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信頼性保証が目指すもの
国立医薬品食品衛生研究所 食品部 第三室
主任研究官(前食品部長) 松田 りえ子

分析値の品質

製造物を提供する場合に、その品質(スペック)を定め、さらに品質が保たれていることを保証することは、通常に行われている行為である。品質の保証の中には、その品質が得られる製造法の検討と確立、その製造法を管理下において逸脱がないように監視すること、製造物が品質を満たしているかの確認が含まれている。製造物にはサービスのような、一見「物」とは見えないものも含まれているが、その品質保証の考え方は同じである。製造物が、表明している品質を満たしていなかったり、品質にばらつきがあれば、その製造物への信頼は失われる。
 顧客の依頼を受けて行った分析の結果も、製造物の一つである。分析値の品質を定義するのは簡単で、個々の分析値が真の値に近い確率が高ければ、品質の高い分析値、真の値との差が大きかったり、真の値との差が一定していなければ、品質の低い分析値である。このような考え方から、分析値の品質は信頼性であるということもできる。一方、個々の分析値の品質(真の値との差)を確認することは、非常に困難である。分析が依頼される試料での分析目的となる特性は、未知であるのが通常(分かっていれば分析は依頼されない)であり、当然ながら分析値と真の値の差も未知であるから、品質が良いか、品質がスペックを満たしているかも未知である。一般の製造物では、そのものの特性(大きさ、重さ、濃度、キズの数、色等)を評価することにより、品質が分かることが多く、例えば抜き取り検査を行ってその結果を品質の評価、品質の管理・保証に利用することができる。品質(真の値にどれだけ近いか)を知ることが困難な分析値では、品質の管理・保証に別の方法を用いなければならない。そのために、分析法の性能評価、内部品質管理、標準手順書の作成、不確かさの推定のような手法が考案されてきた。本稿では、食品に関わる分析値の品質あるいは信頼性保証についての、現在の枠組みとその問題点、さらには改善する方向について考える。

分析値の品質に関わる用語

本論に入る前に、用語について述べる。現在の食品分析においては、分析値の信頼性に関わる用語として「精度管理」が汎用されている。しかし、「精度」は、分析法の性能の一つとして、1つ1つの分析値が一致する程度と定義されている。極端に言えば、1つ1つの分析値が真値とは異なる値に常に一致していた場合、精度は非常に優れているが、真度は不良ということもありうる。また「管理」、「確保」、「保証」も厳密な区別なく使用されている。(内部)精度管理、信頼性確保(部門)は、厚生労働省からの通知にも記載されており、疑うこともなく使われている用語である。しかし、意味の曖昧な用語を使用することで、実施する行為の方向を知らず知らずのうちに変えてしまうこともあるので、言葉の意味を明らかにしてみる。
 「管理」は、ある規準などから外れないよう、全体を統制することである。「確保」は確実に手に入れること、あるいは自分のものとしてしっかり保つことであり、「保証」は責任をもって、間違いないとすることである。どの用語も、品質をつければ、その品質を良い状態に保っていることを意味しているが、「管理」は分析システムに対して行われ、「確保」は分析システムから得られる分析値の品質に対して行われ、「保証」は他者に対して「管理・確保」の結果を責任をもって示すという違いがある。「管理・確保」は内向きであり、「保証」は外向きの行為といえる。ここでは、分析値の信頼性保証を、分析値が真の値にどの程度近いかを、分析システムを管理することによって確実にし、そのプロセスを科学的な証拠として他者に示すことと定義して、話を進めたい。

ISO/IEC 17025 と 業務管理要領

分析値の品質を保証するための手段をまとめた規格として、ISO/IEC 17025 「試験所及び校正機関の能力に関する一般要求事項」がある。ISO/IEC 17025は、食品分野のみを対象としているわけではないが、CodexガイドラインであるCAC/GL27(1997)では、食品の輸出入管理に関連した試験所の能力を保証するための要求事項の第一として、「ISO/IEC 17025に挙げられる試験機関に関する一般的なクライテリアを遵守すること」を挙げており、食品分野においてもISO/IEC 17025の認定を受ける試験所が増えていることからも、食品分野での分析値の信頼性保証において重要な国際規格と考えられる。
 国内では「登録検査機関における製品検査の業務管理要領(以下、業務管理要領)」がある。業務管理要領は、制定当時の国際的文書Guide 25(ISO/IEC 17025の前身)に基づいて作成された。その導入の経緯については、

食品衛生法に係る検査において、残留農薬、動物用医薬品等の化学物質及び微生物などの項目が多様化し、検査件数も増加しているため、正確でかつ精密なレベルの実施が必要となっている。また、FAO/WHO合同食品規格委員会において、精度管理、検査業務管理等の手法がとりまとめられており、輸出国政府からわが国の検査の信頼性について問題が提起されるケースもみられている。
「食品の検査機関における精度管理検討会」において国、地方公共団体、指定検査機関及び大学の食品検査の専門家により検査の信頼性の確保のシステムの具体的内容について検討を行い、その結果を踏まえ、・・・検査業務管理の基準を導入することとした。

と書かれている。つまり、輸出国政府からわが国の検査の信頼性について問題が提起されたことが、導入の契機であった。以下、ISO/IEC 17025と業務管理要領の比較を通じて、現在の食品分析の信頼性保証の問題点を考えていきたい。
 ISO/IEC 17025の序文には、「この規格は、試験所及び校正機関がマネジメントシステムを運営し、技術的に適格であり、かつ、技術的に妥当な結果を出す能力があることを実証しようと望む場合、それらの試験所及び校正機関が満たさなければならないすべての要求事項を含んでいる。」と謳われている。「試験所及び校正機関が・・妥当な結果を出す能力があることを実証しようと望む場合」には、ここに挙げられた要求事項を満たせば実証できると書かれており、「実証することを望む」のは「試験所及び校正機関」である。
 一方、業務管理要領の目的は、「食品衛生法に基づく登録検査機関における製品検査の業務管理について細則を定め、製品検査の信頼性を確保することを目的とする。」と明記されている。業務管理要領は厚生労働省から発出された通知であり、この文の主語であり、細則を定め、信頼性を確保することを目的とする者は、厚生労働省と考えられる。
 ISO/IEC 17025と業務管理要領を比較すると、まず主語が異なっている。ISO/IEC 17025は試験所が自主的にその信頼性を保証したいと望むことを想定しているのに対し、業務管理要領では厚生労働省が試験所に信頼性を保証させることが想定されている。極言すれば、試験所がその信頼性を保証したいと望まないとしても、登録検査機関であるためには、業務管理要領に従って信頼性を保証しなくてはならない。
 ISO/IEC 17025と業務管理要領に示される要求事項も、概略は同じだが、方向性に違いがみられる。ISO/IEC 17025の序文には、「マネジメントシステムを運営し」と書かれており、それに対応して「管理上の要求事項」が示されているが、業務管理要領にはマネジメントシステムへの言及はない。分析値の信頼性を保証するためには、分析値を作り出す手順が管理されていることは当然必要であるが、試験所という組織として、その方針を示し、実施するマネジメントシステムが、個々の手順を総合的に運用していくためには不可欠である。
 業務管理要領の組織に対する要求としては、「検査業務から独立して、内部点検、精度管理調査等の信頼性確保業務を行う職員を設置する」ことがあり、この職員は「内部精度管理及び外部精度管理結果に基づき、必要な改善措置を報告するとともにその改善措置の実施について確認を行い、これらの記録を一定期間保管する」と定められているのみである。マネジメントシステムが書かれていないだけではなく、ISO/IEC 17025に明記されている「マネジメントレビュー」つまり「見直し」ということは、業務管理要領から完全に抜け落ちている。どんな手順であっても、これで完全ということはなく、まして最初に作ったものを、そのまま変更せずにいつまでも使えることはほとんどない。このため多くの分野でPDCAサイクルが推奨されているが、業務管理要領にはこの視点がないために、一度決めたSOP等を変えることなく使用し続けるという状態がみられている。言い換えれば、ISO/IEC 17025では信頼性を保証するために、それぞれの手順の管理と共に、システムの見直しと改善を継続することが求められているのに対して、業務管理要領では手順を遵守するという姿勢のみが求められている。その時々で違った手順を用いていては、信頼性が保証されないのは明らかであるが、ただ遵守しているだけで、自ら誤りを正す姿勢がなくては、他者を納得させることはできない。
 総合的に見ると、ISO/IEC 17025は、自ら方針を決めていくマネジメントシステムと、常に誤りの是正あるいは改善を目指す見直しによって、信頼性を保証できる組織となると考えている。一方の業務管理要領は、国が決めたルールを守ることで信頼性を保証できる組織になれると考えているように見える。極度に要約すれば、めざしている目的地は、自主的な組織と他主的な組織といえるだろう。
 ISO/IEC 17025技術的要求事項に挙げられている項目と、業務管理要領に挙げられている項目を比較する。
 ISO/IEC 17025では以下の項目が列記されている。

5.1 一般
 5.2 要員
 5.3 施設及び環境条件
 5.4 試験・校正の方法及び方法の妥当性確認
 5.5 設備
 5.6 測定のトレーサビリティ
 5.7 サンプリング
 5.8 試験・校正品目の取扱い
 5.9 試験・校正結果の品質の保証
 5.10 結果の報告
業務管理要領の項目は以下のとおりである。
 3 製品検査室等の管理
 4 機械器具の管理
 5 試薬等の管理
 6 動物の管理
 7 有毒な又は有害な物質及び危険物の管理
 8 試験品の取扱いの管理
 9 製品検査の操作等の管理
 10 製品検査の結果の処理
 11 製品検査結果通知書
 12 試験品の保存
 13 内部点検
 14 精度管理
 15 外部精度管理調査
 16 データの作成
 17 標本、データ等の保存
 18 研修

まず、ISO/IEC 17025には試験・校正結果の品質の「保証」があるが、業務管理要領は「管理」のみであることが分かる。通知を作成した厚生労働省としては、「これらが管理されていれば分析値の品質は保証されているとみなす」と表明しているので、保証は必要なかったのかもしれない。
 分析値の信頼性保証が目指す目標は、自らの分析値が、その使用目的に適切な程度を超えて真の値から離れている確率が極めて低いことを、科学的なエビデンスに基づいて、他者(分析値の使用者)に示すことである。それは様々な要因を「管理」するだけではなく、「管理」されている状態にあることを、科学的な証拠として、他者に示すことも含まれる。そのため、ISO/IEC 17025では、「品質管理結果のデータは、傾向が検出できるような方法で記録し、実行可能な場合、結果の検討に統計的手法を適用すること。この監視は、計画し見直すこと。」が求められている。
 ISO/IEC 17025は分析値の品質(信頼性)を証明するために自発的に取り組む際に従う指針であり、強制されるものではない。これに対し、業務管理要領は、明示的に書かれてはいなくても、記載された事項は、必ず実施しなくてはならないという、他者からの強制のような感覚を与える。信頼性保証を自ら行う意志が検査機関に乏しい状態で、海外からの圧力に押されて、急速に信頼性の保証を進める必要に迫られて、厚生労働省が業務管理要領を示したことが、その背後にあるからかもしれない。このような状態では、信頼性保証の考え方を説明するよりも、細かい手順を示し、全国的に同じレベルでの信頼性保証を早急に導入することが必要であったとも考えられる。しかし、それから20年近くが経過し、検査機関が自発的に信頼性保証を行うという意志を持たないまま、ISO/IEC 17025による試験機関の認定制度、分析法の妥当性確認ガイドライン、不確かさ推定のような、信頼性保証手法が次々に示された。これら多くの文書に示された行為をなぜ実施しなくてはいけないのか、その背景にある科学的根拠は何かという問いを考えず、とりあえず実施し、要求事項を満たすことが、信頼性保証と考えられるようになった感があり、それが食品分析の信頼性保証における多くの問題点の根本であると思われる。

分析法の妥当性評価

ISO/IEC 17025の技術的要求事項では、試験・校正の方法及び方法の妥当性確認が挙げられているが、業務管理要領では操作法(分析法)は管理の対象であるものの、その妥当性の確認は求められていない。
 業務管理要領では、操作法として通知された方法のようないわゆる公定法を用いることが求められ、記載されたとおりに実施することが管理であるとされた。食品には多くの種類が存在し、さらに増加していく中、ある時に決められた分析法が全ての食品で適切に機能して正しい分析値を与えるかには疑問があるが、それでも確認する必要はなかった。Codexでは分析に使用する方法は、分析・サンプリング法部会で承認される必要があり、その承認の基準は性能が確認されていることである。これが本来の公定法であり、その前提で公定法が重要視されている。
 「食品中に残留する農薬等に関する試験法の妥当性評価ガイドライン」および「食品中の有害物質等に関する分析法の妥当性確認ガイドライン」は、それぞれ食品に残留する農薬と有害物質の分析をする際に、用いる方法の妥当性を確認することを目的としたガイドラインである。これらのガイドラインが導入された背景には、農薬等あるいは有害物質の基準値が非常に多数の食品に設定されているという現状がある。農薬等は基本的にすべての食品に一律基準が設定されている。一方、分析法の検討時には代表的な食品への適用を検討しているとはいえ、すべての食品での検討は不可能であり、実際にその分析法を適用できない食品があることも少なくない。このために、「同等以上の性能を有する方法」の使用も認められていたが、どのようにして同等以上の性能を有することを評価できるかは定められていなかった。このために、まず食品の検査において必要とされる性能規準を定め、それを満たす方法は同等以上の性能を持つ試験法と考えるとされた。また、公定法で行ったとしても、同等以上とされる性能を満たせなければ、検査に使用することはできない。この考え方から、ガイドラインで妥当性評価の対象となる分析法は「食品規格への適合判定のために使用される試験法であって、妥当性が未評価の方法」とされ、告示法、通知法、その他の方法の区別なく、使用する分析法の妥当性評価を行い、試験を実施することとされた。
 ガイドラインで求めている妥当性の確認とは、それぞれの機関が、検査の結果が正しい(間違っていない)確率を十分に高くできる分析値を得られることを示すことである。ガイドラインの名称中には試験法あるいは分析法の妥当性とあるが、実際には分析法のみならず、試験環境、機器、分析者の技術をすべて含めた分析システムが、正しい分析値を作り出す性能、つまり検査に使用することの妥当性が確認される。
 分析の目的によって、必要とされる分析値の正しさの程度は異なると思われる。上記のガイドラインは、食品規格への適合判定のために使用したときに、適合判定を誤る確率が妥当な程度とみなしうる、真度・精度の最低限の目標値が示されている。適合判定を誤らない確率を高くするためには、真度は100%に近いほどよく、精度は0%に近いほど良いことは自明だが、現実的な実行可能性、分析の効率等を考慮して目標値が定められている。適合判定をするのだから、基準値付近での性能を確認するべきである。定量限界あるいは検出限界は、一般には分析法の性能として重視されているが、基準値より十分に低いことが分かっていれば、その値は重要ではない。また、検査機関で継続して検査が実施されるのなら、併行精度ではなく長期にわたる室内精度がより重要である。室内精度には、使用する試薬、機器、環境の変動が反映されるからである。
 しかし、分析の目的がサーベイランスであったり摂取量推定であれば、基準値よりもはるかに低い濃度での性能が重要である。検出限界が高い分析法で摂取量推定のための分析を行えば、結果はNDばかりになり、何も推定できない。サーベイランスでも同様であるから、定量限界あるいは検出限界が十分に低く、NDではない分析値が十分に得られることが重要である。また、検査ではそれぞれの分析値で適合判定が行われるのに対して、サーベイランスでは多数の分析値全体から、統計パラメーター、分布等を推定するのが目的であるから、精度の重要性は相対的に小さくなる。
 研究開発のための分析であれば、その研究に必要な分析法の性能は何かを、研究目的に応じて決める必要がある。対象とする食品と分析対象化合物は限定されており、すべての食品に一律基準が適用される農薬等のように、広い範囲の食品において性能を確認する必要はないだろう。このように、妥当性確認のガイドラインがあったとしても、それに適合していれば妥当性が確認されたと考えるのは誤りである。まず、分析の目的を考え、ガイドラインが目的に合っているかを確認しなくてはならない。ガイドラインに示される性能の目標値が適切でなければ、必要とされる性能目標を自ら決めることから、妥当性確認は始まる。また、妥当と考えられる性能以上の性能を求める必要があるかは、分析の依頼者との合意も必要である。
 妥当性確認ガイドラインには、2併行分析を5日間繰り返し、その結果に一元配置分散分析を行って、真度、室内精度、併行精度を推定する実験計画の例が別紙に示されている。この実験計画は、ガイドライン本文中で求められている、自由度4以上を確保し、効率よく3つのパラメータを求める方法として提案されている。逆に言えば自由度4以上をかろうじて確保した、最低限の実験計画であるので、もっと日数等を増加させて自由度を大きくすれば、パラメータの推定値の信頼性は高くなる。新たな分析法の妥当性評価を実施するのではなく、すでに実施してきた分析法の妥当性評価であれば、既存の品質管理データを用いることもできる。ガイドラインには、内部品質管理データ、試料と同時に分析した添加試料の結果から、真度と精度を求める方法が示されている。これらのデータは数が多く、自由度を大きくできる利点がある。さらに、ガイドライン別紙に示された妥当性評価方法は、代表的な場合をカバーするが、個々の事例にすべて当てはまるわけではない。自らの分析システムの妥当性を確認するのにふさわしい方法を科学的に考え、実施することが重要である。ガイドラインに記載されていないから、実施しなくてよいとか、ガイドラインに記載されていないから、実施してはいけないということはない。

分析値の不確かさ

1993年、分析値の不確かさ表現のガイド(GUM)が発表された。不確かさの定義は、「測定の結果に付随した、合理的に測定量に結び付けられ得る値のばらつきを特徴付けるパラメータ」であり、分析値の信頼性を相互に比較するための共通の尺度である。Codexにおいても測定値の不確かさに関するガイドライン(CAC/GL 54-2004)が作られ、食品分野においても分析値に不確かさを付与することが求められるようになった。
 信頼性保証の観点から見れば、かつては手順をSOP化しそれを遵守すること、つまり管理することが重要と考えられていたのが、分析の手順ではなく性能を示すことになり、不確かさの登場により、分析値に付与された1つの数字で信頼性が示されるようになった。その点で、不確かさは分析システム全体の信頼性を表す、非常に重要な数字である。
 不確かさは、その定義の通り、個々の分析値に付与され、その信頼性を示す尺度である。標準偏差のような形で与えられることから、分析法のパラメータである精度と混同されていることもあるが、概念的には異なるものである。ある分析システムが与える結果が分布する範囲は、分析システムの性能(精度)として推定できる。このシステムが作り出した1つの分析値の値があれば、真の値が存在する範囲は、分析システムが与える結果の範囲から推定できる。一般には、95%区間となるように、標準偏差の2倍の範囲を拡張不確かさとして使用している。
 不確かさの推定方法としては、食品分野では内部品質管理、妥当性評価結果のような長期にわたって実施された結果の変動から推定する方法(トップダウン法)が適切とされているが、いわゆるボトムアップ法も使用されている。不確かさは、その推定法について多くの議論がなされている一方、その使用についての議論は少ないように感じられる。不確かさの第一の使用目的は、分析値に付与することにより、その分析値の信頼性の程度を示すことである。どのような方法を用いて推定するにしても、不確かさを推定した時の分析システムの状態が保たれている保証がない限り、過去に推定した不確かさを、無条件に分析値に適用することはできない。
 ボトムアップ法で不確かさを推定する際に、あるスペックの器具を使用し、そのスペックから不確かさを計算したなら、その器具を使っているときにのみ、その不確かさを適用できる。トップダウン法の一つである妥当性確認結果からの不確かさ推定を行ったならば、妥当性確認時の手順に従っており、試薬、装置の状態も同一であるときに、推定した不確かさを、結果に付与することができる。より正確に言えば、適切な品質管理により使用が正当化される場合には、不確かさの推定値はその試験室がその方法を用いて得た結果に適用可能である。適切な品質管理とは、内部品質管理、内部監査等である。このような品質管理を実施することにより、最初に設定し、不確かさを推定した方法の通りに分析値が作られていることが確認される。不確かさについて、このような前提条件が見過ごされたまま議論されている場合が多くみられる。他の試験室で推定した不確かさ、文献に掲載された不確かさを、同じ方法で得たからと言って、無条件に適用することはできない。

信頼性保証の要因としての分析者

先に示したISO/IEC 17025の技術的要求事項で筆頭に挙げられているのは、(妥当な分析を行える)要員についての要求である。一方、業務管理要領では、要員に関する事項は一番最後の研修だけであることが、正しい分析値を得るときの、分析者の役割に対する考え方の違いを表しているように思える。
 ISO/IEC 17025の技術的要求事項を並べれば

訓練された分析者が、ふさわしい施設で、妥当性確認された方法で、よくメンテナンスされ校正された装置を使って、しっかり管理された標準品を使って、適切に採取された試料を、取り違えたりしないで分析していることを示せれば、信頼性のある分析値が得られていることを保証できます。

ということになる。ここで、最初の「訓練された分析者」が前提でなければ、方法の妥当性確認も、装置のメンテナンスも、標準品の管理も、試料の採取と扱いも、正しく行われているという保証はなくなってしまう。
 同じように、SOPを遵守したら、分析法の妥当性を評価したら、内部品質管理を行ったら、技能試験に参加したら、不確かさを推定したら、分析値の品質が管理されるわけではない。それらの科学的背景を理解して実施、その結果を正しく評価し、適切に対処する分析者がいてこそ、分析値の品質が保たれる。適切に対処するためには、分析者に分析化学の知識、統計の知識が求められる。色々なところで示されている分析法やガイドラインは、多くの場合に適用できると考えられる最大公約数であり最低限の要求である。また、公示されている試験法で採用されている手法には、それぞれの科学的背景があり、それぞれの手順が検査結果に及ぼす影響は異なっている。どの手順が検査結果の変動に与える影響が大きいかを認識して変更を加えていくことが必要である。それぞれの分析者は、自らの分析値の品質を保つために最適な方法を自ら選ぶ必要があり、それには分析化学、統計の知識が不可欠である。このためには、知識と共に「信頼性の高い分析結果を得るために、どのようにすればよいかを考え、実施しよう」というmotivationが必要である。目的意識なく、統計的根拠、科学的根拠を考えずに、徒に何かに書かれている手順通りに行うことは、信頼性保証に繋がらない。
 信頼性保証が目指すのは、分析者が、自身の分析値の使用目的に必要とされる信頼性を考え、決定し、それを証明するのに必要な手段を選択し、結果を示すことにより、信頼性を保証することである。分析者自身が、考え、選択し、決定する力を持つことが、信頼性のある分析値を得るために最も重要である。

略歴

松田りえ子
国立医薬品食品衛生研究所 食品部 第三室 主任研究官(前食品部長)

【 略歴 】
1977年 京都大学大学院薬学研究科修士課程終了
1977年 国立衛生試験所薬品部入所
1990年 国立医薬品食品衛生研究所 食品部 主任研究官
2000年 同 食品部 第二室長
2003年 同 食品部 第四室長
2007年 同 食品部 第三室長
2008年 同 食品部長
2013年 同 食品部主任研究官(再任用)

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