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重金属試験法について
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第一理化学検査室

試験法の目的

重金属試験法は、試料中に混在する重金属類の総量を試験するための方法である。また、本試験法で対象としている重金属とは、弱酸性で硫化ナトリウムと反応して黄~黒褐色を呈する重金属類のことである。
 食品への重金属の混入経路の例として、カドミウム米のような原材料となる動植物の生育環境が汚染されていることによる原材料の汚染、2012年に問題となったクロム汚染ゼラチンカプセルの原因であった食用でない原材料の使用、1998年のヒ素入りカレー事件のような意図的な混入などを挙げることができる。他にも、生薬などにおいて、重量を多くみせるために金属粉を混入する例もある。
 重金属汚染は、メチル水銀による水俣病やカドミウムによるイタイイタイ病のような深刻な病気の原因となる。また、継続摂取により体内に蓄積する恐れもある。重金属類のうち、鉛を例にその毒性等を紹介する。鉛の摂取経路として経口摂取では約8%が、吸入により14~45%が吸収される。体内に入った鉛は、体全体に分布するが、大半は骨に局在する。急性中毒を起こすと、せん痛、貧血、神経痛あるいは脳疾患などの症状が現れる。また、蓄積毒でもあり、非常に微量でも連続して摂取すると、慢性中毒を引き起こす。毎日数mgの鉛を吸入した場合、中毒症状が数週間から数カ月を経て現れ、血液、神経、平滑筋などに障害が現れる。さらには、血色素の合成過程を妨害するため、貧血を引き起こし、顔面が鉛色を呈する。
 重金属汚染をいち早く察知し、食の安全・安心を確保するためにも原材料や製品中の重金属量を知ることは大切であり、その方法の1つとして本試験法を用いることができる。

試験方法

第8版食品添加物公定書における試験の操作手順を示す。本試験法は第1法から第4法まであり、試料の処理方法が一部異なっているが、概ね、試料を強熱による灰化後、酸溶解、pH調整を行い、硫化ナトリウムを加え、黄~黒褐色を呈する金属性物質の有無を目視判定するものである。第1法は、反応溶液中で試料が試験に影響を与えず、無色澄明に溶ける場合に採用される方法であり、灰化操作を省略できる。有機物等が含まれ、第1法を用いることができない試料は、灰化処理を行う第2法から第4法が採用されている。通常の灰化を行う第2法に対し、第3法は、灰化により得られる残留物に不溶性金属酸化物が含まれるような試料に採用され、この残留物を王水により溶解する。第4法では、助剤として硝酸マグネシウムを添加して灰化する。各方法の詳細については、フローチャートを図1に示す。

図1.第8版食品添加物公定書における重金属試験法の操作手順(PDF:233KB)

一般試験法として第1法から第4法が収載されているが、これらの方法では妨害が生じるような試料については、個別に試験法が定められている。例として、塩化第二鉄などの鉄塩では、除鉄操作と第一鉄への還元操作を行い、鉄による妨害を抑えている。他の規格試験にはなるが、ゴム製の器具又は容器包装の規格における重金属試験では、加硫促進剤として酸化亜鉛等が用いられた製品の場合、硫化ナトリウムを加えたときに生成する硫化亜鉛により反応液が白濁し、比色判定が困難となるが、シアン化カリウムを添加することによって亜鉛をマスキング(隠ぺい)して硫化亜鉛の生成を抑えている。同様なマスキング処理が第十六改正日本薬局方収載の硫酸亜鉛水和物においても採用されている。
 重金属量については、食品添加物公定書などでは試料を処理して得られた溶液と規格値相当量の鉛標準液を同様に処理して得られた溶液との呈色度合を比較して判定する。そのため、規格値を超えているかどうかの判定のみが可能である。一方で、重金属量をはかる場合、1点ではなく、複数の濃度の鉛標準液を発色させ、試料での呈色度合と各鉛濃度での呈色度合を目視比色することで定量する。試料と鉛標準液とを比較するので、“鉛として○○ μg/g”という試験結果となる。含量の例として、食品添加物公定書に収載されているものの多くは10又は20 μg/gが基準値として設定されている。また、鉛ほどの呈色強度はないが、銀、ヒ素、ビスマス、カドミウム、銅、水銀、アンチモン、スズなども同様な色を呈するため、単独の元素に対する選択性には乏しい。重金属が総量としてどれぐらいの濃度域で試料中に含まれているのか、有害重金属の意図的な混入がないか知るための試験として適当と考えられる。また、鉛やカドミウムなど個別に試験する場合には、原子吸光光度計やICP発光分析装置などの高額な機器が必要となるが、重金属試験法では、特別な機器を所有していなくても実施できる利点がある。

検出事例

冒頭で紹介したような意図的な混入や粗悪な原材料の使用が原因となって鉛を検出することもあるが、検出する場合の一部は、鉛以外の金属が要因となっていると考えられる。試験結果が、“鉛として○○ μg/g”となるため、試料中に“鉛”が○○ μg/g含まれていると捉えられてしまうことがあるが、実際に鉛が○○ μg/g含まれているわけではなく、“同じように呈色する金属性物質が鉛を○○ μg/g含む場合と同程度の色を呈する量だけ含まれている”、ということである。そのため、実際に鉛が入っていない場合であっても、 “重金属”が検出されることがある。このように検出された事例の詳細については、参考文献に記載してあるので参考にされたい。いずれも銅含量が高いために起きた検出事例であるが、重金属試験法により呈色する鉛以外の重金属の中で、銅の呈色が強いことと銅を比較的高濃度に含有する天然物が多いことに起因する。呈色強度だけでみればビスマスも強いが、ほとんどの場合試料中の含有量が十分に低いため、ビスマスに起因する重金属の検出は生じにくいと考えられる。銅による検出事例を踏まえ、食品成分表より食品中の銅含量をみると、レバーやゴマ、ピュアココア、牡蠣などに10 μg/g以上と多く含まれており、これらを含む食品の場合には重金属が検出する可能性が十分ある。 繰り返すようだが、銅を重金属として検出する可能性があるのであって、これらの食品から鉛が検出されるかどうかは不明である。また、銅は必須微量元素であり、人体に欠かせない栄養素である。このような食品中に鉛が含まれる場合を想定すると、重金属試験法では銅によって鉛の有無が判定できない可能性があるので、鉛やカドミウム等の混入が危惧される有害重金属を原子吸光法などによって個別にはかることが望ましいと考えられる。

今後の動向

FAO/WHO合同食品添加物専門家会議「FAO/WHO Joint Expert Committee on Food Additives(JECFA)」において、重金属規格の見直しが行われ、本試験法と類似の比色法から原子吸光法などによる個別分析となり、鉛と必要に応じてカドミウム、ヒ素、水銀などの規格が設定された。これに伴い、食品添加物公定書第9版では重金属試験がごく一部を残して廃止されて原子吸光法による鉛試験へと切り替えられ、多くの規格が2 μg/gを基準値に設定されるようである。試験法等の詳細については、平成26年3月26日に行われた薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会添加物部会の資料として、第9版食品添加物公定書作成検討会報告書が公開されている。

参考文献

1)
日本薬学会編:“衛生試験法・注解2010” 金原出版 (2010)

2)
厚生労働省:“第8版食品添加物公定書”
http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuten/
kouteisho8e.html

3)
“第8版食品添加物公定書解説書” 廣川書店 (2007) 

4)
厚生労働省:“第十六改正日本薬局方”
http://jpdb.nihs.go.jp/jp16/YAKKYOKUHOU16.pdf

5)
“第十六改正日本薬局方解説書” 廣川書店 (2011)

6)
平成26年3月26日薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会添加物部会
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/0000040629.html

7)
Limit test for heavy metals in food additive specifications Explanatory note
http://www.fao.org/fileadmin/templates/agns/pdf/jecfa/2002-09-10_Explanatory_note_Heavy_Metals.pdf

8)
JECFA Expert committee on food additives 63rd. meeting
http://www.who.int/ipcs/publications/jecfa/en/Summary63final.pdf

重金属の検出事例

9)
安野哲子,萩原輝彦,斎藤和夫:天然添加物中の重金属及びヒ素含有量 東京都立衛生研究所研究年報 第51号 pp.193-196 (2000)

10)
米谷民雄,久保田浩樹,岩崎京子,山田隆:天然添加物中の鉛を重金属試験法により評価する際の共存必須重金属の影響 食品衛生学雑誌 Vol.37 No.4 pp.210-214 (1996)

11)
荻本真美,植松洋子,鈴木公美,樺島順一郎,中里光男:既存添加物(着色料)中の有害重金属およびヒ素の含有量調査 食品衛生学雑誌Vol.50 No.5 pp.256-260 (2009)

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