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フタル酸エステル類について
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第2理化学検査室

今月号ではフタル酸エステル類についての基本情報に加え、各国の規制や弊財団で行っている検査について紹介します。

フタル酸エステル類とは

フタル酸エステルとはフタル酸とアルコールがエステル結合した化合物の総称で、塩化ビニルなどプラスチック製品の可塑剤として幅広く使用されています。しかし近年、発がん性や生殖毒性、内分泌撹乱物質としての作用などヒトへの悪影響を及ぼす可能性が指摘されており、各国で様々な規制が行われています。
 下に代表的なフタル酸エステル類であるフタル酸ビス(2-エチルヘキシル)(略号:DEHP)の化学構造式を示します。DEHPはフタル酸ジオクチル(略号:DOP)と称されることもあり、フタル酸エステル系可塑剤の全生産量の約6割を占めています。

 

フタル酸エステル類の種類

フタル酸エステル類には様々な種類があります。各国で規制されている代表的なフタル酸エステル類を以下の表にまとめます。

化合物名 略号 主な用途
フタル酸ビス(2-エチルヘキシル)
(別称:フタル酸ジオクチル)
DEHP
(DOP)
汎用可塑剤
(電線被覆、壁紙、フィルム、血液バッグ)
フタル酸ジブチル DBP 加工性向上添加剤
(塗料、接着剤)
フタル酸ブチルベンジル BBP 加工性向上添加剤
(接着剤、シーリング材)
フタル酸ジイソノニル DINP 汎用可塑剤
(電線被覆、壁紙、フィルム)
フタル酸ジイソデシル DIDP 低揮発性可塑剤、絶縁性改良添加剤
(耐熱電線、合成レザー)
フタル酸ジノルマルオクチル DNOP 低揮発性可塑剤
(電線被覆、フィルム)

各国の規制やリスク評価

(1)食品衛生法の器具及び容器包装の規格基準(平成14年厚生労働省告示267号)
 国内において食品に対する規格基準はありませんが、器具及び容器包装において「油脂又は脂肪性食品を含有する食品に接触する器具又は容器包装には、DEHPを原材料として用いたポリ塩化ビニルを主成分とする合成樹脂を原材料として用いてはならない。ただし、DEHPが溶出又は浸出して食品に混和するおそれのないように加工されている場合にあっては、この限りでない。」とされています。

(2)おもちゃ及び育児用品に関する各国の規制

  日本 EU 米国
関係法令等 平成22年
厚生労働省告示第336号
Directive 2005/84/EC
(2005)
Consumer Product Safety Improvement Act (CPSIA)
(2011)
DEHP
DBP
BBP
・おもちゃに使用禁止
・おもちゃは6歳未満が対象とされたもの
・規格値0.1%
・おもちゃ及び育児用品に使用禁止
・おもちゃは14歳未満を対象とするもの
・規格値0.1%
・おもちゃ及び育児用品に使用禁止
・おもちゃは12歳以下、育児用品は3歳以下の子供を意図した製品
・規格値0.1%
DINP
DIDP
DNOP
・口にすることを本質とするおもちゃに使用禁止
・おもちゃは6歳未満が対象とされたもの
・規格値0.1%
・子供により口に入れる可能性がある(1辺でも5cm未満のあるもの)おしゃぶり及び育児用品に使用禁止
・規格値0.1%
・子供の口に含まれる可能性がある(1辺でも5cm未満のもの)おしゃぶり及び育児用品に使用禁止
・おもちゃは12歳以下、育児用品は3歳以下の子供を意図した製品
・規格値0.1%

(3)リスク評価など
・化審法
 2011年4月1日に「リスクが十分に低いと認められない化学物質」としてDEHPが優先評価化学物質として指定されました。今後、第二種特定化学物質に該当するかどうか検討される予定です。
・DEHPの詳細リスク評価書
 経済産業省が行い、独立行政法人産業総合研究所より出版されていますが、ヒト及び生態に対して「現状においてリスクは懸念されるレベルではない」と結論付けています。また、「現状の管理を継続する必要はあるものの、これ以上の強化は必要なく、また法規制等についてもこれ以上の追加は必要ない」としています。
・REACH規制
 EUの新しい化学品規制で2008年6月1日から運用が開始されました。この中でDEHP、DBP及びBBPは認可物質となっています。

検査方法

弊財団ではフタル酸エステル類のおもちゃの規格試験の他、食品を対象とした検査も行っています。食品検査の場合、溶媒抽出後、必要に応じて精製を加え、ガスクロマトグラフ-質量分析計(GC-MS)にて測定を行っております。下にマスクロマトグラムの一例を示します。
 フタル酸エステル類はプラスチック製品からはもちろんのこと、作業環境中からも汚染する可能性があるため、検査には細心の注意を払う必要があります。プラスチック製品を使用しない、使用器具を事前に有機溶媒で洗浄または高温で加熱する、適切なグレードの試薬を使用するなど検査中の外部からの汚染を防ぐために様々な手立てを講じています。しかしながら、これらの対策を取っても完全にフタル酸エステル類の汚染を防ぐことは難しいため、必ず同時併行で空試験を実施し、検査中の汚染レベルを確認しています。弊財団では以上のような注意点を厳守し、高品質な検査結果の提供に努めています。

参考文献

○ 厚生労働省HP (http://www.mhlw.go.jp/)
○ 経済産業省HP (http://www.meti.go.jp/)
○ 塩ビ工業・環境協会HP (http://www.vec.gr.jp/index.html)
○ 可塑剤工業会HP (http://www.kasozai.gr.jp/index.html)
○ 衛生試験法・注解 2005 日本薬学学会編

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