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食品機能性研究の新しい動き
農研機構食品総合研究所 山本(前田)万里

近年、我が国では、人口減少と少子超高齢化が急速に加速するとともに、生活習慣病罹患者やその予備軍が増加(成人男性の3割、成人女性の2割でBMI(肥満度を表す体格指数)が25を越える肥満者)し、医療費は37.8兆円(平成23年度)まで急激に増大している。これら疾患については、食生活の乱れや運動不足等に起因するとされ、食生活と健康との関係がクローズアップされてきている。
 従来、食品機能性分野では、生体調節作用(3次機能)を持つ食品機能性成分を探索して作用機作を解明し、動物やヒトでの効果を検証する、という流れの研究が行われてきた。研究成果が得られ、疾病のリスク低減が期待される食品が完成した場合は、消費者庁(以前は厚労省)の審査を受けて特定保健用食品制度による食品への機能表示という道をたどるか、そのような表示は行わずに学術報告だけを行って認知活動に努め、マーケティングを行うという道をたどるか、のどちらかであった。
 ごく最近、この食品の生体調節作用に関する表示をめぐる動きが激しくなってきた。6月5日に規制改革会議がとりまとめた答申では、「国民の健康に長生きしたいとの意識の高まりから、健康食品の市場規模は約1兆8千億円にも達すると言われている。しかしながら、我が国においては、いわゆる健康食品を始め、保健機能食品(特定保健用食品、栄養機能食品)以外の食品は、一定以上の機能性成分を含むことが科学的に確認された農林水産物も含め、その容器包装に健康の保持増進の効果等を表示することは認められていない。このため、国民が自ら選択してそうした機能のある食品を購入しようとしても、自分に合った製品を選ぶための情報を得られないのが現状である。また、特定保健用食品は、許可を受けるための手続の負担(費用、期間等)が大きく中小企業には活用しにくいことなど、課題が多く、栄養機能食品は対象成分が限られていることから、現行制度の改善だけで消費者のニーズに十分対応することは難しい。このような観点から、国民のセルフメディケーションに資する食品の表示制度が必要である。」と記載された。 そして、具体的な規制改革項目として、「いわゆる健康食品をはじめとする保健機能を有する成分を含む加工食品及び農林水産物の機能性表示の容認【平成25 年度検討、平成26 年度結論・措置(加工食品、農林水産物とも)】:特定保健用食品、栄養機能食品以外のいわゆる健康食品をはじめとする保健機能を有する成分を含む加工食品及び農林水産物について、機能性の表示を容認する新たな方策をそれぞれ検討し、結論を得る。なお、その具体的な方策については、民間が有しているノウハウを活用する観点から、その食品の機能性について、国ではなく企業等が自らその科学的根拠を評価した上でその旨及び機能を表示できる米国のダイエタリーサプリメントの表示制度を参考にし、企業等の責任において科学的根拠の下に機能性を表示できるものとし、かつ、一定のルールの下で加工食品及び農林水産物それぞれについて、安全性の確保も含めた運用が可能な仕組みとすることを念頭に検討を行う。」、「サプリメント等の形状による無承認無許可医薬品との判別の廃止【平成25年度措置】:現行の特定保健用食品制度において、錠剤、カプセル等形状の食品(サプリメントを含む)を認めることを改めて明確にするとともに、指導等の内容に齟齬がないよう各都道府県、各保健所設置市、各特別区の衛生主管部(局)に対して周知徹底を図る。」、「食品表示に関する指導上、無承認無許可医薬品の指導取締りの対象としない明らかに食品と認識される物の範囲の周知徹底【平成25 年度措置】:食品表示に関する指導において、薬事法における「無承認無許可医薬品の指導取締り」の対象としない「明らかに食品と認識される物」の範囲を運用上も明確にするため、厚生労働省は、その範囲について周知徹底する。」、「消費者に分かりやすい表示への見直し【平成25 年度検討・結論、平成26年度上期措置】」が盛り込まれた。明らか食品の機能性表示という部分でかなり踏み込んだ内容になっており、今後の動きに目が離せなくなってきた。
 また、平成24年度補正予算として、「機能性を持つ農林水産物・食品の開発プロジェクト」(平成27年度までで20億円)が農研機構に交付され、去る7月1日に公募課題も含めすべての実施課題が決定した。このプロジェクトでは、独立行政法人、公設試験研究機関、大学、民間企業等との連携により、健康上のリスク低減等に効果が期待される農林水産物やその加工品の開発及びそれらの生産・流通技術の確立を行うとともに、医療機関等との連携により、農林水産物やその加工品について、ヒト介入試験により疾病リスク低減への影響評価や、栄養・機能性、安全性、特性情報等を盛り込んだ農林水産物データベースの構築、個人の健康状態に応じたテーラーメイドな提供システム・栄養指導システムの開発を行うこととしている。プロジェクト最終年度の平成27年度には、健康維持・増進に寄与する「機能性弁当」のようなものを作って流通することを想定している。
 規制改革会議の言うところの「新たな表示」は、今まで踏み込んで来なかった「農林水産物の機能性表示」という点にまで言及している。これは、上記の機能性食品プロジェクトにも大きく影響すると考えられる。このように、にわかに活気づいてきた食品機能性分野であるが、我々がやらなければいけないのは、科学的根拠の明らかな(健康維持増進に役立つ)美味しくて安全な食品を国民に届けるための「信頼性のある研究」を行うことである。今後も、1次(栄養)、2次(嗜好)、3次(生体調節機能)すべてに目配りしながら、健康で豊かな食生活をもたらす農林水産物(モノ、情報)が提供できるよう研究を進めていく必要がある。

略歴

昭和61年(1986)3月 千葉大学大学院園芸学研究科農芸化学専攻(修士課程)修了
昭和61年4月 農林水産省入省
昭和61年10月 中国農業試験場 流通利用研究室研究員
平成4年(1992)4月 野菜・茶業試験場 製品開発研究室研究員
平成8年(1996)4月 野菜・茶業試験場 製品開発研究室主任研究官
平成14年(2002)4月 独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構 野菜茶業研究所 
茶機能解析研究室 室長
平成18年(2006)4月 独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構 野菜茶業研究所 
野菜・茶機能性研究チーム長
平成23年(2011)4月 独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構 野菜茶業研究所 
茶品質・機能性研究グループ 長(上席研究員、中課題推進責任者)
平成24年(2012)10月 独立行政法人 農業・食品産業技術
総合研究機構 食品総合研究所食品機能研究領域長

現在に到る

学位取得

平成4年9月九州大学農学博士「食品成分の抗体産生調節に関する研究」

学会賞等

平成14年8月 日本食品科学工学会奨励賞「動物細胞を用いた緑茶機能性の解明」
平成18年8月 日本食品科学工学会論文賞「季節性アレルギー性鼻炎有症者を対象とした「べにふうき」緑茶の抗アレルギー作用評価とショウガによる増強効果」
平成18年11月 日本缶詰協会論文賞「‘べにふうき’緑茶飲料抽出法の違いによるメチル化カテキン等含有成分の変動」
平成19年1月 世界緑茶協会O-CHAフロンティア賞産業技術大賞「「べにふうき」茶葉中抗アレルギー成分に関する研究と実用化への取組」
平成23年12月 NARO PRIZE SPECIAL I「茶「べにふうき」の機能性解明と利用」
平成24年11月 O-CHAパイオニア賞学術研究大賞「掛川スタディ:緑茶の生活習慣病予防研究に関する取り組み」
平成25年8月 産学官連携功労者表彰農林水産大臣賞「メチル化カテキン高含有「べにふうき」緑茶とそれを利用した外用剤の開発」
日本茶インストラクター4期生(04-0933)
【研究内容】
ヒト細胞を用いた抗アレルギー作用等免疫調節因子評価系の構築と茶葉中機能性成分の探索・作用機作の解明及びそれを利用した製品の開発
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