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食品用器具・容器包装の試験検査について
元・東京都健康安全研究センター
食品添加物研究科 容器包装研究室
金子令子

はじめに

食器、調理器具及び包装材は食品と直接接触するため、含まれている化学物質等が溶け出すおそれがあり、それにより食品が汚染されないよう配慮する必要がある。我が国では食品衛生法第16条により有害な物質が含まれ人の健康を損なうおそれがある器具・容器包装を製造販売してはならないとされ、18条により器具及び容器包装の規格基準が定められている。また、おもちゃは乳幼児がなめたり飲み込むことを想定し、含まれている有害物質を摂取して健康を損なうことのないよう規格基準が定められている1)

1.溶出試験と材質試験

規格には安全性を確認するための試験として溶出試験と材質試験がある。溶出試験は試料から溶け出す化学物質、材質試験は試料中に含まれている化学物質を測定するものである。食品用器具・容器包装は食品に接触する全てのもの、おもちゃは6才未満の乳幼児が使用するものが規格の対象である。容器やおもちゃの材質、種類によりその原料や添加剤など溶出する化学物質が異なるため、それぞれの規格が定められている。
 器具・容器包装の溶出試験では食品の代わりとなる溶媒が使用される。食品は種類が多く様々な成分から成っており実際の食品を用いると分析法が複雑になり定量限界も高くなるなどの困難があるためである。そこで食品の性質を大きく分けて、それを代表する溶媒(食品疑似溶媒)を用い、試験操作を簡便化するとともに検出値を比較できるものにしている。pH5以上の食品は水、pH5以下の酸性食品は4%酢酸(食酢の酸濃度)、酒類は20%エタノール、油脂及び脂肪性食品(脂肪分20%以上)は油脂と似た溶出傾向を示すヘプタンを用いる。しかしへプタンは溶出力が強く必ずしも油脂及び脂肪性食品の溶出傾向を反映していないことから、オリーブ油などの植物性油脂を用いる方法が厚生労働科学研究において検討されている。試料にこれら食品擬似溶媒を満たし一定時間放置し試験溶液を得る。溶出条件は使用実態や溶媒の溶出強度を考慮している。
 材質試験では材質中に含まれている化学物質を測定する。試料を灰化、溶解、抽出などの前処理操作を行い目的物質を含む試験溶液を得る。
 得られた試験溶液中の化学物質を誘導結合プラズマ発光分光光度計(ICP)、原子吸光光度計(原子吸光)、ガスクロマトグラフ(GC)、ガスクロマトグラフ・質量分析計(GC/MS)、高速液体クロマトグラフ(HPLC)等の機器を用い、あるいは比色、滴定などの方法により測定する。

2.器具・容器包装の規制

(1)ガラス、陶磁器、ホウロウ製品

陶磁器及びホウロウ製品には釉薬うわぐすりや着色するための顔料などが使用される。顔料として、安価で鮮やかな色のクロム酸鉛(黄色)、硫化カドミウム(黄色)、セレン化カドミウム(赤色)などが使用される場合があり、これらには有害金属である鉛(Pb)やカドミウム(Cd)が含まれている。製造の際の焼成温度が低い製品では、Pb、Cdが溶出する可能性がある。ガラス製品ではPbを添加すると輝きのよいガラスができるため、高級クリスタルガラスにPbが添加されている。
 規格は溶出試験のみであり、規制されているのはPb及びCdである。金属類が溶出しやすい酸性の食品擬似溶媒である4%酢酸を試料に満たし、暗所に常温(15〜25℃)で24時間放置して、得られた試験溶液中のPb及びCdを測定する。レンゲなどのように満たすことのできない試料は全体を浸し、検出値は面積あたりの量で示される。規格値は製品の形状及び容量、材質及び加熱用調理器具であるかにより異なっている。材質(ガラス、陶磁器、ホウロウ)により化学物質の溶出しやすさが異なったり、加熱用調理器具は高温になるため溶出しやすいなどの理由による。容量の大きい器では小さい器と比較して表面積に対する試験溶液量が多く、溶出したPb及びCdが薄められて濃度が下がるため、規格値は低く設定されている。またPb及びCdを含む顔料がふち部分に使用されている可能性があるため、溶出液はできる限り試料のふちギリギリまで満たす必要がある。2006年、中国製土鍋に1日約4時間、2日間にわたって水を入れ沸騰させたところ鉛がふち部分から検出された。しかし規格の溶出条件と異なるため、違反ではなく自主回収された例がある。

(2)プラスチック製品

@プラスチックからの溶出物
 プラスチックは軽く壊れにくく安価である。また2種以上のフィルムを貼り合わせ多層化することによりそれぞれの特質が付与された多機能フィルム(ラミネートフィルム)を使用することにより保存や輸送に適した利便性のよい包装材を作ることができるため、現在の生活に欠かすことができないものとなっている。プラスチック製品は、石油を原料とする最小単位の化合物(モノマー)を数万〜数十万個重合した高分子(ポリマー)に様々な添加剤を加え、目的に合うように成形されたものである。添加剤には、熱や光によって劣化してもろくなることを防ぐ安定剤、柔軟性や耐熱性などの性質をもたせる改質剤など様々なものがあり、プラスチックの性能を向上させるために必要不可欠である。ポリマーは摂取しても、分子量が大きいため吸収されずに排泄される。しかしプラスチック製品には添加剤、未反応の原料モノマー、触媒、反応副生成物、不純物、分解物が存在する。これらは分子量が小さいため、食品に溶出し摂取される可能性がある。そのため規格試験により溶出される有害物質の種類や量が規制されている。また溶出物はできる限り少ないことが望ましいことから溶出物の総量の規制がある。試験は目的の化学物質が溶出しやすい食品疑似溶媒を接触面積1cm2当たり2mlの割合で容器に満たし、60℃に保ちながら30分間(ヘプタンのみ25℃に保ちながら1時間)、100℃を超えて使用されるものは95℃30分放置したものを用いて行う。温度の安定のためには、空気恒温槽より水浴が望ましいとされている。試料の片面だけが食品接触面である場合は片面抽出器を使用する。容量や形態に様々な種類があるので適当なものを使用すると簡便である。
 材質試験の目的は、材質中の化学物質量を規制することにより食品への溶出量を抑制することである。プラスチックには一般規格と個別規格があり、以下に示す。

プラスチックの一般規格

A一般規格
 全ての食品用プラスチックが対象であり、表1のように材質試験1項目と溶出試験2項目がある。
 材質試験ではPb及びCd含有量を100 μg/g以下に規制しており、Pb及びCd化合物を使用した非食品用のプラスチックが食品用に誤用されることを防止することを目的としている。しかし現在では、Pb及びCd化合物が着色料に使用され不適合となる場合が多い。試験は、試料を乾式灰化した後、硝酸溶液に溶解し原子吸光やICPで測定する。試験操作はまず灰化時に高熱によるPbの揮散を防ぐため硫酸を加えて硫酸塩とする。その後塩酸に溶解し乾固後に硝酸に溶解する。試料中にバリウムが含有されている場合難溶性の硫酸バリウムが生成し、硫酸鉛と結晶構造が類似していることから硫酸鉛が結晶に取り込まれる形で吸着され硝酸に溶けにくくなる。しかし塩酸を加えることにより塩化鉛となり結晶構造が変化することから、硫酸バリウムから遊離し、Pbが溶解する。多量のカルシウム(10mg/g以上)が含有されている試料もPbが溶解しにくい現象が起こるが塩酸を加えることにより解消する2)。しかし数千μg/gのバリウムが含有されている場合、Pb回収率が50%以下になることから、硫酸を使用しないマイクロウェーブ分解による測定法が検討されている3)。またスクリーニングとして蛍光X線分析装置により材質中100μg/g以上のPb及びCd含有の有無を確認することが可能である。溶出試験では重金属と過マンガン酸カリウム消費量が規制されている。重金属の試験には食品擬似溶媒のうち金属が溶出しやすい4%酢酸を用いている。銅、スズ、ヒ素などもPbとみなし、1μg/ml以下という規格になっている。過マンガン酸カリウム消費量の試験は、水を用いて行う。過マンガン酸カリウムは有機化合物を酸化する性質を持ち、溶出した有機化合物の量に比例して消費量が増加する。従って過マンガン酸カリウム消費量の値は、有機化合物の溶出総量の指標とされる。 溶出の可能性がある添加剤には多くの種類があり、それぞれを同定し測定することは難しいことから、総量として10μg/ml以下という規格になっている。また過マンガン酸カリウム消費量は必ずしも有機物量を反映していないとして全有機炭素量(TOC)による検討の報告がある4)

プラスチックの個別規格

B個別規格
 材質によりそれぞれ特有な化学物質が溶出する可能性があるため、プラスチックの種類別に定められている規格である。現在、食品に使用されることの多い16種に個別規格がある。蒸発残留物量(主に30μg/ml以下)は16種すべてに定められており、溶出される不揮発性溶出物(無機物質が多い)の総量の指標とされる。この溶出に用いる食品擬似溶媒は使用実態に即したものを使用する。溶媒の蒸発に水浴ではなくホットプレートを使用する場合は100℃以上にならないよう注意が必要である。その他表2のように、16種それぞれに有害な原料モノマー及び添加剤が規制されている。
 ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリメチルペンテン(PMP)、ポリビニルアルコール(PVA)の個別規格は蒸発残留物量のみである。PEは柔軟な性質を利用し弁当用小分け調味料容器、保存容器のふたなどに使用されているが、耐熱温度が70〜90℃と低いため、電子レンジ加熱により変形する。PPは耐熱温度が120〜150℃と比較的高く、スーパーなどで弁当や惣菜の電子レンジ可能な容器に使われている。炭酸カルシウムやタルクなどの充てん剤を添加してさらに耐熱性を高めたものもある。PMPは耐熱性が高く(融点240℃)、電子レンジ用容器、コーヒーメーカーなどに使用される。PVAはエチレンとの共重合体であるエチレンビニルアルコールポリマーフィルムとして使用されることが多い。酸素バリア性があるためレトルト食品用包装材などのラミネートフィルムの中間部分に使用され食品接触部分ではないことが多い5)
 フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂は、原料モノマーのフェノール(5μg/ml以下)とホルムアルデヒド(陰性:4μg/mlの溶液を水蒸気蒸留して試験を行った時NDとなるため4μg/ml以下が陰性とされている)が溶出試験として規制されている。 メラミン樹脂はちゃわん、皿などの食器、フェノール樹脂は汁椀の素地(表面ウレタン樹脂塗装が多い)に使用され、ユリア樹脂は食品用途に使用されることは少ない。メラミン樹脂製品は電子レンジで加熱すると樹脂が劣化して分解し、ホルムアルデヒドの溶出量が増加する。そのため電子レンジで加熱をしないよう注意書きがある場合が多い。
 ポリ塩化ビニル(PVC)は、材質試験として原料モノマーの塩化ビニル(1μg/g以下)、安定剤ジブチルスズ化合物(50μg/g以下)、可塑剤クレゾールリン酸エステル(1mg/g以下)が規制されている。PVCは密着性がよいためスーパーなど業務用ラップフィルムに使われており、柔らかくするための可塑剤を多量(5〜25%)に使用している。原材料一般の規格により油脂性食品に接触するPVCから可塑剤のフタル酸ビス(2-エチルヘキシル)が溶出してはならないと定められている。PVCは密着性がよいためスーパーなど業務用ラップフィルムに使われている。PVCのラップフィルムは焼却時にダイオキシンが発生する可能性があることから、最近では業務用にエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)が使用されている6)。また可塑剤の入っていないPE、耐熱性の高いPMP、PE/ナイロン、PE/PPのように耐熱性の材質をラミネートしたラップフィルムなども市販されている。
 ポリ塩化ビニリデン(PVDC)は家庭用のラップフィルムに使われている。材質試験として、原料モノマーの塩化ビニリデン(6μg/g以下)及び安定剤のバリウム(100 μg/g以下)が規制されている。 PVDCは酸素と水蒸気に優れたバリア性を持ち酸化による食品の変質、湿気、移り香等を防ぐため、家庭用のラップフィルムに使われているが、密着性はPVCに劣る。PVDCにも油脂に溶けやすい可塑剤がPVC同様添加されており、脂肪分の多い食品に直接接触させて電子レンジで加熱すると食品に移行する可能性があるため、注意書きがある。ラミネートフィルムからの溶出については、実際の製品と同じ仕様で作成されたフィルムの接着剤成分であるイソシアネートモノマー及び分解物のアミン類の溶出量を測定した結果、欧州の限度値の1/30以下と微量であったという報告がある7)
 ポリスチレン(PS)は使い捨て容器(惣菜、弁当)、カップめん容器、コップ等の日用品などに広く使われている。原料モノマーのスチレンを含む揮発性物質(トルエン、エチルベンゼン、i-プロピルベンゼン、n-プロピルベンゼンとの総量5mg/g以下)が材質試験として規制されており、これらが多量に含まれていると異臭がする場合がある。カップめんのように熱湯を入れて使用される発泡PSの揮発性物質は、規格値がさらに低く抑えられている(総量2 mg/g以下)。試験は、試料をテトラヒドロフラン(THF)に溶解してGC-FID法により測定する。 THFは古くなると妨害ピークが出るため、ないことを確認する。スチレン系熱可塑エラストマー及びシンジオタクチック・ポリスチレン等、THFに溶解しない場合は、ジクロロベンゼンを溶媒に用いたヘッドスペース法が規定されている。
 ポリカーボネート(PC)は、耐熱耐寒性が高い樹脂である。子供用ちゃわんから規格値以上のビスフェノールAが検出されたことがあり、着色のため添加されている酸化チタンがPCを劣化させ、分解してビスフェノールAを生成したものと報告されている。製造者は酸化チタンのような金属化合物を配合する場合は劣化を防ぐ安定剤を添加する必要がある8)。PCはかつて哺乳瓶、保存容器、給食用食器などに多用されていたが、ビスフェノールAに内分泌かく乱作用の可能性があるとして、現在はわずかな輸入品を除き市販品はほとんど流通していない。原料モノマーのビスフェノールA(フェノール及びp-tert-ブチルフェノールとの総量)は、材質試験500 μg/g以下、溶出試験2.5 μg/ml以下となっている。溶出試験値(2.5 μg/ml以下)は、各種毒性試験から求められたもので、内分泌かく乱物質を想定したものではない。他に材質試験としてジフェニルカーボネート(500μg/g以下)、アミン類(トリエチルアミン及びトリブチルアミン,合計1 μg/g以下)が規制されている。
 ポリエチレンテレフタレート(PET)は、軽量で衝撃に強い樹脂である。 PETは飲料用ボトル、トレイ、パック、複合フィルムなど広く使用されている。中でも飲料用ボトルは広くリサイクルされており、ほとんどは衣料になるが、試験的に食品用ボトルにもなっている。PETボトルを化学分解して原料樹脂モノマーにし、再重合して作られた飲料ボトルが市場に少量流通している。これらは規格試験、食品安全委員会による食品健康影響評価、ポリオレフィン等衛生協議会の自主規格及びPETボトルリサイクル推進協議会推奨プロトコールによる毒性試験確認に適合している。また海外ではプラスチック原料の石油が尽きることを危惧し、トウモロコシやサトウキビなど植物由来の飲料ボトルの研究開発が進められている9)
 透明度の高い製品を製造するための触媒として使用されるアンチモン(0.05 μg/ml以下)とゲルマニウム(0.1μg/ml以下)が溶出試験(4%酢酸)として規制されている。ICP-MSはそのままで検出できるが、ICPではアンチモンの規制値を検出するために濃縮を必要とする場合がある。輸入品はアンチモン、国産品はゲルマニウムを使用していることが多い10)
 ポリメタクリル酸メチルは、原料モノマーのメタクリル酸メチル(15μg/ml以下)が溶出試験(20%エタノール)として規制されている。透明性が高くガラスに近い質感があり、しょうゆ差しなどの食卓用品に使用される。
 ナイロンは、機械的強度が優れているためレトルト食品などのラミネートフィルムの外側及び耐熱性が高いためおたま、フライ返しなどの調理器具及びレトルト用食品包材に使用される。ポリアミドともよばれアミド結合(-CONH-)の繰り返しにより構成されている高分子の総称である。ナイロン6の原料であるカプロラクタム(15μg/ml以下)が溶出試験(20%エタノール)として規制されている。ナイロン6とともにナイロン66もよく使用される樹脂である。原料モノマーはヘキサメチレンジアミンとアジピン酸であるが、微量のカプロラクタムも含有しており、2006年市販の21試料から20%エタノールにカプロラクタム4.8〜38 μg/mlが溶出したとの報告がある 11)。ナイロンは他のプラスチックに比較して有機物が溶出しやすく、有機物総量や蒸発残留物量が多いという報告がある4,12)
 ポリ乳酸は、総乳酸(30μg/ml以下)が溶出試験(水)として、規制されている。総乳酸は乳酸と、ラクチド及びオリゴマーをアルカリ分解により乳酸としたものの総量である。生分解性プラスチックであるため、使い捨て容器に今後使用が増える可能性がある。市販のポリ乳酸製食品容器7試料を試験した結果、すべてが規格に適合し、変異原性試験も陰性であったという報告がある13)

(3)ゴム製品

ゴム製品にはプラスチックと同様に酸化防止剤などの添加剤の他、生ゴムに弾性と強度を付加するために加えられる加硫剤、その反応を加速する加硫促進剤も加えられている。これらの溶出を低く抑えるため、溶出試験として蒸発残留物(60 μg/ml以下)、重金属(4%酢酸溶出、1μg/ml以下)、加硫促進剤由来のホルムアルデヒド(水溶出、陰性)、酸化防止剤の分解物であるフェノール(水溶出、5μg/ml以下)、加硫剤由来の亜鉛(4%酢酸溶出、15 μg/ml以下)、材質試験として添加剤不純物のCd、Pb(各100μg/g以下)が規制されている。Cd、Pbの試験方法はプラスチックと同様、硫酸灰化法である。しかしシリコンゴムでは分解操作中に生成する二酸化ケイ素にCd およびPb が吸着され回収率が20% 以下となる場合があるためアルカリ溶融法により測定する。また塩素を含むゴムには、材質試験として加硫促進剤2-メルカプトイミダゾリンが発ガン物質であるとして規制されている。試験法が2013年よりTLC法から定量性のあるHPLC法に変わっている14)。ほ乳器具は、蒸発残留物(40 μg/ml以下)、亜鉛(1 μg/ml以下)、Cd及びPb(材質中各10 μg/g以下)と規格値が厳しくなっている。

(4)金属缶

金属缶の材料はブリキ(スズめっき鉄)、TFS(スズを含有しないクロムを用いた鉄)、アルミニウム等が用いられ、これらから溶出する可能性のあるヒ素(0.2μg/ml以下)、Pb(0.4 μg/ml以下)及びCd(0.1μg/ml以下)が溶出試験(水または0.5%クエン酸)として規制されている。プラスチックではpH5以下の酸性食品の擬似溶媒は4%酢酸であるが、缶では酸性の内容物が果物であることが多いため0.5%クエン酸を用いている。缶の内面は金属の腐食防止や内容物の品質保護のため塗装されている場合が多くエポキシ樹脂系、フェノール樹脂系、ポリ塩化ビニル系などのコーティングが用いられている。これらからの溶出物を低く抑えるため、蒸発残留物(30μg/ml以下)、原料のフェノール(水溶出、5μg/ml以下)、ホルムアルデヒド(水溶出、陰性)、塩化ビニル(エタノール溶出、0.05μg/ml以下)、エピクロルヒドリン(ペンタン溶出、0.5μg/ml以下)が規制されている。またエポキシ樹脂系のコーティングから内分泌かく乱物質の疑いのあるビスフェノールAが溶出する可能性があるとして、缶内面にポリエチレンテレフタレートフィルムを貼り合わせた缶も作られている。我が国の2011〜2012年市販の缶詰食品中のビスフェノールA含有量調査で1990年代後半より大幅に低減していることが報告されている15)。また果物缶に多く用いられているブリキ缶内面の塗装は、ふたと底部のみで缶胴部は未塗装のものがほとんどである。これはめっきされたスズが果物の酸と作用して、果物の色や香りを保つためである。

(5)割りばし

1994年中国製割りばしからオルトフェニルフェノールが検出されたことがきっかけとなり規制が行われた。割りばしは防かび剤(オルトフェニルフェノール、チアベンダゾール、ジフェニル、イマザリル)と漂白剤(二酸化硫黄または亜硫酸塩)が規制されている。規格は割りばし1膳あたり防かび剤4種は不検出(20%エタノール溶出)、二酸化硫黄は4mg以下(水溶出)である。竹はかびやすい材質のため、中国から運搬する間にかびないよう、漂白や防かびのため二酸化硫黄によるくん蒸や煮沸が行われる。

(6)着色料

原材料一般の規格により、食品衛生法で許可されてない着色料が食品用器具・容器包装から溶出してはならないと定められている。蛍光染料の溶出条件はpH7.5〜9のアンモニア微アルカリ性水溶液を用い室温10分間放置である。他の着色料の試験法は示されていないが、各食品擬似溶媒を用いなるべく使用実態に近い温度や時間で溶出し、着色が確認された場合TLCで許可色素であるかどうかを確認しHPLCやHPLC/MSで同定する。

(7)おもちゃ

おもちゃは食品衛生法施行規則第78条に規定されたものが対象である。乳幼児がなめたり飲み込んだ場合に健康を損なうおそれがあることを想定しているため、6才以下が使用するものとしている。おもちゃの溶出試験では唾液の擬似溶媒として水が使用され、浸出温度は体温に近い40℃、浸出時間は30分間である。検査項目は重金属(1μg/ml以下)、ヒ素(0.1μg/ml以下)、過マンガン酸カリウム消費量(50 μg/ml以下)、蒸発残留物量(50μg/ml以下)である。おもちゃ塗膜及び金属製アクセサリー玩具の抽出条件では飲み込んだ場合を想定しており、溶媒は胃酸pHと同程度のpHの0.07mol/l塩酸、温度は体温と同程度の37 ℃、消化時間を考慮して2時間抽出である。規格は、おもちゃ塗膜ではCd(75μg/g以下)、Pb(90μg/g以下)、ヒ素(25μg/g以下)であり、金属製アクセサリー玩具ではPb(90μg/g以下)である。金属にPbやCdを加えると柔らかく加工しやすくなるため加えられることがある。また内分泌かく乱作用のおそれがある可塑剤5種(フタル酸ジ−n−ブチル、フタル酸ビス(2-エチルヘキシル)、フタル酸ベンジルブチル、フタル酸ジイソデシル、フタル酸ジ−n−オクチル)は各0.1 %以下、フタル酸ジイソノニルは使用してはならないとされている。おもちゃも食品衛生法で許可されていない着色料が溶出してはならないと定められており、溶出条件は水、40℃、10分である。

3.プラスチック製品の材質の判別

材質により適用すべき個別規格が異なるため、材質鑑別を行う。対象は食品接触面である。通常測定時間の短いフーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)を用い、1回反射ATR装置を使用するとフィルム片面や微小な試料でも前処理なしに測定できるため簡便である。
 FT-IRで判別が困難な場合は、熱分解GCを用いる。ポリエステル(例 ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート)は多くの種類があるが、いずれもジカルボン酸とポリアルコールとの重縮合体であり分子構造が類似しているためFT-IRスペクトルでは判別が難しい。しかし、熱分解GCでは試料が熱分解するためポリアルコールの違いにより検出されるピークが異なり明確に判別できる。同様に分子構造が似ている各種ナイロン(例 ナイロン6、ナイロン66)も、熱分解して原料モノマーや特徴的な生成物が検出されるため種類の判別可能である。またゴムは添加剤が多く、その妨害によりFT-IRでは判別が困難な場合がある。しかし熱分解GCは、高温でゴムが分解しモノマー等が生成し、材質特有の生成物がピークとして現れるため鑑別が容易である。
 また塩素の有無を確認できるバイルシュタイン反応も推定に有用である。銅線をバーナーで加熱し試料を付着させ再び加熱したとき塩素が存在すれば緑色の炎色反応を示す。
 ほとんどの食品用プラスチック製品の材質は、ラベル、包装されている袋に、または製品への直接印刷や刻印などで表示されている。
 食器や台所製品などの器具は、家庭用品品質表示法により消費者保護を目的として、原料樹脂、耐熱温度、耐冷温度、取り扱い上の注意などの表示が義務づけられている。

表示例

〈表示例〉
家庭用品品質表示法ホームページより引用

また使い捨て製品などの材質は、容器包装リサイクル法によりリサイクルマークのみの場合もあるがマークの下に記号で示されていることもある。これは、容器包装のリサイクルの促進を目指し、事業者が材質を識別マークにより表示することにより、消費者の分別排出を促進するためのものである。複合材質の場合、主要な材質の記号に下線をつけて表示している。従って必ずしも先頭下線のものが食品接触面の材質とはいえない。

単一材質と複合材質

経済産業省ホームページより引用

食品衛生法では2種類以上のモノマーで重合された共重合体の場合、基ポリマー中の含量率が50%以上の材質の規格を行うとしている。しかし食品衛生法には各共重合体の含有量測定法が記載されていないため、メーカーに問い合わせるか測定法を検討する必要がある。例えば、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)はポリエチレン(PE)より軟らかく開閉しやすいため食品保存容器のふたや易開封性フィルムなどに使われる材質である。この場合、エチレン含量が50%以上であればPEとされ個別規格(蒸発残留物量)が適用されるが、50%以下であれば一般規格のみとなる。EVAは熱分解GCによる調査により酢酸ビニル含量は10%以下であることが判明しておりPEの個別規格の対象と考えられる16)。アクリロニトリル・スチレン樹脂はスチレン50%以上でありPS個別規格の対象であるが、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂は一般的にスチレンが40〜60%とされる。聞き取りなどでスチレン量が判明しない場合は、とりあえず個別規格の揮発性物質の試験を行うとよい。 ただし不適合となった場合は50%以上であるか確認する必要がある。

最後に

食品用器具・容器包装、おもちゃは、健康を損なうことがないよう溶出物を低く抑えるために、様々な規格が食品衛生法により定められている。これらの試験法は精度のよい簡便なものにたびたび変わってきた。昨年12月にも乳等容器の試験法が容器・包装の試験法と整合性をとるために改正されている。実際にこれら試験を行うにあたっての解説、要領、注意事項を最近の知見と共に示した。試験操作の参考になれば幸いである。

文献
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略歴

金子令子(Reiko Kaneko)
元東京都健康安全研究センター食品化学部食品添加物研究科主任研究員
東京理科大学薬学部製薬学科卒
 (専門分野)食品用容器包装に関する分析
 (主な著書)「衛生試験法・注解2010」(分担執筆)金原出版 
「食品衛生検査指針 理化学編」(分担執筆)日本食品衛生協会

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