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海外の微生物試験法について 〜ISO法を中心に〜

一般財団法人 食品分析開発センターSUNATEC
微生物検査室
1 はじめに
近年の流通の発達、グローバル化に伴い食卓で海外の食品を見る機会も増えたのではないだろうか。現在、日本の食料は、カロリーベースで約60%を海外に依存しており、今後はTPPなどの影響もあり、食品業界もますます国際化が進むと考えられる。食品が食卓へ並ぶまでにはいくつもの工程を経てくるわけだが、その中でも食品の安全性を確保する上で、食品の微生物試験は重要な位置を占めている。
今回の豆知識では、国内と海外の試験法の関係について述べる。また、海外で広く用いられるISO法を中心に説明していく。
2 国内と海外の微生物試験
国内の食品衛生を目的とした微生物試験法は、食品の規格・基準が定められているものについては告示法や通知法が公定法として示されている。告示・通知法の無いものにおいては、食品衛生検査指針の試験法が用いられることが多い。一方、海外ではISO(International Organization for Standardization)による方法を用いる場合が多い。このISO法は国際的な試験法として位置づけられている。食品業界の国際化が進むにつれて、試験結果についても国際的に受け入れられる試験法による結果の必要性が高まることが容易に推測されるのではないだろうか。
国内の試験法である告示法・通知法は長期に渡り見直されていないものもあり、今後国際的に広く認められている試験法との整合性を考慮する必要がある。国内では、このような状況を鑑み、国際調和の観点から試験法の見直しを行うことを目的とした「微生物標準法検討委員会」によって標準試験法が策定されている。標準試験法の一例として、2011年10月に策定された生食用食肉における腸内細菌科菌群の試験法について国立医薬品食品衛生研究所のHPに記載されているので、ぜひ確認されたい。
3 ISO法による微生物試験
それでは、実際にISO法に規格化されている試験法はどのようになっているのか。本項では衛生指標菌の生菌数を例としてISO 4833-1の規格を説明する。国内の代表的な微生物試験法の一つである食品衛生検査指針の方法と比較した(表1及び図1参照)。両法の大きな違いとして培養条件が挙げられる。食品衛生検査指針は35±1℃、48±3時間であるのに対し、ISO法では培養条件が30±1℃、72±3時間と中温細菌と同時に低温細菌も測定可能な条件となっている。また、結果の算定方法も異なる。
ISO法の特徴として、一つのISO規格で試験を行うことは困難であり、他のISO規格を必要とする。例えば、ISO 4833-1の規格で試験を行う場合、微生物試験を行う上での基礎的な要求事項はISO 7218に定められている。これ以外に、試料調製に関わる規格(ISO 6887-1)、培地調製に関わる規格(ISO/TS 11133-1)と一つの試験を行う場合も複数のISO規格が要求されている。
また、ISO法で試験を行う場合、ISOに記載された通りの組成の培地が日本では入手できない場合がある点、日本とは異なりISO法は不定期に改定される場合がある点等は、注意が必要である。
表1 試験法の比較
検査方法 |
食品衛生検査指針 |
ISO法 |
サブサンプリング量 |
25g(10g) |
サンプリング計画による |
培養温度 |
35±1 ℃ |
30±1 ℃ |
培地 |
標準寒天培地 |
Plate count agar (PCA) |
培養日数 |
48±3 時間 |
72±3 時間 |
算定方法 |
図1参照 |
図1参照 |
培養後のシャーレ
(例)培養後の集落数
希釈倍率 |
試行1 |
試行2 |
10倍希釈 |
150個 |
135個 |
100倍希釈 |
24個 |
21個 |
図1 算定方法の比較
食品衛生検査指針: 1段階の希釈のみ30〜300個の集落数が得られたため2枚の平板の算術平均を求める。
(150+135)/2×10=1425 報告例 1.4×103
ISO法:連続する2段階の希釈で15〜300個の集落数が得られたため、4枚の平板を用いて求める。
(150+135+24+21)/2.2×10=1500 報告例 1.5×103
4 まとめ
今後、食品業界の更なる国際化に伴い、微生物試験に限らず、理化学試験でもISO法のような国際標準での試験需要が高まると考えられる。その際には、規格通りの試験の実施も大切だが、試験の内容、目的を理解した上で適切な方法を用いて行うことが最も重要であると考えられる。
参考文献
- ISO 7218:Microbiology of food and animal feeding stuffs - General requirements and guidance for microbiological examinations (2007 AMENDMENT 1 2013)
- ISO 4833-1:Microbiology of the food chain - Horizontal method for the enumeration of microorganisms - Part1:Colony count at 30℃ by the pour plate technique (2013)
- ISO 6887-1:Microbiology of food and animal feeding stuffs - Preparation of test samples, initial suspension and decimal dilutions for microbiological examination - part1:General rules for the preparation of the initial suspension and decimal dilutions (1999)
- ISO/TS 11133-1: Microbiology of food and animal feeding stuffs -Guidelines on preparation and production of culture medium - Part1:General guidelines on quality assurance for the preparation of culture media in the laboratory (2009)
- ISO/TS 11133-2: Microbiology of food and animal feeding stuffs -Guidelines on preparation and production of culture medium - Part2:Practical guidelines on performance testing of culture media(2003)
- 食品衛生検査指針 微生物編 2004 (社団法人 日本食品衛生協会)
- 食品衛生小六法 平成26年版 (食品衛生研究会 編集)
- コーデックスのガイドラインに基づく生食用食肉の微生物基準 五十君靜信著 2014年7月(月刊フードケミカル)
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