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加工食品中に高濃度含まれる農薬等の迅速検出法について
一般財団法人 食品分析開発センターSUNATEC
第二理化学検査室

平成20(2008)年1月に発生した中国製冷凍餃子による有機リン系農薬メタミドホスによる中毒事件、平成25年12月に発生した冷凍食品農薬混入事件など、近年食品の安全性に関する問題が引き起こされている。食品の安全性に対する関心の高まりを背景に、平成25(2013)年3月26日付けの事務連絡により『加工食品中に高濃度に含まれる農薬等の迅速検出法について』が告示された。本稿では、この迅速検出法の概要について解説する。

迅速検出法の目的

本迅速検出法は、健康被害の防止の観点から、加工食品中に高濃度に含まれる農薬等を簡便かつ迅速に検出することを目的として開発されたものである。

検討対象化合物

健康被害防止の観点から、毒性、検出事例等を考慮して以下の1〜6に示す農薬等を対象に検討された。

1.
コリンエステラーゼ活性阻害作用のある農薬等(有機リン系農薬、カルバメート系農薬)
2.
急性参照用量(ARfD)*が設定されている農薬等
3.
毒物及び劇物取締法により毒物、劇物及び特定毒物に指定されている農薬等
4.
中国環境保護総局公表の「高汚染、高環境リスク製品」リストにある農薬等
5.
化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律により第1種特定化学物質に指定されている農薬等
6.
輸入食品検査における農薬等の検出事例(平成18年度)

* 急性参照用量(ARfD:Accute Reference Dose)
 食品や飲料水を介して特定の農薬など化学物質のヒトへの急性影響を考慮するために設定された。ARfDは、ヒトの24時間またはそれより短時間の経口摂取により健康に悪影響を示さないと推定される1日あたりの摂取量で表される。

迅速検出法の注意点

迅速検出法の適用にあたっては注意点を十分に理解する必要がある。主な注意点を以下に示した。

得られた濃度は、あくまで暫定的であり、残留基準値への適合判定を目的とした試験には適用できない。
精確な濃度を得ることを目的としていない。
必ずしも個々の農薬等に適した抽出条件となっていない。
検出法は3種類あり、目的や実施する農薬等や加工食品、得られる結果等を考慮し、適宜使用する方法を選択する。

検出法

検査する食品や対象農薬に応じて3種類の検出法が掲載されている。
1.LC-MS/MS(水溶性農薬など、172農薬等)
2.GC-FPD、GC-MS及びLC-MS/MS(有機リン系農薬など、223農薬等)
3.GC-MS/MS、LC-MS/MS(広範の農薬、303農薬等)

 以下に、検出法のフローチャートを示す。

@ 迅速検出法-1
迅速検出法-1
A 迅速検出法-2
迅速検出法-2
B 迅速検出法-3
迅速検出法-3

迅速検出法の評価濃度

本迅速検出法では、一過性の摂取に対する安全評価基準である急性参照用量を用いて評価濃度を決定している。評価濃度の設定にあたり、急性参照用量が示されている農薬の中で最も小さな値であるトリアゾホスの急性参照用量(0.001 mg/kg体重/日)が用いられており、評価濃度は0.1 mg/kgに設定されている。評価濃度の算出を以下に示した。

・評価濃度の試算
 体重20 kg(5〜6歳の平均体重)の人が1回に200 g摂取した場合に、トリアゾホスの急性参照用量を超えない濃度として算出している。

[0.001 mg/kg体重]×[体重20 kg]÷[摂取量0.2 kg]=0.1 mg/kg

なお、対象化合物の毒性等に応じて対象化合物毎に、評価濃度を変更することも可能だが、その場合には、変更しようとする農薬で性能評価を実施しなければならない。

検出法性能評価

残留基準値への適合判定を目的とした試験法の場合、試験法の妥当性評価の方法は、「食品中に残留する農薬等に関する試験法の妥当性評価ガイドライン」に示された手順に従う必要がある。妥当性評価ガイドラインでは評価濃度が0.01〜0.1ppm以内の場合、真度(回収率)70〜120%、併行精度(RSD)15%以下が目標値となる。しかし、本迅速検出法の性能評価については、真度(回収率)50〜200%、併行精度(RSD)30%以下が目標値とされており、性能評価幅が妥当性評価ガイドラインよりも大きく設定されている。従って、注意点でも述べた通り、残留基準値への適合判定を目的とした試験には適用できない。

まとめ

本迅速検出法では、迅速性及び簡易性を優先しているため、必ずしも個々の農薬等に対して適した抽出条件となっていない場合がある。従って、妥当性評価ガイドラインに従って妥当性評価試験を実施し、その目標値を満たした場合であっても、残留基準値への適合判定を目的とした試験には適用できないとあるので注意が必要である。
 本検出法を用いて、緊急時に実際の加工食品サンプル中の通常より高濃度の農薬等の有無を判断できる適切な方法、手順及び体制を確立しておくことが望ましいと考える。

参考資料

『加工食品中に高濃度に含まれる農薬等の迅速検出法について』(厚生労働省事務連絡 平成25年3月26日付)

食品の安全性に関する用語集(第4版) 平成20年10月 食品安全委員会

『食品中に残留する農薬等に関する試験法の妥当性評価ガイドライン』(厚生労働省通知 平成22年12月24日付食安発1224第1号別添)

残留農薬分析知っておきたい問答あれこれ 改訂3版2012 日本農薬学会

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