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フードディフェンスにおける検査@
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コンサルティング室

中国冷凍餃子事件が発生した翌年に、一般財団法人食品産業センターが実施された「食品産業におけるフードディフェンスへの取組状況等調査」においては、フードディフェンスに取り組んでいると答えた食品製造企業が55%に留まる結果となっていました。
 しかし、昨年末の国内での事件発生を受けて、あらためて、フードディフェンスの取り組みを検討されている企業は少なくないと思われます。
  本稿では、今月号、翌月号に渡って、フードディフェンス対策において考えられる検査を中心に紹介を行います。

【検査の役割 その1】
「異常事態が発生した際に、何らかの物質が混入されているかを確認するための検査」

 異常事態が発生した際には、迅速な対応によって被害を最小限に留めることが必須となります。その為には、迅速な検査が必要となります。
 場合によっては、原因特定に至る前に、回収の判断が必要となることもあるかと思いますが、このような場合においても、原因特定や対象範囲の特定などのために、検査が必要となります。
 この際に、混入されているかもしれない対象物を想定し、適切な検査項目を選ぶことが、迅速な対応の近道に繋がります。
 では、混入されているかもしれない対象物とはどのようなものでしょうか。
 製造工場での混入発生を想定した場合、工場内に元々存在するもの、外部から持ち込まれるものの二つに分かれます。
 毒物を連想する場合、毒物及び劇物取締法にて規制されている成分などがまず考えられます。また、これに該当しない成分であっても、工場内に存在する化学物質や身近で容易に入手が可能なものについては、外部から持ち込まれるものとして、想定されるべきと考えられます。
 工場内にて保有されている化学物質などは、既にリスト化され、保管場所の位置管理や、施錠管理などをされていると思われますが、その管理手順に問題が無いかを確認されることを提言します。
 一方、外部からの持ち込みについては、全てを予知や把握することは困難でありますが、過去の事件においては、身近で容易に入手可能な農薬が使用されたケースが多く見受けられます。

分類 事件・事故事例 混入段階
パラコート(農薬) 1985年 国内で主に自動販売機にて農薬をジュース類に混入(13名死亡・模倣34名) 流通
グリホサート(農薬) 2008年 ペットボトルに除草剤(グリホサート)を混入 流通
メタミドホス(農薬) 2008年 中国産の冷凍餃子に殺虫剤(メタミドホス)を混入 製造
ジクロルボス(農薬) 2008年 中国産のサバ、冷凍インゲンに殺虫剤(ジクロルボス)を混入 不明
フェニトロチオン(農薬) 2008年 和菓子に殺虫剤(フェニトロチオン)を混入 製造
マラチオン(農薬) 2013年 国内の冷凍食品製造工場にて殺虫剤(マラチオン)を混入 製造
メラミン 2008年9月 中国で製造販売した粉ミルクにメラミンが混入
乳幼児29万6千人に腎臓結石等の被害(6名死亡)
原料
ヒ素 1998年 和歌山県で亜ヒ酸をカレーに混入(4名死亡、67名搬送) 食品製造品以外
シアン化カリウム 1984年 国内で菓子にシアン化カリウム(青酸カリ)を混入 流通
その他 ; 特定原材料(7大アレルゲン等)、食品添加物(漂白剤、合成着色料、保存料等)、マイコトキシン(アフラトキシン等)、 病原微生物(腸管出血性大腸菌O−157、サルモネラ菌、ボツリヌス菌等) 

表1 過去の事件・事故等の問題となった成分例

なお、今回、どの程度の農薬が身近で容易に入手可能か確認したところ、園芸用農薬、家庭用殺虫剤、ペット用ダニ・ノミ駆除剤として、多くの商品がホームセンターなどで販売されていることが確認されました。
 また、無機化合物を主成分とする殺虫剤や殺鼠剤(例えば、ホウ酸団子やリン化亜鉛を主成分とする殺鼠剤)なども販売されていました。

用途 成分
殺虫剤 クロチアニジン、フェンプロパトリン、メパニピリム水和剤
殺虫剤 ピリミホスメチル、有機溶剤等
殺虫剤 MEP、有機溶剤、界面活性剤等
殺虫剤 アセフェート、鉱物質微粉、界面活性剤等
殺虫剤 マラソン、界面活性剤、有機溶剤等
殺虫剤 エトフェンプロックス、有機溶剤、界面活性剤等
殺虫剤 アセタミプリド、溶媒、界面活性剤、着色剤等
殺菌剤 ベノミル、糖類、界面活性剤等
殺菌剤 チアファネートメチル、酢酸ビニル、色素、水等
殺菌剤 ポリカーバメート、界面活性剤等
殺ダニ剤 エトキサゾール、水、界面活性剤
殺ダニ剤 ミルベメクチン、有機溶剤、界面活性剤
除草剤 グリホサートカリウム塩、水、界面活性剤等
除草剤 2,4−ジクロロフェノキシ酢酸ジメチルアミン
その他、家庭用殺虫剤、ペット用ダニ、ノミ駆除剤、殺鼠剤などが販売

表2 ホームセンターで容易に入手可能な農薬例

これらのことから、異常事態の発生時においては、農薬の可能性についての確認として、身近で入手可能な農薬の内、一斉分析では検査出来ず個別分析が必要となる項目についても、検査対象として検討されることが必要と考えられます。

 なお、ISO22000では、「5.7緊急事態に対する備え及び対応」や「7.10.4回収」などの要求事項があることから、ほとんどの企業はこのような事態を想定した体制を既に構築されていると思われます。
 ただ、これに関しても、先述の工場内の化学物質の再確認同様に、構築されている体制にて円滑な対応が出来るかの確認として、具体的に混入物質を想定して訓練を実施することが薦められます。
 これにより、公表などで必要となる情報も事前に想定することが出来るからであります。
 そのような必要な情報として、例えば、農薬が混入された場合には、急性参照用量(Acute Reference Dose:ARfD)について、最新の情報の入手が必要となるなどが挙げられます。

農薬成分 ARfD(mg/kg bw)
パラコート 0.006
メタミドホス 0.01
ジクロルボス 0.1
フェニトロチオン 0.04
マラチオン 2
クロチアニジン 0.6
2,4-D UNNECESSARY
ピリミホスメチル 0.2
フェニトロチオン 0.04
アセフェート 0.1
エトフェンプロックス 1
エトキサゾール UNNECESSARY
アセタミプリド 0.1
※ UNNECESSARY:設定の必要なしと評価
http://apps.who.int/pesticide-residues-jmpr-databaseより抜粋

表3 農薬成分のARfD例

なお、弊財団においても検査機関として、今後、異常事態などに対する検査においては、依頼者と想定の範囲などを相談し、より早く原因特定に繋げることが必要と考えています。

次回は
【検査の役割 その2】
「意図的な物質の混入、偶発的な物質の混入に対する抑止、察知のための検査」について紹介します。

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