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耐熱性好酸性菌について
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微生物検査室 稲垣暢哉

今月号は、先月号までとは視点を変え、衛生指標菌に含まれていませんが、主に飲料や果汁を含む食品などで品質に影響を及ぼす重要な菌である耐熱性好酸性菌について説明します。

耐熱性好酸性菌とは?

耐熱性好酸性菌とは、その名の通り耐熱性があり酸性下の環境を好んで発育する菌の総称のことです。この菌は、1980年代に海外市場で、リンゴジュースの変敗事故の原因となったことでも有名です。この時の原因菌がAlicyclobacillus acidoterrestris (アリサイクロバチルス アシドテレストリス)略してAATであり、この菌は酸性を好む高温性菌であるためThermo-Acidophilic Bacilli(耐熱性好酸性菌)に分類され、略してTABとも呼ばれています。

耐熱性好酸性菌の特徴は、以下の通りです。
   (1)高温性(高温:45〜55℃の方が増殖に適している)
   (2)好酸性(中性域では増殖できない。至適pHは3.0〜5.0)
   (3)耐熱性(65℃10分程度の耐熱条件でも死滅しない平均的な芽胞菌の耐熱性)
   (4)好気性(増殖には酸素が必須)
   (5)栄養要求性が低い(ビタミン・アミノ酸等の栄養要求性はないため、果汁分の少ない飲料でも増殖可能)
  このような特徴から、食品では飲料(特に果汁を含むもの)で増殖し、問題となることが多い細菌です。

耐熱性好酸性菌と食品

耐熱性好酸性菌は、主に土壌や果実から分離されます。食品の中でも飲料と特に関わりがあり、耐熱性好酸性菌が増殖することで異臭という品質劣化を引き起こします。その一例としてA. acidoterrestris が挙げられます。この菌は、耐熱性好酸性菌の中では比較的低温域でも増殖する菌でグアイアコール及び2,6-ジブロモフェノールといった、臭気成分を産生し、飲料の変敗要因となる菌です。耐熱性好酸性菌の中でも、品質への影響が高い菌種です。

検査目的

耐熱性好酸性菌の検査を行うことで、飲料を中心に品質への影響を予防することができます。本シリーズ7月号でも述べましたが、生菌数は中温性好気性菌の中性域で発育する菌を調べる検査です。耐熱性好酸性菌は酸性下でのみ増殖する菌であるため、通常、微生物検査で行われる生菌数検査では測定することが出来ません。

検査方法

一般社団法人日本果汁協会による耐熱性好酸性菌統一検査法について説明します。検査方法は複数ありますので、各検査の特徴を理解し最適な方法を選択することが重要です。耐熱性好酸性菌の検査は、定量検査と陽性・陰性判定検査の2種類があります。定量検査には混釈法、塗抹法、MF(メンブレンフィルター)法の3種類があります。定性検査であれば、混釈法、塗抹法の2種類があります。耐熱性好酸性菌検査の結果、菌の発育が確認された場合、その菌がA. acidoterrestris であるか否かを確認する方法として、ペルオキシダーゼ法又は温度差法があります。今回は、定量検査の中で最も検査に供する量が多く、また、依頼実績も多いMF法について説明します。
 このMF法は、0.45μmのメンブレンフィルターを通過することが可能な試料が検査対象となります。したがって、果肉入りの試料などろ過できないものについては、対象外となります。まず、管理基準に応じた量(基本は10〜100g)の試料を滅菌容器に移し、滅菌水を加え希釈します。希釈試料を入れた滅菌容器を、ウォーターバスに入れ、中心温度が70℃に達した後、70±1℃で20分間保温後、冷水中で急冷します。滅菌済メンブレンフィルターをセットし、希釈試料の入った滅菌容器の口部をバーナーで軽く炙り、希釈試料の全量をろ過します。全量ろ過後、さらに滅菌水を用いて、メンブランフィルターを洗浄します。このメンブランフィルターをあらかじめ作成しておいたYSG寒天培地平板の表面にろ過面が上になるように貼付します。この際、空気が入らないようにすることが重要です。シャーレを反転し、45℃で3〜5日間培養を行います。所定時間培養後、発育している集落数をカウントし、耐熱性好酸性菌数として記載します。

結果の解釈

現在、日本国内では耐熱性好酸性菌による規制はありません。飲料での微生物による規格は、食品衛生法の清涼飲料水の規格試験で定められています。
 耐熱性好酸性菌は、果実などの果汁飲料の原料に含まれていることが多い細菌です。原料から製品までの工程毎に生菌数だけでなく耐熱性好酸性菌の管理値を設けて管理することが望ましいです。また、耐熱性好酸性菌が検出された場合、特に品質に影響を及ぼす可能性の高いA. acidoterrestris を調べることをお勧めします。
 また、耐熱性好酸性菌が原因と思われる品質トラブルが起きた場合には、微生物検査はもちろん、GC/MCといった分離/検出器を用いた臭気分析を行うことで、科学的に臭気成分を特定することが可能です。時間の経過で微生物が死滅しても、臭気成分を調べることで、グアイアコール臭であればA. acidoterrestris によるものであると原因を特定することが出来ます。耐熱性好酸性菌に限らず、臭気分析も品質トラブル解決の手がかりになりますので、有事の際にはご検討されてみてはいかがでしょうか。

 

参考文献

耐熱性好酸性菌統一検査法 ハンドブック (一般社団法人 日本果汁協会)

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