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改正される栄養表示基準に関して〜栄養表示に関する調査会より〜

一般財団法人 食品分析開発センターSUNATEC
室長 服部 聰司
栄養表示の義務化に向けて、消費者委員会では食品表示部会の中で「栄養表示に関する調査会」を設けて栄養表示制度の検討が行われています。2014年4月末までに4回の会合が開催され、その内容は内閣府のホームページで公開されています。今回はその内容の紹介をします。
昨年6月に食品表示法が公布され、食品衛生法、JAS法、健康増進法の食品表示部分が一元化されることになり、大きな改正点として、栄養表示の義務化がありました。公布前の段階では、義務化を実行可能なものにするため「合理的な方法に基づく表示値の設定」と「低含有量の場合の誤差の許容範囲の拡大」が挙げられ、現在は「栄養表示に関する調査会」で内容について検討されています。
2014年4月末までに検討された内容は以下の8項目になります。
@ 規定する栄養成分
A 義務化の対象成分
B ナトリウムの表示方法
C 栄養表示の対象食品
D 栄養表示の対象事業者
E 栄養成分等の分析方法及び表示単位
F 誤差の許容範囲
G 強調表示
以下に検討された内容について紹介します。現在はまだ検討段階で、決定事項ではありませんので、変更される可能性がありますが、方向性は変わらないと考えてよいと思います。
栄養表示基準に規定する栄養成分について
現行の栄養表示基準で規定されている成分と同様の『たんぱく質、脂質、炭水化物、ミネラル12種、ビタミン13種』となっています。また、食事摂取基準に基準値が策定されたモリブデンについては追加する方向で検討されています。
義務化の対象成分について
表示義務となるものは現在と同じ、エネルギー、たんぱく質、脂質、炭水化物、ナトリウムですが、ナトリウムについては食塩相当量という表現になる模様です。表示順は公布前に議論されていましたので変わる可能性があるので注意しておく必要があります。
任意の推奨項目としては、飽和脂肪酸、食物繊維が挙がっていますが、推奨というカテゴリーは「実質義務と変わらない」とか「義務とする緊急の課題とは読み取れない」と言った意見も出されていますので、今後、表示義務に入るか任意となるか注目しておかなければなりません。
任意のその他項目は、糖類、トランス脂肪酸、コレステロール、ビタミン類、ミネラル類となっています。
ナトリウムの表示方法について
ナトリウムの表示は消費者にとって分かりやすい表現の「食塩相当量」に変更すると言われています。しかしながら、食塩由来でないナトリウムを含有する食品もあることから、扱いについてはもっと議論すべきとの意見も上がっているようです。ナトリウム自体の表示を残すかどうかといった議論もあるようですので、今後に注意しておく必要があります。
対象食品に関して
原則として予め包装された全ての加工食品と添加物とされ、生鮮食品については、栄養成分や機能性が強調された場合は栄養表示を行わないといけないことになっています。
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加工食品(予め包装された食品) |
生鮮食品 |
添加物 |
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新基準(案) |
義務 |
○ |
× |
○ |
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任意 |
○ |
○ |
○ |
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現行基準 |
任意 |
○ |
△(鶏卵) |
× |
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また、「消費者における表示の必要性」「事業者における表示の実行可能性」の観点に加えて「国際的整合性」を加味し、表示義務を免除する食品を規定しています。
- ・栄養上意味の無い食品(摂取量や栄養成分の含有量が少ない食品は、栄養上の影響が少なく消費者に活用されにくい)
- ・加工食品の原材料として使用される食品(消費者に直接使用されないことから必要性が低い)
- ・酒類(特殊な嗜好飲料であるため、消費者の商品選択に栄養表示の活用度が低い)
- ・小包装食品(栄養表示の必要性は高いが、物理的に記載が不可能)
- ・短期間でレシピが変更される食品(栄養表示の必要性は高いが、レシピ変更の度に表示値を設定することが困難)
- ・製造場所で直接販売される食品(事業者の実行可能性が低い)
- ・学校給食や病院給食等への販売に供する食品(情報伝達が確実に行われるため義務化の必要性が低い)
今回免除された項目の中には、今後検討の余地があるとされたものもあるようですので、今後の動向に注意を払う必要があります。
栄養表示の対象事業者について
原則として全ての食品関連事業者が表示義務の適用対象となりますが、従業員数が5人以下の食品関連事業者、食品関連事業者以外の販売者は表示義務が免除になります。さらに、業務用食品を扱う事業者には、表示義務を課さないことになっています。しかし、従業員数を5人にすることや、輸入食品などで少人数であっても流通量の多い食品は考慮すべきとの意見もあり、継続検討となっています。
栄養成分等の分析方法について
現行の「栄養表示基準別表第2の第3欄」を維持しつつ、通知により運用されている栄養成分は追加することになっています。
栄養成分等の表示単位について
現行の「栄養表示基準別表第2の第2欄」に規定された表示単位を維持し、新たにこの基準に分析方法を記載するものは食事摂取基準を参考に設定することとしています。食塩相当量の単位は栄養指導などで用いられている「g(グラム)」が用いられるようです。
栄養成分等の最小表示について
- ・栄養素等表示基準値に準じる。
- ・栄養素等表示基準値が設定されていない栄養素については、食事摂取基準の基準値を参考に最小表示の位を設定する。
- ・上記以外の栄養素については、その栄養素が包含されている栄養成分の最小表示の位に準じる。
- 上記の様に規定されましたが、以下の例外が規定されています。
- ・必要がある場合において最小表示の位を下げることを妨げるものではない。
- ・食塩相当量は、0.1未満の場合は小数第2位までとする。
特に食塩相当量はナトリウム値が低い場合、ナトリウムとしての数値があっても食塩相当量に換算すると0.1未満になる矛盾が生じるため、0.1未満の場合は小数第2位までにするとなっています。
誤差の許容範囲について
食品表示一元化の際に報告されました「合理的な方法に基づく表示値の設定」や「低含有量の場合の誤差の許容範囲の拡大」は表示義務化に向けた環境整備の一環として継続されています。
誤差の許容範囲の基準については、現行制度では、規定された分析方法によって得られた値を基準として誤差の許容範囲を規定していますが、新基準では、「表示値を基準として許容範囲を規定すること」に変更となっています。つまり分析値中心の考え方から表示値中心の考え方に変更されたということです。また、誤差という表現が不適当との判断から、「誤差の許容範囲」を「許容差の範囲」に改められています。
栄養強調表示等について
「含まない旨」「低い旨」「高い旨」「含む旨」の基準値について、その設定方法は現行どおりとなっています。
相対表示に関しては考え方の変更がなされ、絶対差に加え相対差も規定されました。これは相対差の規定が無いため、食品によっては比較対照と相対差が小さくても相対表示が可能となってしまっている状況の改善策となっています。
具体的には、以下の様になっています。
- ・強化された旨の表示:「含む旨」の基準値以上の絶対差、25%以上の相対差
- ・低減された旨の表示:「低い旨」の基準値以上の絶対差、25%以上の相対差
- ・ミネラル類(ナトリウムを除く)、ビタミン類:栄養素等表示基準値の10%以上の絶対差(固体と液体の区別なし)
無添加強調表示は、「現行ルールに代えて、新たに“無添加強調表示”に係る規定を定める」となっているだけで、詳細はまだ明らかになっていません。
含有量を「0(ゼロ)」とすることができる規定は、現行どおりとなっています。
新たに強調表示とみなす事項の検討では、文字の大きさや色等による強調表示の基準は設けないとされましたが、強調表示の基準を満たしていないにもかかわらず、この様な表示をすることは望ましくない事をQ&Aなどで示すこととしています。
さらに「食品○個分」の表現は、事実に基づいたものである限り、販売者の責任で任意表示としています。
以上の様に栄養表示の義務化に向けたルールの詳細が徐々に明らかになってきています。
今回の改正のポイントで、分析値が表示値の許容差の範囲に収まらなくても合理的な方法によって得られた値であればよいことになっています。しかし、収去検査で表示値の許容差に分析値が入っていなかった場合、計算根拠が合理的と判断されないと表示違反になる恐れがあります。収去検査は分析値で判断されますので、分析値と表示値の差を把握しておくことは必要です。また、差がある場合は何に由来しているかを事前に情報として持っておくことも重要と考えられます。
栄養表示が義務化されたときに慌てないように現段階から準備しておくことが必要です。
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