖類を多く含む食品では、ろ過操作が困難であり、分別定量は不可
RS1:豆類や未粉砕の全粒穀類のでんぷんなど物理的に消化酵素が接触できないもの。
RS2:生のジャガイモ、未熟なバナナ、あるいはハイアミロースコーンなどのでんぷん。
RS3:老化でんぷん(一旦糊化(α化)したでんぷんが再結晶化(β化)したもの)。
RS4:加工でんぷん(架橋でんぷんなど化学修飾されたもの)。

今後の課題

最近の健康志向や機能性表示食品制度などにより、これまで市場にはなかった多くの食物繊維素材を使用した商品が上市されている。そして、その多くがこれまでの食物繊維の概念とは異なり、食物繊維の含量を極端に高めたり、高分子から低分子へと機能を変化させたりと他者と差別化させた食物繊維素材を使用している。
 今後、様々な食物繊維素材が利用される中で、食物繊維の定量に問われる課題は、如何にその食物繊維素材に適した定量法を選択するかである。先にも述べたように、対象となる食物繊維素材が水溶性なのか不溶性なのか、また、高分子なのか低分子なのかによって選択すべき方法が異なり、適した方法を選択しないと分析値が想定値と大きく乖離する。そのため、食品表示基準の分析方法だけでなく、国際的な方法であるAOAC法など幅広い情報を集め、対応することが重要である。

参考文献

食品表示基準について(平成27年3月30日消食表第139号)
日本食品標準成分表 2015年版(七訂)(文部科学省)
日本食品標準成分表 2015年版(七訂) 分析マニュアル(文部科学省)
新 食品分析ハンドブック(建帛社)
日本食物繊維学会 ルミコナイド研究 VoL.19 No.2(2015)
食品化学新聞社 月刊フードケミカル 5月号(2016)
  https://www.foodchemicalnews.co.jp/headline/headmfc/2690.html

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