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食品に含まれる有害元素の分析とその精度管理②
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第一理化学検査室

前回は食品中に含まれる有害元素の分析方法について、代表的な前処理方法及び測定機器を紹介した。今回は、微量な有害元素を分析する上で注意しなければならない分析上の不具合の解消方法を紹介するとともに、分析業務の品質を向上、維持させるための精度管理について解説する。

1. 干渉の除去

食品を処理して得られた試料溶液は共存成分を多く含むため、その中の微量な目的元素を測定する際には、少なからず何らかの干渉を受ける。そのため、受けている干渉の種類とその程度を把握し、影響を軽減、除去する措置を取らなければ、精確な結果を得ることはできない。ここでは、一般的に行われる干渉の抑制、除去の手法を紹介する1)

1) 内標準法

試料溶液に濃度既知の内標準元素を一定量添加して測定を行い、内標準元素の測定値で目的元素の測定値を補正する手法である。装置の感度変動、試料導入の不良などの異常も発見できる。内標準元素には目的元素と化学的、分光学的に性質が近く、安定した測定が可能であり、試料に含まれていない元素を選択する。

2) キレート抽出法

試料溶液から目的元素を選択的に抽出する手法で、有機溶媒抽出法と固相抽出法の二つがある。有機溶媒抽出法は、試料溶液にキレート試薬を添加して金属のキレート錯体を形成し、有機溶媒に抽出して測定する手法で、共存元素のうちキレート剤と結合しないものを除去することができる。固相抽出法は、イミノニ酢酸型キレート樹脂などを用いた固相カートリッジが市販されており、これらの樹脂の保持特性により目的元素を分離することが可能である。いずれの手法も試料溶液のpHによりキレート剤の保持能力が変わる為、目的元素がキレート剤と結合する最適pHを確認しておく必要がある。

3) マトリクスマッチング法

試料溶液のマトリクスと同等の組成になるように主成分元素、酸などの試薬を添加した標準溶液を調製し測定する手法で、マトリクス干渉を補正することができる。試料溶液と標準溶液で酸などの試薬濃度は合わせやすいが、試料溶液中の主成分元素の種類と濃度を把握し標準溶液に添加する必要があり、マトリクスを完全に一致させるのは困難である。マトリクス組成が類似した同種の試料を多数測定する場合に有効な手法である。

4) 標準添加法

一つの試料溶液を数本に分け、それぞれに異なる濃度の標準溶液を段階的に添加した標準試料溶液を調製し、無添加の試料溶液とともに測定し検量線を作成する手法である。試料マトリクスを同量ずつ含む標準溶液を用いることで、各溶液の受ける干渉を同じにすることが可能で、測定時に受ける影響を完全に補正することができる。ただし、標準試料溶液の調製が煩雑で、多数の試料の測定には時間を要する。

2. 精度管理

信頼性の高い分析は、適切な分析法を選択し、その手順に従って技術を有する者が操作を行い、再現性のある結果を得ることで実現されると考える。ここでは、精確で信頼性の高い分析結果を得るための取り組みとして行われる精度管理について紹介する。
 分析には、分析方法の妥当性の確認、標準作業手順書の作成、分析担当者の教育訓練と力量がその分析を実施する際に要求される基準を満たしているかの確認が予め必要である。分析方法の妥当性評価は「食品中の有害物質等に関する試験法の妥当性評価ガイドラインについて」(食安発1222第8号 平成26年12月22日)を参考にするとよい。その上で、精度管理を実施することとなる。
 精度管理の方法は内部精度管理と外部精度管理に分けられる。内部精度管理は、日常の分析が正しく行われているかを確認するが、その手段として測定対象の試料と同時に濃度既知の管理試料を処理して測定を行い、得られた分析結果を管理図にプロットして管理基準を満たしているかを評価する(図1)。なお、有害微量元素の分析では適当な管理試料を準備するのは難しいため、市販の認証標準物質の利用や添加回収試験を行ってもよい。特に認証標準物質は、高価ではあるが付与された認証値による絶対評価が可能であるため、精度管理試料としては大変有効である。これらの分析結果を監視して傾向分析を行うことで、工程内の変化や異常発生の予防措置を行うことができる。この他に内部精度管理では、空試験、二重測定、機器の点検と感度変動の確認も行う。
 外部精度管理では、国内外の外部機関が実施する精度管理プログラムに参加し、他の分析機関との比較を行うことで、内部精度管理では発見できない自機関の誤差要因の存在を知ることができる。外部精度管理で外れ値となった場合は速やかに誤差要因の特定と是正措置を行い、精度向上に努めることが重要である。


図1 管理図の一例

3. おわりに

社会の食に対する安全志向は高まりを見せており、世界中で有害元素に対する規制がされている中で、有害元素の微量分析へのニーズはこれから益々増加すると考えられる。近年の分析技術の向上と測定機器の進歩により超微量濃度の元素分析が可能となった。しかし、測定対象となる食品も多種多様な原材料が使われ複雑な加工調理が施されるようになり、分析を行ってみると予想もしていなかった状況になることがある。そのため、精確な分析結果を得るには、分析の技術論だけでなく、食品そのものに対する知識を持つことも重要であると考える。

参考文献

1) C.Vandecasteele、C.B. Block著、原口紘炁、寺島紀夫、古田直樹、猿渡英之共訳:微量元素分析の実際(1997)

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