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新しい機能性表示食品制度の有する意義とその問題点
鈴鹿医療科学大学 副学長
長村 洋一

はじめに

食品表示一元化の中の一環として本年4月1日より機能性表示食品制度http://www.caa.go.jp/foods/pdf/150330_guideline.pdf)がスタートした。これは、安倍総理の平成25年6月に行われた第3の矢と称する規制改革演説http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kaigi/publication/130614/item1.pdf)にその端を発しているが、この演説全体の中で強調されていることは「お金がかからず、世界で一番企業が活躍しやすい世界をつくるという事」であった。少し皮肉な言い方をすれば国民の健康な生活の創生は最前面の課題ではないとも取れなくはない。そのためと考えられる現象として、一昨年安倍総理の演説が行われた直後には、非常に低レベルの健康食品まで認められるような社会になると一部の業者、メディアは諸手を挙げて喜んだようだった。事実この演説の後、これで46通知(「無承認無許可医薬品の指導取締りについて」昭和46年6月1日厚生省薬務局長通知)が事実上無効になると早トチリをされたいわゆる健康食品メーカーの方も多かった。
 消費者庁はこの分野の問題に詳しいかなりしっかりした検討委員会を組み報告書http://www.caa.go.jp/foods/pdf/140730_2.pdf)を作成させた。しかしこの報告書作成の経過においては相当な圧力があったと推測している。実際、検討会開催中にお会いした企業の方が、消費者庁は安倍総理の言葉を間違って解釈している、と憤りの発言をされているのを聞いたこともあったし、「消費者庁の制度は潰れる」などという話がまことしやかに聞こえてきたこともあった。そして検討会の報告書が昨年の7月30日に出されたにも拘わらず、ガイドラインの公表が本年の3月30日と施行直前になり、しかも安全性、機能性に関する部分に猶予期間が設けられているのも、こうした圧力との調整であったのではと推測している。
 新制度には幾つかの課題はあるものの、しっかり運用されれば模範としたアメリカのダイエタリーサプリメントよりはしっかりした制度というより、世界全体から見ても今後の模範にされるような制度になると予測している。運用開始から約5か月を経て現実に発生している問題点とその解決への提案に関して論じさせて頂く。

“いわゆる健康食品”の存続に与える影響

4月1日に発足して3か月が経過して届出は200件を超えているようであるがホームページ上http://www.caa.go.jp/foods/index23.html#m04)に公開されているのは8月12日現在で受理されたのは69品目であるに過ぎない。このうち一件は届出を引き下げたので事実上は68品目である。消費者庁はこの届出の実数と受理数に差が生じている原因は、書類内容の審査に時間を要しているのではなく、書類に不備が多く、少人数でその処理を行っているからだと説明している。その一方で書類不備で返された事業者の中にはこれは不備ではなくて「審査だ」とこぼしている声も聞こえてくるが、私は食品表示として全部で111ページにわたって詳細に種々の指示が出されているガイドラインhttp://www.caa.go.jp/foods/pdf/150330_guideline.pdf)が十分に読み解けず、企業側の新制度の理解が不十分で揃えるべき書類、記載すべき内容が誤っているのが原因であると推測している。実際消費者庁のホームページには赤字で「● 機能性表示食品についてお問合せいただく際には、事前に食品表示基準、通知、ガイドラインをお読み下さいますようお願い申し上げます。」といった注意書きが記されている。
 このように、書類が整っているかいないかの審査においてこのように時間がかかることの意味するところは非常に大きい。何故ならこの新制度は、機能性表示の根拠としてそれなりの臨床試験を行うか、またはしっかりしたシステマティックレビューを行って証拠となる論文を提出しなければならない。こうした科学的根拠に加えて安全性に関しては食経験の証明、または特定保健用食品(トクホ)レベルの安全性に関する実際の試験が要求されている。そして臨床試験またはレビューで得られている機能性を商品に記載する際、その表示に誇張、または喰い違いが無いようにしなければならない。
 8月12日現在の届出資料を分析してみると、科学的根拠を臨床試験によって得ているものが12件、システマティックレビューによっているものが56件である。制度が発足して間もないことも大きな理由かもしれないが、レビューによるものが圧倒的に多い。また、素材がすでにトクホとして認められているものが20件ある。食品の形態としては36品目がサプリメント形状で、残りの32品目が加工食品となっているが、サプリメント形状のものが半数強を占め、加工食品の大半は飲料かヨーグルトで、ご飯が2件となっている。
 現在までのこうした状況を踏まえてみると、消費者庁が要求する書類が整っている商品は従来の「いわゆる健康食品」では全く不明であったかなりの情報が要求されている。そして届け出られた資料は全て衆目に曝されるシステムである。すなわち、少なくとも届出が受理された商品は、現在のところ、その科学的根拠を示す情報の質としては課題が幾つかあるものの、従来のイメージ広告のみの、わけのわからない健康食品よりはるかに安全性およびその機能性に関して情報が公開される状態に置かれている。
 既に販売が開始されたり、届出が受理されたりした商品の機能性表示にはトクホにはその表記が見られない「目の健康、ひざの健康、肌の健康、健やかな睡眠」などの機能が具体的に表示されている。すなわち、従来の健康食品においてはイメージしか訴える手段がなかったものが、具体的にどういう健康機能が得られるかが明らかにされている。
 派手な体験談、タレントを使用した広告、試験管内の実験のみで安全性、機能性に関する科学的検証を伴わないまま販売されている“いわゆる健康食品”は、機能性表示食品の仲間入りをしようとしてもおよそ手の届かない世界にあることが明確である。この事実は今まで健康食品に定義がなかったために、思わせぶりの広告のみで販売されていた“いわゆる健康食品”の世界を狭めることにかなり有用である。
 消費者庁ホームページのパンフレットhttp://www.caa.go.jp/foods/pdf/syokuhin1442.pdf)には機能性表示食品を、保健機能食品として明確に位置づけ分類している。すなわち、私がこの制度の検討が始まった時に強く要望した健康食品の定義http://www.ffcci.jp/information/img/kaiho2_9-1.pdf)が不完全ではあるがなされたという事である。従って、この制度を今までのいわゆる健康食品の世界に徹底させれば、健康被害、経済的被害を多く発生させている俗悪な“いわゆる健康食品”を一掃することに非常に有用であることが明らかである。
 形の上では書類が整っていればOKとはなっているが、200件以上の申請に対し8月12日で68品目のみ掲載されているということは、書類が整ったということがそれなりのレベルをクリアーしたことを意味する。

消費者団体から出された疑義の重要性

施行直後に発生した問題は新制度が米国の制度を凌駕している事実を見事に浮き彫りにした。それは、発売60日前に消費者庁に届け出なければならず、届け出たデータは受理された段階で公表されるという点である。この制度は発売前に商品を衆目にさらすことになったので、ホームページに掲載された途端に幾つかの消費者団体から、こんな製品は本当に効果があるのか、また安全性は大丈夫か、表示がガイドラインに記された通りでない、といった疑義が出された。
 幾つかの団体から提示された疑義や制度そのものの撤廃を求める要求のうち、私が的を射ている、と強く感じたものは食の安全・監視市民委員会http://www.fswatch.org/2015/5-29.htm)とFOOCOMhttp://www.foocom.net/column/editor/12869/)から消費者庁に出されたものである。この両団体は消費者庁のホームページに出された各社の資料を、文献内容も含めて良くぞ調べたと驚嘆する部分があるほどかなり問題点を正確に捉えている。
 その指摘している内容は、個々の商品を名指しで、機能性に関してはシステマティックレビューの方法論と結果として選択された論文の質の問題、臨床試験に関しては論文の利益相反も含めての質の問題、安全性評価に関しては“いわゆる健康食品”としての販売実績を食経験の根拠としている問題点などで、いずれも科学的にしっかりした論理で問題点をついている。このシステマティックレビューの在り方に対する批判、臨床試験の論文の批判などにはそれなりの科学的洞察力が必要であり、感覚的にだめといった訴えとはかなり異質である点が注目される。
 こうした消費者団体の動きに対して、東洋新薬は「事実無根であり、営業上の不利益を被っているため、直ちに申し入れを撤回し、ホームページなどからの削除と謝罪を求める」との文書を配達証明付きでFOOCOMに対して公式に行った(http://www.foocom.net/special/12929/)。この申し入れは複雑なもめごとに発展するかに見えたが、現実には東洋新薬がホームページ上に指摘された問題点に対する回答を出し(http://www.toyoshinyaku.co.jp/1014/)、消費者庁には資料追加の届出を出した。東洋新薬のホームページ上の記事には次のような記事が出ている。

機能性表示食品制度における届出に対する情報提供や意見表明は、消費者保護や本制度の適正な運用に重要な役割を担うことは言うまでもなく、それらを積極的に行なわれている団体等の活動は高い社会的意義を有するものと考えております。

FOOCOM主幹の松永和紀氏も「その態度に敬意を表します」と彼女の主催するメルマガに書くなど相互のしっかりした紳士的なやり取りに終わったことは、新制度の有する意義が見事に表れた一つの形と捉えることができる。
 以上のように、消費者団体から出された科学的にしっかりした疑義に対し企業として疑義提出者に明確な対応をとったのは現在のところ、東洋新薬のみである。「同等性」と「同一性」という若干分かりにくい問題に一定の見解を示し、FOOCOM側も納得を表明された。しかし、残りの多くの企業は消費者団体の疑義に対してまともな対応をしていない。真面目に出された疑義に対し若干無視的とも言えるような態度に出ている企業の中には「消費者団体などの細かい疑義に対応などしていられない。当社は消費者庁のガイドラインに従って書類を出し、ちゃんと受け付けられているのだから問題ない」とたかを括った発言をされているところもある。そんな発言をされながらも届出に追加訂正をしてそれなりの対応をとっておられるようである。こんな状態も新制度がある意味で機能していると見ることができる。
 このように正面からではなくても対応されているところはそれなりに評価したい。しかし、ある会社の商品で指摘されている論文などは、その機能性の評価に関する記述内容には論文のミスも含めて私も消費者団体が指摘しているようにかなり問題ありと感じているが、そのコマーシャルは医薬品としても十分出せそうな内容で行われている。その一方で問題とされた機能性に関し、何のコメントも修正届も出されないことは、消費者団体のご指摘の通りでございますと認めているようなことになる。こうした会社の姿勢は、宣伝さえうまくやれば売れる、というある意味消費者を甘く見ているのかもしれないと推測している。すなわち、もしこの臨床試験がいい加減で、本当は効果のないような商品であるとしたら、そのことを裁くのは消費者になる。1年くらい後のこの商品の売れ行きに注目をしたい。
 いずれにしてもこのように発売前に激しい議論がなされることは、非常に素晴らしいことであると感じている。こうした議論が持ち上がったことは、日本の新制度が大きく発展できる重要なポイントである。少なくとも、なんとなく書類を出せば通るだろうくらいの軽い気持ちでいた事業者にとっては、かなり厳しいハードルが設けられたことになる。
 ただ、発売前に問題点が見つけられ、指摘されることが可能である今度の制度の特徴を本当に活かすためには、問題点が見つかった時に消費者庁がどう対処するかが大きな問題点となってくる。

消費者団体からの疑義に対する消費者庁の対応

前述のような消費者団体の疑義に対して消費者庁の見解が知りたい点であるが、この点に関しては消費者庁の坂東久美子長官自らが、疑義問題が浮上して間もなくの5月13日の記者会見の席http://www.caa.go.jp/action/kaiken/c/150513c_kaiken.html#contents)で出された質問、

「今回、もともと機能性表示食品の安全性の評価について、消費者庁は関与しないと、国は関与しないという前提で、企業の責任でやることになっている。・・・中略・・・公開されたデータについて、今後そのような公的機関なり、あるいは消費者なり、専門家が疑義を指摘した場合、それについては、要するに、国が関与しないのだけれども、しかし、事業者のほうで何らかの選定をしてくるのではないかなという、ガイドラインを読んでもよく分からない。・・・中略・・・何かお考えになることがありますでしょうか。」

に対する回答として次のように述べている。

「まず、一般的な説明からさせていただきたいと思いますけれども、この新しい機能性表示食品の制度については、今御指摘のように、企業の責任、事業者の責任において、食品の機能性、安全性について科学的根拠に関する情報を消費者庁に届出をすると。それを前提として、食品に関する機能性表示を可能とするという制度であり、それを消費者庁では、届出を受けた資料については形式的な確認を行わせていただいくということと、その届出内容を消費者庁のホームページに上げて公表する、基本的にはそういう仕組みであります。
 ただ、これについては、事後的なチェックであり、届出の前に個別に審査をしてという仕組みではないというのは、おっしゃるとおりでございますけれども、届出後の事後チェックの仕組みということ、その事後チェックということが機能していくということが前提になっているということでありまして、安全の問題などについて、その確保ということに、事後的な仕組みも含めて考えていくということになろうかと思います。
 ・・・中略・・・
 こういった事後的なチェックの仕組みということによりまして、必要に応じて必要な対応をとっていくということになるわけでありますので、これは両制度でそういう仕組み、考え方は違うということになりますけれども、安全性に対して疑義が生じたときに対応する、そういったチェックの仕組みが、この制度においても、今御説明申し上げましたように、その中にビルトインされているということでございます。
 ですから、この制度を、そういった形で消費者の安全ということもきちんと確保されるように運用を図っていきたいと思うところでございます。」

さらにこの長官の記者会見の数日後の5月19日に開催された第189回国会 厚生労働委員会http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/sangiin/189/0062/18905190062012a.html)における川田龍平議員が行った、トクホ申請が安全性の観点から認められなかった蹴脂粒を例として取り上げた質問、

「・・・略・・・、科学的根拠に疑義が生じた食品については食品表示法の規定に基づいて必要な取締りを行っていくとのことでしたが、この蹴脂粒の発売が予定される六月までに届出の撤回を求めるとか表示を認めない、あるいは販売中止を求めるということを早急に検討すべきではないでしょうか。
 また、板東消費者庁長官は四月二十八日の記者会見で、機能性表示食品としての必要な要件が満たされないということになれば一定の行政処分の対象になると発言していますが、一体どの法律のどの条文でどういう行政処分ができるという考え方なのか、明確な答弁をお願いいたします。」

に対して消費者庁の岡田憲和審議官は以下のように回答を行っている。

「本制度は、届出後の事後チェック制度をしっかり機能させることが前提となっておりまして、消費者庁は、開示資料を端緒として寄せられる疑義情報も活用いたしまして、届出情報の公表後に安全性や機能性に関する科学的根拠等について食品表示法に基づき事後監視を行うということにしておるわけでございます。
 具体的には、一般論で申し上げますと、消費者庁におきましては、機能性表示食品に係る疑義情報の内容を確認の上、必要に応じまして事業者に確認をした上で、仮に科学的根拠に基づかないものであることが明らかになった場合には、当該食品は機能性表示食品としての要件を満たしていないこととなるため、事業者に対して撤回届の提出を求めることとなるという手続でございます。
 その上で、撤回届の提出をせず、当該食品を機能性表示食品として販売しようとする場合には、必要に応じ、食品表示法第六条第一項の規定に基づく指示や同条第五項の規定に基づく指示に従わない場合の命令等の行政措置を行うこととなるということでございまして、こうした取組によりまして、科学的根拠に基づかない表示がなされた食品の流通を防ぐべく、制度を運用してまいりたいというふうに考えております。」

さらに、川田議員が制度の問題点を指摘している質問に対し岡田審議官は

「本制度におきましては、届出後の事後チェック制度をしっかり機能させることが前提となっておりまして、具体的には、食品表示法の枠組みの中で、事業者は安全性や機能性に関する科学的根拠について商品販売の六十日前までに消費者庁に届出を行う、それからまた、消費者庁は、開示資料を端緒として寄せられます疑義情報も活用して、届出情報の公表後に安全性や機能性に関する科学的根拠等について食品表示法に基づく事後監視を行う、それからまた、事業者が健康被害情報の収集体制を整備するといった取組を実施するということにしているわけでございまして、こうした取組によりまして、科学的根拠に基づかない表示がなされた食品の流通を防ぎ、消費者の自主的かつ合理的な商品選択に資する制度となるように制度運用をしてまいりたいというふうに考えております。」

と回答を行っている。

消費者の監視は結果として企業を育てる

企業がそれなりに努力作成し、公開された資料においてもまだ幾つもの問題が指摘されているが、この指摘が民間の消費者団体のボランティア的活動として行われていることは大きな課題を提起している。消費者庁のホームページに掲載されている情報を文献も含めてしっかりと監視するのには相当な能力を有する人材が充分な時間をかけて行わなければならない。現在唯一FOOCOMがネット記事に機能性表示食品に関するコーナーhttp://www.foocom.net/special/12988/)を設けている。食の安全・監視市民委員会も継続的に何らかの動きを取られることを期待している。私が主催している日本食品安全協会の教育委員会も同じようなことを企画したが、協会構成メンバーがそれぞれの教育研究の仕事を抱えているために、現在のところ企画倒れになっている。
 いずれにしても、企業と利益相反のない団体等がしっかりと消費者サイドの目でこの制度に対し監視体制をとることは、日本が世界に誇れる製品を送り出すことにつながると確信をしている。企業にとっては煩い集団ということになると推測するが、食品企業が全く後ろにない当協会もこの制度を潰すためではなく、育てるためにしっかりとした目で監視に加わることを考えている。
 今はまだ制度が始まったばかりなので企業も消費者も混乱をしている部分があるが前述のような消費者団体の突き上げ等を企業が検討し、改善すべきところを改善してゆけばより良い商品が一般的に出回ることになる。これは、企業にとって一見大変であるが、ここをしっかりしないとやがて消費者から見放されることになる。
 それは、機能性表示食品ははっきりと機能を表示して販売をするわけであるから当該商品を購入した消費者は当然その表示された機能を期待して購入する。しかし、いい加減な臨床試験やシステマティックレビューによって作成された商品はそうした機能が全く期待できない可能性がある。結果としてその商品を購入した消費者はリピーターとはならず、その一部はブログ等の口コミでネガティブな発言を行うことになる。
 事実、私の知っている幾つかのしっかりした健康食品のメーカーはそんなに派手な宣伝を行わなくても絶対に求めてくるリピーターがいて確実に成長を続けている。そんな一つには国内向け商品しか作成していないのにcGMPhttp://www.caa.go.jp/foods/pdf/siryo_3_1_1.pdf)まで取得して自身の会社の品質管理を行っている会社もある。その会社のしっかりとした商品を作成している姿勢が、有効成分を必要量含んでいる品質の良い製品製造につながりリピーターを構成させている。
 現在、届出が消費者庁に受け入れられた商品には、消費者団体から安全性に疑問を投げかけられている物が幾つもあるが、届け出られた状態で販売される限りにおいて重大事故は恐らく発生しない。しかし、効果が購入者に感じられなかったときは見放されることを覚悟しなければならない。この商品でのコマーシャルはムードではなく具体的な科学的根拠を持った機能性表示であるから当然のことである。機能性表示を前面に派手な広告のみで機能性の根拠を満たさない商品は一時は売れても長続きはしないことを企業は注意しなければならない。

医薬品でない機能性表示食品に求められる最も大事なことは

今回の機能性表示食品制度は米国のダイエタリーサプリメントを模倣して作成されているが、ダイエタリーサプリメント制度を21年前に米国が導入したときにその根拠としていたのは健全な食生活の重要性である。米国のダイエタリーサプリメントという概念は、1994年に制定された「ダイエタリーサプリメント健康教育法」(DSHEA(Dietary Supplement Health and Education Act)(http://ods.od.nih.gov/About/DSHEA_Wording.aspx)の中で定義されている。このDSHEAにはダイエタリーサプリメントに関する法律を何故定めるかという経過の議論が次の15項目にわたって次のように記載されている。(Global Nutrition Group発行 DSHEAガイドブックより引用、以下の文章におけるDSHEAの日本語は全てこのガイドブックによるが、私は原文をチェックして問題ないと判断している)

1.
米国民の健康状態の改善が合衆国連邦政府の最優先課題。
2.
健康増進・疾病予防に、栄養とダイエタリーサプリメントの有効性を示す科学論文が増加。
3.
ある種の栄養成分とダイエタリーサプリメントの摂取は、癌、心臓病、及び 骨粗鬆症等の成人病の予防に関連。慢性疾患の幾つかは、野菜、植物由来の食品を中心とした食事で予防可能。健康的な食事例として、脂肪、飽和脂肪酸、コレステロール、塩分を低減した食事が挙げられる。
4.
健康的な食事は、バイパス手術などの高額医療費を要する手術リスクを低減。
5.
セルフメディケーション、健康に対する知識の向上、十分な栄養摂取、ダイエタリーサプリメントの適切な使用等は、慢性疾患の発症率の低減、介護費削減に貢献。
6.
A)健康的なライフスタイルは、寿命を延ばすだけではなく、医療費を削減。
B)医療費削減は、米国の将来にとって最重要課題で、経済的発展の基礎。
7.
長期的な健康状態と栄養との関連性の情報を広めることが、益々重要。
8.
ダイエタリーサプリメントの健康に対する有効性を示す科学研究の情報を知らせ、その知識に基づき消費者が予防的健康管理対策を選択できるようにするべき。
9.
国民調査によれば、国民の50%、2億6千万人がビタミン、ミネラル、ハーブ等のダイエタリーサプリメントを自己の栄養状態改善手段として常用。
10.
国民調査によれば、消費者は高費用の医療サービスを回避して、食生活の改善を含む包括的な新たな健康管理サービスに依存する傾向。
11.
合衆国の1994年の健康管理費用はGNPの12%に相当する1兆ドル以上。この総額とパーセンテージは努力抑制しない限り増加傾向。
12.
A)ダイエタリーサプリメント産業は合衆国経済の一翼を担う。
B)貿易収支は一貫して黒字。
C)600社のメーカーと4,000種の製品、最低40億ドル/年の販売額。
13.
連邦政府は製品の安全性を欠く/品質不良製品には迅速な処置が求められるが、同時に不合理な制約で、消費者への安全な製品や正確な情報を制約、遅延させてはならない。
14.
ダイエタリーサプリメントは摂取量の安全域が広く、安全性問題は比較的に稀にしか発生していない。
15.
A)健康増進には、消費者の安全なダイエタリーサプリメント選択の権利を守る法的措置が必要。
B)ダイエタリーサプリメントに対する現在の一時しのぎのつぎはぎの規制策に代わり、連邦政府として合理的制度確立が必要。

以上、15項目のうち最初の10項目に注目して読み直すと、大半が食生活の在り方を問題としている。決してダイエタリーサプリメントをどんどん摂って健康になろうとは書いてなく、健全な食生活の補助手段としての使用が書いてある。この事項の多くは、日本の健康食品の在り方に関して正面から取り組み、さまざまな観点から問題点を指摘している方々の意見または議論の過程と全くと言って良いほど一致している。
 新制度の発足に伴って消費者庁は、「機能性表示食品」って何?、というパンフレットhttp://www.caa.go.jp/foods/pdf/syokuhin1442.pdf)を作製し公表している。そのパンフレットの最終ページには、機能性表示食品の利用のポイント! という表題で3つの大切な事項が表記されており、一番上に「まずは、ご自身の食生活をふりかえってみましょう。 ―食生活は、主食、主菜、副菜を基本に、食事のバランスをとることが大切です。」とある。
 実際に販売され始めた機能性表示食品にも「食生活は、主食、主菜、副菜を基本に食事のバランスを」との表示がなされている。このパンフレットの表示事項が消費者に伝えるべきもっとも重要な事項である。すなわち、機能性表示食品を免罪符にして食生活をおろそかにしたら、それこそ本末転倒である。私は、機能性表示食品を求めて健康な生活をしようとする消費者に教えなくてはいけない最も重要なことが、この一文であると確信している。
 もう一つ2番目に消費者庁がパンフレットで戒めているのは「たくさん摂取すれば、より多くの効果が期待できるというものではありません。過剰な摂取が健康に害を及ぼす場合もあります。」とあるように過剰摂取の防止である。実際に過去において死亡または健康障害の重大事故につながった例を調べてみると、過剰摂取がなければ多分それなりの効果が得られたであろうと推測される何でもない健康食品を、食品だから大丈夫と勘違いして過剰摂取を行った結果であることが多い。
 日本では高濃度茶カテキン飲料のトクホは売れ筋の一つで、現在までのところ、事故報告または警告は何も出されていない。しかし、国外においては重症な肝障害の報告が幾つか出されている。この原因として国立栄養・健康研究所はサプリメント形状の健康食品の摂り過ぎhttp://hfnet.nih.go.jp/contents/detail861.html)が原因であると指摘している。
 この茶カテキンの問題に限らず、過去には必須アミノ酸であるトリプトファンが睡眠導入の健康食品として爆発的に売れ、多くの人に愛用されていたが、多量に摂取するヒトが出て大きな問題(http://www.foocom.net/fs/takou_old/1189/)になったこともある。このように化学物質は摂取量の問題が非常に重要であるが、この量の問題に関して私は最近、食品添加物を一つの事例としてかなり詳細に論じた「長村教授の正しい添加物講義」なる書籍http://wedge.ismedia.jp/articles/-/4968)を出したのでご一読いただければ幸いである。

いずれにしろ4月から発足した機能性表示食品の届出に関しても、来年からはUMIN登録http://www.umin.ac.jp/ctr/index-j.htm)がされずに行われた臨床試験は届出として採用されないことになる。この観点で評価すると8月12日までに届け出られ公表された論文では、大半の商品が来年からは届出が不可となる。投稿論文もCONSORT声明http://www.caa.go.jp/foods/pdf/140502_sanko_2.pdf)に準拠した査読付き論文に掲載されていることが要求されるので、書類を整える段階におけるハードルも今よりかなり高くなる。すなわち、消費者団体から出された疑義の多くは来年の商品からは出なくなることになる。
 私は、今回の新制度の有する大きな意義は、健康障害または経済的被害を発生させる可能性の高い健康食品が淘汰されることにかなり威力を発揮すると考えている。これは決して新制度に問題がないということではなく、健康食品の今までの世界があまりにもひどかったという事である。
 私と良く似た観点から東京大学に拠点を置く、内閣府認証NPO食の安全と安心を科学する会の山崎毅理事長は、本年7月18日に開催したシンポジウム「新たな機能性表示食品制度ってどうなの? -消費者と食品企業の距離を縮めるために-」の中で機能性表示食品の問題を総括して「現在世の中に出た商品は恐らく少なくとも、過剰摂取がなければ何の問題も起こさないだろう」と述べている。その要旨http://www.nposfss.com/cat9/forum11.html)が最近公表され、さらに、何故彼がそう評価するかの一覧表http://www.nposfss.com/data/forum11_data0803.pdf)が8月3日の時点までの届出商品に関して消費者庁のホームページに公開された一般情報をベースにまとめて報告されている。この評価表によれば、安全性に関して取り立てて問題の商品は一つもない。
 トクホも含めて健康食品のエビデンスと安全性試験と称するものは品質も含めて医薬品に比較したら非常に低レベルである。今回の機能性表示食品を問題視されている方は、科学的にしっかりした方々なので、もともとトクホに関しても批判的で、この騒ぎがあってもなくても機能性表示食品の消費者とはなられない方が大半である。むしろ、本当に守らねばならないのは、根拠も安全性も全くない商品をコマーシャルだけで時には高額な値段で買わされている科学的な世界に縁遠い消費者である。この観点に立つと今回の制度は、課題は幾つもあるが、とにかく前へ進めてゆくことが非常に有用であると考えている。
 現在、業界にはうかつに出すとたたかれるという危機感が生じていることを感じているが、この効果はうまく作用すれば、日本の健康食品レベルの大きな向上につながる。しかし、その一方でいわゆる一般消費者が買い控えるようになるとしたら大きな問題点となる。そうならないようにするのには、企業が表示してある機能を消費者が実感できるしっかりした製品を供給してゆくことである。そうしたしっかりした機能性表示食品が供給される状態において、企業に対して利益相反のない専門家からの適切なアドバイスがあれば、消費者は機能性表示食品の真の意味での利点と有用性を理解でき、その繰り返しが続けば確実にその消費者のQOLは上昇する。
 前述のように実際に幾つかの真面目にやっている健康食品には確実なリピーターが存在している。そのアドバイスを行う最適任の人材は、業界が育てた人材や、業界を賛助会員として成立している学会等の認定者であってはならないと考えている。そんな観点から私の主催する日本食品安全協会http://www.ffcci.jp/)の養成している健康食品管理士などは適材であると確信している。

終わりに

私はいずれにしてもこの度の新しい機能性表示食品制度は育てるべきであると考えている。そして、現時点で消費者団体が問題として指摘している事項は重要ではあるが、徐々に解決もしてゆくと考えている。むしろ、軌道に乗ってきたときに、今回の制度として最も大きく欠如しているのは品質管理の問題である。アメリカのダイエタリーサプリメントはcGMPが必須であるが、日本の制度は義務化されていない。サプリメント形状の食品の品質管理は医薬品の品質管理に端を発しているGMPhttp://www.ffcci.jp/information/img/kaiho2_7-4.pdf)に限ると私は確信をしている。検討会の過程で加工食品も含む制度であるからGMPを必須にするのはおかしいので義務化までは必要ないのでは、という議論もなされていた。しかし、少なくとも最近までの届出を拝見するとサプリメント形状のものが過半数を占めているのが現状である。こうした中ではレベルの高いGMPを要求しないと、折角の制度が問題を露呈することになる。
 2年後にこの制度は見直されることになっているが、大きく積み残しになっているこの商品を責任を持って説明することのできる人材の確保と、GMPを含めた品質管理の問題に是非方向性が加えられることを期待している。

略歴

長村洋一(ナガムラ ヨウイチ)

昭和41年

岐阜薬科大学製造薬学科卒業(薬剤師免許)

昭和41年~46年

同大学大学院薬学研究科の修士、博士課程を終了(薬学博士)

昭和46~平成17年

名古屋保健衛生大学(藤田保健衛生大学)勤務

昭和53年~56年

デュッセルドルフ大学付属糖尿病研究所(ドイツ)へ留学

昭和59年4月

衛生学部 衛生技術学科教授

平成17年4月

藤田保健衛生大学退職

平成17年4月

藤田保健衛生大学名誉教授

平成17年~20年

千葉科学大学 危機管理学部 環境安全システム学科教授

平成20年4月

鈴鹿医療科学大学 保健衛生学部 医療栄養学科 教授

平成26年4月

鈴鹿医療科学大学副学長

主な研究分野
 食のバランスの本質に関する研究、疲労や睡眠とトリプトファン代謝に関する研究、抗酸化食品の有効性と安全性に関する研究

主な著書
 健康食品ポケットマニュアル(日本食品安全協会)、健康食品学(日本食品安全協会)、長村教授の正しい添加物講義(ウエッジ社)、臨床化学(講談社)、イラスト生化学入門(東京教学社)、わかる生化学(広川書店)、医学領域における臨床検査学実習指針(広川書店)等

学会役員
 学会役員:国際トリプトファン研究会日本代表幹事、日本トリプトファン研究会幹事、生物試料分析科学会理事、日本栄養改善学会東海支部評議員
 その他の所属学会:日本臨床化学会、日本食品衛生学会、日本栄養・食糧学会他

受賞
 臨床病理研究会奨励賞 坂幹夫賞 生物試料分析科学会賞 全国臨床検査技師教育施設協議会表彰

その他の社会的活動
 一般社団法人 日本食品安全協会理事長、一般社団法人日本GMP支援センター副理事長

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