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食中毒発生事例から(「どうしたら食中毒を防げたのか」の視点で考える)
一般財団法人 食品分析開発センターSUNATEC理事長
東海食品衛生研究会会長
庄司 正

平成25年食中毒発生状況(厚生労働省食中毒統計)から

(1)主要原因物質別食中毒発生件数の推移図-1
・食品の中で増殖し食中毒を引き起こす腸炎ビブリオやサルモネラなど細菌性食中毒は減少し、最近の食中毒の原因物質は、少量の病原体で感染するカンピロバクター(細菌)及びノロウイルスが主流である。
・自然毒、特に毒キノコによる食中毒は相変わらず多い。
・原因物質として、H25年から寄生虫によるものが新しく分類計上された。
・平成25年の発生件数は、対前年で169件(15%)減少した。全体的には発生件数は減少傾向にある。
・しかし、代表的な食品事業者(旅館、飲食店、仕出し屋)における食中毒発生件数は、毎年700件前後で推移しており減少していない。(図-2

図-1.主要原因物質別食中毒事件数の推移(H8〜H25)(PDF:76KB)
図-2.主要食品事業所における食中毒事件数の推移(S50〜H25)(PDF:59KB)

(2)月別発生件数及び患者数図-3
 H23〜25年の平均月別発生件数及び患者数を示した。
・発生件数及び患者数とも12月が最も多く、その原因はノロウイルスである。
・冬季の食中毒対策は、ノロウイルス食中毒予防強化期間(11月〜1月)として日本食品衛生協会が全国展開して取り組んでいるが、まさに的を射た事業となっている。

図-3.食中毒発生件数及び患者数(H23-25年平均・月別)(PDF:36KB)

(3)H24年とH25年の主要原因物質について月別比較図-4
・H25は食中毒発生件数が大幅に減少したがその主な原因は12月のノロウイルスの減少によっている。
・食中毒予防として考えると、夏季の細菌性食中毒対策、冬季のノロウイルス食中毒対策、そして秋季の自然毒(毒キノコ)及び寄生虫対策が重要であることが分かる。

図-4.主要原因物質別食中毒発生件数(H24-25年月別比較)(PDF:62KB)

(4)平成26年大規模食中毒ワースト10位(6月2日現在速報値から)
・2014年1月は学校給食におけるノロウイルス食中毒が大きく報道されたが、速報値でH26年の大規模食中毒ワースト10位(患者数)を調べると、9件をノロウイルスが占めた。(表-1
・また、全国小児科定点での感染性胃腸炎の流行状況でも、2014年1月は例年にない高い数値を示していたことが分かる。(図-5
・感染性胃腸炎が流行した年のノロウイルス食中毒件数及び患者数を図-5中に記載した。ノロウイルス食中毒は、その大半が調理従事者を介した飲食物媒介感染症であるが、まさに感染性胃腸炎の小児での流行状況に比例して発生していることが分かる。
・感染性胃腸炎の流行状況は毎週更新されている。食品事業者(経営者、食品衛生責任者等)は、この情報をモニターし、管理運営基準に基づく従業員の健康管理(感染者の就業制限)や手洗いの徹底に活かしてほしいものである。

表-1.H26大規模食中毒ワースト10位(PDF:47KB)
図-5.感染性胃腸炎の週別流行状況(年別)(PDF:194KB)

どうしたら食中毒を予防できたのか、二つの視点

図-1に示したように、最近の食中毒の原因物質は、カンピロバクター(細菌)とノロウイルスが大部分を占めている。共通するのは、両方とも少量の病原体で人が感染し食中毒となること、潜伏期間が長いことである。しかし、その食中毒予防対策となると両者は全く異なる。
 前者は従来の食品中で増殖して引き起こされる細菌性食中毒とは異なり、原材料に付着し増殖しなくても感染発症するタイプの食中毒である。カンピロバクター食中毒は発生件数が最も多いこのタイプであるが、患者の症状が重篤となりやすい腸管出血性大腸菌食中毒もこのタイプに入る。(但し、腸管出血性大腸菌は人から人へも感染する。)
 従って、このタイプの食中毒予防には、農場から食卓まで全てのプロセスでしっかりした食品衛生対策が求められており、予防も非常に難しいのが現状である。
 後者は調理従事者の健康管理、すなわち感染者が保有するノロウイルスを食品に汚染させないための感染症の予防に関する人(調理従事者)への対策である。
 それではカンピロバクター食中毒とノロウイルス食中毒の予防対策について具体的に見てみよう。

(1)カンピロバクタ―食中毒対策
 平成25年にカンピロバクターを原因とする食中毒で患者数の多い事例20位を表-2に示した。
 カンピロバクター食中毒は、鶏肉との関連が強く指摘されている。しかし表-2には原因食品として鶏肉関連が記載されているのは、焼き鳥(推定)、鶏ムネタタキ、ささみのタタキ(推定)の3件のみである。(カンピロバクター食中毒の潜伏期間は、2〜3日であることから食中毒調査の時点で原因食品調査や検査ができない場合が多い。しかし、疫学調査等から原因食品として強く疑われたケースが推定となっている。)
 カンピロバクター食中毒は、鶏肉の生食、生に近い状態や加熱不十分の状態での摂食、他の食品への二次汚染の三つが大きな原因とされている。上記3件の事例からはそれを窺うことができるが、しかし、他の17件の原因食品には、どうしたら予防できたのか、鶏肉との関連はどうであったのか、何も分からない。
 鶏肉は、そもそも食鳥処理の段階でカンピロバクター汚染を防止することは非常に難しく汚染率も高い。しかも少量菌で感染することから、食中毒予防の三原則(付けない、増やさない、やっつける)を遵守しつつも、最終的にやっつける(加熱殺菌)以外に予防の手立てはない。生食用牛肉の規格基準化と牛レバーの生食禁止が腸管出血性大腸菌食中毒の減少に功を奏したように、カンピロバクター食中毒予防も同じ道をたどるしかないのだろう。
(カンピロバクター食中毒予防については、本メルマガで改めて報告したいと考えている。)

表-2.H25カンピロバクター食中毒ワースト20位(PDF:302KB)

※名古屋市では、「食肉の生食等による食中毒防止キャンペーン」(5月〜8月)として、その対策をホームページで公表している。添付のリーフレット「お肉は十分に加熱して食べましょう!」は、食品安全委員会主催の食品安全モニター会議(6/12名古屋市)でも配付された。適正な加熱状況が見える化された素晴らしいリーフレットである。

なごや食の安全・安心情報ホームページ
リーフレット「お肉は十分に加熱して食べましょう!」

(2)ノロウイルス食中毒
 他方ノロウイルス食中毒の場合はどうであろうか。同様にノロウイルス食中毒の事例を表-3に示した。ノロウイルスは二枚貝のような特別の食品以外には、原材料の段階で本来汚染されてはいない。(カキの衛生対策は、採取海域やカキのノロウイルス汚染状況に基づいた食品衛生対策、食中毒予防対策であるといえるだろう。)
 従って、表-3に記載されている20事例は、人の腸管のみで増殖するノロウイルスの汚染を受けた食品が何であったのか、それが原因食品として示されているにすぎない。
 厚生労働省のH25年通知にあるように、ノロウイルス食中毒の発生原因の多くは調理従事者を介した発生である。それは、感染者の糞便・嘔吐物に含まれるノロウイルスが、調理従事者の手指等を介して直接または間接的に飲食物を汚染し、汚染された食品を食べた人が食中毒になったことを意味している。上記図-5で示したように、小児における感染性胃腸炎の流行とノロウイルス食中毒発生数が比例していることからも十分理解できる。
 まさに小児の間で毎年流行するノロウイルス感染症が、人→人ルート等で調理従事者に感染拡大し、さらに飲食物を媒介して広げてしまった感染症がノロウイルス食中毒として扱われているに過ぎない。
 従って、ノロウイルス食中毒予防は、調理従事者の健康管理(感染者の就業制限)、と手洗いの徹底が重要な柱となる。上記カンピロバクター食中毒予防とは異なり、感染症予防対策なのである。

表-3.H25ノロウイルス食中毒ワースト20位(PDF:294KB)

コーヒーブレイク(ノロウイルス食中毒予防セミナーから)

本年1月には浜松市の学校給食におけるノロウイルス食中毒をマスコミが大きく取り上げた。そんな最中の1月25日に開催した東海食品衛生研究会第5回食品衛生セミナー(ノロウイルス食中毒予防)は、給食事業者など熱心な方々で会場が一杯となった。参加者にはアンケートをお願いしたが、次のことが明らかとなった。
・1000人を超えるノロウイルス食中毒がなぜ発生したのか、食中毒部会で公表された情報に基づいた基調報告は、多くの受講者にとって興味深い内容であり、手洗いなど食品衛生の基本の重要性を再認識し、そのことによって食中毒は予防できるとういう確信につながっていったこと。

・また、リスクコミュニケーションでは、受講者のそれぞれの現場における疑問や課題を出し合い、解決策を議論したことで、それぞれの現場にふさわしい対策を見つけることにつながっていったこと。

・食品事業者が食品衛生対策の行動に結びつくには、「どうして食中毒が発生したのか?どうしたら防ぐことができたのか?」の情報提供が欠かせないこと。(新聞報道で食中毒発生の事実を知っただけでは予防対策につながっていかない。これからも現場視点で考えるセミナーをモットーとして開催していきたい。)

(3)どうしたら防げたのか、行政の情報提供を期待
 食品衛生法第58条は、食中毒患者等を診断した医師には直ちに最寄りの保健所長への届出義務、また、届出を受けた保健所長にはその調査義務を規定している。従って、個々の食中毒事例ごとに保健所長はその調査結果を食中毒発生詳報にまとめ、正確な記録と汚染プロセス等の調査結果、検査結果などを記載している。しかしながら、この食中毒発生詳報の公表は、上記食中毒部会資料などごく一部の事例に限られているのが現状である。
 食品衛生関係雑誌等にも食中毒のニュース報道などが多数紹介されているが、事実に関することがほとんどで、原因は何だったのか、どうしたら防げたのかなど詳細を知ることは難しい。従って、大きな報道があるたびに食品事業者は現状の対策で間違っていないのか、何か特別な対策をとらなければならないのかなど不安に駆られてしまう。
 全国の保健所が作成する食中毒発生詳報には、汚染経路や原因食品の特定など、現場をつぶさに見た食品衛生監視員の貴重な考察が記録されている。すなわち、どうして発生したのか、どうしたら発生を予防できたのかなど食品事業者が最も知りたい情報が満載なのだ。
 この詳報には個人情報が多く含まれるため情報公開請求の手続きをしなければ見ることができない。しかし食中毒の調査結果は、予防に活かせてこそ本来の価値がある。岐阜県のホームページ(食中毒に注意しましょう、食中毒事件録)のように行政の積極的な情報提供を望みたいものである。

岐阜県「食中毒に注意しましょう」
参考文献

・厚生労働省食中毒事件一覧速報
 http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuchu/
04.html

・厚生労働省薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会食中毒部会(2014/3/24資料)
 http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/0000041448.html
・厚生労働省薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会食中毒部会(2014/3/24議事録)
 http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/0000045503.html
・厚生労働省医薬食品局食品安全部監視安全課長通知(2013/10/4通知)
 http://www.mhlw.go.jp/topics/syokuchu/dl/03_131004_1.pdf

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