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食品微生物制御におけるバクテリオファージの利用
北海道大学大学院 水産科学研究院 水産食品科学分野
准教授 山崎 浩司
北海道大学大学院 水産科学院 海洋応用生命科学専攻
博士後期課程 山木 将悟

1.はじめに

近年、消費者の天然物志向を受け、素材の持つ食感や風味を可能な限り維持した食品が好まれるようになった。そのため、温和な加工処理の複数組み合わせによって微生物の発育を制御するハードルテクノロジー理論(Leistner and Gorris, 1995)に基づいた微生物制御手法が採用されている。しかし、食感や風味の低下を防止するための添加物量や加熱殺菌強度の低減は食品保蔵中の微生物増殖リスク増加を招くことに繋がる可能性がある。特に近年ではReady-to-eat食品(RTE食品;非加熱喫食食品)によるリステリア症を代表とする重篤な食中毒の発生が問題視されている。そこで、食品微生物制御の分野において新しい制御法としてバクテリオファージの利用が注目されている。本稿では、食品微生物制御におけるバクテリオファージの利用について簡単に紹介する。

2.バクテリオファージとは

バクテリオファージ(ファージ)とは、細菌を標的として感染するウイルスの総称である。バクテリオファージという名称はギリシャ語で「細菌を食べる者」という意味であり、ファージ感染後に細菌が溶菌される様子にちなんで発見者の一人であるFélix d’Herelleにより命名された。ファージは主に核酸(DNAまたはRNA)とタンパク質の外殻から構成され、エンベロープを持つものも存在する。現在、形状および保有する核酸の種類から様々に分類されるが、これまでに発見されたファージの多くが頭部および尾部により構成されるCaudovirales目に属する。T4ファージやλファージはこの目に分類され、今日の生命科学の発展にはなくてはならない存在である。また、地球上には1030を超えるファージが存在するという試算もあり(Büssow and Hendrix, 2002)、ファージの存在は生態系に非常に大きな影響を与えている。
 ファージはビルレントファージとテンペレートファージの2種類に大別され、それぞれ異なった生活環を示す(Nakonieczna et al., 2015)。ファージの生活環(溶菌サイクルおよび溶原サイクル)について図1に示した。ビルレントファージは特定の細菌に吸着し核酸を注入後、自らを複製し溶菌により娘ファージを菌体外に放出する。一方、テンペレートファージは細菌に核酸を注入後、宿主のゲノム中に自らのゲノムを組み込む。プロファージと呼ばれるこの状態は、宿主と共に増殖を行うことを可能とし条件を満たすとビルレントファージと同様に菌体外へと放出される。すなわち、テンペレートファージは細菌間の遺伝子水平伝播に大きく寄与しており、腸管出血性大腸菌のベロ毒素は赤痢菌のシガトキシン遺伝子がテンペレートファージにより伝達されたと考えられている(Wagner and Waldor, 2002)。毒素遺伝子や薬剤耐性遺伝子の拡散防止のため、微生物制御を目的としたファージにはビルレントファージを用いる。

図1.ファージの生活環。ビルレントファージは溶菌サイクルで、テンペレートファージは
溶菌サイクルと溶原サイクルの両方で増殖する。

3.抗菌物質としてのバクテリオファージ

ファージは1915年のFrederick W. Twortおよび1917年のFélix d’Herelleによりそれぞれ発見された。発見者の一人であるd’Herelleはファージの名付け親であり、ファージを利用した感染症療法である「ファージセラピー」を提唱し研究を推し進めた者でもある。d’Herelleらの働きによりファージセラピーの研究は大きく発展し感染症患者を助けた。ファージ製剤は製品化されるまでとなったが、多くの問題があったことも事実である。当時、ファージの宿主域や感染機構に関する知識は十分とはいえず、ファージセラピーに対する科学的根拠は不足していた。純度や宿主域の観点から有効でないファージ製剤も存在したようである。そのため、ファージセラピーに懐疑的なものも存在し、その後のペニシリンの発見がファージセラピーを西欧諸国から忘れ去らせる決定打となった。しかし近年、多剤耐性菌の出現により抗生物質の限界が示され、新たな感染症治療法としてファージセラピーに再び注目が集まっている(Kutateladze and Adamia, 2010)。感染症の治療薬としてファージを用いる利点は、①薬剤耐性菌を殺菌可能、②ファージ耐性菌への対処が抗生物質よりも容易(耐性菌に対しても感染可能なようにファージが進化するまたは新たなファージの分離が可能)、③感染巣でファージ自ら増殖可能、④病原細菌のみを選択的に殺菌可能、等である(Loc-Carrillo and Abedon, 2011)。このような利点を受け、ファージの利用は食品業界にも拡大されつつある。

4.食品微生物制御におけるファージ利用の利点および欠点

食品微生物制御におけるファージ利用の利点および欠点について表1にまとめた。はじめに述べたように、現在の食品保蔵技術においては食品の官能特性および栄養素を可能な限り損なわない微生物制御法が求められる。ファージは食品の味や香り、外観、成分に影響を及ぼさないため、非加熱喫食食品の微生物制御に適していると考えられ、またヒトに対する安全性の面でも問題が少ないとされている。これは、ファージが環境中のいたるところに存在し、ヒトが古来より飲食を通じてファージを摂取し続けてきたことにも由来する。ファージの殺菌作用は優れた選択性を示し、食品の菌叢に悪影響を及ぼさない。これはファージの感染特異性に起因し、ファージは感染を始める際に宿主細胞表面の特異的なレセプター(タンパク質、リポ多糖等)を認識して吸着するため、狙った細菌のみの選択的な殺菌が可能となるからである。また、リポ多糖等の菌体成分の除去は必要であるが、ファージは宿主の培養液から容易に調製が可能なことも利点の一つと言える。また、ファージの分離も比較的容易に行うことができ、米国の食品を利用した研究では全45サンプルのうち22サンプルから38株のファージを分離することに成功した報告がある(Whitman and Marshall, 1971)。
 一方、ファージの利用にはいくつかの注意点も存在する。第一に、使用するファージの感染様式がある一定の基準を満たす必要があり、このファージ選別がファージ利用の成否に大きく関与すると言える。必要と考えられる基準は表2にまとめた通りである。先に述べた通り、ファージセラピーに適するファージはビルレントファージであり、遺伝子の水平伝播を引き起こすテンペレートファージの使用は不適である。同様の理由で、病原性および薬剤耐性に関与する遺伝子を持つファージも使用すべきではない。その他に求められる要素は、適切な宿主域を示すか(ファージによっては宿主域が株レベルのものも存在する)、優れた溶菌性を示すか、食品中での安定性などである。さらに、実際の食品において使用するファージ溶液は高濃度であることが求められる。通常、食品を汚染する病原細菌は低濃度であるため使用するファージ溶液も低濃度で良いと思われがちである。しかし、低濃度のファージ溶液を用いた場合、細菌とファージの接触効率が著しく低下し殺菌効率も低下することが既知の研究成果から明らかにされている。よって、実務的には高濃度(108 PFU/g程度)のファージ処理を行うことが求められる(Hagens and Loessner, 2010)。最後に、ファージはウイルスである。安全であったとしても、ウイルスを食品に使用することが消費者に受け入れられるかという問題も大きく存在する。

表1.食品微生物制御におけるファージ利用の主な利点および欠点
 
表2.使用するファージに求められる要素

5.食品へのファージの利用

食品微生物制御におけるファージの利用は既に世界に広まりつつある。主要なファージ製剤としては、オランダMicreos Food Safety社のリステリアファージ製剤LISTEXTM、サルモネラファージ製剤SALMONELEXTM、米国Intralytix社の腸管出血性大腸菌O157:H7ファージ製剤EcoShieldTM、サルモネラファージ製剤SalmoFreshTM、リステリアファージ製剤ListShieldTMが挙げられる。ファージ製剤は通常加工助剤として使用される。例えば、LISTEXTMは米国FDAより全食品においてGRAS(Generally Recognized As Safe)物質として認められており、Micreos Food Safety社のホームページによると米国、カナダ、スイス、オランダ、イスラエル、ノルウェー、オーストラリアおよびニュージーランドで利用が認可されている。  ファージ製剤の多くはファージ溶液という形で提供され、製品に噴霧またはファージ製剤への製品の浸漬という使用法が推奨されている。主要なファージ製剤を用いた研究例を表3に示した。例えば、LISTEXTMに含まれるリステリアファージP100を用いた研究では、リステリア(Listeria monocytogenes)を1×103 CFU/gで植菌したホットドック、シーフードミックスおよびキャベツにおいてリステリアの生菌数が、ファージ処理によって対照区(ファージ未処理)よりも2–3 log CFU/g減少することが実証されている(Guenther et al., 2009)。また、サーモンフィレ、ローストビーフおよび七面鳥においてもLISTEXTM処理の有効性が確認されている(Soni and Nannapaneni, 2010; Chibeu et al., 2013)。
 著者らの研究室でも、赤身魚に起因するヒスタミン食中毒を防止するため、ヒスタミン生成菌を溶菌するファージの探索と分離を行い、その性状と水産食品におけるヒスタミン蓄積抑制能を調べている。これまで、強力なヒスタミン生成能を示す中温性細菌Morganella morganii subsp. morganiiおよびPhotobacterium damselae subsp. damselaeに感染するファージの分離に成功し、その利用特性について研究を行ってきた。その内容の一部を紹介すると、函館市内の河川水より分離したM. morganiiファージFSP1は様々な温度とpH環境下で安定であり、強力な抗菌活性を示すこと(Yamaki et al., 2014)、また、液体培地の実験において104 CFU/mlでM. morganiiを接種し12°Cで培養した試料において未処理区では最大4,500 mg/Lのヒスタミンが蓄積したのに対し、ファージ処理区では実験期間を通じてM. morganiiの生菌数は大きく減少し、それに伴いヒスタミン蓄積も全く確認されないことを示した(図2)。現在、魚肉におけるヒスタミン食中毒制御へのこのファージFSP1の有効性について検証を行っているところであるが、水産食品におけるヒスタミン蓄積抑制にも新しい微生物制御法としてのファージ利用が有効である可能性が大いに期待できると考えている。

表3.ファージ製剤を用いた食品微生物制御の主要な研究例
 
図2.12°CにおけるM. morganiiファージFSP1のヒスタミン蓄積抑制。ファージ処理区では
実験期間を通じてヒスタミンは検出されなかった。

6.おわりに

食品の加工流通過程が複雑化している現在、食品の安全性確保はますます重要となっている。ファージの利用は、殺菌作用に選択性があること、食品の味や香り、成分に影響を及ぼさないことなど食品加工上優れた性質を持つ新たな非加熱殺菌技術として諸外国では注目を集めている。日本における食品微生物制御へのファージの利用は、なかなか道筋が見えない状況ではあるが、新しい微生物制御法の模索、開拓は必要であり、大学という教育・研究機関だからこそできることもあると考える。ファージの利用には、多くの利点はあるが、実用にあたっては様々な課題も存在する。筆者らも、食品へのファージ利用が実現される時を見据え、現在、基礎的知見を獲得し、これら技術の発展に少しでも貢献できればと考えている。

参考文献

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略歴

山﨑浩司
北海道大学大学院水産科学研究院水産食品科学分野
准教授
1993年 北海道大学水産学部 助手
1998年 北海道大学水産学部 助教授
2007年 北海道大学大学院水産科学研究院 准教授   
現在に至る

山木将悟
北海道大学大学院水産科学院海洋応用生命科学専攻
博士後期課程
2012年 北海道大学水産学部 卒業
2014年 北海道大学大学院水産科学院 博士前期課程 修了
2014年 北海道大学大学院水産科学院 博士後期課程 入学
2016年 日本学術振興会特別研究員 DC2
現在に至る

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