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![]() 行政OBの大学教員からみた今後のHACCPの対応
![]() 山口大学 共同獣医学部
教授 豊福肇 1.はじめに今更ではあるが、なぜ、HACCPが重要かというと、食品の国際規格であるコーデックス規格のなかに、食品衛生の一般原則(General Principle of Food Hygiene,以下、「GPFH」という。) (CAC/RCP 1-1969) および その付属文書: Hazard Analysis and Critical Control Point (HACCP) System and Guidelines for its Application (以下、「HACCP付属文書」という。) があること、コーデックス規格であるということは、世界貿易機構(WTO)加盟国は食品の規格を設定するときにはそれにあわせるか、少なくとも考慮にいれることが求められていること、さらにHACCPは1970年代はじめに米国FDAの低酸性缶詰の規則に取り入れてから, 全世界共通の食品安全管理システムとなり、多くの政府の食品コントロールシステム及び国際的な食品安全基準 (例えば, ISO 22000) のベースとなっているからである。 2.CodexのHACCPとは日本の管理運営基準のもとになったコーデックスのGPFHは次のような構成になっている。 Section I: 目的 このうち、Section V: 作業のコントロールには、「5.1食品ハザードのコントロール」という節があり、そこには「食品事業者は食品ハザードをHACCPのようなシステムの使用を通じてコントロールすべきである。それらは ・工程のなかで、食品の安全性上極めて重要(critical)なステップを特定し; ・それらのステップで効果的なコントロール手順を実施し ; ・それらのコントロール手順の継続的な効果を保証するため、それらをモニターし; さらに ・コントロール手順を定期的にレビューし, また作業に変更があった場合はその都度、製品及び工程デザインを通じ、製品の賞味期限を通じて食品衛生をコントロールするため、これらのシステムはフードチェーンを通じて適用すべき」と規定されている。 つまり、7原則の2(CCP設定)、4(モニタリング)、6(検証)はGPFHに既に規定されており、3のCLとは書いてはないが、CCPのコントロール手順を規定することは規定されている。また、文書化が適切な場合もあるとしている。そして、そのような食品安全システムのモデルは“Hazard Analysis and Critical Control Point (HACCP) システム及び適用のガイドライン(HACCP付属文書) に記述されているとしている。 3.厚生労働省「食品衛生管理運営基準」改正の背景HACCPとははっきり書いていないが、HACCPの考え方にもとづく総合衛生管理製造過程(以下「マル総」という。)を食品衛生法に導入したのは20年前の平成7年(1995年)である。当時は食品衛生法にHACCPを入れることが最優先で、その一方で、新たな衛生規制を導入することは社会情勢的に厳しく、衛生規制法である食品衛生法としてはめずらしく、規制緩和の枠組みとしてHACCP(マル総)が導入された。マル総は製造基準が規定された食品であっても、HACCPによる衛生管理を行えば、画一的な製造方法によらずに、ハザードさえ適切に管理できれば、多様な方法で製造することを認めるという任意の手揚げ方式のスキームであった。また、従来の製造方法のままでも、マル総の承認を得られるというものであった。最初に乳・乳製品及び食肉製品から承認がはじまった。承認にはHACCPの7手順の文書化、実施と記録はもちろん、10項目のHACCP実施の前提となるプログラムの文書化と記録も求めた。当時の厚生省による現地査察を行って実施状況を確認のうえ承認した。また承認の仕組みは同じように任意のHACCP承認システムを持っていたカナダ食品検査庁(CFIA)のFood Safety Enhancement Programを参考にした。 4.HACCP先進国に学ぶ1でHACCPは世界中で実施されているのでから、さっさとやりなさいと書いた。HACCP7原則による予防的な食品安全アプローチは使用者にとって効果的であることは世界的に認識されているが、HACCPのいくつかの部分を正しく理解し、かつ実務的に実施することは困難であることも示されている。これは、すべてのHACCP7原則の実務的適用について適切な技術的な支援がしばしば欠けている小規模及びあまり発展していない事業者( small and less developed businesses (以下、「SLDB」という。) ) 及び途上国において、特に顕著である。これはSLDBにおいてHACCPを適用させるためのFAO/WHOのガイダンス(Guidance to governments on the application of HACCP in small and less developed business)でも指摘されている。本書は政府に対するHACCP普及に向けての鍵となる文書であり、食品事業者によるHACCPの実施を促進するために戦略を作成する上で、政府が実施できる手法の概要を示したものである。国または特定の業界によって実施された成功したアプローチなどについて、記載されている。本書は事業内部の課題、そのなかでも、興味深い従事者関連の課題の心理的要因をみてみると、このなかで、自己効力感の欠如、惰性(以前の慣習に打ち勝つ能力)、HACCP なしでも安全な食品を製造できている根拠ない自信が指摘されている。また、不適切な支援環境による課題のなかで、消費者の認識として、消費者は変化への非常に強いドライバーに成り得る一方、消費者が根本的な食品安全の重要性を認識していない場合にはSLDBがHACCP実施に向かうことはまずないとも指摘している。 ■業界団体その他の業界グループからのサポートがない限り、システム開発途中において、それなりの費用負担はある ■効果を検証する必要あり ■標準化されたと思われるプロセスのわずかなバリエーションによって、もたらされるすべてのハザードを予測するのは困難、従って常に細心の注意と更新が必要 ■適用するために必要とされる技術的な知識の要素 ■多くの小規模事業者は HACCPは複雑で官僚的とみなしている ■知識及び適切なトレーニングの不足 ■多くの小規模事業者はHACCPを知らずにいる、または、営業者はHACCPに基づき、効果的なコントロールを導入し、維持するための手順について、十分な知識が欠けている ■従業員の入れ替わりの激しさ等のため、継続的なトレーニングコスト高は導入の妨げになりうる HACCP and ISO 22000 - Application to Foods of Animal Origin このように、世界各国でHACCP導入が困難なことが指摘されている。このような導入の障害を乗り越えるため、各国政府は種々の取り組みをしている。例えばEUでは業界団体に、Generic HACCPモデルを作成させ、それを政府が承認し、営業者にはこのモデルを、最悪そのまま実施するか、またはこのモデルをベースに始め、徐々に自分の工程やラインに合わせ修正することをしている。2014年にフィンランドで行われたHACCP付属文書の見直しを始めるかの検討会議においても、ハザード分析は施設ごと、工程ごとにかわってくるが、標準化された工程であれば共通する部分もあり、それは政府や業界団体が代行しても良いのではないかという指摘もあった。 5.HACCPの今後‐食品事業者が目指すべき食品安全管理システムとは一言で言うと、コーデックスのHACCPの定義である、「食品安全のため顕著なハザードを特定し、評価し、かつコントロールするシステム」が事業者が目指すシステムである。すなわち ■HACCPの必要性、ベネフィット、メリットの理解を事業者、消費者、流通業界に広める ■HACCP指導者(コンサルタント)の育成、標準化 ■従事者教育用ソフトの開発(例、国税庁の年末調整のホームページのように数字や言葉を打ちこむことにより最終的にHACCPプランができあがるようなソフトの開発) ■活用しやすい一般的HACCPプラン、各種食品カテゴリーごとに代表的なハザードとそのコントロールの方法をまとめたガイドの作成 ■飲食店向けビジュアル重視のチェックリストの作成と試行 略歴豊福 肇(トヨフク ハジメ) サナテックメールマガジンへのご意見・ご感想を〈e-magazine@mac.or.jp〉までお寄せください。 |
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