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「LC/MSによる農薬等の一斉試験法U(畜水産物)」について

1.はじめに

食品中の残留農薬分析は、ポジティブリスト制度の施行による規制対象農薬等の大幅な増加により、同一手法で多種の農薬等を分析可能な多成分一斉分析法が主流となった。ポジティブリスト制度に対応するためには、規格基準への適合性が判断可能な信頼性を有する一斉分析法が必要となる。国内においては厚生労働省より、農産物及び畜水産物を対象とした農薬等の一斉試験法が通知されており、測定対象農薬等の物性に合わせて複数の試験法が示されている[1]。2015年2月には、新たな通知一斉試験法として畜水産物を対象とした「LC/MSによる農薬等の一斉試験法U(畜水産物)」が通知された[2]。今回の豆知識は本試験法の概要について紹介する。

2.LC/MSによる農薬等の一斉試験法U(畜水産物)の概要

2−1 前処理方法

本試験法のフローチャートを図1に示した。

農薬等を試料から酢酸酸性条件下でアセトン及びヘキサン混液で抽出し、多孔性ケイソウ土カラム、ゲル浸透クロマトグラフィー及びSAX/PSAミニカラムで精製した後、LC-MS/MS で定量する方法である。
本試験法の抽出方法及び精製方法のポイントを以下に示した。

1)アセトン及びヘキサン混液による抽出

本試験法ではアセトン及びヘキサン混液により農薬等を抽出する。農産物を対象とした通知一斉試験法では抽出溶媒にアセトニトリルを用いるが、アセトニトリルは脂質の溶解量が少ないため、畜水産物のような脂質が多い食品においては、脂質中に残留する脂溶性農薬等に対して抽出効率が低下すると考えられる。よって、本試験法ではアセトン及びヘキサン混液を用いることにより、脂質を溶解しながら農薬等を抽出する手順となっている。

2)多孔性ケイソウ土カラム

多孔性ケイソウ土カラムは、ケイソウ土の表面上に水系の試料溶液を均一に保持させた後、有機溶媒を注入することにより試料溶液と有機溶媒の間で液々抽出が行われる手法である。エマルジョンを形成しないため操作が簡便であり、高い再現性が得られる。本試験法では、試料溶液に塩を加えてから多孔性ケイソウ土カラムへ負荷した後、酢酸エチルで農薬等を溶出する。カラムへの負荷時に塩を加えることで塩析効果を高め、農薬等の溶出率を向上させている。

3)ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC:Gel Permeation Chromatography)

GPCは物質の分子サイズ(分子量)を指標として分離する方法である。分子量の大きい化合物から順に溶出するため、農薬よりも分子量が大きい脂質や色素等を効率良く除去することが可能である。あらかじめ農薬の溶出位置を確認する必要があるが、本試験法ではアクリナトリンとトリシクラゾールを指標として、分画範囲が示されている。GPCは精製効果が高いことから、残留農薬分析においては頻繁に使用される精製法である。

2−2 試験法の注意点

本試験法の通知文書に記載されている「留意事項」には、操作上、注意しなければならない重要な事項が示されている。特に、多孔性ケイソウ土カラム、ゲル浸透クロマトグラフィーへの試料溶液の負荷方法は分析結果に影響を及ぼす可能性が高いため、適切に実施しなければならない。

3.おわりに

食品中の残留農薬分析において、食品抽出液中に含まれる食品成分は全て分析上の妨害物質となるため、できる限り除去しなければならない。しかしながら、食品成分の種類は試験対象とする食品によって大きく異なる。通知一斉試験法を用いても、対象食品によっては必ずしも良好な結果が得られるとは限らないので注意が必要である。従って、分析現場においては分析対象とする農薬等と食品の組み合わせにおいて、妥当な結果が得られるかを事前検証することが重要である。
 なお、本試験法の妥当性評価結果が厚生労働省HP上に公開されている[3]。評価結果が不良であった農薬等の結果も参考データとして掲載されているため、ぜひ一読されたい。

参考文献

[1] 厚生労働省ホームページ「食品に残留する農薬、飼料添加物又は動物用医薬品の成分である物質の試験法」
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/zanryu3/siken.html#2

[2] 食安発0226第1号 「食品に残留する農薬、飼料添加物又は動物用医薬品の成分である 物質の試験法の一部改正について」 厚生労働省医薬食品局食品安全部長通知 平成27年2月26日

[3] 厚生労働省ホームページ「LC/MSによる農薬等の一斉試験法U(畜水産物)の妥当性評価試験結果(平成24〜25年度)」
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11130500-Shokuhinanzenbu/0000075418.pdf

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