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食品に含まれる酸性タール色素の試験法
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第一理化学検査室

はじめに

食品の色は、食欲を左右する重要な要素である。赤いマグロの刺身はおいしそうに見えるが、褐色だと食欲はわかない。また、同じ料理を食べるとしても、彩りがある盛り付けのほうがよりおいしそうに感じる。“おいしそう”と感じさせる効果以外にも、“好奇心や楽しさ”を刺激する知育菓子などでは、色の鮮やかさや色の変化を付加価値としている。バナナの可食部は白いがバナナ味の食品では、バナナの皮と同じ黄色に着色されることでバナナ味の食品であることが見て想像できるようになる。食品への着色は栄養学的な観点でみれば不要かもしれないが、前述のように、食品の色に対して抱く印象が食品の価値を左右するため、着色料の存在は不可欠である。
 着色料には大きく分けて天然色素と合成色素があるが、ここでは合成色素である酸性タール色素について紹介する。酸性タール色素は、かつてコールタールを原料として製造されていたために“タール”を冠して呼ばれるようになった(現在の原料は異なる)。食品に使用される酸性タール色素のうち、我が国において許可されている色素は12種類あり、これらを図1に示す。国内外で1種類の色素に対し複数の名称があるので、各色素名の例については表1に示す。EUでは許可された添加物に対しE番号を、米国食品医薬品局(FDA)では食品への使用が許可された色素に対しFD&C番号を付与している。FD&CはFood, Drug and Cosmeticの略であり、表1において、Fのついていない食用赤色2号と食用赤色104号は食品への使用が許可されていないこととなる。また、表1には示していない名称もあり、中には、食用赤色102号(ニューコクシン)をポンソー4R、食用赤色106号(アシッドレッド)をアシッドローダミンBと呼ぶこともあるため、一見すると別の色素と誤認してしまうこともある。このような時には、各色素の化学構造から分類された色素固有の番号であるColor Index(C.I.)番号を参照するとよい。参考文献として、より詳細な一覧表が示された文献を記載したので参照されたい。
 我が国で許可された酸性タール色素は12種類であるが、赤色色素は7種類あり、赤い食品を見てもどの色素が使用されたか判別することは難しい。また、海外でのみ許可された色素が輸入食品に誤用される事例や海外向けに製造された商品を誤って輸入する事例などもある。そのため、食品に含まれる色素が仕様どおりの色素であるか、許可されていない色素の混入がないかを試験し、確認する必要がある。試験法として、精製に羊毛や顆粒のポリアミドを使用する方法のほか、溶媒抽出法やカートリッジカラムなどを使用する方法などもある。判定に際し、薄層クロマトグラフィー(TLC)や高速液体クロマトグラフィー(HPLC)などを利用する。本稿では、ポリアミドによる精製ののち、TLCで試験する方法とその様子を紹介する。

図1 各色素の構造式(第8版食品添加物公定書より引用)
図1 各色素の構造式(第8版食品添加物公定書より引用)
表1 各色素の名称およびColor Index(C.I.) 等
表1 各色素の名称およびColor Index(C.I.) 等

試験操作

試験のフローチャートを図2に示す。まず、粉砕した試料に抽出溶媒を加えて加温抽出し、ろ過または遠心分離によって抽出液を得る。抽出液に酢酸を加えてpH3~4としたのち、ポリアミドを加え、ポリアミドに色素を吸着させる。上清を傾斜法やろ過等で捨てたのち、着色したポリアミドを水とメタノールを用いて洗浄する。吸着した色素をエタノール・アンモニア混液で溶出し、エバポレーター等を用いて濃縮した後、これを試験溶液とし、TLCにより定性を行う。
試験を実施するにあたり、通常、試料を粉砕して均一化したものを試験に供するが、着色部分が特定できる場合は、必要に応じて、着色部分だけを採取して試験する。抽出溶媒には、試料により水、エタノールまたは薄めたアンモニア水溶液、もしくはこれらの混合液を使用する。飴などは水でよいが、デンプンやタンパク質を多く含む試料の場合は、抽出溶媒にエタノールを加える。魚肉製品や食肉製品の場合には、薄めたアンモニア水溶液を加える。ポリアミドは酸性タール色素を酸性条件下で吸着しアルカリ性条件下で脱着する性質があるため、これを利用して酸性タール色素を抽出、精製する。吸着の際、食品由来の夾雑物が多いと妨害されるため、水で希釈しておくとよい。定性に用いるTLCの展開条件として、書籍やインターネット上で検索できたものをいくつか表2にまとめたので、参考にされたい(各条件の優劣を示すものではない)。色素が検出し、その種類を同定する際には、異なる展開条件でTLCを実施して確認しておくことが望ましい。紫外線の照射により観察できる蛍光の有無や蛍光の色調も判別の助けとなる。
 参考までに、市販のチョコレートスプレー(表示色素:赤色3号、黄色4号、黄色5号、青色1号)を試験する様子を図2に合わせて示す。色素溶出時には、色素が分離しながら溶出する状態が観察できる。TLCにより、試験溶液に色素が4種類含まれていることが分かる(スポット位置は↖で示した)。黄色4号、黄色5号については、近接する他の色素はないが、青色1号と赤色3号については、近接する他の色素があるため、別の条件でTLCを行い、確認しておくことが望ましい。青色1号に近接する緑色3号については、アンモニアガスに曝すと色調が変化するので、これをもって確認することもできる。

図1 各色素の構造式(第8版食品添加物公定書より引用)
図2 試験のフローチャートと市販のチョコレートスプレーの試験の様子
表2 深層板と展開溶媒の例
表1 各色素の名称およびColor Index(C.I.) 等

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最後に

冒頭でも述べたように、食品の着色は必要なものと考えられるが、タール色素については安全性が疑問視され、使用禁止となるものが出現し、さらには消費者からも忌避されるようになってきた。それに伴い、天然色素が好まれるようになったものの、タール色素と比較して、着色に必要な添加量が多く、着色が不安定なものがあるなどの問題がある。また、天然物由来ということで安全なイメージがあるが毒性試験のデータが少ないものもある。一方、酸性タール色素については、厚生労働省のホームページより閲覧できる「マーケットバスケット方式による年齢層別食品添加物の一日摂取量の調査」に調査結果が公開されており、現在の摂取量であれば安全性上問題ないとされている。着色料の安全性に対する意見は肯定的なものもあれば否定的なものもあるため、得られる情報の正しさを判断することが大切である。

参考文献

1) “第8版食品添加物公定書解説書” 廣川書店 (2007) 

2) 日本薬学会編:“衛生試験法・注解2015” 金原出版 (2015)

3) 宮 武 ノリヱ,永 山 敏 廣:東京衛研年報,56,145-151,2005
TLC とHPLC の併用による食品中合成着色料の一斉分析法
http://www.tokyo-eiken.go.jp/assets/issue/journal/2005/pdf/56-23.pdf
(色素の別名一覧が掲載されている。)

4) 厚生労働省:マーケットバスケット方式による年齢層別食品添加物の一日摂取量の調査
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/
syokuten/sesshu/

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