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発生状況から見えるノロウイルス食中毒の特徴
中国学園大学現代生活学部人間栄養学科
教授 福田伸治

はじめに

2006/07年の大流行以来、ノロウイルスの名称は多くの人に知られるようになった。ノロウイルスはその後も流行を繰り返し、それぞれの分野において重点的に注意が払われているものの、一向に減少する様子が見られない。明確な報告がある訳ではないが、10-100個程度の少量で感染が成立すると言われており、ノロウイルス対策をより厄介なものにしている。かつてはカキなどの二枚貝の生食に起因する食中毒が主流であったが、食品取扱者からの食品汚染に起因する食中毒が増加するなど、ノロウイルス食中毒の発生状況が変貌しているようである。また、大流行があった2006/07年以前にも3回の世界的大流行があったとされ、特定の遺伝子型GII.4が関係していた。遺伝子型GII.4は今日まで長期間にわたり流行を繰り返しており、年々、遺伝子変異を伴ったGII.4新亜型の出現がノロウイルス対策をさらに厄介なものにしている。加えて、遺伝子組換え体であるキメラウイルスに関する報告も多く、これらの遺伝子変異を伴ったノロウイルスの出現は感染拡大に関与していることが推察されている。
 ノロウイルス食中毒は種々の原因が複雑に絡み合って発生しているようであるが、ここでは、改めてノロウイルス食中毒発生状況を観察・その特徴を抽出し、疫学的理解を深めながらノロウイルス食中毒の発生予防の一助としたい。なお、ノロウイルス発生状況は厚生労働省の食中毒統計資料(http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuchu/
04.html
)を基に集計した。

1.ノロウイルス食中毒発生割合の経年変動

かつて食中毒の多くを占めていたサルモネラ属菌、腸炎ビブリオ食中毒の発生割合が激減し、替わってカンピロバクター属菌、ノロウイルス食中毒の発生割合が急増している。ノロウイルス食中毒の発生割合はH15年(2003)までは5%から25%へと急増傾向を示していたが、それ以降の発生割合は年変動があるものの微増傾向にある(図1)。発生割合から見ると、カンピロバクター食中毒と併せ、ノロウイルス食中毒対策が重要であることを示している。

図1.ノロウイルス食中毒発生割合の経年変動(PDF:150KB)

2.ノロウイルス食中毒の月別発生割合

ノロウイルス食中毒が冬季に発生することは周知の事実であり、12月と1月に発生のピークがある。一方で、3月にも小さいピークがある(図2)。月別発生割合を原因施設別に見ると、飲食店では12月あるいは1月、仕出屋では12月あるいは1月、旅館では12月、事業場では1月に発生のピークがあり、原因施設により多少異なっている。3月における小ピークは飲食店、仕出屋、旅館および事業場ともに認められる(図3)。これらは人の食行動あるいは利用頻度などの行動様式の違いを表しているのではないかと推察される。また、3月における小ピークは年度末の種々の行事に伴う食行動が影響しているのではないかと思われる。

図2.ノロウイルス食中毒の月別発生割合(PDF:190KB)
図3.原因施設別月別ノロウイルス食中毒発生割合(PDF:149KB)

3.摂食者数別ノロウイルス食中毒発生割合

摂食者数が11-50人規模のノロウイルス食中毒が最も多く、45%程度を占めている。摂食者数に係わらず大きな増減の年変動は見られないが、摂食者数が101-500人規模の食中毒において僅かながら減少傾向が認められる(図4)。明確な理由は不明であるが、大量調理施設衛生管理マニュアルの効果が表れているのかもしれない。大量調理施設衛生管理マニュアルは平成9年3月に厚生労働省より通知され、平成20年6月にはノロウイルス食中毒の予防に重点を置いた改正がなされている。また、平成25年10月にはノロウイルス食中毒の多発を鑑みての改正もなされている。

図4.摂食者数別ノロウイルス食中毒発生割合(PDF:186KB)

4.ノロウイルス食中毒の原因食品

ノロウイルス食中毒は仕出し弁当などの弁当類、会席料理などの食事を原因とする事例が多数を占めているが、不明の事例も多い。一方で、原因食品が特定されたものはカキなどの二枚貝、寿司類、餅・ケーキ・パン類である。二枚貝を原因とする事例以外では調理従事者から二次汚染を受けた食品あるいは食事によるものである。弁当類および会席料理などにおいては複数の食品が盛り合わされており、複数の食品がノロウイルスの汚染を受けているであろうことが推測される。図5には原因食品として特定された二枚貝、寿司類および餅・ケーキ・パン類の年変動を示した。寿司類および餅・ケーキ・パン類を原因とする事例においては大きな年変動は観察されないが、二枚貝を原因とする事例は振幅の大きい変動が観察される特徴がある。
 食品からノロウイルスを効率よく検出する検査法が確立されているとは言い難い現状にあるが、平成25年10月22日付け食安監発1022第1号で「ノロウイルスの検出法について」の一部改正がなされ、α-アミラーゼと特異抗体を用いた改良検出法が厚生労働省より通知されたところである。これまでの方法に比べると食品からの検出率の向上が期待され、疫学調査に寄与するところが大きくなるであろうが、まだ十分な方法ではなく、さらなる検出感度の高い研究開発が期待される。

図5.ノロウイルス食中毒の原因食品の経年変動(PDF:189KB)

5.摂食者数別発症率

図6に示したように、摂食者数1-10人の事例の発症率は90%超の事例が多く、同様に、摂食者数11-50人の事例の発症率は50%台から60%台、摂食者数51-100人の事例では30%台から50%台、摂食者数101-500人の事例では20%台から30%台、摂食者数500人以上の事例では20%以下が多い。摂食者数が多くなるに比例して、発症率が低下する傾向にある。換言すれば、調製する食数が少ないほど、ノロウイルス汚染が全体に行き渡りやすいことを示している。ノロウイルスは細菌と異なり食品中で増殖することはないので、調理従事者からのノロウイルス汚染が原因であることを如実に示している結果とも言える。

図6.摂食者数別発症率(PDF:245KB)

6.原因施設別1事例当たりの患者数

1事例当たりの患者数(中央値)が多い施設は仕出屋、旅館、製造所、病院および学校である(図7)。大規模食中毒ほど発症率が低下する傾向にあるが、大規模食中毒ほど患者数(実数)は多くなる傾向にある。仕出屋、旅館、製造所、病院および学校においては非常に多くの食数を一度に調理・提供するので、当然の結果であると言える。

図7.原因施設別1事例当たりの患者数(PDF:140KB)

7.ノロウイルス食中毒発生事例から見た発生原因と予防

「西尾治・古田太郎著 現代社会の脅威 ノロウイルス 感染症・食中毒事件が証すノロウイルス伝播の実態 幸書房 2008」1)に掲載された事例および事例報告2、3)から発生原因を抽出した。表1に示したように、①調理従事者の健康管理不備によるもの、②食品の取り扱い等衛生管理不備によるもの、③二枚貝の取り扱い不備によるものに大別される。①および②は調理従事者の関与した事例である。調理従事者が関与した事例では複数の調理従事者からノロウイルスが検出される事例が多い4、5)。ノロウイルスに不顕性感染した1名の調理従事者からトイレノブ等の複数が触れる場所を介して複数の調理従事者に蔓延した後、手洗い不足、素手での調理・食品調整・盛り付け、調理台・盛り付け台の汚染等の衛生管理不足により食品を二次汚染することでノロウイルス食中毒が発生していることが推察される。体調不良での調理従事は論外であるが、家族にノロウイルス感染者(下痢をしている者)がいる場合は症状がなくてもノロウイルスに不顕性感染している可能性が高くなる。症状を呈していない調理従事者においても多数のノロウイルスが糞便中に排泄されており6)、糞便中への排泄期間は平均21.9日であったとの報告がある7)。厚生労働省のノロウイルスに関するQ&A(http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuchu/
kanren/yobou/040204-1.html
)には「下痢等の症状がなくなっても、通常では1週間程度長いときには1ヶ月程度ウイルスの排泄が続くことがあるので、症状が改善した後も、しばらくの間は直接食品を取り扱う作業をさせないようにすべきです。」と記載されているが、大量調理施設衛生管理マニュアルに示されているように、高感度の検便検査によりノロウイルスを保有していないことが確認されるまでの間は食品に直接触れる調理作業を控えることが望ましい。また、用便後の手洗いは非常に重要であり、ハンドソープを用いた流水による手洗いを複数回繰り返すなどの十分な手洗いが必要となる8)。調理従事者の衣服の袖口からノロウイルスが検出された事例2)もあり、清潔な衣服を身に着けることも重要である。実験的にもトイレを起点としてノロウイルス汚染が拡大することが証明されている9)。トイレットペーパーで覆われていなかった拇指球および袖口がノロウイルスに汚染されるので、用便時には袖口を捲り上げ、用便後は前述のような十分な手洗いをすることが望ましい。一方で、人差し指~小指では5枚重ねた場合でも、中指および小指では10 枚重ねた場合でもウイルスが検出したとの実験結果10)もあり、十分な手洗いが重要であることを示している。さらに、冬季においては数%の調理従事者がノロウイルスを保有している11、12)ので、そのことを念頭に置いた衛生管理も必要である。ノロウイルスは低温の場合は非常に長期間生存している13)ので、調理台および盛り付け台などを洗浄により衛生的な状態に保つことも重要である。また、井戸水などの自家用水を用いる場合には水質検査により安全性の確認された水を使用する必要がある。
 カキなどの二枚貝が原因となった事例が全体に占める割合は過去に比較すると減少していると言われる。調理従事者から二次汚染を受けた食品による事例が多数を占めているためである。前述のごとく、二枚貝が食中毒の原因として占める割合は年により振幅の大きい年変動をしているが、平均的には10%前後である。カキには「生食用」と「加熱調理用などの加熱処理を必要とするもの」の用途区分がある。これは細菌を基準として区分されているものであり、ノロウイルスは基準に入っていない。生食用カキは清浄海域で養殖されたものあるいは人工浄化により清浄化されたものであるが、ノロウイルスが陰性であることを保証したものではない。しかし、清浄海域で養殖されたカキのノロウイルス保有のリスクはそれ以外の海域で養殖されたカキに比べ低減することは確かである。著者が過去行った解析では、清浄海域以外で養殖されたカキは清浄海域に比し、ノロウイルスの検出が6-7倍高いことを認めている。ノロウイルスを考慮した基準ではないが、用途区分を守ることはノロウイルス食中毒のリスク低減に一定の効果があると考えられる。カキは餌である植物プランクトンを捕食するときに、海水中に存在するノロウイルスを取り込み、中腸腺部分に蓄積する。ノロウイルスはカキ体内で増殖することはないが、細胞との接着反応(感染)に関与していると示唆されている血液型抗原の1つのA型抗原に似た抗原があり、中腸腺の消化細胞に結合していることが報告されている14-16)。また、ノロウイルスの型によっては鰓や外套膜の繊毛に結合(シアル酸を含む糖鎖)することも報告されている16)。これらのことはノロウイルスを人工浄化により減少させることができない理由かもしれない17)。ノロウイルスフリーのカキの生産技術を確立することは非常に困難であり、二枚貝によるノロウイルス食中毒減少のためには用途区分を守ること、加熱を必要とする場合は十分な加熱を行うこと、二次汚染予防のために調理器具等を明確に区別することが重要であろう。

表1.ノロウイルス食中毒発生事例から見た発生原因(PDF:54KB)

おわりに

ノロウイルス食中毒・感染症の減少が見られない原因は①ウイルス、それ自体の遺伝子変化等による集団免疫からの回避、②調理従事者の健康管理不備、③衛生知識の欠如、④食品の取り扱い不備、⑤人の食行動様式に関わる事項などであるが、これらが複雑に絡み合いノロウイルス食中毒を発生させているようである。改めてノロウイルス食中毒発生状況を観察すると、いくつかの特徴が見えてきたように思われる。平素よりノロウイルス食中毒の特徴・発生傾向などの知識を念頭に置きながら、関係者全員が一丸となってノロウイルス食中毒の予防・減少に努力することを期待するものである。

参考文献

1) 西尾治、古田太郎著:現代社会の脅威 ノロウイルス 感染症・食中毒事件が証すノロウイルス伝播の実態.幸書房、2008

2) 中沢春幸ほか:従事者衣服からノロウイルスを検出した集団食中毒事例について-長野県.病原微生物検出情報(IASR)、33(5)、137-138、2012

3) 古田敏彦ほか:浜松市内におけるノロウイルス集団食中毒事例.病原微生物検出情報(IASR)、35(7)、164-165、2014

4) 福田伸治ほか:ウイルス性食中毒の発生の特徴.日食微誌、20(4)、203-209、2003

5) 吉澄志磨ほか:ノロウイルスによる胃腸炎集団発生について-北海道、2009/10シーズン-.道衛研所報、60、61-65、2010

6) 森功次ほか:発症者および非発症者糞便中に排泄されるNorovirus遺伝子量の比較.感染症学雑誌、79(8)、521-526、2005

7) 林志直ほか:東京都内における非発症調理従事者のノロウイルス排泄期間.日食微誌、29(2)、108-113、2012

8) 森功次ほか:Norovirusの代替指標としてFeline Calicivirusを用いた手洗いによるウイルス除去効果の検討.感染症学雑誌、80(5)、496-500、2006

9) 高野穂高ほか:トイレを起点とするノロウイルス汚染拡大の検証.食品衛生研究、62(9)、33-35、2012

10) 東京都健康安全研究センター:「ノロウイルス対策緊急タスクフォース」最終報告書.2010(http://idsc.tokyo-eiken.go.jp/assets/diseases/gastro/noro_task/
final_report.pdf

11)柿島安博ほか:学校給食施設調理従事者便からのSRSV遺伝子の検出.日食微誌、16(3)、193-196、1999

12)Jeong AY et al.: Occurrence of norovirus infections in asymptomatic food handlars in South Korea. J. Clin. Microbiol.、 51(2)、 598-600、 2013

13)Doultree et al.: Inactivation of feline calicivirus、 a Norwalk virus surrogate. J. Host. Infect.、 41(1)、 51-57、 1999

14)山木紀彦ほか:in situ Hybridization法によるカキ消化盲嚢部の組織化学的ウイルス分布.日食微誌、23(1)、21-26、2006

15)Le Guyader et al.: Norwalk virus-specific binding to oyster digestive tissues. Emerg. Infect. Dis.、 12(6)、 931-936、 2006

16)Maalouf H et al.: Distribution in tissue and seasonal variation of norovirus genogroup I and II ligands in oysters. Appl. Environ. Microbiol.、 76(16)、 5621-5630、 2010

17)Ueki Y et al.: Persistence of caliciviruses in artificially contaminated oysters during depuration. Appl. Environ. Microbiol.、 73(17)、 5698-5701、 2007

略歴

福田伸治(フクダ シンジ)

昭和53年3月 日本大学農獣医学部獣医学科卒業
昭和53年4月 広島県技術吏員
平成24年4月 広島文教女子大学人間科学部人間栄養学科教授
平成27年4月 中国学園大学現代生活学部人間栄養学科教授

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