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リステリア属菌について
一般財団法人 食品分析開発センターSUNATEC
微生物検査室 稲垣暢哉

6月になりました。今年も梅雨の時期到来です。食品に携わる方にとっては、カビの発生や細菌による食中毒の対策など頭を悩ませることもあるのではないでしょうか。
 これまで、2008年5月号〜2009年3月号、及び2013年7月号〜2013年12月号と2回のシリーズにわたって微生物検査の豆知識を連載しました。今回は、その中で解説出来なかったリステリア属菌について解説します。
 また、リステリア属菌は、2014年11月に厚生労働省通知により新しい検査法が示されました(非加熱食肉製品およびナチュラルチーズが対象)。今回は、最新の情報も含め解説します。

リステリア属菌とは?

リステリア属菌は、グラム陽性短桿菌、通性嫌気性の細菌です。また、非芽胞形成菌です。芽胞形成とは、2013年8月号にて述べましたが、高温、凍結、乾燥、酸、アルカリ、紫外線、放射線、殺菌剤等のストレスに対して強い抵抗性を持つ胞子(=芽胞)を形成することであり、リステリア属菌はこの芽胞を形成しないということになります。その他にも、耐熱性はそこまで高くなく、70℃数分の加熱で死滅しますが、0℃でも増殖し、酸にも強く、6%の食塩にも耐性を持つ特徴があります。
 リステリア属菌は、現在15種類存在していることが知られています。その中でもヒトに病原性を示すのは、リステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)のみです。したがって、リステリア属菌が存在していた場合でも、リステリア・モノサイトゲネスが存在しているかが問題となります。
 リステリア症は、潜伏期間が1日〜数週間と幅があります。症状は発熱、筋肉痛、悪寒のインフルエンザ様症状や重症化すると敗血症や髄膜炎に至ります。感染を受けやすいのは、妊婦や胎児、乳幼児、高齢者です。

食品とリステリア属菌

リステリア症の発生例は、サルモネラ属菌、黄色ブドウ球菌を原因とするものに比べて少ないです。しかし、死亡率が極めて高いため注意が必要です。リステリア症は、乳製品、食肉製品、サラダなど、加熱しないでそのまま食べる食品や調理済み食品(ready-to-eat食品)で多く発生しています。これは、先に述べたリステリア属菌の特徴によるものと考えられます。
 リステリア属菌による食中毒事例としては、1981年にカナダで発生したキャベツコールスローが原因と考えられた集団食中毒が最初の報告です。その後、ソフトチーズ、サラダ、肉製品などで報告があります。

検査目的

国内でのリステリア症は、欧米に比べて少ないと言われています。しかし、食品のリステリア属菌による汚染は欧米とほぼ同等であるという報告もあります。つまり、今後国内でも欧米のように食品によるリステリア症が発生する可能性を否定できないことになります。したがって、乳製品、食肉製品、サラダなど、ready-to-eat食品を中心として、リステリア属菌の検査を行うことは、重要であると考えられます。

検査方法

今回は、昨年末に施行となった、非加熱食肉製品およびナチュラルチーズ(ソフトおよびセミハード)を対象とした通知である、リステリア・モノサイトゲネスの検査について(平成26年11月28日食安発1128第2号、平成26年12月25日食安発1225第1号)の検査方法の概略を説明します。この検査は、対象となる食品検体1g当たりのリステリア・モノサイトゲネスの生菌数をn=5で定量試験を行い評価する本試験と、検体量25g当たりの定量試験と定性試験を併用することで評価する予備試験とに分けられます。今回は、この中の本試験について説明します。
 検体Xgに9倍量のBPW(Buffered peptone water)を加えて、20±2℃で1時間±5分間静置培養します。培養後の培養液1mlを、よく乾燥させた3枚の選択分離培地に分けて塗抹します。必要に応じて、10倍段階希釈を繰り返し同様に塗抹します。選択分離培地には、Ottaviani and Agosti リステリア寒天培地または同等である他の酵素基質培地を使用します。培養液が寒天培地に吸収されるまで、15分程度放置し、37℃で24〜48±3時間培養します。培養後、3枚の培地上の定形集落の合計数を算出します。それらの中から、5個の集落を釣菌、TSYEA寒天培地に画線塗抹し、37℃で18〜24時間培養します。発育した集落について、リステリア属菌の確認試験としてグラム染色、カタラーゼ試験、また、必要に応じてヘンリー斜光試験、運動試験を行います。リステリア・モノサイトゲネスの確認試験として、炭水化物分解試験、CAMP試験を行います。これらの結果から、以下の式にてリステリア・モノサイトゲネスの菌数を算出します。

a = b / A × C × D

a:リステリア・モノサイトゲネスの検体 1gあたりの菌数
b:確認試験でリステリア・モノサイトゲネスと確認された集落数
A:確認試験として釣菌した集落数
C:3枚の選択分離培地上の定形的集落数の合計
D:希釈倍率


写真 リステリア・モノサイトゲネス培養写真

結果の解釈

昨年末より施行となった通知では、非加熱食肉製品およびナチュラルチーズ(ソフトおよびセミハード)において、成分規格は100cfu/g以下が基準となっています。この他の食品についても、リステリア属菌が低温増殖性をもつ細菌であることから、増殖する可能性がある食品の場合、検出せず、増殖する可能性の低い食品の場合は、100cfu/g以下と設定するとわかりやすいのではないでしょうか。

参考文献

食品衛生検査指針 微生物編 2015 (公益社団法人 日本食品衛生協会)
食品衛生小六法 平成27年度  (食品衛生研究会 編集)
食品安全ハンドブック  (食品安全ハンドブック編集委員会 編)
現場で役立つ 食品微生物Q&A  (小久保彌太郎 編)
食品微生物の科学  (清水潮 著 幸書房)
厚生労働省通知
リステリア検査について 食安発1128第2号 平成26年11月28日
 http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11130500-Shokuhinanzenbu/0000067540.pdf
乳及び乳製品の成分規格等に関する省令及び食品、添加物等の規格基準の一部を改正する件について  食安発1225第1号 平成26年12月25日
 http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11130500-Shokuhinanzenbu/0000070321.pdf

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