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QuEChERS法について
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第二理化学検査室

平成18年に施行されたポジティブリスト制度により、原則として全ての農薬が規制対象となり多種類の農薬に適用可能な残留農薬分析法、いわゆる一斉分析法が不可欠なものとなりました。国内においては厚生労働省から農産物、及び畜水産物を対象とした一斉試験法が通知されています[1]。
 近年、海外の研究者らによって、迅速性に優れた簡易な一斉分析法としてQuEChERS法が報告され、国内においても広く普及するようになりました。
 今月号の豆知識は、迅速な残留農薬一斉分析法「QuEChERS法」について紹介します。

1. QuEChERS法とは

QuEChERS法は2003年に最初の報告[2]が発表されました。分析法の名称はQuick(迅速)、Easy(簡単)、Cheap(安価)、Effective(効果的)、Rugged(堅牢性)、Safe(安全)の頭文字を合わせたものです。前処理においてガラス器具を使用せず、有機溶媒の使用量が少なく濃縮を必要としないため、低コスト、短時間で分析することが可能です。現在ではAOAC法[3]やEN法[4]としても採用されています。

2. 前処理方法

初期に報告された方法に改良が加えられ、現在では様々な改良法が開発されています。QuEChERS法の代表的な前処理方法のフローを図1に示しました。


図1.前処理方法のフロー

① 抽出
 試料10 gに対してアセトニトリル10 mLを加え、振とう抽出を行います。アセトニトリルは分析上の夾雑成分となる脂質の溶解量が少ないため、残留農薬一斉分析法の抽出溶媒として採用されることが多い溶媒です。

② 塩析  
 抽出液に塩を加えて振とうすることにより、水とアセトニトリルを分離させます。この操作により、高極性の夾雑成分を除去し、農薬はアセトニトリル層へと移行します。pHに不安定な農薬の安定性を高めるため、クエン酸塩による緩衝作用を利用し、一定範囲のpH条件下にて塩析を行っています。

③ 精製
 粉末状の固相を加えて振とうすることにより、夾雑成分を吸着、除去する分散固相抽出が用いられています。残留農薬分析で一般的に使用される固相ミニカラムでは溶媒を濃縮する必要がありますが、分散固相抽出は固相を添加して振とう後、遠心分離して得られる溶液を試験溶液とするため、溶媒を濃縮することなく精製を行うことが可能です。固相にはエチレンジアミン-N-プロピルシリル化シリカゲル(Primary Secondary Amine:PSA)、グラファイトカーボン(GCB)などが一般的に用いられ、PSAは脂肪酸等の除去、GCBはクロロフィル等の色素成分の除去に有効です。

3. おわりに

QuEChERS法は迅速で簡易な一斉分析法として有用ですが、分散固相抽出による精製は食品によっては精製不足となり、測定時のマトリクス効果の影響を受けやすくなるため注意が必要です。分析法を導入する際には、分析対象とする農薬で良好な結果が得られるか事前に確認することも重要です。残留農薬分析では分析法の特徴を理解し、目的に応じた分析法を選択していく必要があると考えられます。

参考文献

1) 厚生労働省ホームページ 食品中に残留する農薬等の試験法

2) M. Anastassiades, et al, J.AOAC Int. 86(2) 412-31.(2003)

3) AOAC Official Method 2007.01 Pesticide Residues in Foods by Acetonitrile Extraction and Partitioning with Magnesium Sulfate.

4) Europian standard EN 15662, Foods of Plant Origin - Determination of Pesticide Residues Using GC-MS and/or LC-MS/MS Following Acetonitrile Extraction/Partitioning and Clean-up by Dispersive SPE - QuEChERS method.

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