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最新の異物検査技術によるクレーム対応
一般財団法人 食品分析開発センターSUNATEC
                      室長 吉田篤史

1 食品に関わるクレーム

食品に関わるクレームは、人が食品を口にしたり、鼻で臭いを嗅いだり、目で見たり(確認したり)することができるため、非常に多岐に渡ります。いつものよりしょっぱい、いつものより酸っぱい、何となく苦い味がする、舌を刺すような感じがするなど味に関するクレーム(異味に関するクレーム)、薬品臭、消毒臭、腐敗臭、カビ臭、いつものと違う臭いがするなど臭いに関するクレーム(異臭クレーム)、白い粉のようなものが付着している(写真-1参照)、容器の底に何が沈んでいる、虫のようなものが入っている(写真-2参照)、針金のようなものが出てきたなどの異物クレームが、食品に関わるクレームの代表でありそのほかに「変色」、「カビ発生」などが挙げられます。
  今回は、食品に関わるクレームの中でも「異物」に焦点を当て、異物とは何か、異物検査手法、異物検査事例、再発防止・クレーム防止に向けた取り組み例を紹介します。

白色異物 虫のような異物
写真-1 白色異物 写真-2 虫のような異物

2 異物とは何か

1) 法規制及び定義
  食品衛生法第6条四号によると、不潔、異物の混入又は添加その他の事由により、人の健康を損なう可能性があるような食品及び添加物は、これを販売し、又は販売の用に供するために、採取し、製造し、輸入し、加工し、使用し、調理し、貯蔵し、若しくは陳列してはならないと定められています。また、薬事法第五十六条六号によると、異物が混入し、又は付着している医薬品は、販売し、授与し、又は販売若しくは授与の目的で製造し、輸入し、貯蔵し、若しくは陳列してはならないと定められています。
  では、異物とは具体的にどのようなものを指すのでしょうか。食品衛生検査指針 理化学編(2005)によると、生産、貯蔵、流通の過程で不都合な環境や取扱い方に伴って、食品中に侵入または迷入したあらゆる有形外来物と定義されていますが、高倍率の顕微鏡を用いなければ、その存在が確認できない程度の微細なものは対象外としています。また、薬事法第五十六条(10)解説によると、「異物」とは、ダニ類、寄生虫卵、ガラス片その他およそ医薬品を構成する物質以外の全ての物質と定義されています。

2) 異物の種類と傾向
  それでは、実際にどのような異物が検査機関に依頼されるのでしょうか。そこで、弊財団で受託した異物を種類ごとに分け、さらに年度による違いがないかを確認するため2007及び2012年度分について集計してみました。その結果、年度により多少順位に変動はあるものの、脂質、タンパク質、デンプンなどの食品由来成分、プラスチック・ゴム片、金属片、細菌・カビ・酵母などの微生物、植物片がベスト5を占める傾向に変化はありませんでした。このように、年度の違いによる異物の種類に変化はないものの、消費者の食の安全・安心に対する関心の高まり、消費者の衛生・清潔志向の高まり、行政からの指導・監視の強化などを受けて、異物の微小化、至急案件の増加、少しでも解決の糸口に繋がるような報告内容の要望など異物検査を取り巻く状況が大きく変化しています。

3 異物検査手法

  異物検査は、異物の種類や特徴により様々な方法を組み合わせて実施するのが一般的です(図-1参照)。はじめに実体顕微鏡を用いた外観観察、及び異物の性状確認(固い、やわらかい、弾性・磁性・金属光沢の有無など)を行い、次に実施する最適な検査内容を決定します。
  続いて、光学顕微鏡や電子顕微鏡を用いた微小組織の確認、FT-IRを用いた主成分分析、EDXを用いた元素組成の確認、ルミノール、カタラーゼなどの定性試験を行い、異物が何であるかを特定します

異物検査の流れ
図-1 異物検査の流れ

4 異物検査事例

ここでは、異物検査手法を用いた検査事例を紹介します。なお、ここで紹介する内容は公開されている異物クレーム事例等を参考にした自社検証事例です。

1) 金属片の混入源は?
製品に金属異物が混入していたとのクレームがありました。はじめに外観観察及び性状確認を行った結果、長さ約8mmの硬質で金属光沢を有する金属片でした(写真-3参照)。
  当該製品の製造にはザルが使用されるため、ザルの一部が混入した可能性を検証するため、異物とザル(比較品)について、より微細な構造を確認するため電子顕微鏡観察を行いました。その結果、両者の太さには明らかに違いがあり、異物には比較品に認められない線条が確認されました(写真-4及び5参照)。
  さらに、両者の元素組成を確認するためEDX分析を行った結果、異物からはFe(鉄)、Cr(クロム)、Ni(ニッケル)及びMn(マンガン)が検出されたのに対し、比較品からはFe、Cr及びNiのみ検出されました(図-2及び3参照)。
  以上の結果から、異物は製造現場で使用しているザルに由来するものではないということが明らかとなりました。
  ただし、比較品として提供されたザル(写真-6)には穴が開いているのが確認されたことから、異物クレームを発生させないという予防的な観点からも何らかの対策が必要と考えられました。

異物の外観写真    
写真-3 異物の外観写真    
異物の電子顕微鏡写真 比較品の電子顕微鏡写真  
写真-4 異物の電子顕微鏡写真 写真-5 比較品の電子顕微鏡写真  
異物のEDXチャート 比較品のEDXチャート 比較品の外観写真
図-2 異物のEDXチャート 図-3 比較品のEDXチャート 写真-6 比較品の外観写真

2) 変色原因の究明
  生牛肉を冷蔵保管していたところ、脂身の部分が緑色に変色するという現象が確認されました(写真-7参照)。緑色に変色したのかを究明するために、正常部分(白色部分)と緑変部分について顕微鏡観察を行いました。その結果、緑変部分には正常部分には確認されない細菌の塊が確認されました(写真-8及び9参照)。確認された細菌は、グラム陽性の桿菌であることもわかりました。
 そこで、遺伝子解析手法を用いた「細菌の同定検査」を行った結果、Carnobacterium maltaromaticumであると同定されました。Carnobacterium maltaromaticumは、乳酸菌の一種で食肉や食肉製品からの検出事例が多い腐敗細菌で特に食肉製品の変色、ネト(粘性物質)の発生、腐敗臭の要因菌として知られています。
  さらに、本細菌を生牛肉に接種し緑変が認められるか否か再現性試験を行った結果、当該品と同様の緑変が確認されたことから、Carnobacterium maltaromaticumが、緑変の要因菌であることが特定されました。

生牛肉の外観写真 正常部分の顕微鏡写真 緑変部分の顕微鏡写真
写真-7 生牛肉の外観写真 写真-8 正常部分の顕微鏡写真 写真-9 緑変部分の顕微鏡写真

3) 異物対策がまさか異臭原因に?
 製品にプラスチック片のようなものが混入していたとのクレームがありました。外観観察及び性状確認を行った結果、片面が平滑な緑色、他面が凹凸感のある乳白色の物質でした(写真-10参照)。IRスペクトルの測定を行った結果、炭酸塩を含むアルキド樹脂及び炭酸塩に由来する吸収ピークが確認されたことから、異物はアルキド樹脂主体の物質であると特定されました(図-4参照)。
  なお、片面が平滑、他面が粗面であること、アルキド樹脂の主な用途として塗料が挙げられることを考慮すると、異物は塗料片である可能性が考えられました。
  製造現場を調査したところ、食材保管庫の壁の色調が異物と同じような色調であったため、その一部採取し成分分析を行った結果、異物と同様の結果が得られました。このことから、異物の発生原因は、食材保管庫の壁の塗料が剥がれ落ちたことに起因するものであると特定されました。
  これを受けて現場で直ちにケレン作業(そぎ落とし)、塗装の塗り直しを行い再発防止策も万全と考えていた矢先のことでした。製造開始直後から、今度は異臭がするとのクレームが発生したのです。
  製造再開前後の製品(正常品及び異臭品)について臭気分析を行った結果、異臭品には正常品には認められないIsobutyl acetate、Butyl acetate、Ethylbenzene、Xylene、PMA、2-Ethoxybutanolなど塗料に由来する臭気成分が確認されました(図-5参照)。
  以上の結果から、異物対策のために実施した対応(塗装の塗り直し)によって、使用した塗料に由来する臭気成分が製品に移行したことが考えられました。
  このようなクレームに対する再発防止策として、オーダー内容の変更(臭気を抑えた塗料の使用、施行実績の確認)、塗料成分について事前情報を収集、予備製造を行い官能的な評価も合わせて実施し問題ないことを確認した上で本製造を開始するなどの手順を新たに定めるなどが考えられます。

異物の外観写真
写真-10 異物の外観写真

異物のIRスペクトル
図-4 異物のIRスペクトル

臭気分析の結果
図-5 臭気分析の結果

5 再発防止・クレーム防止に向けた取り組み例

異物は、原材料、製造・調理、充填・包装、保管、出荷・流通の各工程、さらには製造環境や作業者から発生する可能性があります。したがって、これらの工程について確実かつ的確な異物混入対策を立て、異物の発生を予防することが重要です。また、万が一異物クレームが発生した場合は、真の要因が何なのか徹底的に調査を行い、再発防止策を立てた上でその有効性を確認することが大切です。ここでは、異物の種類に合わせた対策例を紹介します。

@ 毛髪
  毛髪は、作業着(繊維)や清掃用品(ブラシ)などと並び作業者に由来する異物の代表です。毛髪は1日に約55本も抜けるといわれており、作業時間及び作業者数が多くなればなる程、毛髪の混入リスクが高まることになります。毛髪を封じ込めることができる機能とデザインを有する作業衣の着用の他、作業前の粘着ローラーがけ、作業中の専任者による定期的な粘着ローラーがけを行い、その実施記録を取るとともに解析を行い、常に改善につなげる取り組みが重要です(写真-11参照)。


ローラーがけ
写真-11 ローラーがけ

A 金属片
  金属片は、製造・調理、充填・包装、製造環境などから混入する可能性があります。 金属製の製造設備、道具類の破損の有無を始業前、作業中、作業終了時に確認するとともに、混入防止用の金属探知機(写真-12、13参照)やマグネット(写真-14参照)、X線選別機(差写真-15参照)などを設置します。ただ設置すればよいのではなく、その効果が十分に発揮されていることを客観的に評価することが重要です。また、製造現場で使用している金属に関する情報(種類、元素組成、太さ、特性など)をあらかじめ収集しておくことで、万が一クレームが発生した場合、より迅速な原因特定に繋げることができます。

臭気分析の結果臭気分析の結果
写真-12及び13 金属探知機


マグネット X線選別機
写真-14 マグネット 写真-15 X線選別機

B 微生物(細菌、カビ、酵母)
 微生物は、原材料、製造環境、保管をはじめ様々な工程で混入する可能性があります。原材料については後工程(加熱、殺菌工程など)と特性を考慮した適切な受入基準の設定、製造環境については手順を決めた定期的な5S活動の実施、保管については温度管理の徹底と管理温度外となった場合の緊急対応マニュアルの作成などが考えられます。 また、原材料や作業環境中の微生物については、あらかじめその存在を遺伝子解析によって同定しておき、食品への混入が認められた時は速やかに遺伝子レベルで照合し、迅速な混入ルートの究明と対策の構築に繋げることが重要です。
  弊財団では、食品クレームに関わる様々な検査(異物検査、異臭検査、微生物同定など)をはじめ、再発防止・クレーム防止に向けた調査、コンサルティングまで「食」に関わる様々な課題をワンストップサービスで解決いたします。

参考文献

1) 食品衛生小六法 平成26年度版 新日本法規出版
2) 薬事法 昭和三十五年八月十日 法律第百四十五号
3) 食品衛生検査指針(理化学編) 社団法人 日本食品衛生協会
4) 遂条解説 薬事法<五訂版>第一部 鰍ャょうせい
5) 全国食品衛生監視員協議会 編. 食品苦情処理事例集. 1992.
6) 生活協同組合コープこうべ・商品検査センター 編. コープこうべ 商品 クレーム事例集. 1994.
7) 東京都衛生局生活環境部食品保険課 編. 食品の苦情Q&A(追録版). 1992.
8) 西田博著. 異物防御と食品衛生. 1995.

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