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![]() 重金属試験法について
![]() 一般財団法人 食品分析開発センターSUNATEC
第一理化学検査室 試験法の目的重金属試験法は、試料中に混在する重金属類の総量を試験するための方法である。また、本試験法で対象としている重金属とは、弱酸性で硫化ナトリウムと反応して黄~黒褐色を呈する重金属類のことである。 試験方法第8版食品添加物公定書における試験の操作手順を示す。本試験法は第1法から第4法まであり、試料の処理方法が一部異なっているが、概ね、試料を強熱による灰化後、酸溶解、pH調整を行い、硫化ナトリウムを加え、黄~黒褐色を呈する金属性物質の有無を目視判定するものである。第1法は、反応溶液中で試料が試験に影響を与えず、無色澄明に溶ける場合に採用される方法であり、灰化操作を省略できる。有機物等が含まれ、第1法を用いることができない試料は、灰化処理を行う第2法から第4法が採用されている。通常の灰化を行う第2法に対し、第3法は、灰化により得られる残留物に不溶性金属酸化物が含まれるような試料に採用され、この残留物を王水により溶解する。第4法では、助剤として硝酸マグネシウムを添加して灰化する。各方法の詳細については、フローチャートを図1に示す。
一般試験法として第1法から第4法が収載されているが、これらの方法では妨害が生じるような試料については、個別に試験法が定められている。例として、塩化第二鉄などの鉄塩では、除鉄操作と第一鉄への還元操作を行い、鉄による妨害を抑えている。他の規格試験にはなるが、ゴム製の器具又は容器包装の規格における重金属試験では、加硫促進剤として酸化亜鉛等が用いられた製品の場合、硫化ナトリウムを加えたときに生成する硫化亜鉛により反応液が白濁し、比色判定が困難となるが、シアン化カリウムを添加することによって亜鉛をマスキング(隠ぺい)して硫化亜鉛の生成を抑えている。同様なマスキング処理が第十六改正日本薬局方収載の硫酸亜鉛水和物においても採用されている。 検出事例冒頭で紹介したような意図的な混入や粗悪な原材料の使用が原因となって鉛を検出することもあるが、検出する場合の一部は、鉛以外の金属が要因となっていると考えられる。試験結果が、“鉛として○○ μg/g”となるため、試料中に“鉛”が○○ μg/g含まれていると捉えられてしまうことがあるが、実際に鉛が○○ μg/g含まれているわけではなく、“同じように呈色する金属性物質が鉛を○○ μg/g含む場合と同程度の色を呈する量だけ含まれている”、ということである。そのため、実際に鉛が入っていない場合であっても、 “重金属”が検出されることがある。このように検出された事例の詳細については、参考文献に記載してあるので参考にされたい。いずれも銅含量が高いために起きた検出事例であるが、重金属試験法により呈色する鉛以外の重金属の中で、銅の呈色が強いことと銅を比較的高濃度に含有する天然物が多いことに起因する。呈色強度だけでみればビスマスも強いが、ほとんどの場合試料中の含有量が十分に低いため、ビスマスに起因する重金属の検出は生じにくいと考えられる。銅による検出事例を踏まえ、食品成分表より食品中の銅含量をみると、レバーやゴマ、ピュアココア、牡蠣などに10 μg/g以上と多く含まれており、これらを含む食品の場合には重金属が検出する可能性が十分ある。 繰り返すようだが、銅を重金属として検出する可能性があるのであって、これらの食品から鉛が検出されるかどうかは不明である。また、銅は必須微量元素であり、人体に欠かせない栄養素である。このような食品中に鉛が含まれる場合を想定すると、重金属試験法では銅によって鉛の有無が判定できない可能性があるので、鉛やカドミウム等の混入が危惧される有害重金属を原子吸光法などによって個別にはかることが望ましいと考えられる。 今後の動向FAO/WHO合同食品添加物専門家会議「FAO/WHO Joint Expert Committee on Food Additives(JECFA)」において、重金属規格の見直しが行われ、本試験法と類似の比色法から原子吸光法などによる個別分析となり、鉛と必要に応じてカドミウム、ヒ素、水銀などの規格が設定された。これに伴い、食品添加物公定書第9版では重金属試験がごく一部を残して廃止されて原子吸光法による鉛試験へと切り替えられ、多くの規格が2 μg/gを基準値に設定されるようである。試験法等の詳細については、平成26年3月26日に行われた薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会添加物部会の資料として、第9版食品添加物公定書作成検討会報告書が公開されている。 参考文献
重金属の検出事例
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