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食品表示基準の施行状況と今後の課題
公立大学法人宮城大学
名誉教授 池戸 重信
(内閣府消費者委員会食品表示部会委員)

1 新たな食品表示制度の進捗状況

食品表示法に基づく食品表示基準が平成27年4月に施行されて丸1年が経過した。
 今回の新法に基づく制度改正は、我が国の食品表示史上最大のトピックで大改正と言える。
 したがって、食品表示基準や、Q&A、ガイドラインなども多岐にわたり、それらは分量も合わせて1,000頁を超えるものとなっている。
 なお、新旧の基準が入り乱れることが無いよう、全ての表示事項は一括して新しいものに転換する必要があることから、「様子見」の企業も多いことは事実である。
 一方、基準の解釈等につき、問合せ先は、従来地元の保健所や農水省の出先機関であったが、中央から地方行政への情報の移動がまだまだというのが実態であるため、消費者庁に直接訊かねばならず、また、消費者庁も相談窓口が、量及び質の面で人材的に十分な体制でないことも否めない。今後は、最寄りの窓口で回答ができるような体制整備が求められる。
 なお、食品表示法の国会審議において、衆参両院から附帯決議が出されているが、その中には、問合せについて「ワンストップサービスに努めること」が示されている。
 消費者庁の設置以前においては、JAS法に関して、企画及び執行ともに農林水産省が所管し、同様に食品衛生法及び健康増進法は厚生労働省が所管していた。
 しかし、消費者庁が設置され、前記3法のうち食品表示に関する所管が同庁に移行したことから、3法を一元化した食品表示法の制定が可能となった。ただし、法令の制定や改正等に関する「企画」はともかく、監視等の「執行」分野については、全国に出先機関を有する農林水産省、厚生労働省(都道府県及び政令市の長、実際は保健所に委任)及び財務省(酒類の所管)と連携して対応することになっている。
 したがって、従来食品衛生法及び健康増進法関係については保健所に、JAS法関係についてはFAMIC等農林水産省関係の出先機関に、といった別個所管の相談窓口に行かざるを得ず、場合によっては「たらい回し」になることもあったが、食品表示法に一元化後は、いずれの窓口でも対応する体制となった。しかし、前記事情等により、まだ理想的な段階に至っているとは言いがたい。
 また、迅速なワンストップサービスの実現とともに、窓口機関や担当者によって回答が異なるということがない「回答の同一性」も求められる。
 現在、新たな食品表示制度は図1のように食品表示基準の経過措置期間となっているが、生鮮食品については、今年の10月以降全面施行となる。
 また、これの施行と並行して、残された課題の検討も順次進められている。

新食品表示制度の施工に向けたタイムスケジュール
図1 新食品表示制度の施工に向けたタイムスケジュール

2 栄養表示及び製造所固有記号対応

新たな食品表示基準への移行に当たっては、特に栄養成分の表示と製造所固有記号対応に苦慮している企業も多い。

1) 栄養成分表示の免除事業者について

栄養成分表示は、「数値を出さねばならない」という点で負担となる。特に、アイテム数が多い中小企業にとっては、対応が困難なところも多く、そのために、原則として、全ての食品関連事業者を表示義務の適用対象とするものの、食品関連事業者以外の販売者は義務化の対象外とすること、また業務用加工食品については、表示義務を課さないこととし、更に、家族経営のような零細な事業者として、消費税法(昭和63年法律第108号)第9条(小規模事業者に係る納税義務の免除)に該当する場合、表示義務を免除とすることになっている。また、栄養表示の義務化に向けて、栄養表示基準の一部改正により環境整備は進みつつあるが、公的データベースの整備や中小・零細事業者が栄養成分量を簡単に計算できるソフトの開発等、環境整備の状況が不十分な状況を踏まえ、当分の間、中小企業基本法(昭和38年法律第154 号)における小規模企業者の定義である「おおむね常時使用する従業員数が20人(商業又はサービス業に属する事業を主たる事業として営む者については5人)以下の事業者」を免除対象としている。
 しかし、この免除規定は、あくまでも販売者対象で、製造・加工者とはなっていない。
 すなわち、栄養価が流通過程で変化することもあることから、消費者の手に渡る時点での値を想定したものである。したがって、製造・加工者が直接販売する場合は該当するが、少量でもその製品をスーパー等の店頭で販売し、当該販売店が前記の従業員や売上額の規模に満たない場合には免除対象となる。実際は、販売店であるスーパーは比較的大きな規模のところが多く、免除対象外が大半と判断されるとともに、自ら栄養成分等を明らかにする作業は行わず、製造・加工者に算出を課すことがほとんどと思われるため、特に中小規模の製造・加工者の負担は決して少なくないと判断される。

2) 製造所固有記号対応について

製造所固有記号(「記号」)制度は、旧食品衛生法に基づくものである。すなわち、従来は、食品事故発生時に保健所がその原因究明等のため、消費者庁に届けられた記号を根拠に、製造・加工所の住所や名称・氏名を遡及するシステムであった。それが、今回の食品表示法の制定を機会に、購入した商品につき、消費者もどこのどの企業が製造・加工したかが分かるシステムに転換されることになった。
 仮にある事故品が出回った場合、当然のことながら、消費者は自分の手元にある商品が、その事故品に該当するか否かは記号を見ただけでは識別が不可能である。
 したがって、原則として記号ではなく名称又は氏名並びに住所を表示することに改正されることになった。ただし、商品コストへの影響を考慮して、原則として、同一製品、同一規格、同一包装のもので、2以上の工場で製造する商品のみについて記号の利用が可能となった。なあ、この場合にあっても、図2のように消費者に対して応答義務が課せられる。
 こうした改正に伴い、届け先である消費者庁のデータ管理システムも変換しなければならないことから、当該記号制度についての施行は、2016年4月からとなっている。
 また、従来は当初の届出以降、製品の製造中止や事業所の廃止等の届出義務が課せられていなかったことから、いわゆるかなりの量の「死に記号」というものもデータベースに入っていたが、この機会に更新の届出制が導入された。
 具体的には、記号の有効期間を5年とし、有効期間経過後も継続して使用する場合は、届出情報の更新が必要となる。また、届出情報の更新は、更新期限の90日前から可能とされている。そして、更新期限までに届出情報の更新を完了しない場合には、当該記号は廃止の扱いとなり、更新期間を経過した製品には使用不可となる。
 ところで、この改正については、対応が難しい等のパブリックコメントが多数寄せられた経緯がある。その理由として、従来の製造・加工所が1か所でも記号の使用可の場合には、どこの事業所で作ったかということを企業秘密にすることが可能であったが、今回は事業所が特定されてしまう。観光地で購入した土産物が、他の地域で作られていたことが分かり、マイナスイメージとなって販売量の低下を招く。作っていた事業所が中小企業であり、それが明らかになることでイメージダウンにつながるという理由で、大手の販売店等からの発注が停止になる等の深刻な課題が背景にあるからである。
 消費者庁は、本年4月の施行を前提として、正確な判断や手続きを徹底するために、詳細なQ&Aや説明会を開催してきた。
 ただし、食品表示基準はそのままで改正されたものではなく、「解釈」を厳密にし、周知徹底を図るという趣旨の取組がなされてきた。
 当該取組に関して、前記の課題を有している企業においては、「解釈」等に基づき創意工夫が必要と判断される。

製造所固有記号の使用に係るルールの改善
図2 製造所固有記号の使用に係るルールの改善

3 残された課題の動向

食品表示制度に関する残された主な課題
図3 食品表示制度に関する残された主な課題

1) 検討済みの課題

食品表示法の制定に当たって、図3のようないくつかの「今後の課題」が残されている。このうち、中食・外食のアレルギー表示に関しては、既に検討が終わり、義務化よりもガイドライン等の自主的な対応が相応しい旨の方向性が出されている。

2) 現在検討中の課題

(1) インターネット販売の食品に関する表示制度
 国民のおよそ8割がインターネットの利用者であり、また、1年間にインターネットにより商品等購入・金融取引を経験した者は、15 歳以上のインターネット利用者の過半を占めるとの調査結果がある。
 また、高齢者を中心に食品購入や飲食のアクセス機会が確保できない事態が顕在化しつつあるが、これに対して、時間や場所を選ばないなどの高い利便性を持つインターネット販売が重要な役割を果たすことが期待されていると考えられるなど、消費者の消費行動にインターネットは深く関わりを持つものとなっている。
 一方で、食品表示の観点から見れば、インターネットにより販売される食品については、その商品自体にはJAS法等に基づき表示が行われているものの、画面上で同様の表示が行われているわけでは必ずしもない。加えて、インターネットは、取引を行う画面上から提供される商品情報に基づき、複数回クリックするだけで取引が完了するという特徴を有している。消費者が購入時に商品を直接手に取って容器包装の表示事項を確認することができないことを踏まえれば、インターネットにより販売される食品については、商品の容器包装に表示すべき義務表示事項と同じ事項を画面上にも記載させることも考えられる。
 しかしながら、インターネットの場合には、期限表示など個々の商品によって異なる表示事項を義務付けることは困難であり、その意味で容器包装と同じ事項を記載することはできないと指摘されている。また、インターネット販売時の画面には、そもそも、問合せ用のフォームやメールアドレスが記載されていることが一般的であり、不明な点があれば、消費者は販売事業者等に確認できる仕組みになっている。
 さらに、一言でインターネット販売と言っても、その形態としては、ネットスーパーのように小売店で実際に売られている膨大な商品を取り扱っているものから、個人が独自のサイトを通じて食品を販売するものまで、極めて多様な実態があることを考慮する必要がある。後者の場合、インターネットのみで販売されている商品もあり、初めて購入する際には商品が手に届くまで内容情報が分からないこともあり得るが、前者の場合には、小売店での購入を含め日常的に同じものを購入していることが多いと考えられ、このような場合には、消費者は当該商品に関する内容情報を理解した上で購入していると考えられる。
 以上のことを踏まえれば、インターネット販売における食品の情報提供のあり方については、専門的な検討の場を別途設け、消費者のニーズを踏まえつつ、専門家を交えて検討を重ねることが必要である。
 こうした状況を踏まえ、当該課題に関しては、消費者庁において平成27年12月に「食品のインターネット販売における情報提供の在り方懇談会(座長湯川剛一郎)」を設置し検討が進んでいる。
 具体的な検討項目としては、インターネット販売に係る情報に関して、①必要な情報の内容、②必要な情報提供の方法、③情報提供の促進のための方策、④その他となっており、平成28年秋頃を目途に取りまとめすることになっている。懇談会の構成は表1の通りである。

表1 食品のインターネット販売における情報提供の在り方懇談会委員名簿
食品のインターネット販売における情報提供の在り方懇談会委員名簿

これまでに、第1回平成27年12月4日、第2回平成28年1月26日、第3回平成28年3月9日及び第4回平成28年3月30日の各日に開催され、これまでは、事業者からのヒアリング中心の検討となっている。

(2) 加工食品の原料原産地表示制度
 ⅰ) これまでの検討経緯
 加工食品の原料原産地表示制度は、新法制定以前はJAS法に基づき、食品の品質を指標とするものであったが、図4に示すように、幾多の議論がなされ現在に至っている。しかし、食品表示法が制定されることになり、食品の品質に特化することなく、広範な指標を視点に「食品一元化検討会」でかなりの時間を費やして検討されたが、結論がまとまらず「課題」として残された。

これまでの原料原産地表示制度に関する経緯
図4 これまでの原料原産地表示制度に関する経緯

こうした経緯を踏まえ、平成28年1月に「加工食品の原料原産地表示制度に関する検討会」が設置された。この検討会は、消費者庁と農林水産省との共催という異例の形式による。
構成は表2の通りである。

表2 加工食品の原料原産地表示制度に関する検討会委員構成
加工食品の原料原産地表示制度に関する検討会委員構成

検討項目としては、①現行の加工食品の原料原産地表示制度や取組の検証、②加工食品の原料原産地表示の拡大に向けた具体的な方策、③その他で、図5のようにスケジュールや進め方は現行の加工食品の原料原産地表示制度や事業者の取組状況等を踏まえ、関係者からヒアリング等を行いつつ検討を進めてきており、平成28年秋を目途に中間的な取りまとめを行うこととしている。
 以下、これまでの検討経緯を記す。

検討会の検討スケジュール
図5 検討会の検討スケジュール

① 原料原産地表示導入の背景
 加工食品の原料原産地表示は、前記のように食品表示法の制定前までは旧JAS法に基づく制度であった。JAS法における「原産地の表示」の取扱いについては、青果物の輸入が増加し、商品選択の目安等のための原産地表示を求める消費者の声の高まりに対応して、外観から品質を識別することが困難なものであって、原産地による品質格差が大きい青果物(にんにく、根しょうが、ブロッコリー、さといも、生しいたけ、乾しいたけ等)などに限って、表示義務を課す品目を個別に指定してきた。
 その後、生鮮食品については、ブランド感覚や鮮度が重視され、原産地に基づく品質の差異によって商品の経済的価値が左右されることなどにより、原産地の差異が消費者の行動等に影響を及ぼすようになってきたことから、平成12年に、全ての生鮮食品に原産地表示を義務付けることとされた。
 他方、加工食品については、原材料の原産地の差異が製品の品質の差異に与える影響は必ずしも大きくないと考えられてきたことから、原料原産地表示を義務付けることとはされていなかった。
 しかし、原料調達先のグローバル化が進展し、食品に関する情報を求める消費者のニーズが高まる中で、産地を強調する加工食品が多く見られるようになり、表示されている産地が原料の原産地を指すのか、加工地を指すのか必ずしも明確でない等、消費者の誤認を招くおそれのある場合が生じていた。
 このため、その原産地に由来する原材料の品質が製品の品質に大きく関わっているような、加工程度が低く、生鮮食品に近い加工食品(単に農畜水産物を乾燥したもの等)については、原料原産地表示を義務付けることとしたものである。

② 初期における品目の表示義務化
 平成12年3月に示された「加工食品の原料原産地表示検討委員会」報告によれば、原料原産地表示を行う品目の選定基準として、
 a. 原材料の原産地による差異が品質に反映されるか
 b. 加工の程度が比較的低くおおむね原形をとどめているか
 c. 消費者に誤認を与えるような表示実態があるか
 d. 他の方法では消費者の誤認を防ぐことは困難か
 e. 原材料の原産地がある程度一定しているか
 f. 表示を事後的に確認する手法・体制は十分か
という視点によることとし、平成12年12月~平成14年8月に、乾燥わかめ、塩蔵わかめ、あじ・さばの干物、塩さば、農産物漬物、野菜冷凍食品、うなぎ蒲焼き、かつお削り節の8品目につき、順次表示を義務化した。

③ 20食品群の表示義務化
 平成15年2月~7月の 食品の表示に関する共同会議(第3回、第5回~第8回)において、原料原産地表示の対象品目選定のあり方及び表示方法について検討するとともに、水産庁、冷凍食品業界、豆腐業界、漬物業界から意見聴取をした。その結果、平成15年8月に共同会議報告書「加工食品の原料原産地表示に関する今後の方向」が公表された。
 その中で、義務表示対象品目の選定については、

 a. 原産地に由来する原料の品質の差異が、加工食品としての品質に大きく反映されると一般に認識されている品目のうち、

 b. 製品の原材料に占める主原料である農畜水産物の重量の割合が50%以上である商品

という要件を満たす商品について、表示実行上の問題点等も考慮しながら、表示対象とすべきかどうかの検討を経て行うこととなった。

④ 平成16年以降の共同会議における検討経緯
 加工食品における原料原産地表示制度に関しては、これまでの間、かなりの時間を費やして検討がなされてきたことは、前記の通りである。すなわち、厚生労働省と農林水産省との「食品の表示に関する共同会議(共同会議)」や「食品表示一元化検討会」等において検討がなされ、現在の「品質」を指標とした前号の2要件が設定された。
 さらに詳細な議論経過を記すと、原料原産地表示については、平成16年の共同会議(前号に記載)以降も検討がなされ、平成21年8月に共同会議の報告書がまとめられた。この際の検討事項としては、

 a. JAS法に基づく加工食品の原料原産地表示の拡大に向けた表示の方法と品目の考え方について

 b. 事業者・消費者団体へのヒアリング、2,000人を対象としたウェブ調査や農林水産省ホームページを通じた検討事項に対するアンケート調査、全国7か所での地域意見交換会の開催等を通じ、消費者の原料原産地情報への関心、様々な品目における原料原産地表示への取組や課題を把握

であった。

ⅱ) 原料原産地表示拡大の際の3つの課題
 以上の検討の結果、以下のような加工食品の原料原産地表示の対象品目を拡大する際の3つの課題が提示され、新たな表示方法の導入について検討された。
 課題①:頻繁な原料原産地の切り替えへの対応
 課題②:物理的スペースの制約
 課題③:原料原産地情報の分からない輸入中間加工品への対応
 そして、課題①に関しては、「切り替え産地を列挙する可能性表示」という案が提示されたが、これに対しては、「商品の内容と表示の内容が一致せず、かえって消費者に誤解を招く情報を与え兼ねないことから、導入することは不適切」という結論になった。
 課題②に関しては、「「国産」・「外国産」又は「輸入」といった大括り表示」という対策案が示されたが、これに対しては、「頻繁に原材料の産地の切り替えが行われる加工食品にも対応でき、導入は適切。ただし、その適用に当たっては、表示の意義、必要性も含め、十分な検討が必要」という方向性が示された。
 そして、課題③に関しては、「輸入中間加工品の原産国表示の方法の導入」という対策案が示されたが、これに対しては、「原料原産地情報が不明な場合でも対応でき、導入は適切。
ただし、その適用に当たっては、表示の意義、必要性も含め、十分な検討が必要」という方向性が示された。

ⅲ) 義務対象品目を選定する際の基本的な考え方
 平成15年8月報告書「加工食品の原料原産地表示に関する今後の方向」では、加工食品の原料原産地表示の目的を、「消費者の適切な選択に資する観点から、商品の品質に関する情報を適切に提供し、加工食品の原産地に関する誤認を防止する」ことと位置づけ、前記のように

 要件Ⅰ:原産地に由来する原料の品質の差異が、加工食品としての品質に大きく反映されると一般に認識されている品目のうち、

 要件Ⅱ:製品の原材料のうち、単一の農畜水産物の重量の割合が50%以上である商品

との品目横断的な基本的な要件が示されていたが、これに対して、義務対象品目選定の際の基本的な考え方を改めて検証した結果、「要件Ⅰ及び要件Ⅱを基本的に維持すべきものと考える」とされた。

ⅳ) 具体的な義務項目対象品目の選定
 具体的な義務対象品目の選定については、「義務対象の候補となりうる品目としては、過去に検討した際、消費者等からの義務化の要望が強く、要件Ⅰ及び要件Ⅱを満たすとして認められたものの、原料の産地の切り替えが頻繁である、原料として一般的に輸入中間加工品が使われている等実行可能性の観点から表示義務を課せられなかった品目が考えられる。」とし、義務対象品目の追加に当たっては、消費者等からの提案があった品目に対し、原料原産地の差が製品の品質に影響するか、生産・加工の実態等を踏まえた上で表示の実行可能性があるか等について、消費者団体、事業者、学識経験者等が公開の場で検討するとともに、地方においても公開ヒアリングを実施したり、パブリックコメントを活用すること等により、幅広い関係者の意見を聴取して検討するという、これまで実施してきた透明性の高い検討プロセスを維持していくことが必要であるとされた。

ⅴ) 意見募集の結果を踏まえた追加品目選定経緯
 原料原産地表示に関する意見交換会及びそれに先立つ意見募集において、原料原産地表示を拡大すべき品目について募集を行った結果、昆布巻き、果実飲料、黒糖、鰹節、食用植物油の5品目について要望が多かったが、2つの要件に照らした結果、平成23年3月に「黒糖及び黒糖加工品」及び「こんぶ巻」が追加された(図6)

原料原産地表示対象品目拡大の推移
図6 原料原産地表示対象品目拡大の推移

ⅵ) 食品表示一元化検討会での検討
 ① 検討の経緯
 消費者庁が設置されて2年後の平成23年9月に、新たな食品表示のあり方について検討するため、「食品表示一元化検討会」が設置された。
 そして、同検討会において、第1回(平成23年9月)から第6回(平成24年2月)の間の食品表示の一元化に向けた検討の中で、原料原産地表示制度のあり方についても検討された。
 これらを踏まえ、平成24年3月に食品表示一元化に向けた中間論点が整理され、中間論点整理に関する意見交換会が実施された。
 さらに平成24年4月から8月の後半期における食品表示一元化検討会(第7回~第12回)に、前記意見交換等の内容を踏まえ、新たな観点から原料原産地表示の義務付けの根拠とすることについて議論を進めたが、合意には至らなかった。

② 「中間論点」における主な意見
 前記の「中間論点」においては、6つの「考え方」に整理し、パブリックコメントを求めた。その結果、各々の「考え方」に類する意見が以下のような数が寄せられた。
(考え方①)新たな食品表示制度の下でも、引き続き、従来の要件を基本に考える。→パブコメの類似意見72件
(考え方②)義務表示品目を拡大するよりも、ガイドライン等を整備して、その対象を拡大する。→110件
(考え方③)原則、原料原産地表示を全ての加工食品に義務化するという姿勢に立って、それに向けた課題を解決する方法を検討する。→477件
(考え方④)現在、原料原産地の表示が義務化されているものについても、その必要性について改めて検討する。→63件
(考え方⑤)例えば、原材料に関する冠表示や強調表示をした場合については、その表示を消費者が商品選択の基準とすることが想定されるため、その原料原産地を表示させる方法を検討する。→169件
(考え方⑥)消費者が加工食品の原産地の表示を見て、原料の原産地も同様であると 誤認しやすいような場合について、原料の原産地も併せて表示させることを検討する。→61件
(その他)加工食品の多くは、複数の産地から原料を調達しつつ、調達先を頻繁に変更していること等から、原料原産地表示への対応は困難。→139件

③ 「食品表示一元化検討会報告書」における結論
 前記のような経緯を経た食品表示一元化検討会の検討結果は、平成24年8月9日に報告書として公表された。
 この報告書の中の「終わりに」の項において、原料原産地表示に関して以下のように記されている。
 「…また、新たな食品表示制度においては、本報告書で示された基本的考え方に従って検討することが適当であるが、次の事項については、現行の表示制度における枠組みの下での方針を維持しつつ、その在り方については、今後の検討課題として、さらに、検討を行うことが適当である。…」
 ここでいう「次の事項」というのは、「加工食品の原料原産地表示」のことで、具体的には以下の内容が記された。
 「JAS法に基づく加工食品の原料原産地表示は、次の品目横断的な2要件に照らして対象品目を選定するという方法により、現行では22食品群及び個別の4食品が義務付けの対象とされている。

 a. 原産地に由来する原料の品質の差異が、加工食品として品質に大きく反映されると一般的に認識されている品目のうち、

 b. 製品の原材料のうち、単一の農畜水産物の重量の割合が50%以上である商品

本検討会では、これまでの「品質の差異」の観点にとどまらず、新たな観点から原料原産地表示の義務付けの根拠とすることについて議論を進めたが、合意には至らなかった。当該事項については、食品表示の一元化の機会に検討すべき項目とは別の事項として位置付けることが適当である。」

④ 食品表示一元化検討会における主な意見
 食品表示一元化検討会において出された主な具体的意見は以下の通りである。
なお、口印は、どちらといえば「拡大は難しい」関係の意見、◇は「拡大すべき」関係の意見である。

 口少量多品目生産の製造加工とか原料調達の方法も多岐にわたっており、フレキシブルな調達という機能からも産地の固定化が非常に困難等から実行可能性に配慮すべき。

 口義務付けるべきという消費者基本計画の内容については、この検討会では立ち入った議論をしていない。

 口「原料原産地は食品の安全性に関わるものではないものの」とされているが、消費者は安全性にかかわるものとの認識で、趣旨が十分浸透していない。まずは消費者教育の方からアプローチするべき。

 ◇中国でたこ焼きを焼いたら、原産国は中国に。そのタコがベトナムでつくられていたとしたら、それがわからない。コーデックスの「原産国の省略が消費者を誤認させる又は欺くおそれのある場合は」という視点から原産国が示されていなくて、多くの消費者が正しい情報に基づいた売買契約が成立していない。

 口コーデックスにおいては、原産国であって原料原産地については表示すべき項目としていない。

ⅶ) 「加工食品の原料原産地表示制度に関する検討会」の前提
 「加工食品の原料原産地表示制度に関する検討会」の主な論点・課題は図7の通りである。

過去の検討における論点・課題
図7 過去の検討における論点・課題

また、以下の経緯を踏まえている。
①前記のように「食品表示一元化検討会報告書」(平成24年8月9日公表)において、今後の検討課題として、さらに、検討を行うことが適当とされた。
②「消費者基本計画」(平成27年3月24日閣議決定)において、実態を踏まえた検討を行うべき個別課題とされ、また、「食料・農業・農村基本計画」(平成27年3月31日閣議決定)では、加工食品の原料原産地表示について、実行可能性を確保しつつ拡大に向けて検討するとされた。
という状況に加え、今回新たに、
③「総合的なTPP関連政策大綱」(平成27年11月25日 TPP総合対策本部決定)において、原料原産地表示について、実行可能性を確保しつつ、拡大に向けた検討を行うことが盛り込まれた(図8)、ということが特徴となっている。

総合的なTPP関連政策大綱(消費者庁施策関係部分抜粋)[平成27年11月25日TPP総合対策本部]
図8 総合的なTPP関連政策大綱(消費者庁施策関係部分抜粋)[平成27年11月25日TPP総合対策本部]

ⅷ) 事業者の自主的取組
 原料原産地表示は、法令等に基づく義務付けだけでなく、ガイドライン等による、事業者の自主的な取組も行われている。以下、その例を示す。
  ① 公正競争規約
 公正競争規約とは、不当景品類及び不当表示防止法の規定により、消費者庁長官及び公正取引委員会の認定を受けて、事業者又は事業者団体が、表示又は景品類に関する事項について、自主的に設定する業界のルールである。公正競争規約で、原料の産地の記載方法が決められている場合、公正競争規約に従って表示しなければならない。対象品目は、塩、はちみつ、レギュラーコーヒー及びインスタントコーヒーとなっている。
 たとえば、塩の場合には、一括表示とは別の場所に塩化ナトリウムを含む原材料の産地を表示することになっており、はちみつの場合には、はちみつの文字の前(中国産はちみつなど)又は後に採蜜国名を表示しなければならない。
 また、レギュラーコーヒーの場合、「コーヒー豆」の次に生豆生産国名を見出しにつけて表示し、ブレンドされている場合は、生豆生産国名の主要なものについて、原則として重量の多い順に表示する。

② 品目ごとのガイドライン
 豆腐や納豆については、製造業者等がガイドラインを策定し、自主的な運営を図っている。
 たとえば、豆腐・納豆については、平成18年6月に原料大豆産地のガイドラインが制定され、国産大豆使用の場合は「国産」又は「日本」と、外国産大豆使用の場合は 「原産国名」を記載し、国産大豆は、都道府県名及び一般に知られている地名等の記載も可能としている。
 また、複数の国の原材料を使用している場合には、重量割合の多い順に原産国を表示し、3か国以上の原材料を使用している場合、重量割合で3番目以下を「その他」として表示が可能としている。

③ JA全農の自主基準
 全農グループが加工食品を取り扱う際に、全農やJA等のブランドで販売しているもので、一般消費者向けに販売され、容器・包装されたものを対象に、原料原産地表示がなされている。この場合、表示対象原材料は、主な原料(上位2位までのもので、かつ原材料に占める重量割合が5%以上)が対象となっている。
 ここでいう主な原料とは、加工食品の原料に使われた一次産品(農畜水産物)をいい、これを加工した粒状・粉末状・フレーク状・液状・ペースト状等の中間加工品(最終製品の原料となる加工品)の原料も含む。
 ただし、調味・味付けに供する原材料(黒糖を除く砂糖、食塩、調味液、しょうゆ、香辛料等)、動物油脂、食品添加物は対象から外している。
 また、商品名に原料の一部の名称が付された商品(冠商品)の原料については、重量の割合にかかわらず原料原産地を表示することになっている。

ⅸ) 海外の原料原産地表示制度
 海外の原料原産地表示をみると、国際規格であるコーデックス規格(包装食品の表示に関するコーデックス一般規格)では、原料原産地表示に関する規定はない。
 一方、韓国では、後述のように、ほぼ全ての加工食品に原料原産地表示が義務付けされている。また、オーストラリアでは、生産、製造又は包装された国の名前を明記することが義務付けられている。そして、主要原材料がオーストラリア産で、かつ製造過程も全てオーストラリアで行われる食品には、「Product of Australia」などが、国内で実質的な変更が加えられ、かつ生産・製造コストの50%以上を占める食品には、「Manufactured in Australia」などと表示することになっている。
 他方、EUにおいて、オリーブオイルは、絞った場所及びオリーブの収穫地を表示する必要があるとともに、有機食品の場合、その製品を構成する農業原材料が生産された場所について、EU内とそれ以外の第三国を区別して書き分ける必要がある。なお、全てが特定の国で生産された場合は、国名表示も可能となっている。たとえば、「EU agriculture」、「non-EU agriculture」、「EU/non-EU agriculture」といった表示をする。
 これに対し、米国では原料原産地表示の義務はない。

ⅹ) 韓国における原料原産地表示制度
 韓国では、ほぼ加工食品全般を対象に原料原産地表示が義務付けされている。
 具体的には、重量割合上位2位までの原材料が対象になっているが、商品名などに強調表示した原料も対象としている。表示の方法は、国産原料にあっては「国産」である旨、輸入原料にあっては「原産国名」を表示しなければならない。
 また、原産地が2か国以上あるときは、割合の多い順で2か国までの原産地及び混合割合を表示する。たとえば、「中国産50%、ベトナム産30%」となる。
 なお、混合割合が頻繁に変わる時は、混合割合を省略することが可能で、輸入元が頻繁に切り替わる場合は、「輸入産」と表示することが可能となっている。
 一方、中間加工品が原材料の場合には、中間加工地(原産国)を表示することになっており、生鮮原材料まで遡らないルールとなっている。

ⅺ) 原料原産地表示に対する各方面からの要望
 加工食品の原料原産地表示に対する要望は各方面から寄せられている。
 平成28年4月25日現在の各分野別要望は、生産者団体が17か所、そのうちJAが6、食肉関係が5、その他が6となっている。内容的には、「原料原産地表示の拡充・強化」、「全ての加工品に原料原産地表示を義務化」、「鶏卵製品のみならず、中食・外食での使用食材の原産国表示の徹底を可能に」、「おにぎりや巻き寿司等に使用されるのりの原料原産地表示を義務化」など、総じて拡大に関する要望となっている。
 一方、事業者団体からは19か所から寄せられている。内容としては、「実態を踏まえた適切かつ慎重な検討が必要」、「製パン企業において、責任を持って小麦粉の原料原産地表示をすることはできない」、「小麦粉の品質維持のため原料原産地の変更を必要とする場合が多々あり、原料原産地を固定化すると、消費者、加工メーカーに不利益をもたらしかねない。国内産小麦の需要が減少する可能性がある」、「コストの増高となり経営を圧迫する」、「菓子類の原料は、そのほとんどが中間加工食品であり、これら中間加工食品は、価格と品質を出来るだけ一定に保つため、原料の切替えが頻繁に行われており、原料原産地を表示することは極めて困難」、「乳製品は、少量・多種の原料が使用されている製品が多いことから、固形分の重量の割合として50%以上を占める原料についてのみ表示の対象とすること」、「中食・総菜業界は、中小事業者が多く、また、商品の仕様変更等が多い。これ以上の義務表示拡大は事業者の負担が増え、実行可能性に乏しい」など、総じて実行可能性として難しいという要望となっている。
 他方、消費者団体からは5か所から寄せられており、「原則、全ての加工食品の原料原産地表示の義務化」、「冠表示の原料原産地の義務化」、「食品添加物の原料原産地表示についても義務化」、「加工食品の原料原産地表示制度を担保するトレーサビリティの充実」、「のりの原料原産地名の表示を義務化」、「義務表示対象品目の選定要件の重量割合の引き下げ」など、総じて拡充・強化の要望となっている。
 また、全国知事会や全国市長会など地方6団体のうち4か所からも要望されている。内容的には、「加工食品の原料原産地表示対象品目の拡大」、「海苔加工品の原料原産地表示がより明確になるよう制度を見直す」などである。
 なお、15か所の地方自治体からも出されており「加工食品について使用されたのりの重量比にかかわらず、国産か外国産か表示を義務化」、「加工食品や惣菜・調理品等の範囲を拡大」、「果汁飲料など原料原産地が消費者の商品選好に影響を与える品目を大幅に拡大」、「外食も含め原料原産地表示の対象の拡大と主たる原材料の表示対象の拡大」など拡充の要望が出されている。
 以上のように、「拡充」と「実行可能性の困難性」という正反対の意見・要望が出される中で、どのようにまとまっていくかが注目される。

3) 今後の検討課題

① 遺伝子組換え及び添加物の表示
 「食品表示一元化検討会」の検討過程において、中間論点整理に対してパブリックコメントを求めたところ、遺伝子組換え及び添加物の表示に対して多くの意見が寄せられた。このことを踏まえ、当該課題についてはいずれ検討することになっていた。
 遺伝子組換え及び添加物に関しては、食品表示一元化検討会においても議題にならなかったが、意見の大半は両者とも「安全性の確認のため」というものであった。
 遺伝子組換え及び添加物とも、表示の区分においては食品を摂取する際の安全性確保のためではないが、消費者の実態としては表3の消費者庁実施のアンケート調査結果に示すように、6割以上が安全性確認のためとして位置づけている。

表3 消費者が食品表示項目を見る理由(n=1,083)
[消費者庁平成23年12月調査]
消費者が食品表示項目を見る理由(n=1,083)[消費者庁H23.12月調査]

現在、遺伝子組換えをした原材料を用いた食品には、用いた旨の表示義務が課せられている。しかし、遺伝子組換えの原材料を用いた製品であっても、発酵や加熱の処理等をすることでたんぱく質が変性し、用いた原料が遺伝子組換えのものか、非遺伝子組換えのものかの同定が困難という根拠や、遺伝子組換え原材料を用いて製造された製品であっても、製品段階でたんぱく質や遺伝子そのものが残存せず、使用・不使用の確認が困難という根拠で、一部の品目は表示義務の対象外となっている。
 パブリックコメントに寄せられた意見としては、これらの例外品目を廃止すべきというものもあった。すなわち、製品段階で科学的検証によって確認できないものでも、IPハンドリング(分別生産流通管理)で履歴を明確にし、社会的検証により遺伝子組換え原材料を用いた全ての食品に表示を義務化すべきというものである。
 当該課題については、制度導入から時間を経ていることもあり、まずは現在の消費者の遺伝子組換え食品に対する理解度や表示に対する意向、さらには事業者を対象とした流通実態を明確にするための調査を実施することが望まれる。

② 「異種混合」表示の定義の見直し
 従来のJAS法においては、生鮮食品である複数の種類の農産物、畜産物又は水産物を切断し、混ぜ合わせたもの、すなわち異種混合されたものは、「加工食品」とされていた。
 たとえば、サラダミックス、炒め物ミックス、合挽肉、焼肉セット、刺身盛り合わせ、鍋物セットなどが該当する。
 これに対し、マグロの赤身とマグロのトロを合わせたものや、キャベツの千切りと赤キャベツの千切りを合わせたもののように同種混合は生鮮食品とされていた。
 しかし、こうしたルールは、一部の消費者等の感覚とズレていることから、「異種混合」の扱いについて、消費者委員会食品表示部会の生鮮食品表示調査会において、見直しが試みられた。
 すなわち、a. 焼肉セットや刺身盛り合わせのように、各々の生鮮食品を単に「組み合わせ」たり「盛り合わせ」ただけで、ばらばらに飲食、調理などされることが想定されるものを「生鮮食品」に、b. サラダミックスや合挽肉のように、各々の生鮮食品が「混合」されて、1つの商品としてそのまま飲食、調理等されることが想定されるものを「加工食品」したらどうかという案が示された。
 しかし、たとえば、サラダ用のカット野菜のように、ある程度の大きさの異種野菜を単に組み合わせたもの(「生鮮食品」に該当)と、同じ材料野菜をより細かくみじん切りにして混合したサラダミックスのような食品(「加工食品」に該当)との中間の大きさの素材の組み合わせはどうなるか?とか、焼肉セットの場合、従来「加工食品」だった牛ロースと豚ロースの組み合わせは、前記の定義では「生鮮食品」扱いになるが、牛ロースと豚の塩タンを組み合わせの場合、塩タンそのものが「加工食品」であり、「生鮮食品」に一部「加工食品」が組み合わされると「加工食品」となることから、どの程度の割合で「加工食品」が組み合さったら「加工食品」とするか?といった線引きが難しいという結論となった。
 したがって、この異種混合の定義については、事業者の実行可能性を踏まえ、さらなる商品実態や消費者が選択する際の食品表示に関する意識も調査した上で、検討が必要ということになっている。

③ 情報の重要性の整序
 一人世帯や二人世帯など少人数世帯数の増加に伴い、販売される食品は年々単位当たり少量化の一途を辿っている。このことは、表示可能面積も減少化しているということである。その一方で、義務表示事項が増加する傾向があり、仮に原料原産地表示の拡大がなされると、さらに高密度の表示形態となる。
 他方、高齢化の進展とともに、大きな文字が求められる。すなわち、一定の表示可能面積において、表示を通じた情報量と文字の大きさは反比例の関係となる。
 この件については、平成23年12月に消費者庁が消費者を対象に実施したWEBアンケート調査によると、商品に表示されている事項の全てを見ている消費者は必ずしも多くはないという結果となっている。このことを踏まえれば、表示事項全ての情報が消費者に伝わることを前提として、できる限り多くの情報を表示させることを基本に検討を行うことよりも、より重要な情報がより確実に消費者に伝わるようにすることを基本に検討を行うことが適切と考えられる旨が、食品表示一元化検討会の報告として示されている。
 また、同検討会報告によれば、この「より重要な情報」、すなわち、消費者が求める情報には様々なものがあり、消費者一人一人にとって、その重要度も様々である。しかしながら、表示義務を課すことにより行政が積極的に介入すべき情報のうち、全ての消費者に確実に伝えられるべき特に重要な情報として、アレルギー表示や消費期限、保存方法など食品の安全性確保に関する情報が位置付けられるとされている。
 また、前述のWEBアンケート結果において、表示事項毎に、表示の分かりにくい理由を質問したところ、栄養表示の強調表示を除く全ての表示事項で「文字が小さいため分かりにくい」との回答が最も多く、食品表示をより分かりやすく、活用しやすいものにするための観点から、文字の大きさと情報量について質問したところ、「小さい文字でも多くの情報を載せる」が27.4%であったことに対し、「表示項目を絞り、文字を大きくする」が72.6%であった。
 また、前述の内閣府調査からも、見やすさの観点から文字の大きさについて改善する必要性が高いとしている。今後、高齢化が進展する中で、高齢者の方々がきちんと読み取れる文字のサイズにすることが特に必要であり、このような観点からも、文字を大きくすることの必要性は高いと考えられる(文字のサイズについて、現行では原則8ポイント以上とされている)。
 このため、現行の一括表示による記載方法を緩和して一定のルールの下に複数の面に記載できるようにしたり、一定のポイント以上の大きさで商品名等を記載している商品には義務表示事項も、原則よりも大きいポイントで記載するなど、食品表示の文字を大きくするために、どのような取組が可能か検討していくこととなる。

プロフィール

池戸 重信(いけど しげのぶ)
公立大学法人宮城大学名誉教授 千葉県船橋市在住

略歴
1972年(昭和47年)東北大学農学部農芸化学科卒業(東京都立大学経済学部中退)、同年農林省入省
以後同省農林水産技術会議事務局連絡調整課公害対策技術係長
環境庁水質保全局水質規制課課長補佐
農林水産省農蚕園芸局肥料機械課課長補佐(バイオテクノロジー室併任)
同省構造改善局資源課(農村環境保全室)課長補佐
食品流通局外食産業室課長補佐
東京農林水産消費技術センター技術指導部長
食品流通局技術室長
東京農林水産消費技術センター所長
食品流通局消費生活課長
独立行政法人農林水産消費技術センター理事長を経て
2005年(平成17年)4月から、宮城大学食産業学部フードビジネス学科教授
2007年(平成19年)4月~2009年(平成21年)3月同大学学長補佐
2009年(平成21年)4月から同大学副学長(2011年3月まで)・食産業学部長、7月から特命担当理事(2011年3月まで)
2012年(平成24年)4月~2014年(平成26年)3月宮城県産業技術総合センター副所長兼食品バイオ技術部長及び宮城大学特任教授。
現在、宮城大学、香川大学及び日本農業経営大学校非常勤講師
平成28年度の主な委員等
◎内閣府「消費者委員会食品表示部会委員
◎消費者庁・農林水産省「加工食品の原料・原産地表示制度に関する検討会」委員(座長代理)
◎農林水産省「品質管理(HACCP)体制強化対策検討委員会」委員長
◎同「情報共有・事業連携専門部会」座長
◎「ISO/TC34/SC17(食品安全関係ISOの国際委員会)日本国内運営委員会(日本代表組織)」委員長
◎(一社)日本惣菜協会「惣菜管理士試験審査委員会」委員長
◎同協会「店頭表示推進委員会」委員長
◎同協会「外国人技能実習制度総菜製造業技能評価委員会」委員長
◎(一社)食品表示検定協会理事長
◎(一社)日本農林規格協会会長
◎食品関連産業国際標準システム・食品トレーサビリティ協議会会長
◎(公社)食品流通構造改善促進機構評議員
◎フードチェーンにおけるHACCP導入協議会会長
◎日本GAP協会技術委員会顧問
◎みやぎ生協食のみやぎ復興ネットワークアドバイザー
◎未来の健康と医・食を考える会世話人
◎農林水産省食農連携コーディネーター
◎宮城県みやぎ食育アドバイザー
◎みちのく6次産業プラットフォーム顧問
◎(一社)日本食育学会常務理事・総務委員長・編集委員
◎(一社)日本食品保蔵科学会理事・評議員
◎NPO法人21世紀の食と健康文化会議理事
◎(一社)東京顕微鏡院技術顧問
◎(一社)食農共創プロデューサーズ顧問
◎グリーンプロダクツ研究会会長
◎医療法人仙台今村クリニック理事
著書
・日本規格協会「総量規制の話」
・恒星社厚生閣「食品工業技術概説」、「食品加工技術概論」
・日本食品出版「トレーサビリティって何?」
・サイエンスフォーラム「安心を届ける食品のトレーサビリティ」、「低温流通管理の鉄則」
・PHP研究所「よくわかるISO22000入門コース」
・農文協「食品の安全と品質確保」
・日刊工業新聞社「よくわかるISO22000の取り方・活かし方」
・新日本法規出版「食品安全管理のチェックポイント」、「食品業関係モデル文例・書式集」、「食品表示Q&A」
・ぎょうせい「ISO 22000 実践ガイド」、「ISO食品安全関連法の解説」
・日本食糧新聞社「現場で役立つ食品工場ハンドブックキーワード365」
・幸書房「明日を目指す日本農業」
・ダイヤモンド社「食品表示検定認定テキスト・中級」、「食品表示法逐条解説」
・農業技術通信社「「農場管理を見える化し食の安全を確保するJGAP」 等
これまでの主な委員等
・内閣府消費者委員会食品表示部会委員(生鮮食品調査会座長)
・厚生労働省「HACCP普及検討会」委員
・農林水産省「高度化基盤整備に関する検討委員会」(HACCP支援法基本指針検討委員会)座長
・農林水産省補助事業外食・中食産業等食品表示適正化推進協議会「加工食品製造・流通表示指針検討会」委員長
・農林水産省東北農政局「食料・農業分野における震災復興のための東北農政局・大学・専門家会議」委員
・農林水産省補助事業(株)FMS綜合研究所「食文化・創造事業企画委員会」委員長
・宮城県「売れる商品づくり支援事業計画審査会」委員
・塩竈市「水産業共同利用施設復興整備事業審査会」委員
・消費者庁「食品表示法一元化検討委員会」座長
・農林水産省東北農政局「東北ブロック6次産業化推進行動会議人材育成部会」座長
・日本安全学教育研究会会長
・(社)日本惣菜協会「惣菜表示ガイドライン検討委員会」委員長
・厚生労働省補助事業(社)日本外食品卸協会「受発注等効率化調査検討委員会」委員長
・経済産業省補助事業(株)プロジェクト地域活性「地域新事業移転促進事業運営委員会」委員
・(財)日本適合性認定協会(JAB)「ISOマネジメントシステム認定委員会」委員
・同「ISO食品安全マネジメントシステム認定分科会」委員長
・(株)仙台放送「サンプルスクエアダイレクトショッピング商品選定委員会」委員長
・全国中小企業団体中央会委託事業(株)仙台ソフトウェアセンター「ICT利活用型農業MOT人材育成・企画運営委員会」委員長
・同研修会講師・食品トレーサビリティ政策研究会委員
・(株)日本環境認証機構(JACO)「食品安全マネジメント研究会」メンバー
・宮城県GAP推進会議委員
・厚生省「21世紀の国民栄養調査のあり方検討会」委員
・環境庁・厚生省「ダイオキシン類総合調査委員会」委員
・農林水産省東北農政局「東北地域食・農マッチング検討委員会」座長
・総務省補助事業「ユビキタス特区開発・実証企画運営委員会」座長
・農林水産省委託事業 (株)三菱総合研究所「特定JAS規格検討・普及推進委員会」委員長
・農林水産省委託事業(社)食品需給研究センター「食品産業クラスター促進技術対策検討委員会」委員
・農林水産省委託事業(社)日本食品衛生協会「HACCP研修委員会」委員
・農林水産省委託事業(社)日本フードサービス協会「外食産業トレーサビリティシステム開発事業検討委員会」委員長
・農林水産省委託事業食品関連産業国際標準システム・食品トレーサビリティ協議会「総合委員会」委員
・農林水産省委託事業(社)農協流通研究所「ユビキタスシステム普及啓発検討委員会」委員長
・農林水産省委託事業(社)食品需給研究センター「ユビキタスシステム開発検討委員会」委員
・農林水産省委託事業(社)農協流通研究所「トレーサビリティシステム普及啓発作業部会」座長
・農林水産省委託事業 (社)食品需給研究センター「食品トレーサビリティシステム第三者認証検討委員会」委員
・農林水産省補助事業(財)畜産環境整備機構「家畜排せつ物利活用方策評価検討システム構築事業効果評価検討委員会」座長
・農林水産省委託事業(社)外食産業総合調査研究センター「外食産業原産地等表示対策事業検討委員会」座長
・農林水産省委託事業(財)食品産業センター「HACCP等普及促進委員会」座長
・農林水産省委託事業(財)食品産業センター「品質管理向上推進委員会」委員長・農林水産省補助事業(社)日本食鳥協会「国産鶏肉適正表示検討会」座長
・農林水産省補助事業(財)食の安全安心財団「食品産業表示推進支援事業検討委員会」委員長
・厚生労働省委託事業みずほ総合研究所(株)「中小企業における最低賃金引上げ円滑な実施のための調査等事業食料品製造業業種調査委員会」委員
・総務省「「安心・安全な社会の実現に向けた情報通信技術の在り方」に関する調査研究会」委員
・農林水産省委託事業 ㈱流通システム研究センター「流通JAS規格検討・普及啓発検討委員会」委員長
・食品安全委員会委託事業(株)三菱総合研究所「リスクコミュニケーション評価手法検討会」委員長
・経済産業省補助事業(株)プロジェクト地域活性「農商工連携プロデューサー育成事業運営委員会」委員
・(社)日本工業技術振興会「食品流通におけるHACCP導入協議会」学術委員・地域連携バイオマス連絡会顧問
・(財)日本適合性認定協会(JAB)「食品安全マネージメントシステム(ISO22000)認定委員会」委員長
・(財)食品流通構造改善促進機構評議員
・(社)日本パン技術研究所「研究調査部諮問委員会」諮問委員・(財)日本冷凍食品検査協会評議員
・(一社)日本トレーサビリティ協会理事
・仙台白百合女子大学非常勤講師
・敦賀短期大学非常勤講師
・(独)農業・食品産業技術総合研究機構農業者大学校講師
・宮城県農業大学校非常勤講師
・実践女子大学非常勤講師

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