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乳酸菌について
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                             微生物検査室 稲垣暢哉

今月号も、引き続き衛生指標菌の1つを取り挙げ説明します。今回のテーマは衛生指標菌の中でも品質を評価する指標菌、乳酸菌です。

乳酸菌とは?

乳酸菌の定義は、グラム陽性、カタラーゼ陰性、いずれも酸素の少ない環境に好んで生育し、消費したブドウ糖に対して、50%以上の乳酸を生成する菌を指します。乳酸菌は自然界に広く分布する大きな細菌グループの1つです。
 乳酸菌と聞くと、発酵食品に含まれているヒトにとって有用な菌というイメージを持たれる方も多いと思います。実際に乳酸菌は、パン、発酵乳、漬物などの発酵食品に利用されています。また、さまざまな抗生物質をつくり共存する雑菌の繁殖を抑えるためスターターとしても有用に利用されています。しかし、一方で食品の腐敗・変敗を引き起こす可能性がある菌という側面もあります。乳酸菌にとっては、同じ代謝であってもヒトにとって有用であるか、否かで有用菌、腐敗菌のどちらにもなりうるということが言えます。

 

乳酸菌による食品汚染

乳酸菌は、土壌、植物、動物など自然界に広く分布しており、食品が汚染される機会は極めて高いです。また、0℃付近の低温や45℃以上の高温、pH4.0前後の酸性域でも増殖する種類の乳酸菌もいます。酸素の有無にかかわらず増殖して様々な種類の保存料に対して強い抵抗性を示すなど食品保存、貯蔵の面から制御しにくく、食品工場などでは、しばしば問題となる菌です。

 

検査目的

乳酸菌の測定の目的には、有用菌としての測定と腐敗菌としての測定があります。
 (A) 有用菌
 有用菌としての測定を行う場合、発酵乳や乳酸菌飲料などの発酵食品が、規定された菌量の乳酸菌が含まれているか否か確認し評価します。
 (B) 腐敗菌
 腐敗菌として測定を行う場合、品質低下の指標として用いることができます。乳酸菌は多くの糖やアミノ酸を栄養源として利用しますが、デンプン、タンパク質のような高分子物質を分解する力は弱いため、食品の組織が菌によって崩されることは少ないです。したがって、乳酸菌による腐敗は、食品の色、におい、味の変化が主となります。また、菌自身の粘質物、菌の作る粘質物による悪変もあります。乳酸菌はこのような品質劣化の原因となり得るため、原因追究として乳酸菌測定は有効なツールとなります。  

  

 

乳酸菌検査

(A) 有用菌
 有用菌の測定方法として、乳及び乳製品の成分規格等に関する省令の発酵乳及び乳酸菌飲料における乳酸菌測定について説明します。検体10g(検体が液状の場合は10ml)を取り、生理食塩水を加えて10倍希釈液を作ります。さらに、必要に応じて10倍段階希釈を繰り返します。各段階の希釈液を2枚以上の滅菌シャーレに分注し、43℃〜45℃に保持したBCP加プレートカウント寒天培地を加え混釈します。冷却凝固後、倒置で35〜37℃、72±3時間で培養します。この時、検体の希釈に用いた滅菌生理食塩水1mlを滅菌シャーレに分注し、同一の操作を行い、検査に供したものが無菌であったこと、操作が完全であったことを確かめます。培養後、発生した集落のうち、黄変したものが乳酸菌の集落であり、30〜300の集落が発育しているシャーレを選び集落数を測定、希釈倍率を乗じて乳酸菌数を算出します。
 (B) 腐敗菌
 一般食材での腐敗菌の測定方法は、いくつかありますがMRS培地を用いた測定方法について説明します。検体量はその時に応じて異なりますが、各段階の希釈液の作成までは、有用菌と同様に行います。混釈培養法を行う場合には、各段階の希釈液を2枚以上の滅菌シャーレに分注し、MRS寒天培地を加え混釈し、冷却固化後、培養します。一方、塗抹培養法を行う場合には、あらかじめ滅菌シャーレにMRS寒天培地を分注固化した寒天平板を作製します。そこに、希釈液を分注しコンラージ棒を用いて塗抹します。
 培養は、30℃で72±3時間で行います。培養後、確認試験等を実施し30〜300の集落が発育しているシャーレを選び集落数を測定、希釈倍率を乗じて乳酸菌数を算出します。

 

結果の解釈

(A) 有用菌
 乳及び乳製品の成分規格等に関する省令では、発酵乳及び乳酸菌飲料(無脂乳固形分3.0%以上:乳製品)における乳酸菌数又は酵母数が1ml当たり1000万以上、乳酸菌飲料(無脂乳固形分3.0%未満:乳等を主原料とする食品)における乳酸菌数又は酵母数が1ml当たり100万以上でなければならないと定められています。
 (B) 腐敗菌
 品質の低下の指標として乳酸菌を測定した場合、菌数が多かった場合には、製造から販売までの衛生的かつ適切な取り扱いがなされていなかったと考えることができます。特に、包装食肉や魚肉製品の緑変などの変色、退色あるいはネトの原因菌として乳酸菌は主な要因菌となることから、これらの食品に大量の乳酸菌が測定された場合、貯蔵期間が長く酸敗などの品質低下が推定されます。
 また、乳酸菌は分類上、様々な属種の菌が含まれる大きな細菌グループであるため、菌の特性も多様です。しかし、近年では遺伝子検査を行うことで菌の種まで特定できるので、工場の汚染原因の究明や、菌に合わせた対処法を考えることができます。工場の品質劣化でお困りの際には、一度、このような検査を試してみてはいかがでしょうか。

 

参考文献

食品衛生検査指針 微生物編 2004 (社団法人 日本食品衛生協会)
食品衛生小六法 平成25年度 (食品衛生研究会 編集)
食品安全ハンドブック (食品安全ハンドブック編集委員会 編)
食品微生物の科学 (清水 潮 著)
乳酸菌実験マニュアル 分離から同定まで (小崎 道雄 監修) 

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