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Be ambitious not for money!
北海道大学大学院水産科学研究院
一色 賢司
北海道大学にお世話になって8回目の正月を迎えた。「光陰矢の如し」である。3月には、定年退職し、北大を去る。札幌農学校初代教頭クラーク博士(写真1)は、”Boys be ambitious!”を別れの言葉として残した。
 11月1日、東京農大から函館への帰途の途中に、北大東京オフィス(八重洲)に立ち寄った。ご高齢だがお元気な見知らぬ卒業生の方から、1枚のコピーを手渡された(写真2)。所長が小生を現役の教授だと紹介した後のことである。この精神を、若い人に伝えて欲しいとの依頼であった。
 「少年よ大志を抱け。ただし、金を求める大志であってはならない。利己的なものを望む大志であってはならない。名声という浮わついたものを求める大志であってはならない。人が人として備えなければならぬ、あらゆることを成し遂げるために・・・・」
(http://www.cocoro-skip.com/jinbutsu/60004.html)
 Boys be ambitious! に続く文言に、心打たれるものを感じた。ガンジーが批判した「道徳なき商業」と通じるものがあると感じた。「食品を取り扱う者は、正直者であって欲しい」と願わざるを得ない現状に、心苦しいものも感じざるをえなかった。
 北大を去るにあたり、若い人たちに以下の事柄を理解して、フードチェーンを維持、管理していただきたいと書いてみた。我が国の食料事情は、楽観を許さないが、”Be ambitious not for money!” は、フードチェーン保全には必要な考え方であると思われる。

1.分業による食料調達

人間は従属栄養動物であり、祖先から知恵と勇気を持って各種の生物を食べ続けてきた。食品安全は遠い祖先の時代からの願いであった。人類は原種と呼ばれる生物を選抜・改良し、不都合な成分を減らし、可食部位や味の良い部位を増やしてきた。コメもそのまま食べると消化不良を起こす。人間は、そのまま食べると体調を崩すものは、煮たり焼いたりして、より安全で美味しいものに変えて食べてきた。食品加工や料理は、食べられないものを可食化し、より安全にするためにも行われてきた。食品安全は食べられる物を選ぶことだけではない。人類は食品加工技術を発達させて食べ続け、72億人までに増えている。安全な食品を安定的に調達するために、技術の改善と新技術の開発が必要である。これからも生物を食料として、工夫して食べ続けることであろう。

2.嘘のないフードチェーン

現在の我が国のフードチェーン(食料供給調達行程)は、全世界に延びている。多くの国民は、お金で決済される食料調達に慣れ過ぎ、人間と食料の関係の理解が難しくなっている。フードチェーンにおける分業化が進み、透明性が失われ、ガンジーの指摘した「道徳なき商業」に目隠しされているようである。透明性を高める必要がある。我が国は食品の摂取にはリスク(健康被害の可能性)が伴う事を食品安全基本法で認めている。許容し得るリスクになるよう、科学的なリスク分析を行なって必要な対策を食料の一次生産者から食卓まで全員で連続的に行う事を定めている。食品やその原材料を取り扱う現場から、流通、加工、販売、消費の各現場での「正直な良い仕事」のバトンタッチが必要である。

3.自助努力

消費者にも、フードチェーンを維持し、その苦労・努力を理解することが求められる。農業や漁業が工業と違って種々の不安定要因を抱えていることや、加工現場等を見て貰って知っていただくことが必要である。食品の安全性確保は、客観的に評価することができる。安心は各自の心の中の問題であり、個人に任せるべきものである。我々にできることは、「雨ニモマケズ、風ニモマケズ」に科学的な安全性確保に取り組み続けることである。各自それぞれの立場でプロとしての自覚と誇りを持って、フードチェーンへの貢献を続けることである。

4.次世代のために志を高く

食品の安全性は低いとか、高いとかという使い方をしていた。food safetyが食品安全と訳されて使われ始めたのは、2003年に食品安全基本法が制定された少し前である。食品安全には、将来も安全だと保証する意味まで含めて使われることもある。食生活は常にリスクを伴い、ゼロリスクはない。次世代のためにもフードチェーンを大切にし、リスクを科学的に判断して行動することが必要である。過去・現在を教訓として、未来の食生活シナリオを明るくすることが期待される。

写真1 クラーク博士像

写真2 Boys be ambitious!

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